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企業レポート

名村造船所(7014)の分析|財務堅固だが2015年以来の業績不振から未だ脱せず

基本情報

名村造船所(7014)は、本社を大阪府大阪市に置く造船メーカーである。1931年に名村源之助によって設立されたオーナー系の造船企業である。3万トンから30万トンの撒積船およびタンカーの建造を得意としている他、造船で培った鉄鋼技術を活用して橋梁などの大型構造物の建造も手掛ける。かつては創業の地である大阪府に造船所を擁していたが、1970年代に佐賀県伊万里市へ造船所を移転した。かつては中堅下位の造船メーカーに過ぎなかったが、2000年代以降に業界再編の中核として同業他社(佐世保重工業および函館どつく)を傘下に加えたことで現在では建造量で日本3位の造船メーカーとなっている。

目次

株価の推移

株価は業績悪化で再び底値圏へ

■株価の特性
過去10年間に渡って100円台から2500円台のレンジで推移しており上下変動が極めて激しい。造船業の産業構造は、数年程度の造船バブル期と長期に渡る造船不況を繰り返す性質を有しており、株価にもこの性質が顕著に表れている。2000年代の造船バブルが終焉を迎えてから既に10年以上が経過したが、1990年代の造船バブルの崩壊後にも約10年間に渡って株価の下落が継続しており、好不調のサイクルが長期間に渡る点も特徴である。名村造船所に限らず、造船業の株価推移は上下変動が極端であることに加えて、上下変動のサイクルが長期間に及ぶ為、これを活かす取引を目指したい

■過去の株価推移
2000年代後半の造船バブル期には同業他社と同じく株価が高騰しており、2007年には上場来高値2510円を記録している。しかし、2000年代後半の造船バブル期における名村造船所の業績は造船バブルを満喫していた同業他社と比べると好調と呼べる程の水準にはなく、寧ろ造船不況に突入した後の2014年に過去最高益を記録している。過去最高益を記録した2014年の株価が振るわなかった理由としては、①株式市場の関心が造船業から離れて久しいことが災いして熱狂を欠く展開となった点、②2014年の時点で目先の業績低迷への懸念が生じつつあった点、に起因している。

日経平均株価との相関性は低い

■日経平均株価との相関性
名村造船所の株価は日経平均株価との相関性は低い(2007年4月から2020年3月の相関係数:0.27)が、2016年以降は相関性が更に低落している。造船業の市況サイクルは他業種と比較しても特に長大であることが特徴であり、歴史的には2-3年の好調期と8-10年の不調期を繰り返している。日経平均株価を構成する企業の好不調サイクルと比較しても特に長大なサイクルで市況変化が続いていることから長期的な相関性が低いのは当然である。同じ日本株であることから株高局面では類似した動きをしやすい傾向こそあるが、根本的な性質を異にする点には留意しておきたい。

■過去の日経平均株価との相関性
2006年から2013年にかけては日経平均株価との相関性が高い推移を描いていた。2000年代後半は株高局面と造船バブルが同時に到来していたことから、名村造船所の株価は日経平均株価と同様に高値圏で推移している。2008年前後には造船バブルが終局に差し掛かっていたことに加えて、リーマンショックに端を発した株安局面が到来したことで、名村造船所の株価は日経平均株価と同様に底値圏にまで転落した。2013年以降は日経平均株価がアベノミクスの到来による株高局面を謳歌する一方で、造船不況と業績不振に苦しむ名村造船所の株価は冴えない。2013年こそ業績好転で株価上昇を演じたものの、業績不振が表面化した2015年以降は日経平均株価に逆行安を演じている。

業績の推移

売上高は2015年を頂点にやや減少

■売上高の特性
売上高は過去10年以上に渡って1200億円規模を中心に概ね推移している。毎年の上下変動こそあるものの、これは竣工隻数や受注船価などの要因による影響が大きく、大局的な売上高の成長性は希薄である。名村造船所に限らず、造船業の売上高の特性には、①市況変化によって受注船価が変動する点、②代金支払いの大半がドル建てで為替影響を受けやすい点、③工事進捗に従って売上高を段階的に計上する点、がある。実際、名村造船所は造船業の例に漏れず、為替動向や市況変化による売上高の上下変動を常に強いられており、2016年以降は円安一服や市況悪化による逆風が売上高の下方圧力として作用していると見てよい。

