カテゴリー
企業レポート

スズキ(7269)の分析|インド市場の減速で当面は業績停滞が続く

基本情報

スズキ(7269)は、静岡県浜松市に本社を置く自動車メーカーである。ただし、現在のスズキは自動車・バイク・船外機を主力製品としており、純粋な自動車メーカーではない。1909年に織機メーカーとして創業した鈴木式織機製作所が源流企業であるが、創業直後から機械技術を応用した事業多角化に熱心であった。この時期の事業多角化の試みによって、現在のスズキの主力製品となっている自動車・バイク・船外機への参入を果たした。軽自動車の製造に参入したのは1955年と後発であったが、1973年には日本国内において軽自動車販売台数1位の地位を獲得するに至り、現在では世界10位の生産台数を誇る自動車メーカーである。1981年にインド政府の要請に応じてインド市場に参入した結果、現在では同国の自動車市場のシェア50%以上を掌握するトップ企業の地位にある。

目次

株価の推移

株価は上場来高値から調整局面入り

■株価の特性
2007年から2019年の期間において、スズキの株価は1037円から7680円のレンジで推移しているが、長期的な株価上昇が持続している。2018年には業績好調と株高局面が重複したことで株価7680円に到達しており、リーマンショック後の底値から約7倍にまで上昇している。自動車セクターは株価が景気循環に追従しやすいが、最近のスズキは景気回復局面における業績回復に留まらず、インド市場の成長による業績拡大が長期的に継続していることから上場来高値を更新する動きを見せた。ただじ、スズキ株はインド関連の動向で過敏に連想売買されやすい点には注意を要する。過去の例としては、①インド株の急落を受けた販売鈍化懸念による株価下落(2018年9月)、②インドルピーの急落による業績悪化を懸念した株価下落(2019年6月)、③インドにおける法人税減税を好感した株価上昇(2019年9月)、などがある。

■過去の株価推移
2020年における株価下落が顕著である。2020年2月の時点では米中貿易摩擦の緩和を受けて株価5196円にまで株価上昇を遂げていたが、COVID-19の流行による株安局面が到来すると株価2438円にまで急落している。スズキ株が株価2438円で取引されるのは実に2013年11月以来の事態であり、2020年2月と比較した株価の下落率は▲53%にまで達した。COVID-19の流行による株価下落が深刻となったのは、①景気後退局面において新車販売台数が低迷する歴史的な経験則、②COVID-19の流行による操業停止によって新車生産そのものが停止する点、③世界的なサプライチェーンの混乱による影響がどこまで及ぶのか想定すらできなかった点、に起因している。もっとも、COVID-19による影響が猛威を振るった2020年第1四半期においてもスズキが黒字確保したことが判明すると株価は早々に持ち直して株価3400円を底とするレンジへと早々に回帰している。

日経平均株価との相関性は高い

■日経平均株価との相関性
スズキの株価と日経平均株価の相関性は高めである(2007年4月から2020年3月の相関係数:0.93)。スズキは景気循環に業績が連動しやすい自動車セクターに属することから、景気循環的な推移を描きやすい日経平均株価との相関性が高くなりやすい。最近ではインド市場における販売台数の増加に牽引された業績拡大が続く成長企業としての性質が色濃いとはいえ、新車販売台数が景気循環に連動する性質には変わりないことから日経平均株価と連動した推移を描きやすい。販売台数の約50%を依存するインド市場の景気動向に株価が左右される性質が強いとはいえ、依然として日経平均株価と類似した株価推移を描きやすい点は念頭に置いておきたい。

■過去の日経平均株価との相関性
2018年以降は日経平均株価の堅調な推移を描く局面においてスズキの株価が下落する局面が散見される。これは、最近の日経平均株価が指数寄与度の大きいエクセレントカンパニーの躍進に支えられた上昇を遂げることが多く、景気循環に素直に連動した推移を遂げにくくなっている点に起因している。2018年は米中貿易摩擦に端を発した景気減速への根強い懸念によって自動車セクターなどの景気動向に敏感な業種は株価が冴えない局面が多く、明暗が分かれる結果となった。また、2018年8月に発生したトルコリラショックから波及した新興国通貨の下落局面において、インドルピーは特に厳しい下落となったことが景気減速を想起させる不安材料として重荷となった。こうした経緯を踏まえると、スズキの株価は日経平均株価と比べると依然として景気動向に敏感であると言えよう。

