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三菱自動車工業(7211)の分析|急激な業績不振からの復活は当面厳しい

基本情報

三菱自動車(7211)は、東京都港区に本社を置く自動車メーカーである。1970年までは三菱重工業の自動車事業部門に過ぎなかったが、同社の自動車製造の歴史は意外にも古く、1917年の「三菱A型自動車」にまで遡ることができる。1970年の三菱重工業と米クライスラーと資本提携が三菱自動車工業としての独立の契機であったことから、米クライスラーとの協力関係を長きに渡って維持していた。日本市場においては長きに渡ってトヨタ自動車と日産自動車に続く業界3位の地位を維持していたが、2000年に発覚したリコール隠し問題によって急激に地位を落とした。その後、2000年に独ダイムラーの傘下に加わったが、2005年には同社が支援打ち切りを表明したことで、日産自動車との急速に距離を縮めている。三菱自動車工業が日産自動車に軽自動車をOEM供給することで、国内シェアが落ち込む三菱自動車工業の稼働率を維持しながら、日産自動車は軽自動車をラインナップに得る構想であった。2016年に燃費不正問題が発覚したことで窮地に陥ったが、日産自動車が三菱自動車工業を救済する形で買収したことで、現在はルノー日産三菱アライアンスを形成している。

目次

株価の推移

株価は下落トレンドが長期継続

■株価の特性
2007年から2019年の期間において、三菱自動車の株価は268円(2020年)から2390円(2007年)のレンジで推移している。三菱自動車工業は2016年に過去最高益を更新したが、株価は下落トレンドが長期継続しており、業績と株価の連動に乏しい。業績回復した際には株価上昇する局面もあるが、過去10年以上に渡って下値を切り下げる推移が続いており、底値が知れない推移が続いている。1970年に三菱重工業から独立を果たした直後には株価14400円を記録したことを思えば、過去50年間での下落率は▲98%にも及ぶ。強いて言えば、自動車メーカーの例に漏れず、三菱自動車工業の株価は景気回復局面においては一定の株価上昇を示しやすい為、そこに期待する余地はあるか。とりわけ、三菱自動車工業は東南アジア市場とオセアニア市場への依存度が高いことから、新興国市場の景気回復と為替レートの円安推移が重なると業績回復への期待から株価上昇が先行しやすい。

■過去の株価推移
2012年から2013年の期間において急激な株価上昇が起こっている点が目につく。同年に三菱自動車工業の株価は660円(2012年)から2260円(2013年)にまで急騰しており、株価3倍を達成している。この株価上昇は、①アベノミクスによる株高局面の到来、②急激な円安進行による業績回復への期待、③新興国経済の将来的成長への期待、に支えられたものであった。とりわけ、海外売上高比率が高い三菱自動車工業にとって円安進行は利益水準を大幅に改善させる効果があり、実際に同年の営業利益1234億円のうち、為替効果は659億円の増益要因として作用していた。もっとも、為替効果のみでは利益水準の向上には限界があり、同年以降の三菱自動車工業は「アウトランダーPHEV」などを投入したが、韓ヒュンダイグループなどの新興勢力に地盤の欧州市場のシェアを奪われたことで想定以上の成長を果たせなかった。そのため、2013年の三菱自動車工業の株価上昇は一時的なもので終わり、株価下落トレンドへ再び回帰することとなった。

日経平均株価との相関性は皆無

■日経平均株価との相関性
三菱自動車工業は日経平均株価の構成銘柄である。日産自動車の株価と日経平均株価の相関性は皆無である(2007年4月から2020年3月の相関係数:-0.38)。三菱自動車は景気循環に業績が連動しやすい自動車セクターに属することから、景気循環的な推移を描きやすい日経平均株価との相関性が高くなりやすい筈であるが、実際は異なっている。三菱自動車工業の株価は景気回復局面においては一時的な株価上昇を起こすものの、過去10年以上に渡って株価の下落トレンドが維持されていることから、相関性は低迷する状況にある。

