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企業レポート

シチズン時計(7762)の分析|財務堅固だが当面の業績悪化を懸念

基本情報

シチズン時計(7762)は、1918年に創業した精密・電子機器メーカーである。時計メーカーとして有名ではあるが、実際には工作機械・電子機器・電子デバイスなど事業多角化が進んでいる。近年は潤沢な資金力を活かした欧米の名門時計メーカーの買収にも積極的である。

目次

株価の推移

株価は上下反復だが目先は底値圏

■株価の特性
株価は300円台から900円台のレンジで推移している。シチズン時計の業績が過去10年間に渡って停滞していることもあり、株価のレンジも特段の変化がない。景気循環に追従しながら上下反復を繰り返す株価推移となっており、成長企業の株価推移とは程遠い。株価と業績の連動性は高くない為、景気動向と株式市場の好不調によって株価が左右されやすいか。

■過去の株価推移
2007年に記録した株価1000円台が目につく。リーマンショック前のシチズン時計は業績好調で過去最高益を好感して株価が高値圏にあった。しかし、リーマンショックでBPSが毀損したことが打撃となり株価は急落した。2008年以降は業績停滞が続いたことで株価は過去10年間に渡って低迷を強いられている。業績停滞のみならず、最近は主力事業である時計事業の将来性が危惧されており、高値圏への回帰は難しそうである。

日経平均株価との相関性が低下

■日経平均株価との相関性
シチズン時計は日経平均株価の構成銘柄である。歴史的には日経平均株価との相関性は高かったものの、2016年以降はシチズン時計の株価が日経平均株価から振り落とされる形で乖離が拡大している。業績停滞が続いているシチズン時計は日経平均株価の有力な構成銘柄とは性質が異なる為、日経平均株価との相関性を維持し得ないのは致し方ないか

■過去の日経平均株価との相関性
2014年までは日経平均株価との相関性が高い推移を描いていた。チャイナショックによる日経平均株価の下落局面でシチズン時計は日経平均株価よりも激しい下落を味わった。2016年以降には日経平均株価が右肩上がりの上昇を続けた反面、シチズン時計の戻りは鈍かった。2019年以降には業績不安の拡大によってシチズン時計がアベノミクス以前の株価水準にまで低落した為、相関性は喪失した。

業績の推移

売上高は1500億円規模で停滞

■売上高の特性
売上高は過去10年以上に渡って3000億円規模で推移しており、長期的な横ばい推移となっている。リーマンショック後に世界経済は飛躍的な拡大局面を迎えたが、シチズン時計の売上高は停滞を余儀なくされている。好景気時に売上高が拡大する傾向は見えるが、景気後退局面においても底堅い推移である。景気動向に左右されやすい印象がある時計と工作機械が主力事業である割には景気動向への耐性は高い。

■過去の売上高推移
過去最高の売上高は1992年の売上高4100億円であり、約30年間に渡って売上高が伸びていない成熟企業である。主力事業の腕時計自体が売上高の拡大が難しい産業であり、腕時計以外の事業においても売上高の停滞が続いている。2013年以降の世界経済の拡大局面においてさえ売上高の拡大が緩慢である点を踏まえると、売上高の持続的成長は望み難いか。

営業利益は上下変動が激しい

■営業利益の特性
売上高の安定性に反して営業利益の上下変動は大きい。営業利益は概ね150億円規模で推移しているが、営業利益率は5%から8%の水準であり、利益水準はそれなりに高い。決して傑出した利益水準ではないものの、安定的に営業利益を確保している点がシチズン時計の強みである。ただし、過去10年間に渡って営業赤字への転落はなかったものの、2008年と2012年に巨額の純損失を計上している。

■過去の営業利益推移
営業利益は2009年に営業赤字への転落寸前となってからの回復傾向が続いたが、2016年以降の営業利益は頭打ち状態で推移している。工作機械事業は営業利益の拡大が続くものの、主力事業である時計事業の利益水準が切り下がっていることが原因である。過去最高の営業利益が2005年に記録した370億円であることを踏まえると、利益水準においてもシチズン時計は約30年前を超えられずにいる。