業績の推移

売上高は増加傾向が腰折れ

■売上高の特性
2009年から売上高の増加傾向が続いており、直近の2019年には売上高3.4兆円に到達している。リーマンショック以前にも売上高3.5兆円(2007年)に到達しているが、当時と現在では事業構造が大きく変化している点に注意したい。過去10年間でスズキの事業構造は、①アジア市場の売上高が8468億円(2007年)から1兆6514億円(2019年)へ倍増した点、②二輪事業の売上高が5919億円(2007年)から2425億円(2019年)へと半減した点、などの変化を示した。現在のスズキは売上高の約50%をインド市場に依存するにまで至っており、過去10年間でグローバル企業への進歩を果たした点において異なる。リーマンショック以降のスズキは、アジア市場における四輪事業の成長によって売上高を拡大させることに成功したと見てよい。ただし、①インド市場や為替相場の動向によって売上高が上下変動しやすい事業構造に変化した点、②二輪事業の売上高の衰退が長期的に続いている点、には注意が必要である。

■過去の売上高推移
2016年から2018年の期間において売上高が急増している。この売上高の増加は、①インド市場と日本市場における自動車の販売が好調であった点、②インドルピー相場の円安推移が続いていた点、に起因する。景気回復局面が続いたことで、インド市場における販売が158万台(2016年)から175万台(2018年)にまで増加したことや、日本市場において「スペーシア」や「クロスビー」の拡販が進んだことが売上高に貢献を果たした構図である。しかし、2018年を頂点にスズキの事業環境がやや悪化したことで売上高の急増は続かなかった。2018年末からインド経済の実質GDP成長率が減速して景気停滞局面を迎えた他、米中貿易摩擦による世界的な景気減速懸念が新車販売の逆風となった。更に、2019年末にはCOVID-19の流行による経済停滞が自動車セクターを直撃して売上高の下押し要因となった。初期段階においてはスズキが既に中国市場における新車販売から撤退していたことから影響は軽微と考えられたが、COVID-19がインドにおいて感染拡大したことで対岸の火事ではなくなった。

営業利益は下落するも底堅い

■営業利益の特性
営業利益は793億円(2009年)から3741億円(2017年)のレンジで推移しており、長期的な利益水準の向上が続いている。売上高こそリーマンショック以前にスズキの売上高が3.5兆円規模に到達した時期と大差ないが、当時と現在では利益水準が大きく異なる。営業利益率という観点では、4.2%(2007年)から9.9%(2017年)にまで拡大しており、自動車メーカーとしては良好な水準である。この営業利益の拡大は主にインド市場の成長によって利益水準が向上したことに起因している。実際、スズキのアジア地域の営業利益は561億円(2007年)から1919億円(2017年)へと変化しており、約4倍に拡大している。過去10年間でスズキの四輪事業はアメリカ市場と中国市場から撤退してアジア地域へ注力したが、これが実を結んだ結果である。他の日系自動車メーカーがドル箱とする市場から撤退する経営判断について株式投資家は賛否両論の反応を示したが、実際には利益体質が強化される結果となっている。

■過去の営業利益推移
2017年からは営業利益の増加が失速して下落基調へ転換している。同年以降にスズキの営業利益が失速した原因は、①2018年末からインド経済が景気停滞局面を迎えて新車販売台数の成長が腰折れした点、②2019年末にCOVID-19の流行による操業影響を被った点、③インドルピー安が長期的に継続している点、である。もっとも、これらの逆風が重複した2020年第1四半期においてもスズキは強靭な利益体質を発揮して純損失に転落していない。なお、日本市場で発覚した完成検査問題への対処費用が利益水準の重荷となっている点も忘れてはならない。2018年には完成検査問題への対策費用として約800億円の特別損失を計上した他、2019年から2024年までの5年間で1700億円規模の再発防止投資を遂行している。

売上高の構成

四輪事業(90%)

■事業内容
四輪事業には、自動車および自動車部品の製造販売が含まれる。代表的な車種としては、軽自動車の「アルト」「ワゴンR」「スペーシア」の他、普通車の「スイフト」「バレーノ」「ソリオ」などがある。伝統的に軽自動車を得意としてきた自動車メーカーであるが、近年は世界展開を見据えた普通車のラインナップの強化にも熱心である。スズキは年間300万台規模の自動車を製造販売する世界的な自動車メーカーであるが、世界販売台数の85%が日本市場およびインド市場に集中する特色がある。インド市場ではシェア50%以上を掌握するトップ企業の地位を占める反面、欧州市場やアジア市場におけるシェアは低い。実際、スズキの世界販売の約50%はインド市場に集中しており、同国の自動車市場の動向に業績を良くも悪くも左右されやすい。また、スズキは新興国市場と軽自動車に経営資源を集中してきた事情から自動運転技術や電動化技術においては後れをとっており、この点を補完する為に2019年にはトヨタ自動車との資本業務提携に踏み切った。特に欧州市場では将来的な環境規制に対応しきれないことから、トヨタ自動車の「RAV4」の供給を受けて規制対応を進める状況にある。なお、四輪事業には自動車部品の製造も手掛ける連結子会社のスズキ部品製造が含まれており、駆動系ギア・アルミダイカスト部品・エンジン部品などを自社製造している。

