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カシオ計算機(6952)の分析|高採算なG-SHOCKに依存する状況が継続

基本情報

カシオ計算機(6952)は、東京都渋谷区に本社を置く1946年創業の電機メーカーである。創業者である樫尾忠雄が東京都三鷹市で設立した樫尾製作所が源流企業であるが、創業直後の樫尾製作所は顕微鏡部品などを製造する下請けメーカーに過ぎなかった。しかし、1957年に樫尾兄弟の熱心な開発努力によってリレー素子を用いた小型電気計算機を世界で初めて発売することに成功して以降、計算機の製造を主力事業にするに至った。1970年以降には、計算機の製造で培った電気技術を応用して、時計・楽器・電卓・ワープロなど事業多角化を進めていき、現在のカシオ計算機の事業基盤が整った。1983年には耐衝撃時計「G-SHOCK」を発売、世界的な人気を誇る時計ブランドに育成することに成功した。現在ではカシオ計算機の売上高の約30%は「G-SHOCK」に支えられており、同社を代表する事業に成長している。

目次

株価の推移

株価は2016年から停滞局面入り

■株価の特性
カシオ計算機の株価は2012年から上昇傾向へ転換して2015年には上場来高値2884円を記録したが、2016年からは停滞局面を迎えて株価1700円台を中心に推移している。カシオ計算機は2007年以降に主力事業の携帯電話・デジタルカメラ・LCD液晶の業績悪化に見舞われて株価水準を落とした反面、2012年以降には時計事業に牽引された業績再建を果たした経緯がある。過去10年間における株価推移はカシオ計算機の業績動向に素直に連動しており、2015年には過去最高益を達成したことで上場来高値となる株価2884円に到達した。反面、2016年以降は従前より需要縮小が継続していたデジタルカメラの業績悪化に見舞われたことで利益水準が停滞しており、株価は停滞局面を迎えている。尤も、現在の主力事業である時計事業は利益水準が安定的であることから、近年は株価の上下変動が落ち着きつつある。

■過去の株価推移
2012年から2015年の期間における株価上昇が顕著である。同期間における株価上昇は、カシオ計算機が利益水準を急速に向上させたことに起因させている。同期間において、カシオ計算機の営業利益率は3.0%(2012年)から12.0%(2015年)にまで向上したことで同業他社を大きく上回る水準に到達しており、これを好感した株価上昇が起こっている。この利益水準の向上は、時計事業が「G-SHOCK」の販売好調に支えられた成長を継続したことに起因しているが、リーマンショック後の景気後退局面において主力事業の多くを失った後の復活劇が株式投資家に好感された経緯がある。

日経平均株価との相関性は高い

■日経平均株価との相関性
カシオ計算機の株価と日経平均株価の相関性は高めである(2007年4月から2020年3月の相関係数:0.81)。過去10年間においてカシオ計算機は携帯電話・デジタルカメラ・LCD液晶などを主力事業とする電機メーカーであったことから、景気循環に呼応した業績変動となりやすかった。日経平均株価は景気循環的な推移を描きやすい株価指数であることから、カシオ計算機の株価と日経平均株価は相関性が高い推移を描いてきた。反面、近年のカシオ計算機は携帯電話・デジタルカメラ・LCD液晶など業績変動の要因となっていた事業から撤退したことで業績が安定的な推移を描く性質に変容しており、日経平均株価との相関性は低下しつつある。

■過去の日経平均株価との相関性
2007年から2015年の期間において日経平均株価との相関性が高い推移を描いた反面、2016年以降はカシオ計算機の株価下落に反して日経平均株価が株価上昇を継続したことで相関性が低下している。2016年以降にカシオ計算機の株価はデジタルカメラの業績不振によって株価1700円台で停滞したが、日経平均株価は世界的な株高局面に牽引されて上昇基調を維持したと見てよい。カシオ計算機は2018年にデジタルカメラから撤退したが、依然として時計以外の利益水準が低迷していることから株価の停滞局面が継続しており、日経平均株価の上昇基調に追従できない状態が続いている。