■過去の売上高推移
2010年から2012年までの売上高の減少が顕著であるが、これはリーマンショック後の歴史的な円高局面で売上高への下方圧力が根強い中で受注船価が低落し始めた時期の船舶を建造した点に起因する。2012年には三光汽船向けに建造していた船舶が契約解除となったことから安値で転売せざるを得なかったことも売上高を低落させた。反面、2013年からはアベノミクス以降の円安推移が追い風となった他、新たに開発した省エネ型の新型船舶の市場投入による積極攻勢が売上高を押し上げた。2014年には株式交換により佐世保重工業が新たに連結対象となったことで同社の売上高が加算され業容を更に拡大させたが、2015年を頂点に売上高は再び下落傾向に転じた。2015年以降に売上高が減少した理由は、①円安一服による為替影響の減少、②市況悪化による船価低迷を強いられた時期の受注船舶の建造の連続、③工事混乱による完工隻数の減少がある

営業利益は2015年から急速に悪化

■営業利益の特性
営業利益は極端に上下変動が激しく、2013年前後には営業利益200億円規模が連続した反面、2016年以降は営業損失▲200億円規模が連続している。好調時であれば営業利益率が15%を超える水準に到達している反面、不調時には企業規模に見合わない巨額の営業赤字に転落する。為替や市況など様々な要因に業績を大きく影響される造船業の性質が表れていると見てよい。名村造船所の営業利益が好調となる為には、①円安推移による為替効果、②受注船価の高騰による利益水準の向上、③船舶建造の工事進捗の安定、④鋼材などの原材料価格の低落、が必要であり、これらの条件がすべて揃うと利益水準は極めて高くなる。反面、これらの条件で悪化が連続すると巨額の営業赤字を計上することが多い。造船業は市況産業かつ将来予測による見込発注が大半を占める性質から、見込みから大きく外れる環境変化が起こった時には良くも悪くも業績が急変動を起こすことが常である。

■過去の営業利益推移
2013年から2014年における営業利益200億円規模での推移が際立つ。これは、①アベノミクス以降に急速に進行した円安による効果、②建造工事が順調に推移したことで工事損失引当金の大幅取崩による効果、による。同期間に建造した船舶は受注船価こそ安価であったものの、安定した工事進捗による事業運営と急激な円安による為替効果の両立が営業利益を押し上げた構図である。反面、2015年以降は円安一服で為替影響が剥落した他、佐世保重工業の新造船事業において工事混乱が納期遅延を惹起したことで営業利益は急減している。複雑な工程管理を要する船舶建造における工事混乱の挽回は多額の費用と人員を投じても容易ではなく、2017年に表面化した工事混乱を解消するまでに約2年を要したことで業績不振が長期化した。新造船事業以外の事業は堅実に営業利益を確保しているものの、事業規模が相対的に小さいことから新造船事業の営業損失を補填することは不可能である。

売上高の構成

新造船事業(76%)

■事業内容
新造船事業には、撒積船およびタンカーを中心とする各種新造船の建造販売が含まれる。名村造船所は伝統的に3万トンから30万トンの撒積船およびタンカーの建造を得意としており、建造実績の大半がこれらの船種に含まれる。造船不況の時代に日系造船メーカーの多くが得意船種を絞り込むことで競争力を高める道を選ぶ中で、名村造船所は世界的に需要が安定している撒積船とタンカーに特化した経緯がある。これらの船種は建造に高い技術力を要しない割に世界的に需要が安定しており、好不況の落差が大きい造船業で中堅造船メーカーの名村造船所が生き残る為の戦略であった。隻あたりの利益水準が高くはない点が難点であるが、建造船種を絞り込むことで生産性を向上させることで補う方向性である。連結子会社の佐世保重工業および函館どつくにおいても新造船を建造している他、設計工程の一部をベトナムに設立したエヌウェーブベトナムに委ねることでコストを削減している。

■過去の売上高分析
新造船事業の売上高は907億円から1134億円と上下変動はあるが、概ね1000億円を中心とした横ばいで推移している。特に2010年の1134億円および2015年の1113億円が傑出している。これは、2007年前後の造船バブル期に高価格で受注した船舶の建造が行われていたことに加えて、完工隻数が30万トン級のタンカーを含む24隻と前後年と比べて多かったことで売上高が拡大していた。2015年の売上高1113億円は、造船不況が深刻化による船価低迷を狙い撃ちした発注が相次いだ2013年に受注した船舶が建造されたことによるものである。同年は売上高こそ拡大したものの、そもそも低価格で受注した採算の悪い船舶を建造していたことで利益水準は悪化しており、事業環境は寧ろ逆風であった。造船は受注から売上高の計上まで数年のタイムラグがある為、受注船価が業績に反映されるまで数年を要する点が特徴である。なお、2014年からは新たに連結対象となった佐世保重工業の新造船事業の売上高が加わっているが、2015年以降は円安一服や佐世保重工業における工事混乱による納期遅延が売上高を押し下げており、結果的には佐世保重工業が加わる以前と大差ない売上高に回帰している。

