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企業レポート

マツダ(7261)の分析|利益低迷と電動化シフトへの突破口が不在

基本情報

マツダ(7261)は、広島県府中町に本社を置く自動車メーカーである。源流企業は1920年に設立された東洋コルク工業であり、当初は圧搾コルク板を主力製品としていた。1930年代には日本製鋼所の下請企業として軍需物資を生産した他、機械生産の技術力を活用して自動車事業への進出を模索していた。実際に自動車事業に進出を果たしたのは戦後であったが、1962年に発売した「キャロル360」は大ヒット商品となり、トヨタ自動車と日産自動車を超えて新車販売台数が国内首位を占める時期もあった。しかし、1970年代にはオイルショックによる販売不振で重度の経営危機に陥り、紆余曲折を経て1978年から米フォードと資本提携を締結するに至った。その後は米フォード傘下で自主路線を歩んだが、1990年代にバブル景気の崩壊で再び経営危機に陥ると、米フォードから派遣されたヘンリー・ウォレスの下で経営再建に邁進した。2000年代には「デミオ」「アクセラ」「アテンザ」などのヒットモデルが生み出されたことで販売規模が拡大したが、リーマンショックによって米フォードが経営不振に陥ると同社の関与が薄まったことで、再び自主路線へと回帰することとなった。2010年以降はボディ・ドライブトレイン・シャーシを統合設計する「スカイアクティブ」と生命感あふれる「魂動デザイン」を武器にSUV分野で積極攻勢を強め、「CX-3」「CX-5」「CX-8」などの車種をヒットさせた。2015年には米フォードが保有する株式をすべて売却したことで長年に渡る同社との関係が解消され、2017年にはトヨタ自動車との資本提携を締結している。

目次

株価の推移

株価は2012年以来の水準に回帰

■株価の特性
2007年から2019年の期間において、マツダの株価は425円から3271円のレンジで推移している。とはいえ、2014年に記録した株価3171円を頂点に株価下落が続いており、直近では経営危機に陥っていた2012年前後の水準にまで下落している。本来、自動車セクターは景気動向に業績が左右されやすい事情から、株価が景気循環に追従しやすい。しかし、2013年以降の世界的な景気回復局面において、マツダの株価はアベノミクスの初動を除けば株価は振るわない状況が続いている。これは、①2015年をピークにマツダの利益水準の下落が続いている点、②自動車業界の電動化シフトに対応する技術を持たない懸念が噴出している点、に起因している。実際のマツダの業績と財務体質は、2012年前後の水準と比べれば遥かに健全な水準を維持しているとはいえ、マツダの将来性へ株式投資家の大半が疑念を抱いている点には変わりない。少なくとも、利益水準の回復あるいは電動化シフトへの対応に何らかの光明が見えない限り、株価水準の回復は難しいだろう

■過去の株価推移
2013年における株価上昇が顕著である。2012年9月の時点では景気低迷と円高圧力によって株価450円前後で推移していたが、2012年12月に第二次安倍内閣の発足を契機に円安局面と株高局面が同時に到来すると株価上昇が急激に進んで2013年12月には株価2720円に到達した。この株価上昇は相場環境の好転だけに支えられたものではなく、①構造改革の成果となる新型車が続々とヒットしたことが評価された点、②1ドル100円前後まで円安が進行したことで業績の上振れが期待された点、などの要因に支えられていた。同時期のマツダは円安局面と業績再建が重なったことで利益水準が急激な改善を示しており、営業利益は前年比238%の増加、純利益は前年比296%の増加となった。これらの構造改革の成功と事業環境の改善によって、株式投資家からの評価が改善したことが同時期の株価上昇に貢献したと見てよいだろう。