売上高の構成

時計事業(50%)

■事業内容
時計事業は、時計およびムーブメントの製造販売が含まれる。高級時計からスマートウォッチに至るまでの多彩な腕時計ブランドを製造販売している他、時計の心臓部であるムーブメント部品で世界シェアの約30%を占める。近年は他社が追随できない新技術の開発に熱心であり、2011年には衛星電波時計の市販に成功した。シチズン時計は、機械式時計の構成部品から完成品までを自社一貫製造できるマニュファクチュールである。

■過去の売上高分析
時計事業は売上高の約45%で安定推移している。シチズン時計はマルチブランド展開を強化しており、定期的に欧米の伝統ある腕時計メーカーを買収して傘下に加える手法を好む。2007年にプローバ、2012年にプロサー、2016年にフレデリックコンスタントを買収しており、これらのブランドが売上高を底上げしている。過去10年間では2015年の売上高が傑出しているが、これは中国人観光客によるインバウンド消費が活況だった点に由来する。時計事業の傘下ブランドは中価格帯モデルが主力である為、個人消費マインドの動向を受けやすい。

■将来の売上高予測
減少を見込む。景気後退局面における個人消費マインドの低迷が、中価格帯モデルの販売を低落させる公算が高い。時計事業の主力商品は10万円から30万円の腕時計である為、サラリーマン家庭のボーナスの減少で打撃を受けやすい。2020年はCOVID-19の流行により世界的にデパートの営業停止が相次いだが、シチズン時計の販売網はデパート流通の比率が高い為、更に販売を低迷させそうである。

工作機械事業(23%)

■事業内容
工作機械事業は、自動旋盤・マシニングセル・生産システムの製造販売が含まれる。シチズン時計はCNC自動旋盤でCincomとMiyanoのブランドを保有しており、後者は2011年にシチズンマシナリーと合併したミヤノが有していたブランドである。CNC自動旋盤はシチズン時計・ツガミ・スター精密の日本企業3社が世界シェアの80%を制圧しており、競争力が高い。スター精密とは同社創業以来の取引関係があり、提携関係にある。

■過去の売上高分析
売上高は増加傾向にある。2005年の売上高371億円から2018年には売上高721億円にまで拡大しており、過去10年間で約2倍の成長を遂げている。2018年の売上高の拡大が顕著であるが、これは日本およびドイツの自動車産業の設備投資が追い風として作用したことが原因である。過去10年間における工作機械事業の主要顧客は自動車メーカーと医療機械メーカーと半導体製造装置メーカーであった。これらの顧客産業の設備投資意欲に売上高が左右される。

■将来の売上高予測
減少を見込む。当面は景気後退による設備投資意欲の減退と、主要顧客である自動車産業の設備投資意欲の減退が下方圧力として作用するだろう。ただし、長期的な将来性は高い。近年の潮流として同一製品大量生産から少量多品種生産への移行があるが、1台で様々な加工に対応できるCNC自動旋盤はこの潮流と合致している。2021年には中国に新工場が完成する予定であり、これにより生産能力が現状の倍近い水準にまで拡張される。

デバイス事業(19%)

■事業内容
デバイス事業は、スイッチ・センサ・セラミックス部品・計測機器の製造販売が含まれる。デバイス事業はスマートフォンと自動車に使用される製品が多い。時計事業で培った小型精密部品の製造技術と、クオーツ時計で培った水晶振動子などの水晶デバイスの開発力を組み合わせることで、部品サプライヤとしての地位を確立している。

■過去の売上高分析
売上高600億円規模で推移している。水晶デバイスがIoT市場の拡大で需要旺盛の他、オプトデバイスの拡販が進むなど局地的な好調こそあるものの、事業全体の売上高は停滞感が強い。2015年まではスマートフォンの需要拡大による売上高の微増傾向が見られたが、2017年以降は自動車産業の停滞感が強まったことで売上高が停滞している。工作機械事業と同じく自動車産業への依存度の高さが伺える推移となっている。