■将来の売上高予測
微増を見込む。目下の新造船事業は隻あたりの売上高が高額な超大型タンカーや大型撒積船の建造に継続的に取り組んでおり、売上高は底打ちを果たすと見込む。受注船価の低迷は継続しているものの、2017年から苦しんだ佐世保重工業における工事混乱による納期遅延がようやく挽回したことで売上高の計上が正常化を果たしつつある点が支えとなろう。2019年には伊万里事業所で手直工事が多発したことで若干の混乱を来したが、佐世保重工業における工事混乱ほどの深刻な事態には至っていない。市況に目を向けると、造船不況の長期化による船舶供給の減少継続と将来的な環境規制を見据えた高付加価値船舶の需要拡大により受注船価はやや持ち直す機運が生じつつある。COVID-19の流行による景気後退局面にも関わらず、為替が1ドル100円前後の水準を維持している点も救いである。当面は、①伊万里事業所における手直工事の多発からの挽回、②円安推移の継続による為替影響、③造船市況の回復機運、が継続するかを見極める局面であろう。

修繕船事業(10%)

■事業内容
修繕船事業には、各種船舶の修繕が含まれる。名村造船所の伊万里事業所は新造船事業に特化していることから、主に連結子会社の佐世保重工業および函館どつくが担う事業である。好不況の落差が大きい新造船事業と異なり、修繕船は常に安定した需要が存在していることから安定的な事業である。反面、多種多様な船舶に対して顧客要望を踏まえた臨機応変な作業が求められることから、高い技術力と工事の進捗管理力が問われる事業である。佐世保重工業は大型船用ドックを含む4基の修繕ドックを保有しており、主機関換装から船体延長に至るまで多岐に渡る修繕能力を有している。函館どつくは佐世保重工業ほどの規模こそないものの、東北以北においては同業他社が極めて少ない観点から地理的な優位性がある。佐世保重工業と函館どつくは自衛隊およびアメリカ軍に所属する艦艇の修繕を手掛けている点で共通しており、機密保持の観点から同業他社との競争が少ない点で優位性がある。

■過去の売上高分析
修繕船事業の売上高は53億円から158億円のレンジで推移しているが、2008年の売上高62億円から2018年には売上高125億円にまで増加している。2015年から売上高150億円規模に拡大しているのは、2014年から新たに連結対象となった佐世保重工業の修繕船事業が加わったことによる。2012年以前の修繕船事業の売上高は函館どつくによるものであり、売上高70億円規模であった。名村造船所は修繕船事業を持たないことから佐世保重工業が連結対象となる以前の修繕船事業の売上高は2004年から連結対象の函館どつくの修繕船事業によるものである。佐世保重工業は敷地が隣接する海上自衛隊佐世保基地および在日アメリカ海軍佐世保基地との関係が深く、伝統的に艦艇修繕の売上高が高い。大型修繕を受注した年であれば同社の修繕船事業は売上高100億円を超える局面もある他、大型修繕を受注していない年であっても定期検査による安定的な売上高の確保ができている。同社を2014年に株式交換によって完全子会社化したことで、名村造船所の修繕船事業は売上高の拡大に成功した構図である。

■将来の売上高予測
微増を見込む。自衛隊の艦艇の定期検査は潜水艦を除けば概ね4-5年周期であり、特に大型修繕工事の売上高が計上されるか否かで売上高が左右される。目先は大型修繕工事の計画には乏しいと推測されることから、主要顧客である自衛隊向けの艦艇に対する売上高は減少しそうである。尤も、近年の修繕船事業は艦艇修繕のみならず、商船・漁船・旅客船などの民間船修繕の受注獲得に意欲的であり、豪華客船(飛鳥Ⅱ)の修繕を手掛けるなど、過去と比較すれば艦艇修繕の依存度は緩和している。直近では受注残高が増加に転じて約56億円の受注残高があり、向こう半年分の仕事量は確保されている状況である。日本の内航船は約74%が法定耐用年数14年を超える老朽船舶であるころを踏まえれば、積極的な受注活動を展開することで売上高を拡大させることは可能であろう。

機械事業(6%)