■過去の日経平均株価との相関性
2008年から2013年までの期間においては日経平均株価の下落基調が続いたことで相関性が高まっていたが、2014年以降は顕著に相関性が低下している。2013年に限れば日経平均株価を上回る上昇率を記録したが、三菱自動車工業の業績拡大は期待された水準には届かなかったことで株価は再び下落トレンドへ回帰している。更に、2016年になると日経平均株価よりも厳しい株価下落に見舞われたが、これは、①燃費不正問題の発覚による日本市場の販売急減、②燃費不正問題関連損失2015億円の計上、チャイナショックに端を発した新興国通貨安による利益水準の低下、などに起因している。

業績の推移

売上高は拡大したが停滞感が強い

■売上高の特性
三菱自動車工業の売上高は、7.5兆円(2009年)から12.1兆円(2018年)のレンジで推移している。過去最高を記録した2003年の売上高3.8兆円を思うと、実に15年以上に渡って売上高の停滞が続いている。過去10年間で世界の新車需要は6000万台規模(2003年)から9000万台規模(2019年)へと約1.5倍の増加を遂げたことを踏まえれば、三菱自動車工業は新車需要の拡大に置き去りにされた構図である。実際、他の日系自動車メーカーの多くは過去10年間で企業規模を急拡大させており、三菱自動車工業の成長停滞は顕著である。この売上高の停滞は、①リコール隠し問題によって日本市場におけるシェアを喪失した点、②欧州市場と北米市場において競合他社の攻勢に打ち負けた点、③中国市場への注力が出遅れた点、に起因していると見てよい。実質的に三菱自動車工業は世界の主要市場での拡販に失敗したと言ってよく、これが売上高の成長を停滞させる状況を招いた。唯一、東南アジア市場およびオセアニア市場においてはシェア拡大に成功したが、市場規模が小さいが故に売上高を急拡大させる程の効果はない。とはいえ、先進国市場でのシェア低迷にも関わらず売上高を横這いで維持できているのは、東南アジア市場とオセアニア市場における売上高の拡大が理由である。こうした事情から、現在の三菱自動車工業は東南アジア市場とオセアニア市場を重視する傾向が強い。

■過去の売上高推移
2007年から2009年の期間において、売上高が2.6兆円(2007年)から1.4兆円(2009年)にまで減少している。同期間における売上高の急減は、リーマンショックに端を発した世界的な景気後退局面における新車需要の急減に起因している。実際、同時期の三菱自動車工業の販売台数は極端な減少に直面しており、欧州市場において341万台(2007年)から169万台(2009年)、北米市場において160万台(2007年)から88万台(2009年)、まで減少した。リーマンショック以降の新車需要の急減に苦しんだのは三菱自動車工業に限ったことではないが、問題はその後の売上高の回復が鈍かった点に尽きる。三菱自動車工業はリーマンショック以降の先進国市場の急落を踏まえて2011年に策定した中期経営計画「ジャンプ2013」で新興国市場への集中を決定したが、これによって先進国市場向けの新型車が手薄となる状況を招いた。これによって手薄となった先進国市場におけるシェアを韓ヒュンダイグループなどの新興勢力に奪取され、先進国市場におけるシェア低下を引き起こす結果を招いた。そのため、2013年以降の世界的な景気回復局面が到来しても尚、依然としてリーマンショック以前の売上高の水準を超えられない状況が続いている。

営業利益は上下変動が激しい

■営業利益の特性
営業利益は39億円(2008年)から1383億円(2015年)のレンジで推移しており上下変動が激しい。同業他社と比べて営業利益の上下変動が振れやすいのは、①売上高の約40%を依存する新興国市場は経済が脆弱で為替動向が安定しないことから利益水準が安定しない点、②東南アジア市場の完成車工場から世界各国へ輸出する体制へ転換した点、に起因している。リーマンショック以降の三菱自動車工業は新興国市場への集中を急いで業績再建に成功したが、新興国市場への依存度の高さが業績の不安定さを拡大させていることは否めない。また、営業利益という観点では極端な赤字に陥ることは稀であるとはいえ、数年おきに特別損失を計上して企業規模に見合わない巨額の純損失を計上することが多い点にも注意が必要である。最近の例では、燃費不正問題関連損失2015億円(2016年)、構造改革費用2200億円(2020年)などにおいて、三菱自動車工業の企業規模としては大きすぎる純損失を計上している。