業績の推移

売上高は3000億円規模で横ばい

■売上高の特性
売上高は2010年以降は売上高3000億円規模での横ばいが継続しており、売上高は安定的な推移を描いている。2007年から2010年の期間において携帯電話とデジタルカメラの販売縮小が進行した結果、2011年以降のカシオ計算機は時計と教育関連製品(電子辞書・関連製品など)を主力としており、売上高の特性が変容している。最近では時計と教育関連製品の売上高が安定的であることから、売上高3000億円規模での推移が定着している。カシオ計算機は携帯電話・デジタルカメラ・LCD液晶などの事業から既に撤退しており、2011年以前の売上高へ回帰することは困難である。最近は「G-SHOCK」の販売好調を示しているが、時計以外の製品の売上高は停滞していることから、結果的に売上高は横ばいとなりやすい。

■過去の売上高推移
売上高は2011年以降は長期的な減少傾向が継続しており、直近の2019年は売上高2807億円にまで低落している。カシオ計算機の過去最高の売上高は6230億円(2008年)であることを踏まえると、過去10年間で売上高が半減する減少に見舞われている。この売上高の減少は、過去10年間において携帯電話・デジタルカメラ・LCD液晶などから撤退を重ねてきたことに起因している。カシオ計算機の事業環境の変化を振り返ると、①スマートフォンの普及によるデジタルカメラの需要縮小、②スマートフォンの普及による従来型の携帯電話の需要縮小、③LCD液晶のコモディティ化による価格低迷と競争激化、④少子化による教育関連製品(電子辞書・関数電卓など)の需要縮小、など、逆風となる変化が多かった。これらの変化によって事業縮小を強いられた結果、売上高が減少した構図となっている。

営業利益は300億円規模を維持

■営業利益の特性
営業利益はリーマンショック以降は混乱が続いたが、2012年に回復傾向へ転換した後は安定感を強めており、近年は営業利益300億円規模が定着している。最近のカシオ計算機の営業利益率は10%前後で推移しており、売上高の急減に反して利益体質は改善している。2008年以降にカシオ計算機は携帯電話・デジタルカメラ・LCD液晶などの事業から撤退を強いられたが、これによって営業利益が良くも悪くも安定的な事業が残ったことで利益体質が安定化したと見てよい。尤も、現在のカシオ計算機は営業利益率20%前後を誇る時計事業への依存度が高い為、同事業の事業環境が悪化した場合には利益体質が急激な悪化に見舞われる公算が高い点には注意したい。実際、2019年はカシオ計算機の営業利益301億円に対して時計事業は営業利益345億円を確保しており、時計事業が他事業の赤字を補う状況である。

■過去の営業利益推移
2008年から2011年の期間において営業利益の低迷が継続している。カシオ計算機はリーマンショックによる景気後退局面において、当時の主力事業であった携帯電話・デジタルカメラ・LCD液晶の業績が急激に悪化して純損失に転落した経緯がある。2009年は特に携帯電話の需要低迷と発売遅延が重なったことで営業損失293億円へ転落する事態に陥った。カシオ計算機は業績悪化から脱却すべく、①携帯電話事業におけるNECとの合弁会社の設立(NECカシオモバイルコミュニケーションズ)、②LCD液晶事業における凸版印刷との合弁会社の設立(オルタステクノロジー)、を実行して不採算事業の整理を進めて利益水準を回復させることに成功した。尤も、不採算事業を切り離すことで利益体質の回復こそ成し遂げた反面、かつての主力事業の大半を失ったことで企業規模は縮小傾向へ転じることになった。

売上高の構成

コンシューマ事業(87%)

■事業内容
コンシューマ事業には、時計・電卓・電子楽器・電子辞書などの製造販売が含まれる。実態としては、時計がコンシューマ事業の売上高の約65%を占有しており、依存度が高い点に注意が必要であろう。以下ではコンシューマ事業に含まれる製品を概説する。時計では、1983年から耐衝撃時計「G-SHOCK」が世界的な人気を博しており、2017年に累計出荷本数1億本を記録している。廉価な時計の製造にも熱心であり、とりわけF-91Wは1981年から現在に至るまで生産が続く傑作時計として世界的に認知されている。電卓では、関数電卓・プログラム電卓・土木測量電卓など高付加価値分野に特化しており、関数電卓分野では世界シェア1位の地位を維持している。電子楽器では1980年から「カシオトーン」を製造しており、コストパフォーマンスの高い製品として認知されている。尚、非楽器メーカーでありながら音楽業界から高い評価を獲得している点は珍しい。電子辞書では、1981年から「エクスワード」を製造しており、現在では国内シェアの約60%を掌握している。最近では、学生向け電子辞書に留まらず、外国語・医学・理化学など専門分野に特化した電子辞書をラインナップしている。