■事業内容
機械事業には、組立式クランク軸・連接棒・舶用軸類(中間軸・プロペラ軸・ラダーストック)などの船舶用機器および一般鍛造品の製造販売が含まれる。連結子会社の佐世保重工業の事業である。同社が得意とする船舶用ディーゼルエンジン用の鍛造クランク軸は、高い信頼性と加工能力を要求されることから日本国内において製造能力できる企業は数社に限られている。佐世保重工業は鍛造クランク軸においては2000本を超える納入実績を有しており、日本の造船業において重要な地位を占めている。機械事業の主力は船舶用機器であるが、大型クレーン用フックなどの一般鍛造品も手掛けている。これらの製品も大型設備を必要とする鍛造部品の製造を主力としている点には変わりない。かつては連結子会社のオリイメックが手掛ける材料供給装置や搬送ロボットなどの産業機器が主力製品であったが、2014年に佐世保重工業が新たに連結対象となったことから船舶用機器および一般鍛造品が主力製品に加わった。2018年にオリイメックのが連結対象から外れて以降は船舶用機器および一般鍛造品のみの事業となっている。

■過去の売上高分析
機械事業の売上高は過去10年間に渡って54億円から114億円のレンジで推移しており、上下変動が激しい。機械事業の売上高の内実は、過去10年間で機械事業を担う連結子会社が入れ替わった事情により大きく変化している点に注意したい。2014年以前は連結子会社のオリイメックが手掛ける産業機器(材料供給装置や搬送ロボットなど)が機械事業を担っており、売上高は約80億円規模であった。2014年から佐世保重工業が新たに連結対象となったことで、同社が扱う船舶用機器および一般鍛造品が機械部門に加わったことで売上高は120億円規模に拡大した。しかし、2018年にオリイメックの全株式を工作機械大手のアマダホールディングスへ売却したことで、同社の売上高が連結対象から外れたことで、売上高が縮小している。オリイメックが機械事業を担っていた期間は主力製品が産業機器であった関係から顧客企業の設備投資意欲によって売上高が上下変動を強いられていたが、佐世保重工業が機械事業を担ってからは主力製品が船舶用機器に移行したことで船舶需要に売上高が上下変動する性質へと変化している。

■将来の売上高予測
減少を見込む。2018年にオリイメックの全株式をアマダホールディングスへ売却したことで同社の売上高が連結対象から外れた為、売上高の縮小は不可避である。オリイメックが売上高70億円規模であったことを踏まえれば、機械事業の売上高は50億円規模にまでの縮小を強いられそうである。機械事業として存続している船舶用機器の動向に目を向けると、船舶用ディーゼルエンジンの需要は海運業における環境規制強化を見据えた買い控えの時期が到来しており、低迷が継続しそうである。COVID-19の流行に端を発した景気後退局面における原油安によって燃料油価が低落したことにより、省燃費エンジンの需要は低落を余儀なくされる点も懸念か。昨今は環境規制の強化を受けたLNG船などの次世代船舶への投資が活況であるが、これらの次世代船舶は蒸気タービン機関を採用していることから機械事業の主力製品が組み込まれる船舶用ディーゼルエンジンを搭載していない。当面の主流は省燃費性能を改善した船舶用ディーゼルエンジンであり続けると想定するが、将来的な変化を見据えておきたい。

鉄構陸機事業(4%)

■事業内容
鉄構陸機事業には、橋梁や沿岸施設などの鉄鋼構造物の製造販売が含まれる。広大な敷地と鉄鋼技術を有する造船所は橋梁建造に適していることに加えて、好不況の落差が大きい造船所にとって閑散期の生産能力を活用できる点で魅力的な事業である。こうした背景から、造船メーカーが橋梁などの鉄鋼構造物を手掛ける例は多く、同業他社では大島造船所や三井E&Sが同様の事業を有している他、かつて造船業を営んでいた日立造船やIHIも橋梁事業を有していた。名村造船所の鉄構陸機事業は大型橋梁から可動橋や歩道橋までを手掛けており、鷹島肥前大橋・伊万里湾大橋などを建造した実績がある。

■過去の売上高分析
鉄構陸機事業の売上高は売上高30億円から売上高83億円と幅広いが、2009年以降は概ね50億円未満の規模に縮小している。これは案件あたりの売上高が高額な橋梁や架橋を主力製品としている為、地方公共団体・高速道路会社・ゼネコンからの受注を確保できるか否かで売上高が変動しやすい性質による。特に大型案件の売上高を計上した年には上振れしやすい。東日本大震災が発生した2011年以降は復興目的以外の公共事業が緊縮された事情から低調な推移を強いられたことに加えて、同業他社との受注競争が激化したことから売上高が低迷している構図である。鉄構陸機事業の主要顧客は地方公共団体であるが、特に名村造船所が所在する九州地域の地方公共団体からの受注が大半を占めることから、同地域における公共事業の動向に売上高が左右されやすい点には留意したい。