■過去の営業利益推移
2013年以降は営業利益1000億円規模で概ね推移しているが、2016年と2019年に営業利益の急減に見舞われている。2016年の減益は、①燃費不正問題の発覚による販売減少と費用増加、②チャイナショックによる新興国経済の混乱に起因している。日本市場の新車販売が2.2万台の減少に見舞われて経営が混乱した状況で、チャイナショックによる新興国通貨安が▲775億円の減益要因として作用したことで利益水準が大幅に低迷した構図である。2019年の減益は、①COVID-19の流行で新興国市場の需要急減に見舞われた点、②豪州ドルやタイバーツの為替相場が円高基調で推移した点、に起因している。従前から新興国市場は米中貿易摩擦に端を発した景気減速に苦しんでいたが、COVID-19の流行による経済停滞で新車需要が急減したことで三菱自動車工業の利益水準は再び大幅悪化する状況に至っている。

売上高の構成

自動車・金融事業(100%)

■事業内容
自動車・金融事業には、自動車および自動車部品の製造販売が含まれる。自動車・金融事業は世界7ヶ国以上に生産拠点を有しており、世界140ヶ国以上に販売網を展開するグローバル事業である。三菱自動車工業は日系自動車メーカーが凌ぎを削る米国市場と中国市場は伝統的に不得意であり、東南アジアおよびオセアニアを得意としている。本国である日本市場は2000年代のリコール隠し問題によってブランド価値を毀損してからシェアの低迷が続いており、最近では日産自動車にOEM供給する軽自動車の生産に注力する状況が続いている。三菱自動車工業は伝統的にオフロード性能を強調した車種の商品力が高いことから現在のラインナップはSUVが大半を占める状況にあり、代表的な車種には「アウトランダー」「RVR」「エクリプスクロス」などがある。意外にも電気自動車の開発は競合他社に先駆けて着手しており、2009年には世界初の量産EVである「i-MiEV」を発売した実績がある。とはいえ、2012年に発売した「アウトランダーPHEV」が極めて好調なセールスを記録したことで、同年以降はピュアEVの開発には消極的な姿勢に転換して現在に至る。最近では、ルノー日産三菱アライアンスを形成する日産自動車との協業に積極的であり、同社との共通プラットフォームの採用やバリューチェーンの構築による価値向上を志向する傾向が強い。三菱自動車工業は日産自動車が知見に乏しい分野を得意としており、①軽自動車の長年に渡る開発ノウハウ、②新興国市場における高いシェア、③「アウトランダーPHEV」で蓄積したPHEV技術、などが協業にあたって交渉材料として機能している。

■過去の売上高分析
自動車・金融事業の売上高は1.4兆円(2009年)から2.2兆円(2015年)のレンジで推移している。意外にも売上高の約40%を日本市場が占めているのは国内拠点からの輸出車両が多い点に起因しており、これらの輸出車両の売上高を差し引いた実質的な日本市場の売上高は更に低い点に注意したい。過去10年間における売上高の推移を見ると、アジア市場の売上高が1117億円(2009年)から7011億円(2018年)にまで拡大した反面、日本市場・北米市場・欧州市場の売上高は横ばいで成長性を欠く。2013年以降の世界的な景気回復局面において同業他社は中国市場や北米市場において売上高を急伸させたが、三菱自動車工業はこれらの市場を得意としないことから恩恵を享受できなかった。とはいえ、三菱自動車工業は同業他社が手薄であった東南アジアおよびオセアニアにおける事業に積極投資することで、同地域における事業基盤を強固なものにすることは成功しており、これが売上高の推移に表れている。この成功は株式投資家に評価されてきたが、経済が脆弱な新興国では、①景気後退局面で新車需要が急減しやすい、②1台当たりの販売価格が低い、③不安定な為替動向に業績を振られやすい、などの事情がある。日本などの先進国市場における新車販売の低迷を新興国市場の成長で補うことは根本的に難しく、リーマンショック以前に記録した売上高〇億円に満たない水準での横這い推移が続いている。