■過去の売上高分析
コンシューマ事業の売上高は2153億円(2011年)から3009億円(2015年)のレンジで推移しているが、2015年以降は売上高の減少が続いている。この売上高の減少は、①デジタルカメラの売上高の減少がスマートフォンの普及で加速した点、②少子化によって電子辞書や関数電卓の需要減少が続いている点、に起因している。特にデジタルカメラの売上高の減少は著しく、300億円(2015年)から123億円(2018年)にまで落ち込んでいる。2018年にカシオ計算機はデジタルカメラから撤退したが、この撤退によって売上高が100億円ほど消滅した点が痛い。カシオ計算機が歴史的に得意としてきた電卓・電子辞書・デジタルカメラなどの分野は、スマートフォンなど新興勢力による攻勢に常に晒されており、売上高を伸ばしにくい環境が継続している。反面、耐衝撃時計「G-SHOCK」は成長軌道を維持しており、時計事業の売上高は869億円(2007年)から1643億円(2019年)にまで増加している。これは、耐衝撃時計「G-SHOCK」の売れ筋モデルが5万円前後の中価格帯へとシフトした点が大きい。結果、過去10年間でデジタルカメラや電子辞書の衰退が深刻化したことによって、直近ではコンシューマ事業の売上高の67%が時計に依存する状況となっている。

■将来の売上高予測
減少を見込む。COVID-19の流行によって時計需要が縮小することに加えて、教育関連製品(電子辞書・関数電卓など)の需要が時期ずれする公算が高い。景気後退局面における嗜好消費の減退は、コンシューマ事業の稼ぎ頭である「G-SHOCK」にとって逆風である。歴史的に「G-SHOCK」の販路は実店舗が占める割合が依然として高く、COVID-19の流行による外出自粛によって世界的に実店舗への来客が減少している点が痛い。時計事業については、長期的な成長軌道は維持しつつも目先は踊り場を迎えると見てよいだろう。時計に並ぶ主力製品である教育関連製品については、COVID-19の流行によって世界的な学校閉鎖が実施されたことで、電子辞書・関数電卓の売上が時期ずれしている。本来であれば、教育関連製品は入学シーズンになると各地の学校で即売会を開催して売上高を上げる構造であるが、入学シーズンに外出自粛が重なったことで即売会が実施できずに売上高を確保しにくい状況になっている。実際、2019年のコンシューマ事業の関数電卓の売上高は前年比▲10%となっており、2020年以降はCOVID-19の影響が通期で寄与することから更に厳しい状況となりそうである。

システム事業(10%)

■事業内容
システム事業には、ハンディーターミナル・電子レジスター・経営支援システム・データプロジェクターなどの製造販売が含まれる。以下ではシステム事業に含まれる製品を概説する。ハンディターミナルでは、AndroidおよびWindowsCEを搭載した製品を得意としており、キーエンス・デンソーウェーブと共に国内3強の地位を占める。業務用途に使用されるハンディターミナルは堅牢性と利便性の両立が求められることから、耐衝撃時計や関数電卓の製造で培ったノウハウを活用しやすく、高い競争力を有している。電子レジスターでは、中小店舗向け製品において強みを持ち、POSシステムに連動しない電子レジスターに限れば国内シェア1位の地位を維持している。経営支援システムでは、歴史的に生産システムを自社設計してきたノウハウを活用した汎用システムを外販している。カシオ計算機の経営支援システムには、①人事統合システム「ADPS」、②経営支援基幹システム「楽一」、③小規模食品業向け販売管理システム「SANBOH」、④クラウド会計システム「HANJO」などがある。