日経平均株価との相関性は低い

■日経平均株価との相関性
マツダは日経平均株価の構成銘柄である。マツダの株価と日経平均株価の相関性は低い(2007年4月から2020年3月の相関係数:0.33)。マツダは景気循環に業績が連動しやすい自動車セクターに属することから、景気循環的な推移を描きやすい日経平均株価との相関性が高くなりやすいが、実際には相関性が低い推移を描いている。アベノミクス以降の日経平均株価が右肩上がりの推移を描いた反面、マツダの株価は2014年以降から低迷が続くことから相関性が低くなった事情がある。この株価下落は、①マツダの利益水準が2015年から悪化傾向に転じた点、②独フォルクスワーゲングループのディーゼル排ガス不正によってマツダが得意としたクリーンディーゼル技術が衰退した点、に起因している。特に2017年以降には自動車業界でCASEシフトが叫ばれたことで、CASE技術を持たないマツダへの期待が急速に剥落したことが株価低落を招いた。最近の日経平均株価は一部のエクセレントカンパニーの株価に牽引される性質が強く、最近ではマツダの株価との相関性が低迷する状況が続いている。

■過去の日経平均株価との相関性
2016年以降は日経平均株価の堅調な推移を描く局面においてマツダの株価が下落する状況が常態化している。これは、①最近の日経平均株価が指数寄与度の大きいエクセレントカンパニーの株価に牽引される性質を強めている点、②マツダの業績が景気回復局面においても振るわない点、③為替レートが円高基調に陥ることが増えた点、に起因している。とりわけ、2018年以降には米中貿易摩擦の激化などで景気減速への懸念が高まったことで円高基調が強まっており、マツダの株価下落が誘発されている。反面、日経平均株価を牽引するエクセレントカンパニーの株価は景気後退局面においても底堅い推移を描き続けており、日経平均株価との相関性を低下させる一因となっている。

業績の推移

売上高は2007年の水準で頭打ち

■売上高の特性
マツダの売上高は2.16兆円(2009年)から3.56兆円(2018年)のレンジで推移している。リーマンショックによって経営危機に陥る以前の売上高が3.47億円(2007年)であったことを踏まえれば、過去10年間を経て経営危機に陥る以前の水準まで回復を果たした構図である。マツダの新車販売台数は136万台(2007年)から141万台(2019年)へとやや増加しているとはいえ、世界的な景気回復局面において販売台数を大きく拡大させた同業他社と比べると見劣りする。とはいえ、現在のマツダが販売台数よりも利益体質を重視した戦略を採っていることを踏まえれば、売上高が必ずしも増加する必要はない事情がある。実際、販売台数を追わない戦略によって、日本市場・米国市場・欧州市場などの先進国市場における売上高は停滞している。例えば、日本市場におけるマツダの新車販売台数は25.6万台(2007年)から20.2万台(2019年)へと減少しており、これによって売上高は1.28兆円(2007年)から1.03兆円(2019年)に減少した。唯一、その他市場における売上高は3394億円(2007年)から5228億円(2019年)まで増加しているが、これは新興国の経済成長による新車需要に拡大に支えられた側面が強い。自動車関連事業の売上高の約70%は海外市場によるものであることから為替動向には影響を受けやすい点には注意を要する。

■過去の売上高推移
2007年から2011年の期間において、売上高が3.47兆円(2007年)から2.03兆円(2011年)にまで急落している。同期間における売上高の減少はリーマンショックに端を発した景気後退局面における事業環境の悪化に起因している。この売上高の減少は、①販売台数が136万台(2007年)から124万台(2011年)の減少となった点、②為替レートが114円/ドル(2007年)から83円/ドル(2011円)まで円高に振れた点、に起因している。特に為替レートが極端な円高水準で推移したことは海外売上高比率が約70%を占めるマツダにとっては打撃であり、売上高が極端に落ち込む要因として作用し続けた。もっとも、2012年になると構造改革の成果となる新型車「CX-5」「アテンザ」が投入されたことで売上高は2.03兆円(2011年)から2.25兆円(2012年)まで増加しており、円高環境の中でも一定の検討を果たした。更に翌年の2013年には新型車の販売好調とアベノミクス以降の円安局面が重なったことで、売上高の低迷から脱出することに成功している。最近のマツダは販売台数の増加に反して売上高3.5兆円規模で頭打ちとなっているが、これは為替レートがやや円高基調であることに起因している。景気後退局面には消費マインドの低迷による業績不調と為替レートの円高局面が重なりやすい為、売上高が急激な低迷を起こしやすい点には注意を要するだろう