■将来の売上高予測
減少を見込む。主力市場の東南アジア市場とオセアニア市場の新車需要がCOVID-19の流行によって停滞する状況が重荷となり、売上高の減少は不可避である。既に中国市場と北米市場においては新車需要が回復しつつあるが、これらの市場が三菱自動車工業の売上高に占める割合は半分にも満たない。世界的な景気後退局面からの回復をリードする市場において地盤を持たない三菱自動車工業の売上高が回復基調に向かう為には、更に時間を要するものと思われる。また、当面は業績回復を牽引する新型車の投入予定にも乏しいことも、売上高の伸び悩みを助長する公算が高い点も念頭に置いておきたい。2022年までに投入される新型車は「アウトランダー」と「トライトン」および中国市場向け新型EVの3車種程度に過ぎない。業績回復を牽引する新型車の投入は2023年以降となる見通しであり、向こう数年間は既存ラインナップで同業他社の新型車攻勢に耐える必要がある厳しい状況と言わざるを得ない。

営業利益の構成

自動車・金融事業(100%)

■過去の営業利益分析
自動車・金融事業の営業利益は39億円(2019年)から1383億円(2015年)のレンジで推移している。売上高こそリーマンショック以前の水準に満たない推移が続く反面、利益水準は過去最高となる1383億円(2015年)に到達する局面があり、新興国市場の利益体質の底堅さが際立つ推移である。三菱自動車工業の営業利益は自動車メーカーの例に漏れず為替動向に左右されやすく、円高局面においては利益水準が顕著に悪化する。とりわけ、高シェアを維持するアジアおよびオセアニアの主要通貨の為替動向には左右されやすく、豪ドルとタイバーツが円高傾向となると顕著な減益に見舞われやすい。特に近年は新興国通貨安が続いたことで、2016年から2019年の期間における為替要因による減益は累計1379億円にも及ぶ。三菱自動車工業は海外売上高比率が約80%を超えることに加えて、売上高を依存する新興国の経済動向と為替動向が業績に及ぼす影響は甚大であると見てよいだろう。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による販売台数の急減と為替レートの円高推移が重荷となり、営業損失の計上は不可避である。2020年第1四半期には急激な円高進行と新車販売台数が前年比▲48%の減少が重なったことで営業損失533億円を計上する事態に陥っており、リーマンショック直後の業績悪化を上回る次元の深刻な状況にある。直近の2020年第2四半期にはやや回復を見せたものの営業損失293億円を計上しており、三菱自動車工業の企業規模からすると非常に厳しい。本来であれば営業損失の一部をコスト削減で相殺することが期待されるが、工場経費と資材費の低減による削減は10億円にも満たず、営業損失の相殺には程遠い。新車販売の不振は特に東南アジア市場において顕著であり、これまで三菱自動車工業の利益体質を強固に支えてきた同市場の地盤沈下が業績不振を顕著にする一因となっている。

財務の健全性

手元資金は潤沢な水準から減少

■手元資金の特性
手元資金は過去10年間に渡って増加傾向が続いていたが、直近では3995億円(2019年)へとやや減少している。売上高が年間2.2兆円規模と考えると手元資金としては1800億円が目安となる為、潤沢な水準である。自動車メーカーは景気循環に新車需要が追従しやすい性質から業績の上下変動が激しいことに加えて、事業環境の急激な変化に見舞われて生産能力が過剰となると固定費の高さが災いしてキャッシュが急激に蒸発することが珍しくない特徴がある。そのため、自動車メーカーにとって潤沢な手元資金の確保は企業存続の観点において特に重要である。とりわけ、三菱自動車工業は同業他社と比較しても海外市場への依存度が高い事情があり、為替動向や景気動向の影響を受けやすいことから手元資金を厚く確保する必要があると見てよい。特に2010年以降の三菱自動車工業はリーマンショック後の業績悪化の際に資金繰りに苦しんだ経験から手元資金を余裕をもって確保する傾向が強く、高い自己資本比率も相まって財務体質を大きく良化させた