■過去の売上高分析
システム事業の売上高は301億円(2019年)から465億円(2010年)のレンジで推移しており、過去10年以上に渡って長期的な売上高の減少傾向が継続している。この売上高の縮小は、①事務用プリンタ事業の業績低迷、②一部の業務支援システム(OAシステム)の販売不振、に起因している。特に事務用プリンタは他の事務用機器メーカー同様にペーパーレス化の潮流による影響で売上高の縮小を強いられていた経緯があり、大手事務用機器メーカーと比べて競争力で劣るカシオは劣勢に立たされていた経緯がある。カシオ計算機はシステム事業を業績再建すべく、2016年に発表した構造改革計画で、事務用プリンタからの撤退とOAシステムの取捨選択を決定した。この撤退によって、システム事業の売上高は397億円(2016年)から301億円(2019年)へと縮小する結果となった。尚、現在のカシオ計算機は衰退傾向が続くシステム事業の将来戦略として、①差別化された強いハードウェア(ハンディーターミナル・電子レジスターなど)、②中小個人事業主へのソリューション展開の強化(経営支援システム)、を掲げており、売上高の規模には拘らずに付加価値を追求する姿勢を示している。

■将来の売上高予測
減少を見込む。COVID-19の流行に端を発した景気後退局面において積極的な設備投資を見合わせる企業が増加する点が逆風となる。COVID-19の流行による外出自粛で電子レジスターの顧客の中でも多くを占める中小飲食店が打撃を受けたことが重荷となると見込まれる。国外に目を向けると、ドイツおよびフランスにおける新法施行がCOVID-19の流行によって延期されたことで、前期から問題となっている法令適合レジスターの買い控えが更に継続することも重荷となる。強いて言えば、ネット通販が活況を帯びたことで物流事業者へのハンディーターミナルの需要が増大する可能性が見込まれたが、当のカシオ計算機は2020年3月期決算においてハンディーターミナルの需要減少を示唆しており、方向感を欠く展開となっている。更に、従前から課題となっているプロジェクター市場における競争激化は依然として継続しており、売上高の減少傾向が継続するものと見込まれる。

営業利益の構成

コンシューマ事業(100%)

■過去の営業利益分析
コンシューマ事業の営業利益は▲171億円(2009年)から489億円(2015年)と上下変動が激しいが、2014年以降は営業利益400億円前後で安定的に推移している。2009年のみ営業損失▲171億円に転落しているが、これは同年に携帯電話が急激な売上悪化に見舞われたことに起因している。反面、2010年から2015年の期間において利益水準が急速に回復しており、2015年には営業利益421億円に到達している。これは「G-SHOCK」の販売好調に起因していると見てよい。カシオ計算機の時計事業は営業利益率20%に及ぶ利益水準を誇っており、中でも採算が良い「G-SHOCK」の販売好調は特に追い風であった。更に、2015年前後には中国でデジタルカメラ「TRシリーズ」が販売好調であったことで利益水準が改善していた経緯がある。尤も、2015年以降にはデジタルカメラの採算悪化が本格化したことで営業利益は減少に転換しており、2018年にカシオ計算機はデジタルカメラから撤退するに至る。直近ではコンシューマ事業の営業利益390億円の約88%を時計事業が稼ぐ状況となっており、時計事業への依存度が高い点には注意したい。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。主力製品の時計と教育関連が共に売上高を減少させていることから営業利益の減少は不可避である。カシオ計算機の稼ぎ頭である時計事業の営業利益率は、20%(2017年)から18%(2020年第1四半期)へと減少しており、利益水準がやや悪化した印象である。単価が高い「G-STEEL」が販売好調であったこととはいえ、非「G-SHOCK」分野の時計の販売が落ち込んだことで時計事業としては減益となっている構図である。尤も、COVID-19の流行という事業環境にあって営業利益率18%を維持している時計事業は健闘していると見る向きもあろう。教育関連製品については、売上高の減少による営業利益の縮小こそ不可避であるが、カシオ計算機が推進するコスト削減による効果がどこまで発揮されるかに注目したい。最近のカシオ計算機は、①電子楽器の新型モデルの部品点数の削減によるコスト削減、②関数電卓の自動組立ラインの構築による生産性向上、③販売チャネルの見直しによる広告費用の削減、などの施策によって利益水準の向上を狙っている。これらの施策はCOVID-19の流行によって悪化した利益水準を回復させる追い風となる為、進捗と効果を見極めていきたい。

システム事業(0%)