営業利益は2015年以降は悪化傾向

■営業利益の特性
営業利益は▲194億円(2008年)から1121億円(2013年)のレンジで推移しており上下変動が激しいが、2013年以降は営業利益の減少が続いている。マツダの利益水準は良くも悪くも上下変動が極端になりやすいが、これは、①同業他社と比べて経営資源が限られることから新車開発の失敗が許されない点、②海外市場への依存度が高いことから為替動向の影響を受けやすい点、に起因している。自動車メーカーとしては中堅規模であるマツダは限られた経営資源で事業環境の変化に対応する必要があるが、国内生産が大半を占める事業構造が災いして為替レートへの耐性は低い。こうした事情から、マツダに安定的な利益水準を期待すること自体が難しく、株式投資家は業績の浮き沈みを見越した行動が求められると見てよい。過去10年間に限らず、マツダの歴史は業績好調と業績不振を繰り返しており、利益水準の不安定さは歴史的な裏付けが明確にあると言えよう。

■過去の営業利益推移
2015年からは営業利益の増加が失速して下落基調へ転換している。この営業利益の減少は、①為替レートが円高推移に転換した点、②米中貿易摩擦に端を発した景気減速による新車需要の停滞、③北米市場における販売ネットワーク再編と新工場設置が重荷となった点、に起因している。ここでも為替影響による減益効果が利益水準を低迷させる最大の要因となっており、2015年から2019年の期間における為替影響の減益効果は累計2115億円にも及ぶ。最近のマツダは北米市場における販売効率の底上げに注力しており、2019年には同市場における販売台数が前年比8%の増加となるなど一定の成果を収めたが、こうした経営努力の大半が為替効果によって相殺される状況にあると見てよい。もっとも、リーマンショック後の経営危機の時期と比れば、①新型車は販売好調を維持していることからブランド価値は毀損していない点、②為替レートが景気後退局面にありながら極端な円高推移に陥っていない点、は救いである。

売上高の構成

自動車関連事業(100%)

■事業内容
自動車関連事業には、自動車および自動車部品の製造販売が含まれる。代表的な車種としては、SUVの「CX-3」「CX-5」「CX-8」の他、「MAZDA2」「MAZDA3」「MAZDA6」などがある。2000年代には販売台数を維持するための値引販売によってブランド価値が低迷する状況に陥っていたが、2010年以降はボディ・ドライブトレイン・シャーシを統合設計する「スカイアクティブ」と生命感あふれる「魂動デザイン」によって独自のファン層を獲得することに成功した。現在のマツダは「世界シェア2%」を戦略として掲げており、販売台数を追わずに独自のファン層に愛されるブランドを目指すことで利益体質を改善させてきた。かつては軽自動車から商用車に至るまでのフルラインナップを自社生産していたが、競合他社よりも規模で劣るマツダがフルラインナップを自社開発することには無理があるとして、選択と集中を進めてきた経緯がある。現在のマツダは得意とするセダン・SUV・ハッチバックに開発資源を集中させ、軽自動車・商用車の自社生産からは既に撤退している。マツダは世界130ヶ国以上に進出を果たしたグローバル企業であるが、国内生産比率が約68%を占めており、他の日系自動車メーカーと比較すると生産における国内依存度が高い特徴がある。

■過去の売上高分析
自動車関連事業の売上高は2.16兆円(2009年)から3.56兆円(2018年)のレンジで推移している。過去10年間におけるマツダの売上高は3.5兆円規模で頭打ちとなっているが、これは、①「世界シェア2%」戦略によって規模拡大を追わない方針へシフトした点、②為替レートの円安推移が一服した点、に起因している。主要市場の売上高の推移を観察すると、欧州市場と北米市場における売上高の上下変動が激しい。特にリーマンショック以降の景気後退局面においては、①北米市場の売上高は9745億円(2007年)から5683億円(2011年)、②欧州市場の売上高は8726億円(2007年)から3444億円(2011年)、へと半減しており、厳しい推移となった。マツダは北米市場と欧州市場に売上高の約54%を依存している為、これらの市場がリーマンショックで落ち込んだ時期は特に苦しい事業環境であった。マツダは海外売上高の大半を先進国市場に依存しており、他の日系自動車メーカーが業績拡大のドライバーとした中国市場の成長を取り込めていない。中国市場への進出で出遅れた点が、リーマンショック以降のマツダの業績低迷を長期化させたと見る向きもあるだろう。