■過去の売上高分析
四輪事業の売上高は2.2兆円(2011年)から3.5兆円(2019年)のレンジで推移しており、2011年からは増加傾向が続いている。四輪事業の売上高は景気循環に連動する推移を描きやすく、リーマンショック後の景気後退局面においては2.8兆円(2007年)から2.2兆円(2011年)にまでの減少を強いられる反面、世界的な景気回復局面が到来した後には2.6兆円(2013年)から3.5兆円(2018年)まで増加している。景気動向に業績を左右されやすい点は他の自動車メーカーと同様であるが、スズキの四輪事業の売上高はスズキの世界販売台数の約50%が集中するインド市場における販売動向に左右されやすい点に特色がある。インド市場における販売台数は100万台(2011年)から185万台(2018年)にまで増加しており、所得増加による販売価格の増加も相まって四輪事業の売上高の成長に大きく貢献している。2017年にはインドの新車需要が過去最高となる414万台に到達したことを追い風として、売上高を3.7兆円(前年比21%増)にまで急拡大させた。ただし、為替相場の影響が不可避であることからインドルピー安が進展すると業績が下押しされやすく、2015年以降はルピー安が長期的に継続していることから販売台数の増加の割には売上高が伸び悩んでいる。

■将来の売上高予測
減少を見込む。スズキの世界販売台数の約50%が集中するインド市場においてCOVID-19の感染拡大が急激に拡大した点が痛い。直近では、①インド政府に操業停止を指示されたことで2020年4月のインド市場における販売台数が0台という歴史的事態に陥った点、②インドルピー安による為替効果が重荷となる点、など悲観的な要因が多い。実際、2020年第1四半期におけるインド市場を担うマルチスズキの売上高は前年比▲80%の減少に見舞われる事態となっている。幸い、インド市場に次ぐ重要市場である日本市場においては然程の混乱が発生していないとはいえ、消費マインドの低迷による下方圧力は根強い。ただし、目先の業績不振が見込まれるとはいえ、長期的なスズキの四輪事業の成長性は依然として失われていない。2030年にインド市場は新車販売台数1000万台に到達すると見込まれ、現在のシェア50%水準を維持した場合にはスズキは世界販売台数700万台規模にまで拡大する計算となる。インド市場に依存するが故の不安定さを抱えつつも、長期的な売上高の成長が期待できるだろう。

二輪事業(7%)

■事業内容
二輪事業には、バイク・スクーター・電動自転車の製造販売が含まれる。小型バイクから競技用バイクに至るまでの幅広いラインナップを有しており、趣味用途から日常用途にまで対応できる二輪車メーカーである。伝統的に廉価バイクの生産を得意とするが、マニアックなファンに評価されるバイクを生み出してきた歴史があることから総合的な評価は高い。モータースポーツにも熱心であり、1974年からロードレース世界選手権への参戦を継続することで培った技術を製品開発に応用している。スズキは年間170万台規模の自動車を製造販売する世界的な二輪車メーカーであり、ホンダ・ヤマハ発動機・川崎重工業と並んで世界第3位の地位を占める。スズキの二輪車の世界販売台数の85%はアジア地域に集中しており、先進国市場における販売は限定的である。意外にもインド市場ではシェア2%に留まる苦戦を強いられており、ホンダがシェア30%を掌握して勢力を拡大する状況である。

■過去の売上高分析
二輪事業の売上高は2062億円(2016年)から5919億円(2007年)のレンジで推移しているが、過去10年間で売上高の縮小が続いている。スズキのバイク販売台数は下落基調が継続しており、334万台(2007年)から172万台(2019年)にまで減少している。更に、日本市場などの先進国市場における販売台数は一貫して減少傾向であり、嗜好性が高く単価の高いバイクの販売台数が落ち込んでいる点も打撃となっている。世界のバイク需要はアジア地域の経済成長を追い風に成長傾向が続いており、同期間において本田技研工業のバイク販売台数が1347万台(2007年)から1934万台にまで増加したことを踏まえると、スズキの二輪事業の苦戦が際立つ。スズキは二輪事業の衰退に歯止めを掛けるべく、中期経営計画「SUZUKI NEXT 100」において、①スズキらしさを明確にした製品開発、②基本性能である「走る・曲がる・止まる」への原点回帰、③低価格帯から中~高価格帯へのシフト、を掲げたが、売上高の低迷から脱却するには至っていない。