■将来の売上高予測
微減を見込む。IoT市場の拡大による水晶デバイスの拡販は継続するものの、主要顧客であるスマートフォンメーカーと自動車メーカーの不振が下方圧力として作用する。2020年はCOVID-19の流行によって新車販売が急減しており、デバイス事業の売上高が縮小する見通しである。2017年以降はスマートフォン市場の主流が高価格帯から中価格帯へとシフトしており、高単価部品の販売減少が継続しそうである。

電子機器事業(6%)

■事業内容
電子機器事業は、プリンタ・健康機器・電卓などの製造販売が含まれる。プリンタは法人用途が主力となっており、チケット・レシートの印刷用プリンタが主力となっている。健康機器としては、血圧計・歩数計・電子体温計・超音波洗浄機などが含まれる。多数の連結子会社を要する他事業と異なり、電子機器事業は連結子会社のシチズン・システムズに依存している。

■過去の売上高分析
売上高は200億円規模で極めて安定的に推移している。過去10年間で売上高がほぼ変化しておらず、景気変動による売上高の上下変動は特に少ない。強いて言えば、2015年に売上高247億円にまで拡大しているが、これは中国における徴税システムの変更でプリンタの販売が拡大した点が原因であった。電子機器事業の製品は更新需要に依存する部分が大きく、良くも悪くも平坦な売上高の推移となっている。

■将来の売上高予測
微減を見込む。景気後退局面において、顧客がプリンタの更新を先送りすることで目先の更新需要が低落する。電子機器事業のプリンタはレシートやチケットの印刷用途に使用されており、COVID-19の流行による経済停滞によってプリンタの使用頻度そのものが減少する。COVID-19の流行によって体温計の出荷量は増加するが、電子機器事業の売上高を拡大させる程の貢献は果たし得ないと想定する。

その他事業(2%)

■事業内容
その他の事業は、宝飾品事業・出版事業・レジャーサービス事業・ガルバノスキャナーなどが含まれる。東京都で総合スポーツ施設(シチズンプラザ)を運営しており、ボーリング場やアイススケート場が含まれる。宝飾品事業は結婚指輪などのブライダルジュエリーや真珠製品などを取り揃えている。なお、宝飾品事業は2003年に設立したシチズン宝飾が担っている。

■過去の売上高分析
過去10年間に渡って減少傾向が続いている。2010年の売上高249億円から、2018年には売上高58億円にまで減少しており、顕著である。その他事業は売上高こそ大きいものの頻繁に赤字転落を繰り返してきた非コア事業であり、シチズン時計はその他事業の整理を進めている。売上高の減少は事業整理による部分が大きい。2016年にはパチンコ機器を取り扱う連結子会社のシルバー電研を解散したことで売上高が減少した。

■将来の売上高予測
減少を見込む。コア事業の業績悪化を受けて、シチズン時計はその他事業の整理に本腰を入れている。2020年6月にシチズン宝飾の解散を予定している他、シチズンプラザの閉館を2021年に決定している。シチズン宝飾は1966年に宝飾事業として発足した事業であり、シチズンプラザは1972年から経営している歴史ある施設である。2016年に解散したパチンコ事業とは格が異なる事業にまで大鉈を振るっており、売上高の減少は既に既定路線である

営業利益の構成

時計事業(43%)

■過去の営業利益分析
時計事業の営業利益は109億円から205億円で推移しており、安定性は高い。営業利益率という観点では、過去10年間を通して営業利益率7.5%を上回っており、好調時であれば10%を超える水準に到達している。シチズン時計とっての時計事業が主力事業である点には疑いの余地はない。2015年以降から時計事業の営業利益が低落傾向にあるが、これは高付加価値製品の需要が一巡している点に由来する。時計事業の主力製品は中価格帯の腕時計であるが、価格帯において競合するスマートウォッチが登場したのが2015年である点も関係するか。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。景気後退局面における個人消費マインドの低迷が販売の下方圧力として作用する。前回の景気後退局面であるリーマンショック後は底堅く営業利益を確保したが、当時と異なり中価格帯の腕時計の需要は嗜好品へとシフトしている。時計事業はデパートなどの実店舗流通への依存度が高い為、これらの実店舗流通がCOVID-19の流行によって数か月に渡る営業停止を世界的に強いられた点も重荷となる。