■将来の売上高予測
減少を見込む。COVID-19の流行によって主力市場の欧州市場と北米市場における新車販売が極端に落ち込んだ点が逆風となる。直近の2020年第1四半期において自動車事業の売上高は前年比▲56%の下落となっており、COVID-19の流行による経済停滞の影響は甚大であった。奇しくも中国市場においては販売台数が前年比で増加に転じたが、マツダの売上高にとって中国市場は重要ではなく、特段の救いにはならなかった。既にCOVID-19の流行による極端な経済停滞は一服したとはいえ、通期で売上高が低迷する点には変わりがないだろう。最近のマツダは売上高3.5兆円規模での推移が続いていたが、COVID-19の流行による影響を加味すれば、2013年以来の売上高3兆円割れに沈む公算が高い。

営業利益の構成

自動車関連事業(100%)

■過去の営業利益分析
自動車関連事業の営業利益は▲387億円(2011年)から2267億円(2015年)のレンジで推移している。リーマンショック後の経営危機の時期には営業損失の計上が連続した反面、2012年以降に構造改革の成果が表面化すると営業利益2000億円を上回る業績好調を謳歌している。2012年から2015年の期間において営業利益が急増しているのは、①為替レートの円安推移が続いていた点、②新型車種の販売好調が続いた点、③ブランド戦略の転換が奏功して台当たりの利益水準が向上した点、に起因している。特に為替レートが利益水準に及ぼす影響は大きく、2012年から2014年の期間における為替影響の増益効果は累計1481億円におよび、マツダの業績好調を支えた。逆に、2015年以降は営業利益が減少に転じたが、これは①為替レートが円高推移に転換した点、②米中貿易摩擦に端を発した景気減速による新車需要の停滞、③北米市場における販売ネットワーク再編と新工場設置が重荷となった点、に起因している。とはいえ、ここでも為替影響による減益効果が利益水準を低迷させた最大要因となっており、2015年から2019年の期間における為替影響の減益効果は累計2115億円にも及ぶ。最近のマツダは北米市場における販売効率の底上げに注力しており、2019年には同市場において販売台数が前年比8%の増加となるなど一定の成果を収めたが、こうした経営努力の大半が為替効果によって相殺される状況にあると見てよい

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による販売台数の急減と為替レートの円高推移が重荷となる。とりわけ、2020年第1四半期には新車販売台数が前年比▲31%の減少に見舞われたことで営業損失453億円を計上する事態に陥っている。もっとも、為替レートの円高局面は1ドル108円前後の水準を維持したことで、マツダが苦手とする為替動向による利益水準の悪化は限定的となった点は幸運であった。マツダは急激な事業環境の変化に対応するべく緊急施策によって固定費を約345億円削減して利益水準の悪化を多少は相殺した。マツダの生産体制は2020年8月から通常体制へ復帰したとはいえ、新車需要の回復に至るまではやや時間を要すると想定されることから、2020年は営業損失400億円規模を計上すると推測される。

財務の健全性

手元資金は潤沢な水準まで増加

■手元資金の特性
手元資金は過去10年間に渡って右肩上がり推移しており、直近では5679億円(2019年)に到達している。売上高が年間3.5兆円規模と考えると手元資金としては2900億円が目安となる為、潤沢な水準である。マツダは自動車メーカーとしては中堅規模であることに加えて、海外市場への依存度が高いことから業績が安定しない為、潤沢な手元資金の確保は企業存続の観点からは必須である。長年に渡って業績好調と業績不振を繰り返してきた歴史的な教訓から手元資金を厚く保有することへの情熱は高い。マツダに限らず、自動車メーカーは事業環境の急激な変化に見舞われて生産能力が過剰となると、固定費の高さが災いしてキャッシュが急激に蒸発することは珍しくない。こうした背景から、マツダの潤沢な手元資金は自己資本比率の高さと相まって、肯定的に評価されることが多い。