■将来の売上高予測
減少を見込む。バイク販売台数の約80%を依存するアジア地域におけるCOVID-19の流行による影響が不可避である。四輪事業とは異なり販売台数がインド市場に偏っていないとはいえ、アジア地域におけるCOVID-19の流行による経済停滞の影響が直撃しており、生産から販売までのプロセスが混乱している。各国によって感染拡大の程度は異なるものの、景気後退局面に脆弱な新興国市場の弱点が浮き彫りになりかねない状況であり、2020年第1四半期に前年同期比▲39.8%にまで落ち込んだ販売台数が回復に至るまでの時間が見通せない点が手痛い。強いて言えば、2020年第1四半期においてCOVID-19の流行抑制で先行した中国市場における販売台数が前年同期比で増加したが、中国市場はスズキの二輪販売台数の約20%を占めるに過ぎない為、アジア市場全体の落ち込みを相殺する程の効果はまったく望めない。

マリン事業(3%)

■事業内容
マリン事業には、船外機・ボート・電動車椅子・住宅の製造販売が含まれる。船外機は自動車用エンジンの技術を応用した製品であり、スズキは1965年に船外機の生産を開始してから実に半世紀以上に渡って生産を継続している。スズキは船外機において本田技研工業と米マーキュリーに次いで世界第3位の地位を占めており、業界における存在感は強い。ブランドスローガンの「THE ULTIMATE4-STROKE OUTBOARD」に見られるように、大型4ストローク船外機に特に強みがあり、アメリカ市場において高いシェアを獲得している。現在では船外機から発展してボートの製造販売を手掛けており、フィッシングボートなどの小型ボートを中心としたラインナップを有している。なお、マリン事業の製品はスズキが製造して連結子会社のスズキマリンが販売を担う。スズキマリンは1974年に鈴木自動車工業特機部が独立した企業であり、現在ではマリン事業の営業機能を統括している。この他にも、マリン事業には電動車椅子や連結子会社のスズキビジネスが展開するスズキホームが含まれており、事業領域が広範に渡る点に特色がある。

■過去の売上高分析
マリン事業の売上高は4531億円(2009年)から8843億円(2019年)のレンジで推移しており、過去10年間で売上高の増加傾向が続いている。スズキのマリン事業の売上高のうちアメリカ市場が高い構成比率を示しており、同国における販売動向に業績が左右されやすい。実際、アメリカ市場をリーマンショックが直撃した時期において、マリン事業の売上高は7655億円(2007年)から4531億円(2009年)にまでの減少を強いられている。船外機の需要には業務用途やレジャー用途などがあるが、スズキの船外機はスポーツフィッシング艇や高速クルーザーなどの娯楽用途に重宝されている背景から、売上高が景気循環に連動しやすい。実際、2013年以降に世界的な景気回復局面が到来すると、旺盛なレジャー需要を追い風に、マリン事業の売上高は5604億円(2013年)から8843億円(2019年)にまで増加している。最近のマリン事業は、アジア市場において船外機の拡販を進めており、インドネシアなどの島嶼地域を中心に正規ディーラーを進出させるなどの積極攻勢を示している。

■将来の売上高予測
微減を見込む。アメリカ市場のレジャー用途に依存するマリン事業の性質から景気後退局面における販売減少は不可避であるが、他事業に比べると相対的に落ち込みは軽度である。2020年第1四半期における売上高は前年同期比▲7.7%の減少に留まっており、売上高が半減した四輪事業と二輪事業と比べると底堅い推移となっている。マリン事業の主要市場のアメリカ市場においてCOVID-19の感染拡大が急速に進む中で船外機の販売の落ち込みが限定的であった点は驚異的である。売上高の減少が底堅い理由としては、①レジャー用途に船外機を購入する富裕層がCOVID-19の流行による生活不安が軽微である点、②2019年末に生産開始した「DF300B」の販売好調による点、③船外機の需要が大きい沿岸部の地方都市ではCOVID-19の感染拡大が限定的であった点、に起因すると推察される。

営業利益の構成

四輪事業(91%)