工作機械事業(45%)

■過去の営業利益分析
工作機械事業の営業利益は26億円から130億円で推移しており、上下変動が激しい。2009年には営業赤字43億円を計上しており、景気後退局面において低迷するのは他の工作機械メーカーと変わりない。営業利益率という観点では、2015年以降は10%を超える水準を維持しており、2018年には18%に到達している。景気後退局面においては営業赤字に転落しうるものの、景気回復局面においては極めて高収益な事業である。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。主要顧客である自動車メーカーがCOVID-19の流行による打撃で設備投資意欲を削がれている点が重荷となる。医療機器メーカーは相対的に底堅い需要が見込めるものの、裾野が広い自動車産業の不振を補って余りある程の利益拡大は見込めない。ただし、営業赤字に転落した2009年とは異なり、CNC自動旋盤の全需拡大の長期的な趨勢は維持される為、大局的には一時的な利益減少に留まると想定する。

デバイス事業(9%)

■過去の営業利益分析
デバイス事業の営業利益は9億円から68億円で推移している。営業利益率という観点では、過去10年間に渡って1.6%から8%の幅で推移しているが、平常時は概ね4%程度である。利益水準は過去10年間に渡って横ばいであり、成長性は薄い。強いて言えば、2015年の営業利益68億円が傑出している。これは、①スマートフォン向け商品の急激な拡販、②顧客自動車メーカーの新車販売台数の増加による部品販売増加、が原因である。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。デバイス事業の主要顧客である自動車メーカーの減産による新車向け出荷量の減少が重荷である。2020年はCOVID-19の流行によって自動車メーカー各社は生産停止を余儀なくされており、世界新車販売は▲10%から▲18%の減少の見通しである。スマートフォン向け部品についても、高価格帯モデルの販売減少の影響が利益水準を切り下げそうである。業績悪化を懸念したシチズン時計は、デバイス事業の不採算モデル整理と製造拠点再編を進めているが、営業利益に効果が発露するまでは時間を要する。

電子機器事業(2%)

■過去の営業利益分析
電子機器事業の営業利益は4億円から14億円で推移している。中国市場の好転で一時的に営業利益14億円に拡大した2013年を除けば、営業利益5億円前後に留まっている。営業利益は良くも安定的な推移を続けているものの、営業利益率2%程度の事業であり利益水準は高くない。過去10年間で営業利益は微減傾向にある為、ペーパーレス化によるプリンタの逆風は弱くなさそうである。

■将来の営業利益予測
微減を見込む。COVID-19の流行による経済停滞がプリンタの販売を縮小させることが痛手であるが、他事業と比べれば落ち込むは少ないと予測する。過去の景気後退局面においても電子機器事業は営業利益を安定的に確保しており減少幅は少ない。ただし、主力のプリンタは当面は安定的な利益確保が望めるものの、ペーパーレス化の趨勢で長期的な下方圧力が継続する。

その他事業(1%)

■過去の営業利益分析
その他事業の営業利益は▲5.4億円から4.8億円で推移しており、営業赤字に転落する頻度が多い。営業利益を確保した年度においても、営業利益は5億円未満であり利益貢献は薄い。シチズン時計がその他事業の整理を推進したことで、2016年以降は黒字体質に転換したが、シチズン時計の営業利益に占める割合は1%未満であり存在感は薄い。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。レジャーサービス事業からの撤退と、宝飾品事業を担うシチズン宝飾の解散によって、利益創出を担う事業自体が消滅する。目先は利益確保に成功しているものの、ブライダル需要の縮小による宝飾品事業の衰退を踏まえれば、撤退は時間の問題であった。シチズン時計は高収益かつ競争力がある事業を有する為、敢えて低収益で将来性のない事業を維持する必要はない。その他事業の営業利益が消滅しても、シチズン時計の営業利益に及ぶ影響は極めて限定的である。