■将来の売上高予測
微減を見込む。日本国内の橋梁は老朽化が深刻であり、2019年時点で約30%が建設後50年以上が経過しており、底堅い需要が見込まれる。建替や補修需要が活性化していくことは既定路線であるが、競合他社との受注競争は依然として厳しい。2006年頃を境に地方公共団体の公共事業の発注方式は自動落札方式(提示価格が最も安価な業者が自動的に選定される方式)から総合評価落札方式(価格と技術提案の内容を総合的に評価して選定される方式)へと移行しており、名村造船所は同方式における受注獲得が得意ではなかった経緯がある。近年の名村造船所は総合評価落札方式への対応力を向上させつつ、既設橋梁に対する保全修繕工事の積極獲得による売上高の確保に注力する方針である。2019年には九州地方整備局から優良施工業者の表彰を受けており、主要顧客の地方公共団体との信頼感は醸成されつつあるか。当面はこうした施策が実を結ぶかの推移を見極めていく局面であろう。

営業利益の構成

新造船事業(0%)

■過去の営業利益分析
新造船事業の営業利益は▲202億円から228億円と上下変動が極端に激しいが、2016年以降は営業赤字が継続している。造船業の営業利益は様々な要因に左右されやすい特性があり、①市況変化による受注船価の動向、②代金支払いに用いられる通貨の為替変化、③契約時に設定した原材料価格からの乖離、④工事の当初計画に対する進捗状況、などに影響されることから極端な推移となりやすい。過去の推移を観察すると、2013年および2014年には200億円を超える営業利益を計上しているが、これは、①アベノミクス以降に急速に進行した円安による効果、②建造工事が順調に推移したことで工事損失引当金の大幅取崩による効果、による。同時期は経済環境と造船工事が共に順調であったことが、営業利益を押し上げた構図である。反面、2015年以降は為替こそ円安推移であったものの、受注船価の低い船舶の建造工事で混乱が頻発したことで多額の営業赤字を連発した。特に連結子会社の佐世保重工業における工程混乱は深刻で、混乱が発生した船舶の後続に予定されていた工事の納期遅延を惹起したことが営業損失を深刻化した。名村造船所は工事混乱の原因として、①過去の合理化施策による人材流出、②発注元との仕様認識の不一致、③設備老朽化による設備トラブル、を挙げている。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。営業損失の過半を占めていた佐世保重工業における工事混乱の解決に総力戦で挑んだことによって2019年には納期問題は解消に向かったが、次の問題が発生しつつある。佐世保重工業における問題は納期がずれ込んだ後続船舶についても既に挽回目途は立ち始めており、名村造船所は伊万里事業所と佐世保重工業の新造船事業の運営を一体化することで、今後の工事混乱を防ぐとしている。しかし、、佐世保重工業における工事混乱の解決を最優先課題としたことから、長期的な競争力の礎となる筈であったコスト合理化策の進捗に遅れを来した点が営業利益を改善を遅延させる公算が高い。更に、2019年には伊万里事業所の新造船事業において大量の手直工事を要したことが営業損失を拡大させそうである。佐世保重工業における工事混乱が解消されてから間もなく、名村造船所の主力事業所での手直工事の多発は株式投資家を落胆させた。為替が景気後退局面においても円安推移となっていることが救いではあるが、受注船価の低迷や原材料価格の高止まりは未だに解消しておらず、当面は厳しい推移を強いられそうである。

修繕船事業(23%)

■過去の営業利益分析
修繕船事業の営業利益は▲3.2億円から10.8億円のレンジで推移しているが、2012年以降は営業赤字に転落しておらず安定感がやや高まっている。修繕船事業は2006年に連結対象に加わった函館どつくおよび2014年に連結対象に加わった佐世保重工業が手掛ける事業であり、より大規模な修繕船事業を擁する佐世保重工業が加わって以降は規模拡大による恩恵が増している。2011年までの函館どつくは修繕工事を主力としていたことから大型ドッグの稼働率が安定せず、営業損失の発生は珍しくなかったが、2013年以降は定期検査や延命工事に進出したことで大型ドッグの稼働率が大きく改善した。市況産業の新造船事業と異なり、修繕船事業は常に需要が存在していることから、安定した受注確保と工程管理によって営業利益を安定化しやすい。

■将来の営業利益予測
微減を見込む。目先は自衛隊の艦艇に対する大型修繕工事の計画には乏しいと推測されることから、利益水準は低落しそうである。尤も、目先の受注は確保されていることから、自衛隊の艦艇に対する定期検査需要の繁忙期の到来と重なれば、営業利益は回復に向かうと想定される為、一時的な低落に留まるだろう。近年の修繕船事業は艦艇修繕のみならず、商船・漁船・旅客船などの民間船修繕の受注獲得に意欲的であるが、佐世保重工業および函館どつくの修繕船事業は自衛隊の艦艇の修繕検査の実績にこそ富んでいる。経験に乏しい豪華客船の修繕など経験に乏しく既存組織の技能を最大活用できない領域における事業展開が効率性を損なう可能性については留意しておきたい。