■過去の手元資金分析
2017年以降に手元資金の減少が続いている点に着目したい。三菱自動車工業の手元資金は5590億円(2017年)から3995億円(2019年)へと減少しているが、これは、①2017年以降の三菱自動車工業が設備投資を活性化させていた点、②COVID-19の流行や世界的な景気減速による新車販売の減少、に起因している。2016年に三菱自動車工業はルノー日産アライアンスに参画したが、同年から積極的な拡大戦略を進めた経緯がある。実際、三菱自動車工業の設備投資は従前は年間700億円規模(2015年)であったが、アライアンスへの参画後は年間1400億円規模(2017年)に倍増している。最近の三菱自動車工業が設備投資に積極的となった理由は中期経営計画「Drive for Growth」において売上高比設備投資5.5%を設定したことに所在しており、リーマンショック以降の慎重な財務戦略を転換した。この計画に基づき、日産自動車が不得意とするアジア市場における勢力拡大を目指した。結果的には、2018年以降の世界的な景気減速とCOVID-19の流行によってアジア市場の新車需要の伸びは停滞し、過剰な設備投資が祟って業績悪化を深刻化させる結果を招いた。

自己資本比率は業界上位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率はリーマンショック以降に急激な回復を示したが、直近の業績悪化でやや下落して39.8%に到達している。同業他社と比較すると、トヨタ自動車39.0%・日産自動車23.9%・本田技研工業39.2%・マツダ42.1%・いすゞ自動車44.3%・三菱自動車工業39.9%となっており、業界上位の水準である。自動車メーカーは巨額の投資資金を借入金で賄うことが多い背景から自己資本比率が停滞しやすい傾向があるが、三菱自動車工業はリーマンショック以降に新興国市場で多額の純利益を計上して利益剰余金を蓄積したことから自己資本比率は高めである。三菱自動車工業は同業他社に比べて事業規模が小さく、海外売上高比率の高さから業績が不安定になりやすいことから、自己資本比率を厚くする意義は大きい。

■過去の自己資本比率分析
2011年以前における自己資本比率20%未満での低迷が際立つ。この時期の三菱自動車工業は、2003年に発覚したリコール隠し問題による業績悪化に苦しんでおり、2003年から2005年の期間で累計7822億円もの純損失を計上して自己資本比率が低下した。この業績悪化によって三菱自動車工業の自己資本比率は1.48%にまで低下したが、三菱グループと投資会社フェニックス・キャピタルと米JPモルガン証券が増資に応じたことで自己資本比率を回復させた。もっとも、リコール隠し問題によって日本市場における事業基盤を毀損した三菱自動車工業の業績回復は容易ではなく、自己資本比率が正常化したのは2011年以降に新興国市場の成長に支えられた業績好転を遂げるまでの期間を要した。こうした経緯を踏まえると、リコール隠し問題で日本市場での事業基盤を毀損した三菱自動車工業の財務体質を好転させたのは明らかにアジア市場における成長であり、最近の同社がアジア市場への積極投資に熱心であったことにも頷ける。

株価の割安感

BPSは横這いで伸び悩みが顕著

■BPSの特性
BPSは過去10年間に渡って上下変動が続いているが、概ね横ばいで伸び悩みが顕著である。三菱自動車は平常時こそ利益水準が安定しているが、数年おきに巨額の純損失を計上してBPSが急落することを繰り返している。過去10年間に渡って利益剰余金の蓄積による株式価値の向上は果たせておらず、成長性に欠ける推移を描いている。景気回復局面では業績好転しやすいとはいえ、経済が脆弱な新興国市場への依存度が高いことによる業績の不安定さ故に、同業他社と比べると急激な事業環境の変化に晒されて構造改革費用を計上することが多い。こうした事情からBPSが安定的な増加を続けることが難しい状況が継続しており、三菱自動車工業は長期保有による株式価値の向上が見込みにくいと言わざるを得ない。