■過去の手元資金分析
2011年に手元資金が急増して4773億円に到達している点に着目したい。同年のマツダは純損失1077億円を計上する業績不振に苦しんでいたが、手元資金は前年比1545億円の増加を遂げた。この手元資金の増加は、①公募増資によって約1442億円を調達した点、②有利子負債によって約2275億円を調達した点、に起因している。同年のマツダは巨額の純損失に加えて営業キャッシュフローが赤字という苦しい状況であったが、資金調達を繰り返して構造改革に積極投資を繰り返した。実際、この時期に獲得した資金は、①ボディ・ドライブトレイン・シャーシを統合設計する「スカイアクティブ」技術への投資、②円高局面でのコスト競争力を担うメキシコ工場への投資、など、後のマツダの業績回復を支えていく投資であった。極端な円高局面によって、業績と財務が悪化する状況にありながら、将来的な業績回復の施策を見定めて積極投資した同時期のマツダの慧眼は高く評価されてよい。

自己資本比率は業界上位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率はリーマンショックに端を発した景気後退では22.9%(2008年)にまで下落したが、直近では42.1%に到達している。同業他社と比較すると、トヨタ自動車39.0%・日産自動車23.9%・本田技研工業39.2%・いすゞ自動車44.3%・三菱自動車工業39.9%となっており、業界上位の水準である。自動車メーカーは巨額の投資資金を借入金で賄うことが多い背景から自己資本比率が停滞しやすい傾向があるが、マツダの自己資本比率は高水準を維持している。自動車セクターは景気後退局面に業績不振に陥りやすいことから自己資本比率を厚く確保すべきであり、特にマツダは業績悪化を繰り返してきた歴史から自己資本比率の向上には熱心であり、過去の経営危機における教訓を生かした財務戦略を採っていると見てよいだろう。

■過去の自己資本比率分析
2007年から2012年の期間における純損失が累計2455億円に及んだにも関わらず、自己資本比率の減少が限定的に留まっている。ここで自己資本比率の減少を抑制したのは、2度に渡る公募増資によって約2400億円を調達したことに起因している。2007年から2012年の期間において、マツダは巨額の純損失を計上したことから利益剰余金が▲462億円(2012年)の赤字に転落しており、自己資本比率20%を下回る危機に陥った経緯がある。マツダは公募増資による資金調達で資本金と資本剰余金を厚くすることで自己資本比率の低迷を阻止したが、2009年と2012年の2度に渡る公募増資で株式価値は大いに毀損した。これらの公募増資によって自己資本比率こそ維持されたとはいえ、マツダ株の希薄化率は約40%にも及んだことでマツダの既存株主にとっては保有株式の株式価値が減少する手痛い局面となった

株価の割安感

BPSは増加傾向が頭打ちの兆候

■BPSの特性
BPSは2011年以降は右肩上がりで推移しており、安定的な増加傾向が継続している。マツダは過去10年以上に渡って安定的に純利益を確保したことで利益剰余金の蓄積が進んでおり、BPSは安定的に拡大している。ただし、2017年以降のマツダは利益水準の低迷によってBPSの増加ペースは失速しており、頭打ちの兆候を呈している。マツダは海外拠点などを含む在外子会社への投資額が大きい為、在外子会社の評価額が減少する円高局面では純資産が減少しやすいが、他の日系自動車メーカーと比べると海外への生産拠点の進出は限定的であることから為替変動によるBPSの上下変動は相対的に見れば少ない方である。直近の2019年には円高局面の到来によって為替換算調整勘定が▲482億円(2019年)に低落して純資産を減少させたが、アベノミクス以降の円安局面における為替換算調整勘定▲555億円(2013年)から▲73億円の減少に留まっていることを踏まえると、やはり影響は限定的である。

■過去のBPS分析
2007年から2011年の期間におけるBPSの減少が顕著である。同期間においてマツダのBPSは1955円(2007年)から780円(2011年)へと減少しており、約4年間でBPSが▲60%もの減少に見舞われてい。このBPSの減少は、①同期間に累計2455億円もの純損失を計上した点、②同期間のマツダが2度に渡る公募増資で発行済株式数が約2.12倍に増加した点、に起因している。業績悪化による純損失が純資産を毀損して株式価値が低迷したことに加えて、更に発行済株式数の増加が1株あたりの純資産を希薄化する連鎖に陥っていた構図である。リーマンショック以降の景気後退局面における業績悪化がマツダの純資産に与えた打撃は大きく、特に利益剰余金が1362億円(2007年)から▲887億円(2011年)へと赤字転落したことは純資産を低迷させる要因となった。ちなみに、最近のマツダは利益剰余金を5529億円(2019年)にまで蓄積しており、当時と比べると財務体質は強靭に変化している。