■過去の営業利益分析
システム事業の営業利益は▲56億円(2014年)から5.8億円(2017年)のレンジで推移しているが、営業利益を確保したのは2017年のみとなっており、事実上の赤字事業となっている。カシオ計算機はシステム事業を黒字化すべく、2016年に発表した構造改革計画で、事務用プリンタからの撤退とOAシステムの取捨選択を決定した。この構造改革計画が奏功して2017年には営業利益5.8億円を確保したが、2018年にはプロジェクター市場の競争激化によって再び営業損失9億円へと転落している。2019年には営業損失▲27億円へと更に状況が悪化しており、業績再建が進んでいない状況が継続している。尚、最近のシステム事業の業績悪化は、①プロジェクター市場の競争激化、②ドイツおよびフランスにおける法令適合レジスターの特需延期、に起因している。本来であれば、ドイツおよびフランスにおける法改正によって法令適合レジスターの特需が発生する筈であったが、これらの法令施行が延期となっていることで逆に買い控えが発生する状況に陥っていることが業績悪化を拡大させている。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。構造改革計画の効果が僅か1年で剥落してから利益水準が低迷する中で、更にCOVID-19の流行による外出自粛が顧客企業に打撃を与えたことが追い打ちとなる。当面は利益水準の低迷が継続する公算が極めて高いが、問題は長年の赤字体質を脱却する為の目途であろう。カシオ計算機は状況を打開するべく、2019年に構造改革費用17億円を計上して、①欧州地域と北米地域における高級機種からの撤退、②Bluetoothレジおよびキャッシュレス対応レジにおけるサブスクリプション型の収益モデルへの移行、③小型プロジェクターへの開発資源の集中、を掲げている。この構造改革によって更に不採算事業が整理されることが期待され、得意分野における競争優位を確立することが期待されよう。尤も、これまでのシステム事業はハードウェアとしては優れる製品を多数投入しながら、営業損失が長年に渡って定着している為、根本的な収益モデルに問題がある可能性は依然として残される。

財務の健全性

手元資金は極めて潤沢な水準

■手元資金の特性
手元資金は過去10年間に渡って増加傾向が継続しており、直近では1300億円規模に到達している。売上高が年間2800億円規模と考えると手元資金としては230億円が目安となる為、極めて潤沢な水準である。実際、カシオ計算機の企業規模に照らせば不釣り合いにも思える水準の手元資金を有しており、流動性という観点では健全性に疑義を呈する余地がない。尤も、かつてのカシオ計算機はLCD液晶など業績不安定な事業を抱えていたことから潤沢な手元資金を確保する意義はあったとはいえ、現在は事業撤退を進めて安定した利益体質が定着していることから、過剰な手元資金を確保する意義は薄そうである。

■過去の手元資金分析
2012年から2019年の期間において、手元資金の増加傾向が継続している点が目につく。カシオ計算機は「G-SHOCK」に代表される競争力が高い製品から潤沢な営業キャッシュフローを得る反面、近年は特段の積極投資をすることもなく事業運営してきた経緯がある。こうした消極的な事情から手元資金が滞留していると見てよいが、当事者のカシオ計算機からすれば、時計以外の主力事業が衰退に直面する情勢下で将来に備えた資金力を強化しようと考えるのは当然の道理であろう。

自己資本比率は業界上位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は2010年から増加傾向が継続しており、直近では60.6%に到達している。同業他社と比較すると、セイコーエプソン48.4%・ブラザー工業58.6%・リコー32.1%・シャープ15.0%となっており、業界上位の水準である。カシオ計算機は好調時であれば営業利益率10%を超える利益水準を活かして、純資産を着実に増加させており、これが自己資本比率の上昇を引き起こしている。最近のカシオ計算機は手元資金が潤沢であることに加えて、時計事業以外への積極投資には消極的な姿勢が続いており、負債による資金調達をする動機に欠く状況が継続している。当面は自己資本比率が高位で推移する公算が高いか。

■過去の自己資本比率分析
2007年から2009年の期間において株価下落が継続した結果、自己資本比率が49.4%(2007年)から37.3%(2009年)まで下落している。同時期のカシオ計算機は、当時の主力事業であった携帯電話・デジタルカメラ・LCD液晶が軒並み業績悪化する状況に陥っており、2008年および2009年における純損失は累計440億円に達した。巨額の純損失によって純資産が2312億円(2007年)から1688億円(2009年)にまで低下した結果、自己資本比率が低落した構図である。尤も、2012年以降は利益水準を急速に回復させたことで純資産が回復基調に転じており、直近では業績悪化以前を上回る自己資本比率60.6%に到達している。