■過去の営業利益分析
四輪事業の営業利益は690億円(2008年)から3550億円(2018年)のレンジで推移している。スズキの営業利益の特徴は、①リーマンショック後などの景気後退局面において営業黒字を安定的に確保している点、②好調局面では営業利益率10%を上回る利益水準に到達する点、にある。2008年に同業他社が軒並み営業赤字に転落する中で、スズキが営業利益690億円を確保する健闘を示した点は驚異的である。自動車セクターが不振に陥る景気後退局面への耐性が強いのは、①消費マインドの低迷に強い低価格帯の自動車に強い点、②日本市場とインド市場に販売が集中していることで欧米地域の金融危機への耐性が強い点、に起因している。2017年には営業利益3550億円を確保して。ただし、世界販売台数の約50%を依存する稼ぎ頭のインド市場が新興国市場ゆえの不安定さを抱えている点には注意したい。新興国市場は政治動向や為替動向が安定せず、先進国では考え難い変化が起こる。例えば、①インド政府が高額紙幣の廃止を突如宣言して現金決済による自動車の購入が冷え込む(2017年)、②税制改革でハイブリッド自動車の税率が突然冷遇される(2017年)、③経常赤字を懸念したインドルピーの急激な下落で利益水準が圧迫される(2018年)、④COVID-19が医療の未発達によって10万人/日のペースで感染爆発する(2020年)、など、インド市場の極端な変化は枚挙に暇がない。幸い、スズキはインド市場における卓越した知見によって営業黒字を維持しているが、新興国市場への依存度が高いことによる事業運営の難しさには留意したい。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による世界的な新車販売台数の急減によって、2020年第1四半期における四輪事業は営業利益0億円にまで急落した。長年に渡って利益水準の拡大に貢献してきたインド市場では操業停止が続いたことで営業損失236億円に転落したが、日本市場などの営業利益が損失を補って損益ゼロの水準を維持した構図である。2020年第2四半期には販売がやや持ち直しているとはいえ、世界的な景気後退局面が新車販売にとって重荷となっている状況は変わりなく、営業利益の縮小は不可避である。もっとも、世界的な販売停滞と操業停止に見舞われた2020年第1四半期に営業損失に転落しなかったことは株式投資家にとって驚きであった。これほど事業環境が厳しい状況において営業利益を確保できる公算が高い点は、スズキの利益体質の強靭さを示した実例として評価されよう。

二輪事業(3%)

■過去の営業利益分析
二輪事業の営業利益は▲210億円(2009年)から225億円(2007年)のレンジで推移しており、利益水準の不安定さが目立つ。リーマンショックによる景気後退局面において売上高が縮小して以降、二輪事業は慢性的な赤字体質が定着した経緯がある。2008年から2012年の期間においては、一貫して営業赤字が継続しており、同期間の営業損失は累計▲526億円に及ぶ。スズキの二輪事業が赤字体質に陥った原因には、①アジア地域の新興国に販売が集中していることで新興国通貨安が利益水準を直撃する点、②先進国における中~高価格帯の販売台数が縮小している点、③バイクにおいてブランドの芯が曖昧だった点、に起因している。二輪事業の利益水準が低迷した理由は、短期的には経済環境による部分があるが、長期的には製品開発とブランド戦略の失敗に起因していると見てよい。ただし、最近の二輪事業は中期経営計画「SUZUKI NEXT 100」における戦略が奏功して利益体質は改善しており、2017年には営業利益46億円を確保している。同年以降は営業黒字を危うい水準ながらも継続的に確保する状況が続いていることから最悪期は脱したと見る向きもある。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。売上高の減少幅は四輪事業ほど深刻ではないが、元々の利益水準が低迷していることから営業損失への転落を見込む。2020年第1四半期の販売状況を見ると、①利鞘の大きい欧州市場における販売台数が前年同期比▲52.4%の減少となった点、②売上高の増加に貢献してきたインド市場における販売台数が前年同期比▲82.1%の減少となった点、などが痛手である。特にインド市場は売上高の衰退に悩まされる二輪事業にとって販売台数を確保できる有望市場であったことから、利益体質に及ぼす打撃は大きい。もっとも、二輪事業の事業規模は過去10年間でかなり衰退しており、多少の営業損失を計上したところでスズキの業績への影響は少ない。

マリン事業(8%)

■過去の営業利益分析
マリン事業の営業利益は53億円(2009年)から172億円(2019年)のレンジで推移しており、景気後退局面を含めて営業利益を安定的に確保している。マリン事業の売上高の大半がアメリカ市場に依存する関係から、同国の販売動向に利益水準が左右されやすい。過去の推移を観察すると、2008年から2012年に期間において営業利益60億円規模での低迷が続いている。この営業利益の低迷は、①リーマンショックに端を発した景気後退局面でアメリカ市場における船外機需要が低迷した点、②1ドル100円未満の円高推移による為替効果が重荷となった点、に起因している。2013年以降に世界的な景気回復局面が到来すると営業利益120億円以上の水準が定着しており、直近の2019年には営業利益172億円に到達している。この営業利益の拡大は、①欧米市場における旺盛なレジャー需要によって採算が良い大型4ストローク船外機の拡販が進んだ点、②主要通貨に対して円安推移が継続した点、に起因している。マリン事業の利益水準はアメリカ市場の需要動向と為替動向に素直に連動すると見てよいだろう。