■過去のBPS分析
2008年と2016年におけるBPSの減少が顕著である。三菱自動車工業はBPSの急落が数年おきに発生しており、これがBPSの持続的な増加を阻んでいる要因である。これらのBPSの下落は、①リーマンショックに伴う純損失548億円を計上した点(2008年)、②燃費不正の発覚による特別損失1655億円を計上した点(2016年)に起因している。三菱自動車工業は2000年代のリコール隠し問題においても巨額の純損失を計上してBPSを大きく毀損するなど、自社固有の問題でBPSが急落することが珍しくない。こうしたBPSの急落が多発すると、株式投資家からは長期的に株式を保有しても株式価値が上昇しない銘柄として嫌気されやすい。こうした事情が三菱自動車工業の株価上昇への期待を阻む要因となっていると見てよいだろう。

PBRは歴史的な割安圏にまで下落

■PBRの特性
PBRは長期的に0.59倍(2019年)から4.07倍(2008年)のレンジで推移しており、PBRの下落が長期的に続いている。三菱自動車工業のPBRが下落し続ける理由は、過去10年間に渡ってBPSが横這いで推移しているにも関わらず、株価の下落トレンドが止まらない点に起因している。もっとも、2007年前後の三菱自動車工業がPBR4.0倍を超える割高圏で推移していたことも要因としては大きい。そのため、過去10年間に渡ってPBRが下げ止まらないとはいえ、現在の三菱自動車工業の株価が同業他社と比べて著しく割安という訳ではない点に注意したい。寧ろ、リコール隠し問題や燃費不正問題による特別損失を繰り返しながら業績も振るわない割には同業他社と比べて著しく割安となっていない点は健闘していると評価できるか。

■過去のPBR分析
2007年にはPBR3倍を上回る水準で推移しており、割高圏で推移している時期があった。この時期の三菱自動車工業は2004年に発覚したリコール隠し問題からの再建に目途が立ったことで業績回復を期待されており、これがPBRを押し上げていた。実際、2006年にはリコール隠し問題が発覚してから初めて純利益を確保することに成功しており、2年間に及ぶ業績不振からの脱却を予期させる業績を記録した。同年は三菱自動車の事業環境は極めて良好であり、①米国市場がサブプライムローンによる不動産バブルに湧いていた点、②為替レートが1ドル120円前後の円安基調で推移していた点、などが三菱自動車の業績拡大を予期させてPBRを高止まりさせていた。もっとも、リーマンショックに端を発した景気後退局面に突入すると、三菱自動車工業の株価が急落したことでPBRは本来の水準にまで回帰している。

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は業績連動型である。三菱自動車工業は配当政策として「自動車業界においては、世界市場での販売競争の熾烈化や環境対応の一層の推進など、企業が存続、発展するための資金需要も大きいため、キャッシュ・フローと業績を総合的に考慮し、株主の皆様へ成果の配分を安定的に維持する」を掲げているが、配当金は安定しない推移を描いている。三菱自動車工業の配当金は過去10年間において長く無配が続いていており、2013年に業績回復を受けて復配したものの、配当金の上下変動は激しい。三菱自動車工業は経済が脆弱な新興国市場への依存度が高いことによる業績の不安定さを抱えており、為替動向によっても利益水準が大きく左右される為、配当金を安定的に支払うことは難しいと推察される。

■過去の配当金分析
2019年に年間10円にまで減配されたことで、2013年に業績回復を受けた復配をしてから最低水準に沈んでいる。三菱自動車工業の配当金は2016年に燃費不正問題が発覚した時期を除けば概ね年間15円以上の水準を維持してきたが、2019年にCOVID-19の流行によって事業環境が急激に悪化すると配当水準の維持が困難として年間10円にまでの引き下げを強いられた。同年の三菱自動車工業は業績予想で純利益650億円を見込んでいたが、事業運営の失敗とCOVID-19の流行が重複する急激な業績悪化によって実際は純損失258億円に沈んでおり、これが期末配当の見送りの理由とされた。とはいえ、同年の業績悪化は一時的なものではなく、COVID-19の流行による新興国市場の急激な冷え込みで先が見通せない状況であったことを思えば、やむを得ない判断であったと言えるか。