株価の割安感

BPSは2007年の水準へ回復

■BPSの特性
BPSは554円(2011年)から859円(2018年)のレンジで推移しており、直近では2007年の水準にまで回復を遂げている。2007年から2011年の期間においては業績悪化によるBPSの低落が続いたが、2012年以降はBPSの安定的な増加傾向が継続している。2014年以降のカシオ計算機は、採算の良い時計事業に牽引されて営業利益率10%前後の利益水準が定着しており、これがBPSを増加させる要因となっている。在外子会社や有価証券への投資額が大きい企業は株安局面や円高局面でBPSが上下変動しやすいが、カシオ計算機はいずれも小規模であることから経済環境によるBPS変動は少ない。ただし、海外売上高比率が約70%に及ぶことから、円高局面においては利益水準が低落しやすく、BPSは伸び悩むか。

■過去のBPS分析
2007年から2011年の期間におけるBPSの低下が顕著である。808円(2007年)から554円(2011年)まで低下しており、約4年間で約30%の減少に見舞われている。このBPSの急激な低下は、①当時製造していたLCD液晶が世界的なデジタルカメラや携帯電話の需要下落による単価下落に見舞われた点、②ベライゾンワイヤレス向け携帯電話の発売遅延が大幅減収を引き起こした点、③デジタルカメラが急激な需要縮小とユーロ高によって採算悪化した点、に起因している。同時期のカシオ計算機は、時計に並ぶ主力事業であったLCD液晶・携帯電話・デジタルカメラがすべて業績不振に陥る三重苦に陥っており、2008年と2009年に年間200億円規模の純損失を計上したことでBPSの急落を招いた。反面、2012年以降には時計を主力製品として利益水準が回復したことで、BPSは再び拡大傾向へ転じている。

PBRは下落したが割高圏を維持

■PBRの特性
PBRは長期的に1.11倍(2011年)から3.18倍(2007年)のレンジで推移しており、上下変動が激しい。業績不振の時期を除けば概ねPBR1.5倍を超える水準が定着しており、電機メーカーとしては割高圏での推移が続いている。カシオ計算機のPBRが高水準で推移しやすいのは、①2014年以降のカシオ計算機は営業利益率10%前後の水準が定着している点、②稼ぎ頭の時計事業の成長が長期的に継続している点、③貸借対照表に占める現預金の比率が高い点、に起因している。堅固な利益体質と高い財務健全性を確保しながら、稼ぎ頭の主力事業の成長が長期的に継続しているとなれば、PBRが高位で推移しやすいのは当然である。

■過去のPBR分析
2007年と2014年においてPBR3.0倍に迫る割高圏に到達している点が顕著である。尤も、それぞれPBR3.0倍に迫った理由が異なる点に着目したい。2007年のPBR上昇は、携帯電話とデジタルカメラの販売好調によって売上高6230億円に到達したことが要因であるが、実際には純利益121億円に留まっており利益水準は低い状態であった。同時期は世界的な株高局面が到来していた時期であり、デジタル製品を幅広く手掛けるカシオ計算機に投資資金が集中したことによって、過熱気味の株価上昇を演じていた。これに対して、2014年のPBR上昇は、不採算事業からの撤退と時計事業の成長による利益体質の回復が要因である。同年のカシオ計算機は純利益264億円を記録して業績不振からの復活を印象付けたことによる株価上昇によってPBRが上昇した。いずれも世界的な株高局面と時期が重なるが、2014年のPBR上昇は純利益の増加という明確な裏付があった点で妥当なものであった。

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は業績連動型である。カシオ計算機は配当政策として「安定配当の維持を基本に、利益水準、財務状況、配当性向、将来の事業展開・業績見通しなどを総合的に勘案し成果の配分を行う」を掲げており、配当金推移は業績に連動して推移している。配当政策を文面通りに解釈すると安定配当型とも解釈できるが、実際には業績と連動して配当金が決定されていることから業績連動型と解釈すべきだろう(無配転落しないことを安定配当と解釈すれば別だが)。カシオ計算機は業績悪化に陥った際にも無配転落を回避する傾向があり、2008年から2009年の期間において連続赤字に陥った時期を含めて継続配当している点は評価できる。