PBRは歴史的な割安圏にまで下落

■PBRの特性
PBRは長期的に0.31倍(2019年)から2.07倍(2013年)のレンジで推移しており、2013年以降のPBRの低落が顕著である。マツダは海外動向と為替動向によってBPSが上下変動しやすいことに加えて、業績好調と業績不振の落差の激しさによって株価が上下変動しやすい。BPSと株価の両方が大きく上下変動することで、PBRがまったく安定しない推移を描きやすい構造となっている。実際、構造改革の成果が表面化した2013年以降にはマツダの株価上昇が急激に進行したことでPBR2.0倍を上回る割高圏に到達した反面、2014年以降に利益水準の頭打ちが進行するとPBR1.0倍を下回る水準にまで低落している。歴史的に見ても、マツダのPBRはまったく安定しないことが明白であり、純利益の計上によってBPSを蓄積したとしても、BPSの増加が株価水準にに素直に反映されにくいと見てよい。

■過去のPBR分析
2015年以降にはPBR1.0倍を下回る割安圏にまで転落しているが、これは同社が自動車業界の急激にCASEシフトに対応する先進技術を持たないことが失望されたことに起因している。転換点は、2015年に独フォルクスワーゲングループのディーゼル排ガス不正によって、マツダが得意としたクリーンディーゼル技術の衰退とEVシフトが決定的になったことである。マツダは内燃機関技術を重視して電動化技術を軽視してきた経緯があり、機関投資家からはEVシフトに追従できない自動車メーカーとして評価されるなど、株価下落を誘発する状況が増えた。更に、2014年以降に利益水準の下落が表面化していたことも相まって、マツダの将来性には疑問符が付されることが増えた。こうした状況に対応すべく、マツダは電動化技術の獲得に向けて2017年にトヨタ自動車との資本提携を締結したが、利益水準の低迷は何ら変化しなかったことで株式投資家からの評価は冴えない。更に、2019年にはCOVID-19の流行による株安局面が追い打ちとなり、PBR0.31倍という歴史的な割安圏にまで下落するに至った。

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は業績連動型である。マツダは配当政策として「当期の業績及び経営環境並びに財務状況等を勘案して決定することを方針とし、安定的な配当の実現と着実な向上に努める」を掲げており、実際に配当金は配当政策に従って推移している。配当政策においては安定配当を目指す言及があるとはいえ、業績好調と業績不振を繰り替えすマツダの性格から配当金は伝統的に安定しない。更に、業績が安定しないことから、業績好調な局面では内部留保を蓄積することが企業存続の観点から重要であり、配当性向は30%未満に抑制した配当水準であることが多い。こうした事情から、マツダに安定配当を期待することは難しいと見てよい。

■過去の配当金分析
2010年から2012年までの期間において、無配が続いている。この無配は、2008年以降のマツダが著しい業績悪化に苦しんだことに起因している。同年以降のマツダは、①約4年間で累計2455億円の純損失を計上した点、②二度に渡る公募増資と純損失の連続計上で株式価値が著しく希薄した点、③自己資本比率が一時的に20%を下回る水準に下落した点、などの状況にあり、配当金を支出する余裕がまったくない状況に追い込まれていた経緯がある。2009年までは業績悪化が進行しながらも配当金を年間15円程度は支払っていたが、①リーマンショックと欧州債務危機によってマツダの主力市場である北米市場・欧州市場が打撃を受けた点、②急激な円高進行によって海外依存度の高さが裏目となった点、が災いして想定を上回る業績悪化に陥ったことで無配転落した。もっとも、構造改革の成果が表面化した2013年以降には徐々に復配を進めていき、2014年に財務体質が一定の回復に至った以降は再び配当水準を上昇させて株主に報いる姿勢を示している。