■将来の営業利益予測
横ばいを見込む。マリン事業はCOVID-19の流行による打撃が特に軽微であり、新製品の投入効果を加味すれば営業利益を横ばいで維持できる公算が高い。2020年第1四半期のマリン事業は売上高が前年同期比▲7.7%と軽微であり、営業利益43億円を確保することに成功している。2020年10月には4ストローク船外機で電子スロットル&シフトを世界初採用した新型船外機が発売される見通しであり、新製品の投入効果を加味すると営業利益を前年並みに維持できる公算が高い。主力事業が業績悪化に見舞われた局面において営業利益を着実に確保して業績維持に貢献した点は評価できるだろう。

財務の健全性

手元資金はやや多めの水準

■手元資金の特性
手元資金は2014年以降はやや減少傾向にあるが、過去10年間に渡って4000億円以上の水準で推移している。売上高が年間3.5兆円規模と考えると手元資金としては3000億円が目安となる為、やや多めの水準である。手元資金が1兆円に迫る時期もあることから、手元資金の確保に積極的と見てよい。自動車セクターは景気後退局面に業績不振に陥りやすいことから手元資金を厚く確保すべきではあるが、リーマンショック後の景気後退局面においても純損失に転落しなかったスズキが手元資金を厚く確保する必要があるかはやや疑問である。スズキは廉価な小型車の製造販売が主力であることから、他の自動車メーカーよりも景気後退局面における消費マインドの低迷に強く、景気循環による極端な落ち込みが起こる可能性は低い筈である。

■過去の手元資金分析
2014年に手元資金が急増して9322億円に到達している。この手元資金の増加は、①長期借入金による資金調達で財務キャッシュフローが817億円の増加となった点、②インド市場の成長による四輪事業の好調による営業キャッシュフローの増加、に起因している。もっとも、翌年には後述する独フォルクスワーゲングループとの資本提携の解除に伴う自社株買いに総額4700億円を投じたことで手元資金は急減している。2013年の時点で長期借入金による資金調達をするまでもない潤沢な手元資金を持ち合わせていた点を考慮すれば、独フォルクスワーゲングループとの資本提携の解除を見越して事前に手元資金を補充したと見る向きもあるだろう。もっとも、独フォルクスワーゲングループとの紆余曲折を経た後にも手元資金4000億円以上の水準を維持していることから、財務健全性に問題はない。

自己資本比率は業界上位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は株式上場から増加傾向が続いており、直近では44.5%に到達している。同業他社と比較すると、トヨタ自動車39.0%・日産自動車23.9%・本田技研工業39.2%・SUBARU52.0%・三菱自動車工業39.9%となっており、業界上位の水準である。自動車メーカーは巨額の投資資金を借入金で賄うことが多い背景から自己資本比率が停滞しやすい傾向があるが、スズキの自己資本比率は業界の優良児であるSUBARUに次ぐ高水準を維持している。自動車セクターは景気後退局面に業績不振に陥りやすいことから自己資本比率を厚く確保すべきではあるが、リーマンショック後の景気後退局面においても純損失に転落しなかったスズキが自己資本比率をここまで厚く確保する必要があるかはやや疑問である。強いて言えば、インド市場への依存度が高い特殊な事業構造を踏まえて、新興国市場ならではの予期せぬ混乱に備える意義はあるが、それにしても高い水準である。

■過去の自己資本比率分析
2015年に自己資本比率が急落している。スズキの自己資本比率は45.6%(2014年)から35.4%(2015年)へと減少したが、これは独フォルクスワーゲングループとの資本提携の解除に伴う自社株買いに起因している。2009年に資本提携に合意して以来、フォルクスワーゲングループはスズキの発行済株式総数の約19.9%を保有していたが、2015年に決別した経緯がある。これはスズキの意思に反して対等なパートナー関係が構築されなかったことに起因するが、資本提携の解除に伴い、独フォルクスワーゲングループが保有するスズキ株を総額4700億円を投じて買い戻した。その結果、貸借対照表に自己株式▲1911億円が計上されて自己資本比率が低落した。表面的には自己資本比率が低落したとはいえ、大量のスズキ株が売却されることで株価に影響が及ばない様に自社株買いを実行した結果である。更に、2016年にはフォルクスワーゲングループから取得した株式の約60%を消却して株主還元としている点を加味すれば、スズキの資本提携の解除に関わる対応は高く評価されるべきであろう。