■過去の配当金分析
2009年から2017年の期間において配当金の増加傾向が継続したことで2017年には年間50円に到達している。カシオ計算機は2009年に純損失209億円を計上した反面、2010年以降には時計事業の成長に支えられた業績再建が着実に進んだことで利益水準が向上しており、これが配当金の推移に表面化している。尤も、実際には2015年の純利益311億円を頂点にカシオ計算機の利益水準は停滞しているにも関わらず、同年以降にも配当金が増加傾向を維持している点は興味深い。2016年以降は純利益200億規模で停滞したことで配当性向60%前後にまで上昇しており、利益水準が更なる向上を遂げない限りは現在の配当水準を長期的に維持することは難しそうである。尚、2017年に年間50円に増加したのは創立60周年記念配当金10円を追加したことに起因している。

配当利回りは3%前後へ上昇

■配当利回りの特性
配当利回りは1.28%(2007年)から3.15%(2017年)のレンジで推移しており、長期的には日本株の平均的な配当利回りである2%前後と概ね同水準に収束している。過去10年間においては業績悪化に陥った際にも無配転落を回避したことで、配当利回りは1%を上回る水準で推移する底堅い推移を示している。近年のカシオ計算機は株価水準が高めで推移しているが、2009年以降は配当金の増加傾向が継続している為に配当利回りは安定的である。尚、カシオ計算機は配当金以外にも自社株買いによる株主還元にも熱心であり、2014年から2016年の期間で総額376億円を超える自社株買いを実施している。配当金による利回り以外にも株主還元が実施されている点は念頭に置いておきたい。

■過去の配当利回り分析
2011年と2017年において配当利回り3%前後の水準に到達しているが、配当利回りが上昇した原因はそれぞれ異なる。2011年の配当利回りの上昇は業績低迷によって株価が下落したことに起因しており、消極的な配当利回りの上昇であった。同年のカシオ計算機は配当金を年間17円で維持した反面、当時の主力事業の携帯電話やデジタルカメラの事業縮小が失望されたことで株価500円台まで低落しており、その結果として配当利回りが上昇した。これに対して、2017年の配当利回りの上昇は、配当金を年間50円にまで増配した反面、利益水準の停滞が嫌気されたことで株価のレンジが1700円台に切り下がったことで配当利回りが上昇している。2011年の配当利回りの上昇が減配を上回る株価下落の結果であった反面、2017年の配当利回りの上昇は増配と株価下落の結果であり、やや性質を異にする。

総合評価

目標株価

1900円

COVID-19の流行による業績悪化は不可避とはいえ、現在のカシオ計算機の営業利益の大半を支える時計事業は歴史的に景気後退局面においても底堅い推移を描きやすい。他事業の業績悪化は課題であるが、①他事業の業績不振はCOVID-19以前からの継続課題である点、②他事業は業績に占める構成比率が既に少ない点、を考慮すれば致命打とはなり得ない。現在の株価水準は時計事業の底堅さをやや軽視している水準にあることから、この程度の株価水準を上値目途として見ておきたい。

投資判断

やや強気

過去10年間で事業整理を進めた結果、現在のカシオ計算機は営業利益10%前後を安定して確保する企業へと変容している。携帯電話・デジタルカメラ・LCD液晶が好調であった2007年と比較すると、売上高が半減したにも関わらず利益水準には大差がない点は驚異的であろう。高い利益水準が生み出す潤沢な利益はカシオ計算機の財務体質を向上させ、手元資金は企業規模に不釣り合いな規模にまで肥大化しており、極めて財務健全である。更に、時計事業は依然として出荷本数が増加傾向で推移しており、現在の成長性を当面は維持することが期待できる。反面、現在のカシオ計算機は時計事業の利益に全面的に依存しており、直近では時計需要の営業利益が他事業の営業損失を補填する状況に陥っている。悪く言えば、カシオ計算機は時計以外に採算の良い製品を有しておらず、時計事業一本足との批判を浴びることは必然である。カシオ計算機は革新的な製品を生み出してきた歴史ある企業であるが、過去10年間に渡っては事業撤退に追い込まれる状況が目立ち、構造改革計画を打ち出して不採算事業を改革する試みすら頓挫している。システム事業に至っては過去10年間に渡って2017年を除くすべての年度で営業赤字が続いている体たらくである。本来であれば、時計事業が生み出す潤沢な資金を活用して、時計事業への依存度を引き下げられる新規事業を創造すべき局面であるが、その機運は薄い。投資判断の設定にあたっては、時計事業の成長性を加味しつつも同事業への依存度を深めている点を考慮して、やや強気に設定した。