配当利回りは過去最高水準に到達

■配当利回りの特性
配当利回りは0%(2010年)から5.78%(2019年)のレンジで推移しており、配当利回りの増加傾向が長期的に続いている。この配当利回りの増加は、①構造改革の結実による業績回復を成し遂げた点、②業績不振で傷んだ財務体質が回復を果たした点、に起因している。構造改革の成果は2013年から既に表面化したとはいえ、マツダの財務体質が一定の回復を果たしたのは2014年のことであり、それ以降に配当水準を高めた結果として配当利回りの上昇が続いた。もっとも、マツダの業績回復が目覚ましかったのは2014年までであり、それ以降のマツダは利益水準が頭打ちを迎えたことで株価上昇が一服していた点も配当利回りの上昇に貢献している。リーマンショック以降の業績不振に限らず、マツダは業績好調と業績不振の落差が激しいことから安定した配当利回りを期待することが難しいのは歴史的な事実である

■過去の配当利回り分析
2019年以降の配当利回りの上昇が顕著である。この配当利回りの上昇は、同年のマツダがCOVID-19の流行による影響が直撃したことで株価下落が急激に進行したことに起因している。マツダは北米市場と欧州市場への依存度が高く、これらの地域でCOVID-19が感染拡大したことによる影響が直撃した。他の日系自動車メーカーはCOVID-19の流行が相対的に軽微であったアジア市場と中国市場に救われる部分があったが、これらの市場への依存度が低いマツダは業績影響が強く懸念された経緯がある。更に、マツダの利益水準はCOVID-19の流行以前から下落が続いていた為、急激な景気後退局面に耐える期待値が低かった。こうした事情から、株式市場はマツダの無配転落を織り込んだことで株価下落と配当利回りの上昇が急速に進行したと見てよい。実際、マツダは2020年7月31日に配当予想の無配へ修正しており、株式市場の織り込みが正しかったことが証明されている

総合評価

目標株価

700円

当面は景気後退局面における新車需要の低迷に苦しむ公算が高いが、過去の業績不振の時期と比較すれば経営状況は悪くない。その割には現在の株価水準は、極端な財務体質の悪化に苦しんだ時期の株価水準にまで低落しており、歴史的な割安圏にある。COVID-19の流行が極端な円高推移を誘発しなかった点を加味すれば業績悪化は当初想定よりは限定的であろう。長期的な成長ドライバーには欠けるとはいえ、急激な下落に見舞われた新車需要が緩やかな回復を果たすとの想定に立てば、この程度の株価水準が妥当であろう。

投資判断

やや弱気

現在のマツダはCOVID-19の流行に端を発した景気後退と円高進行によって業績悪化が不可避の状況にある。もっとも、リーマンショック以降の業績不振の時期と比較すれば、①構造改革で獲得したブランド価値は損なわれていない点、②過去10年間で回復させた財務体質は依然として強固である点、など、過去の経営危機の水準にまでは悪化しないと推察できる要素が多い。こうした点を加味すれば、歴史的な割安圏にまで転落した状況にはやや投資妙味があると見る向きもあるだろう。しかし、現在のマツダは業績回復に向けた打開策が存在しない苦悩を抱えており、株式投資家からの失望感が強い点に注意する必要がある。株式投資家からの評価が低迷する要因としては、①当面の円高局面による利益水準の低迷が懸念される点、②自動車業界の急激な電動化シフトに対応する技術を持たない点、③CASEシフトに対応する目立った技術を有さない点、などがある。こうした状況に対応すべく、2017年にトヨタ自動車と資本提携を締結することで電動化技術やCASEシフトに対応する方向性を示したが、成果は未だに表面化していない。2020年にはピュアEVとなる「MX-30」を発表したが、航続距離の短さに株式投資家の落胆を強める結果となった。過去の構造改革で獲得した独自のファン層が強みであるとはいえ、将来的な自動車業界の変化に能動的に対処できる期待値は低く、肯定的な投資判断は難しい。マツダへの投資判断にあたっては、目先の景気後退局面に耐えうる財務体質を評価しつつ、COVID-19による業績悪化と先進技術で後塵を拝する点を加味して、やや弱気に設定した。