株価の割安感

BPSは増加傾向が安定的に継続

■BPSの特性
BPSは2008年以降は右肩上がりで推移しており、安定的な増加傾向が継続している。スズキは過去10年以上に渡って安定的に純利益を確保したことで利益剰余金の蓄積が進んでおり、BPSは安定的に拡大している。スズキは印マルチスズキなどの在外子会社への投資額が大きい為、在外子会社の評価額が減少する円高局面では純資産が減少しやすい。実際、2015年以降はインドルピー安が急激に進展したことで為替換算調整勘定が▲2552億円(2019年)にまで低落しており、純資産を圧迫している。幸い、純利益を安定的に確保したことで為替換算調整勘定による純資産の減少がBPSを毀損していることが表面化はしていないが、為替効果によってBPSの増加が減速している点には注意したい。

■過去のBPS分析
2015年にBPSが急落している。スズキのBPSは2641%(2014年)から2170円(2015年)へと減少したが、これは独フォルクスワーゲングループとの資本提携の解除に伴う自社株買いに起因している。資本提携の解除に伴い、独フォルクスワーゲングループが保有するスズキ株を総額4700億円を投じて買い戻した。その結果、貸借対照表に自己株式▲1911億円が計上されて純資産が低落したことでBPSが減少した構図である。もっとも、2016年以降にスズキの利益水準が急速に向上したことでBPSは早々に急落以前の水準を回復しており、2018年にはBPSが3000円台に到達している。インドルピー安の進行による為替効果がBPSの重荷となる中でも、BPSを早々に回復させた点は評価できるだろう。

PBRは同業他社の水準を上回る

■PBRの特性
PBRは長期的に0.84倍(2019年)から1.95倍(2017年)のレンジで推移しており、2019年を除けばPBR1.0倍を上回る水準が定着している。自動車メーカーの同業他社がPBR1.0倍を下回る水準が定着していることを思えば、スズキのPBRは依然として高い水準にあると見てよい。スズキのPBRが高い理由は、①リーマンショック後にも純損失に陥らない堅固な利益体質によってBPSが増加することが織り込まれている点、②インド市場の拡大に後押しされた業績拡大が将来的に継続すると見込まれる点、に起因している。特に、スズキがシェア50%を掌握するインド市場が2030年に新車販売台数1000万台に到達するという分かりやすい成長ストーリーは株式投資家から評価されやすく、PBRを高止まりさせる要因となっている。仮に、予測通りにインド市場が拡大を継続した上でスズキが現在のシェア50%水準を維持した場合、スズキは世界販売台数700万台規模にまで拡大する。実際にスズキがインド市場に卓越した知見を有する点を加味すれば、あながち過大評価ではないだろう。

■過去のPBR分析
2019年にPBR0.98倍にまで急落している点が目につく。このPBRの低落は、COVID-19の流行によってスズキの株価が急落した点に起因する。COVID-19の流行が自動車セクターの業績に絶大な影響を及ぼしたことでスズキの株価は急落するに至った。特にインドにおけるCOVID-19の流行は凄まじく、医療の未発達によって10万人/日のペースで感染爆発する事態となった。スズキはインド政府の操業停止の指示に従い、2020年4月のインド市場における販売台数が0台という歴史的事態に陥り、これを嫌気した株安が進展した。更に、インドルピー安が急激に進展したことで株式投資家は利益水準を下押しする懸念を抱いたことが株安を誘発した。しかし、スズキが逆境に屈せず2020年第1四半期に黒字確保したことで株価は早々に持ち直しており、PBR1.0倍未満の水準はごく短期間で脱却している。

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は業績連動型である。スズキは配当政策として「中期経営計画『SUZUKI NEXT 100』において成長投資を優先することから配当性向目標を15%以上とする」を掲げており、実際に配当金は配当政策に従って推移している。もっとも、必ずしも業績に連動するとも限らず、2017年以降に利益水準が低下した際には配当水準を据え置いており、配当金を情勢に応じて調整する柔軟性はある。スズキは配当性向目標を安易に引き上げない理由として、①インドなど成長市場への投資、②環境技術と安全技術の研究開発への投資、③完成検査不正再発防止策の実施、を掲げている。スズキの主力事業の成長余地が未だ大きい点を踏まえれば、株主還元よりも事業成長を優先するのは当然であろう。