機械事業(24%)

■過去の営業利益分析
機械事業の営業利益は▲12億円から11億円のレンジで推移しているが、2012年以降は5.8億円から8.6億円のレンジで安定的である。佐世保重工業が加わる以前の産業機器が機械事業の主力製品であった時代は景気循環的な性質が顕著であり、景気回復局面の到来によって顧客企業の設備投資意欲が活発であった2008年には営業利益11億円を達成した反面、リーマンショック直後の2009年には営業損失11億円を計上するなど上下変動が激しかった。2012年以降はアベノミクスによる景気回復局面による旺盛な受注が幸いして営業利益が安定的となったことに加えて、佐世保重工業の機械事業が加わったことで営業利益8億円規模の事業となった。尤も、景気回復と規模拡大を経ても尚、2000年代後半の利益水準には回復を果たしていなかった点を踏まえれば、主力事業への選択と集中としてオリイメックを売却することは不可避的であったと評価できよう。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。2018年にオリイメックの全株式をアマダホールディングスへ売却したことで同社の売上高が連結対象から外れた為、営業利益の縮小は不可避である。機械事業として存続している船舶用機器および一般鍛造品の営業利益は好調時で約3億円程度と推定され、営業利益の絶対額は相当の縮小を強いられるであろう。オリイメックが機械事業の中核であった時代は海運市況とは別の要因によって業績を左右されていたが、今後は船舶用機器が機械事業の主力製品となることから新造船事業と類似した利益水準の上下変動を強いられる点にも留意しておきたい。目先は造船不況が継続することから船舶用ディーゼルエンジンの需要低迷が営業利益の下方圧力として作用するか。

鉄構陸機事業(23%)

■過去の営業利益分析
鉄構陸機事業の営業利益は▲4.2億円から5.6億円のレンジで推移しているが、2018年には過去10年間で最高となる営業利益5.6億円を確保しており相対的に好調である。名村造船所は鉄構陸機事業の動向についての情報開示が少ないことから詳細は不明であるが、①手持ち工事量、②大型案件の工事進捗、短納期案件の受注数、に営業利益を左右されやすい。東日本大震災が発生した2011年以降は復興目的以外の公共事業が緊縮された事情から手持ち工事量が減少したことで利益水準が低迷した経緯がある。2014年以降は主要顧客が所在する九州地域からの受注が回復したことで安定的に営業利益を確保する状況へ転換を果たした。

■将来の営業利益予測
現状維持を見込む。2018年以降は手持ち工事量が安定的に推移しており、特段の問題は生じていない。鉄構陸機事業の受注件数を左右する日本の公共事業予算は2014年以降は概ね安定的に推移しており、将来的な受注確保についても懸念は少ない。強いて言えば、気候変動による自然災害の増加を見据えた国土強靭化としての公共事業による追い風を局所的に受ける可能性はあるか。鉄構陸機事業が推進する既設橋梁に対する保全修繕工事の積極獲得が実るかを見極めたい局面である。

財務の健全性

手元資金は極めて潤沢な水準

■手元資金の特性
手元資金は概ね600億円から1000億円のレンジで推移しているが、近年はやや減少傾向にある。売上高が年間1200億円規模と考えると手元資金としては100億円が目安となる為、極めて潤沢な水準である。尤も、造船業は長期に渡る造船不況に見舞われやすい業界である為、潤沢な手元資金は企業存続の必須条件である。数年程度の造船バブル期と長期に渡る造船不況を繰り返す産業構造が歴史的に明確であることから、造船バブル期に獲得した利益で財務体質を健全化することが求められる。名村造船所の手元資金は一過的な業績悪化であれば耐えられる水準を維持している為、安心材料として評価したい。

■過去の手元資金分析
2010年の手元資金の急増が際立つが、これは保有していた有価証券の売却に起因する。同年は業績が低調であったことに加えて、固定資産売却損と前受金減少が嵩んだことで営業キャッシュフローは▲23億円の流出となったが、有価証券の売却益および償還が400億円規模となったことから手元資金が急増して1131億円に到達した。2013年には業績好転によって営業利益200億円規模に到達したが、同年は手元資金を借入金返済54億円や投資用有価証券20億円に投じたことから手元資金は然程の増加を果たさず、手元資金が1000億円規模を回復するのは翌年の2014年を待つ必要があった。尤も、2014年の業績好調による現金収入のほぼ全額は借入金返済に投じられており、手元資金の増加は佐世保重工業を新たに連結対象に加えたことで同社の保有していた現金及び現金同等物210億円が加算された影響が大きかった。