配当利回りは減配を織り込み

■配当利回りの特性
配当利回りは0%(2012年)から5.78%(2019年)のレンジで推移しており、2000年代の無配継続からは脱却したとはいえ既に減配を織り込んだ水準にある。三菱自動車工業は2000年から2004年にかけてのリコール隠し問題によって痛んだ財務基盤を回復させる為に無配の時期が長く続いていたが、2013年に財務基盤の再建目途が立ったことで復配に至った経緯がある。2013年以降は業績悪化した時期を含めて継続配当したことで配当利回りは安定的であり、2016年に純損失1985億円を計上した際にも配当維持したことで配当利回り1.5%を概ね上回る水準で推移している。ただし、直近の2019年には業績悪化を受けて配当利回り5%を上回る水準へと急上昇していることから、既に将来の減配を織り込んだ水準に到達していると見てよい。実際、2020年7月27日に開催された2020年第1四半期決算発表の場で通年無配が発表されており、株式市場の織り込みが正しかったことが証明されている。

■過去の配当利回り分析
2014年以降の配当利回りの上昇が特に顕著である。この配当利回りの上昇は、同年以降の三菱自動車の株価が下落基調で推移していたことに起因している。三菱自動車工業の配当利回りは2013年の復配によって上昇したが、同年は業績回復と株高局面が重複したことで株価1500円台で推移した為、配当利回りは相対的に伸び悩んだ。しかし、2014年以降は株価1000円台にまで下落したことで配当利回りは上昇した。更に、2016年には燃費不正問題の発覚によって株価400円台にまで下落したことで配当利回りは更に上昇した。2017年から2018年の期間においては米中貿易摩擦による景気減速への懸念から株価が伸び悩み、その結果として配当利回りは続伸を果たしている。もっとも、2019年にCOVID-19の流行が発生すると、三菱自動車工業の業績悪化が深刻化したことで株価下落が急激に進行した為、配当利回りは減配を織り込んだ水準にまで更に上昇することとなった。

総合評価

目標株価

225円

歴史的な安値に投資妙味を感じる向きもあるが、三菱自動車工業の株価は長期的な下落トレンドが継続しており、安易な逆張りは回避したい。リーマンショック後の景気後退局面とは異なり、既に世界の新車需要は底打ちしており、三菱自動車工業の株価は一見すると割安である。しかし、新車需要の回復を牽引する中国市場と北米市場において三菱自動車工業のシェアは低く、同業他社と比べて業績回復が出遅れる公算が高い。向こう数年の業績低迷を加味すると、精々この程度の株価水準が妥当であると判断せざるを得ない。

投資判断

弱気

現在の三菱自動車工業は従前からの業績悪化とCOVID-19の流行に端を発した景気後退と円高進行が重複したことで、リコール隠し問題で巨額の純損失を計上して以来の危機的状況にある。これまで三菱自動車工業は堅実な財務基盤を重視する保守的な経営手法を取っていたが、2016年にルノー日産三菱アライアンスへの参画を経て拡大戦略へと舵を切ったことが業績悪化の原因である。拡大戦略の下で新興国市場への積極投資を進めたにも関わらず、2017年以降は米中貿易摩擦によって新興国市場で景気減速が表面化して業績悪化が進み、2019年にCOVID-19の流行によって経済が脆弱な新興国市場が痛撃を受けたことが致命的な転換点となった。この状況を打開すべく、三菱自動車工業は新たに中期経営計画「Small But Beautiful」を策定して拡大戦略からの脱却による業績再建を目指している。同計画においては、①固定費削減によるコスト改革、②コア市場への選択と集中、③商品ラインナップの抜本的見直し、を掲げている。これらの方策は業績悪化を招いた拡大戦略を是正するアプローチとしては正道であるが、いかんせん新興国市場の低迷が続く限りは業績回復には限界があろう。既に景気サイクルはCOVID-19の流行からの回復を目指す段階にあるが、この景気回復を牽引するのは、強力な財政政策を駆使する中国・米国・日本などの富裕国である。財政基盤が脆弱でワクチンの普及も遅行すると思われる新興国の景気回復は更に後ろ倒しになると想定される局面であり、三菱自動車工業の業績再建を牽引するような力強い景気回復が起こるとは想定し難い。三菱自動車工業への投資判断にあたっては、既に減損損失と構造改革費用を計上している点を評価しつつ、COVID-19による景気後退局面の打撃から当面脱し得ないと想定して、弱気に設定した。