■過去の配当金分析
配当金の増加傾向が長期的に継続しているが、特に2017年の配当金の急増が顕著である。この配当利回りの増加は、インド市場の需要活況によって過去最高となる純利益2157億円に到達したことに起因している。配当金こそ年間74円にまで急増したとはいえ、配当性向は従来と大差ない約12%に留まっており、事業成長を優先した配当性向である点には変わりない。ただし、2018年以降はインドルピー安によって利益水準が低下しているにも関わらず、配当金が据え置かれている点に注意が必要である。利益水準の低下に反して配当金を維持した結果、2018年以降は配当性向は20%を上回る水準となっている。2019年には創立100周年記念配当11円を加えて年間85円まで増配しており、株主還元を重視する姿勢を示しつつある。

配当利回りは過去最高水準に急伸

■配当利回りの特性
配当利回りは0.52%(2007年)から2.99%(2019年)のレンジで推移しており、配当利回りの増加傾向が長期的に続いている。この配当利回りの上昇は、①スズキの利益水準の上昇傾向が続いた点、②スズキが株主還元の姿勢を強めた点、に起因している。過去のスズキは配当水準の向上について、「新興国を中心とした海外生産工場への依存度が高く、為替変動にも左右されやすい構造であり、当社の体力をより強化して不測の事態に備えることが重要」として消極的であった。しかし、2018年以降は配当性向20%以上の水準にまで配当水準を拡充しており、これが配当利回りの上昇に貢献している。スズキは株主優待として、「静岡茶2本セット(80gリーフタイプ及び60gティーバッグ)」、を配布している。内容量が少量であることから特段の実益はないが、美味な静岡茶を味わえる点は嬉しい。

■過去の配当利回り分析
2017年以降の配当利回りの上昇が顕著である。2017年以前は配当利回り1%未満での推移が定着していたが、2017年以降に上昇傾向が顕著となった結果、直近では配当利回り3.04%(2019年)に到達している。この配当利回りの上昇はスズキの利益水準の拡大によるものであり、株主還元を特段に強化した結果ではない。強いて言えば、2017年以降に業績減退が続く中でも減配を回避したことが配当利回りの維持に貢献した側面はあるが、同業他社と比較して配当性向が低いことには変わりない。配当性向を抑制しながらも利益水準の拡大によって配当利回りが上昇している点を踏まえると、配当利回りの上昇は健全である。

総合評価

目標株価

4750円

COVID-19の流行による株安局面の初期においては株価3000円を大きく割り込む局面があったが、2020年第1四半期に営業利益を確保したことから株価は大幅反発を遂げている。当面は景気後退局面における業績停滞に直面する公算が高いとはいえ、長期的な目線に立てばインド市場の成長に支えられた業績拡大が期待できる点は依然として変わりない。長期的な成長性が株式市場に織り込まれていることから株価はやや割高圏で推移しているとはいえ、過去の株価水準に照らしても妥当な水準である。2021年第1四半期にインド経済の回復局面が到来するとの想定に立てば、この程度の株価水準までは投資妙味があるか。

投資判断

強気

スズキの投資判断を語るにあたっては、①将来的にインド市場が新車販売台数1000万台規模の巨大市場に到達する公算が高い点、②インド新車市場が成長した場合に同市場においてシェア50%を掌握するスズキが特に恩恵を享受する点、を踏まえる必要がある。実際、インド市場は過去20年間で80万台(2000年)から401万台(2019年)にまで拡大する成長ぶりを示しており、スズキの将来的な成長の確度は高い。単なる新車販売台数の増加に留まらず、経済成長に伴う所得増加が台当たり単価を伸ばすことで将来的には廉価モデルに留まらない拡販が期待できるだろう。現地におけるスズキの競争力はシェア50%という実績から明らかであり、インド市場へのスズキの知見は同業他社の追随を許さない。強いて言えば、インド市場への依存度が極めて高いが故に同市場とは一蓮托生の関係にあり、新興国市場ならではの不安定さがリスクではある。しかし、COVID-19の流行によってインド市場の売上高が前年同期比▲83%にまで急落した2020年第1四半期においてもスズキは純損失に転落せず黒字確保する健闘を示した。インド市場の失速を日本市場とマリン事業が補った構図ではあるが、スズキの事業構造において最大のリスクであったインド市場の失速による打撃をここまで押し留めた点は株式投資家の多くを驚かせた。昨今の自動車業界において、長期的な成長性の高さと景気後退局面における業績の底堅さを兼ね備えるスズキが一目置かれるのは当然だろう。スズキへの投資判断にあたっては、インド市場の景気後退による目先の業績停滞を加味しつつ、COVID-19の流行による影響を同業他社と比べて軽微に押し留めた点を評価して、強気に設定した。