自己資本比率は業界上位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は2008年からの増加傾向こそ2014年で途切れたものの、依然として42.6%と高水準に位置している。同業他社と比較すると、サノヤスホールディングス21.7%・内海造船24.5%・住友重機械工業47.5%となっており、業界上位の水準である。事業規模こそ同業他社に異なるものの、負債を抑制した保守的な事業運営を継続していることもあって、同業他社と比較した自己資本比率の高さは評価できよう。手元資金の潤沢さも加味して考えれば、財務耐久力は高いと見てよい。名村造船所は負債の拡大に消極的であることから有利子負債を手元資金を大きく下回る100億円規模に留めており、これが自己資本比率の低下を防いでいる。

■過去の自己資本比率分析
2007年前後は自己資本比率15%前後の水準で推移していたが、2008年からは増加傾向に転じたことで2014年には自己資本比率51.8%に到達している。2007年前後の自己資本比率が低いのは業績不振が理由ではなく、寧ろ造船バブルによって新造船事業の稼働率が高まっていたことで負債(買掛金や支払手形)が膨張したことによる。造船バブルによる負債増加が起こる2006年以前は概ね自己資本比率25%程度で推移していた。名村造船所は2006年の純損失4.6億円を最後に2015年に至るまで純利益を安定的に確保し続けたことで純資産が拡大しており、その結果として自己資本比率が大いに向上した。2015年以降は業績不振によって自己資本比率が低落したものの、過去の積上が奏功して未だ健全な水準は維持している。

株価の割安感

BPSは業績悪化で減少

■BPSの特性
BPSは691円から1573円のレンジで推移しており、2008年から2015年の期間で約2.2倍に拡大した後、業績不振により減少へ転換している。造船業は事業の性質から業績が極端な上下変動を起こしやすい性質があり、これがBPSの推移にも表れている。この性質は、①工事が不採算化した場合には多額の工事損失引当金が計上される点、②代金支払いの大半がドル建てであることから為替レートに業績を左右されやすい点、③受注後の原材料価格の変動は価格転嫁しない業界慣習、などが理由である。名村造船所に限らず、造船業はBPSが長期的な拡大傾向にあっても事業環境が暗転すれば急激な減少に見舞われる可能性がある点には注意したい。

■過去のBPS分析
名村造船所は2009年以降に到来した造船不況の渦中にあっても安定的に純利益を確保し続けていたことから、利益剰余金が2007年の88億円から2015年には668億円にまで拡大しており、これがBPSの増加に貢献している。在外子会社や有価証券への投資額が大きい企業は為替動向や株価動向でBPSが上下変動しやすいが、名村造船所はいずれも小規模であることから経済環境によるBPSの変動は少ない。本業における利益剰余金の蓄積によって健全にBPSを成長させた点は評価できるが、2015年から2018年までの期間は業績不振によって大規模な純損失が連続したことでBPSは再び減少を強いられている。

PBRは長期的な低迷が継続

■PBRの特性
PBRは造船バブル期を除けば概ねPBR0.3倍からPBR0.7倍のレンジで安定的に推移している。名村造船所に限らず、造船メーカー各社の株価は造船バブルが崩壊して以降は低迷を強いられており、解散価値を下回るPBR1.0倍未満での推移が常態化している。造船不況が長期化する中でも一時的な業績好転こそあるものの、造船バブル期に大量建造された船舶が供給過剰となっている構造的問題は当面は解消する見込みが薄いことが株式市場における造船株の不人気化を生じさせ、PBRの低迷を惹起している構図である。船舶寿命から逆算すれば2000年代後半に大量建造された船舶の解撤が本格化するのは2030年代以降となると予測される為、当面はこうした低調な推移が継続しそうである。

■過去のPBR分析
造船バブルの到来によって造船株への注目度が高まっていた2007年から2008年までの期間はPBR1.0倍を超える水準で推移している。造船バブル期の名村造船所の業績は意外にも凡庸であり純利益50億円規模の推移であったが、株式市場における造船業への期待値が高揚していたことが株価を押し上げた結果、PBRは堅調に推移した構図である。反面、純利益200億円規模を記録して過去最高益を記録した2014年はPBR0.7倍前後の水準に留まっている。こうした背景を踏まえると、株式市場における造船業の不人気が継続する中でのPBRの継続的上昇は期待しにくいか。