財務の健全性

手元資金は明らかに過剰気味

■手元資金の特性
手元資金は概ね800億円台を維持している。売上高が年間3500億円規模と考えると手元資金としては290億円が目安となる為、明らかに過剰気味の水準である。シチズン時計は売上債権が買掛債権の3倍規模であり、売上債権からのキャッシュフローによる資金繰りの安定化効果もある。景気後退時に損失が発生しやすい工作機械事業を抱えていることから事業継続の為に潤沢な手元資金が重要ではあるが、それにしても多い。

■過去の手元資金分析
2014年の手元資金の増加が顕著である。時計事業と工作機械が好調であったことで営業キャッシュフローが潤沢であったことに加えて、固定資産売却によって投資キャッシュフローが節減されたことが原因である。同年の手元資金は1000億円の大台に到達しており、売上高3000億円規模の企業としては異質に潤沢な水準に到達している。

自己資本比率は業界中位

■自己資本比率の特性
自己資本比率は概ね60%台を維持している。同業他社と比較すると、セイコーホールディングス36%・リズム時計工業70%・カシオ計算機59%となっており、業界中位の水準である。近年のシチズン時計は、リーマンショック時に急増した有利子負債の返済を着実に進めている為、自己資本比率の微増傾向が続いている。

■過去の自己資本比率分析
2008年の自己資本比率の急落が顕著である。2007年の自己資本比率は62.4%であったが、2008年の自己資本比率は47.8%にまで下落している。同年は純損失258億円を計上したことで利益剰余金が330億円の減少に見舞われたことで純資産が毀損したことに加えて、長期借入金608億円を積み増したことで負債が増加したことが自己資本比率が低下させた。2008年は営業利益こそ確保しているものの、減損損失141億円や買収したミヤノの暖簾償却55億円などが重荷となり巨額の純損失を計上しており、シチズン時計にとっては苦渋の年であった

株価の割安感

BPSは微増傾向が継続

■BPSの特性
BPSは2008年を底に右肩上がりの推移を描いている。2008年以降のシチズン時計は2012年を除けば安定的な利益確保に成功しており、その結果がBPSに表れている。過去10年間の高い利益水準の割にBPSの拡大が200円程度に留まっているのは、シチズン時計がBPSの拡大よりも有利子負債の返済に注力していたことが理由である。2006年のBPSが860円であったことを踏まえれば、約10年間を費やしてようやく元の水準に戻ってきた実態には注意したい。

■過去のBPS分析
2013年からのBPSの拡大が特に顕著である。2013年以降のシチズン時計は年間150億円を超える純利益を確保しており、これが利益剰余金として積み上がったことがBPSを拡大させた。シチズン時計の様な大企業ではアベノミクス以降の株高局面が有価証券評価差額金を拡大させてBPSを底上げしている事例が散見されるが、シチズン時計の場合はアベノミクス以前と然程変化しておらず、有価証券評価額の向上によるBPSの拡大は極めて限定的である。

PBRは右肩下がりで低迷

■PBRの特性
PBRは2007年以降は右肩下がりが継続している。BPSこそ2006年の水準に回帰したものの、株価は2006年の高値1206円から程遠い下値圏で推移している為、PBRが低迷している。BPSこそ回復を遂げたものの、シチズン時計の業績が将来性を期待させるものとは程遠い状況であることが当時とは異なる。スマートフォンの普及による腕時計離れなどの逆風もあり、PBRは精密機器メーカーとしては相当の低水準に留まる。