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は業績連動型である。名村造船所は配当政策として「収益実績と予想、将来の事業展開などを総合的に勘案しつつ、株主に対する利益還元である配当と事業機会に即応できる体質強化のための内部留保等にも留意し、適正な利益配分を実施すること」を掲げており、実際に配当金推移は業績に応じた推移となっている。名村造船所は海運不況の渦中にあっても無配転落はせず、巨額の純損失を計上した年にも継続配当をしている。同業他社が無配転落を強いられる厳しい環境においても潤沢な手元資金を活用して株主還元を継続している点は評価できるが、業績悪化から脱せない昨今の状況を踏まえれば継続配当に過剰な期待は抱きにくい

■過去の配当金分析
概ね年間10円から年間15円のレンジで推移しているが、業績好調となった局面では年間35円にまで増配する等、業績に応じた柔軟性と継続配当を両立した推移となっている。造船業は受注船価や為替動向など様々な要因によって業績が極端な上下変動を強いられる舵取りが難しい産業であるが、名村造船所は困難な局面においても無配転落は回避し続けている。造船不況が長期化した場合にも企業存続ができるだけの手元資金は潤沢に確保しており、財務の健全性も高い点を踏まえれば、無理がない継続配当である。配当金の大小こそ変動が激しいものの、業績が極端に悪化した局面でも可能な限り株主還元を継続しようとする姿勢は高く評価できる。

配当利回りは概ね2%以上で安定推移

■配当利回りの特性
配当利回りは0.9%から3.9%のレンジで推移しているが、過去10年間においては概ね2%台を上回る水準で推移している。業績変動が極端に激しいにも関わらず、日本株の平均的な配当利回りである2%前後を僅かに上回る水準を維持している。造船不況による株価低迷が配当利回りを向上させている向きもあるものの、適正水準の配当利回りを長期的に維持している点は評価できる。日本株の平均的な配当利回りに準ずるインカムゲインを確保しつつ、株価の上下変動が激しい特徴を活かしたキャピタルゲインの確保を目指す戦略が成立しそうである。

■過去の配当利回り分析
2007年の時点では配当利回り0.92%に留まっていた。同年は造船バブルの到来が期待されたことで株式市場で造船株が注目を集めていた時期に重なる。同時期の名村造船所は株価が2000円台まで急騰した反面、業績は凡庸であったことから増配に至らなかったことから配当利回りは低落を強いられた。尤も、こうした局面では株価上昇によるキャピタルゲインが株主還元として機能することから配当利回りの低落は問題にはならない。造船バブルの崩壊後は配当利回り3%前後の水準で概ね推移している他、業績不振によって株価が底値圏へと回帰した2018年には配当利回り3%へ再度回復を果たした。膨大な純損失を計上しやすい業績不振の局面では株価が極端な低迷を強いられる為、配当利回り3%前後の水準に到達しやすい

総合評価

目標株価

245円

業績不振の長期化こそ懸念されるが、財務体質は堅牢であり業績を好転させるだけの余力はある。巨額の純損失が連続したことでBPSが毀損した点には注意を要するが、株価が1970年以来の底値圏である100円台にまで低落した為、未だに割安感は高い。目先は継続配当が予定されている点を踏まえれば、COVID-19の流行による株安局面を抜ければ、この程度の株価までは期待できるか。尤も、2013年前後の様な株価急騰を生じさせうる材料には乏しいことから、高値圏まで積極的に買い上がる必要は無い。

投資判断

やや弱気

2015年から業績不振が長期化したことで歴史的な底値圏にまで株価が低落しており、業績の先行きを慎重に予測したい局面である。業績の悪化による巨額の純損失の計上は造船業において珍しくはないが、近年の名村造船所の業績不振の原因には建造能力の弱体化が疑われる。2017年からの佐世保重工業における工事混乱の原因は、①過去の合理化施策による人材流出、②発注元との仕様認識の不一致、③設備老朽化による設備トラブル、であり、事業運営の失敗が工事混乱を招いた構図である。2019年には佐世保重工業における工事混乱がようやく解消した一方で、次は伊万里事業所で建造船舶の手直工事が多発したことで利益水準の低迷を引き起こしており、翌年の2020年には伊万里事業所で運搬作業中の死亡事故が発生している。要するに、2017年以降は名村造船所の建造能力が弱体化を想起させる事象が連続的に発生しており、造船メーカーとしての建造能力を再建する必要があるのではないか。更に、こうした工事混乱の鎮火に総力戦で挑んだ結果、将来的な競争力の礎として計画されていたコスト合理化策の進捗に遅れを来しており、更に業績不振からの脱却が遠のく悪循環に陥った。単なる経済環境や海運市況の逆風ではなく、名村造船所の事業運営の構造的問題の噴出であった点を踏まえれば、再建には時間を要するであろう。