■過去のPBR分析
長期的な下落傾向が継続しているものの、2013年から2014年にかけてはPBR1.0倍を超える反発局面を迎えている。同時期はアベノミクスによる株高局面とシチズン時計の業績好転が相まって、株価が130%を超える上昇を記録していた。業績好転によってBPSが拡大したものの、株価が堅調な上昇を遂げたことでPBRが上昇を遂げた。同時期はスマートフォンの黎明期であり、時計の嗜好品化があまり進んでいなかった点も、シチズン時計の先行き不安を軽減しておりPBRの上昇に繋がった。

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は業績連動型である。シチズン時計は配当政策として「配当及び自己株式取得の合計額の親会社株式に帰属する当期純利益に対する比率を株主還元性向と捉え、3年間平均での株主還元性向を30%以上」を掲げており、実際に過去の配当性向は30%を超える水準であることが多い。典型的な業績連動型の配当政策である為、配当利回りを考えるにあたっては将来の業績を見通す必要が高い。なお、新たに策定した2022年を最終年度とする中期経営計画では株主還元性向60%を掲げており、株主還元強化の動きがある。

■過去の配当金分析
2017年の配当金が傑出しているが、これは記念配当による。本来は年間17円に留まる予定であったが、創業100周年記念配当5円が加わったことで年間22円に到達した。同年は純利益が過去10年間で最高水準の193億円を記録していた為、記念配当を実施しても尚、配当性向は28%に留まった。2017年の時点で既に業績の先行き不透明感が色濃くなっていた為、後先の期待を持たせない記念配当という形で株主還元を実施したのは良策であった。

配当利回りは将来の減配を織込み

■配当利回りの特性
配当利回りは右肩上がりで推移しており、直近では3%台にまで到達している。配当金が業績に連動して増加したにも関わらず、株価が低迷したことで配当利回りは顕著な上昇傾向が続いた。配当金の絶対額がリーマンショック以前の業績好調時と同等水準に留まっていることを踏まえれば、配当利回りの上昇を素直に喜ぶことはできないだろう。

■過去の配当利回り分析
シチズン時計の配当利回りは過去20年を振り返れば2%未満が標準であり、2014年以降に定着した配当利回り2%台という水準は歴史的には珍しい状況である。株主還元を重視する姿勢への転換を踏まえても、現在の配当利回り3%を超える水準は将来の減配をやや織り込んでいる様に見受けられる。実際、2019年の配当金は事業環境悪化と構造改革実施を踏まえて年間12円に減配されることが決定した為、株式市場の抱いていた減配懸念は現実となった。

総合評価

目標株価

430円

腕時計と工作機械が主力事業であることから、景気後退局面においては厳しい業績推移を強いられる。自動車産業がCOVID-19の流行による投資意欲の減退から回復しない限りは工作機械事業が低迷する他、新車販売台数の減少がデバイス事業を低迷させそうである。堅固な財務基盤から当面の景気後退における業績低迷を耐久することは十分に可能であるが、業績回復の糸口が見えない。将来的なCNC自動旋盤の需要拡大を加味しても尚、現状の経済環境に於ける目標株価はこの程度である。

投資判断

やや弱気

総合的に見れば高収益な時計事業と工作機械事業を中核とする優良企業である。時計事業は景気後退局面にも粘り強く高収益性を維持しており、主力事業の安定感は非常に高い。将来有望なCNC自動旋盤でも世界シェア首位級であり、時計事業に過度に依存しない事業運営を実現している。そのうえ、手元資金も自己資本比率も過剰気味ですらある水準なので、倒産リスクとは無縁に近い。しかし、工作機械事業を除けば、過去10年間に渡って業績成長とは程遠い推移が継続している点が懸念である。身嗜みとしての腕時計文化が希薄化したことで中価格帯の腕時計の販売縮小が懸念される他、スマートウォッチなどの対抗勢力との競争を強いられる。デバイス事業と電子機器事業は旧態依然とした事業で成長性は希薄であり、その他事業は整理が進む。これまでは成長性を欠けども高収益という点で評価することもできたが、その高収益性に疑義が生じつつあるというのが実態である。