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企業レポート

市光工業(7244)の分析|仏ヴァレオとの提携が期待されるが、株価は調整局面

基本情報

市光工業(7244)は、神奈川県伊勢原市に本社を置く1903年創業の自動車部品メーカーである。1910年代に自動車ランプ製造に参入して以来、100年以上に渡ってライティング製品の開発製造を手掛けており、ハロゲン・HID・LEDなど様々な方式のヘッドライトを製造してきた老舗企業である。現在では、小糸製作所およびスタンレー電気と並び、日系ランプメーカーの雄として日系自動車メーカーを支えている。かつては日産自動車の系列サプライヤーであったが、2000年以降は仏ヴァレオとの関係を深めていき、2016年には同社の子会社となった。現在では仏ヴァレオが筆頭株主として発行済み株式数の約61%を保有している。

目次

株価の推移

株価は好調局面からの調整入り

■株価の特性
市光工業の株価は2016年から急激に株価水準を切り上げて好調局面を迎えて1400円台に迫ったが、2018年からは調整局面を迎えて500円台にまで低落している。市光工業の株価は2016年に至るまでPBR1.0倍前後の割安圏で凡庸に推移していたが、2016年を境に上昇トレンドへ転換して以降は、株価の上下変動が荒くなっている。最近の市光工業の株価推移は、仏ヴァレオによる連結子会社化やLED光源ランプの普及拡大などの材料に恵まれたことで、過去の株価推移とは一線を画する変動を遂げる性質に変化している点には注意を要する。株式市場からの期待値が高いが故に株価が割高圏で推移している為、将来に渡って株式市場の期待を裏切らない業績好調を維持できるかが焦点となるか。尤も、2020年のCOVID-19の流行による新車生産台数の急減を嫌気して、目先の株価水準はやや調整局面を迎えている。

■過去の株価推移
2016年から2018年の期間における株価上昇が顕著であり、同期間で株価10倍を達成する急騰を示している。長期的な株価低迷トレンドが続いていた市光工業が株価上昇トレンドに転換する契機となったのは、2016年11月に仏ヴァレオがTOB(株式公開買付)により市光工業を連結子会社化すると表明したことであった。市光工業の発行済み株式数の約55%までを1株408円で買付することを仏ヴァレオが表明したことで、市光工業は株価400円台にまで上昇した。2017年には、①市光工業の業績が過去最高益を更新したこと、②仏ヴァレオの顧客ネットワークを活用した拡販、③将来的なLED光源ランプの更なる普及、などの材料が株式市場に好感された結果、更に上値を追う様相を呈した。

日経平均株価との相関性は高い

■日経平均株価との相関性
市光工業の株価と日経平均株価の相関性は高めである(2007年4月から2020年3月の相関係数:0.78)。2016年の急騰局面を除けば、景気動向に業績が追従しやすい自動車セクターの例に漏れず、市光工業の株価は景気循環に呼応する推移を描いてきた。日経平均株価は景気動向に順応して推移する株価指数であることから、相関性が高まるのは当然である。尤も、2016年の株価急騰において市光工業が株価10倍を達成することで日経平均株価を凌駕する上昇率を記録したことで、長期的な相関性がやや低下した。

■過去の日経平均株価との相関性
長期的には日経平均株価との相関性は高い推移を描いているが、2017年は日経平均株価と乖離した株価上昇が起こったことで相関性が一時的に低落している。市光工業の株価は1970年代から日経平均株価との相関性が高い状態で推移してきたが、2016年から2018年の株価急騰は歴史的にも稀有な事態であった。同期間における日経平均株価の上昇率が35%前後に留まった反面、市光工業の上昇率は650%前後にも達した。尤も、2018年以降には市光工業の株価が調整局面を迎えたことで相関性を急速に回復しており、日経平均株価との歴史的な相関性の高さを奇しくも証明する結果となった。

業績の推移

売上高は1300億円規模へ拡大

■売上高の特性
売上高は2012年から右肩上がりの拡大基調で推移しており、直近では1300億円規模にまで拡大している。景気動向に業績を左右されやすい自動車セクターらしく、景気循環に追従して売上高は推移する性質が強い。尤も、2012年以降はLED光源ランプの拡販というランプメーカーならではの要因を追い風として売上高を順当に拡大させている。LED光源ランプは従来光源と比べて高単価である為、2015年以降のLED光源ランプの急激な普及局面の到来が新車生産台数の増加を上回るペースでの売上高の拡大が実現した構図である。反面、日本市場における売上高は成長が頭打ちとなっており、2007年に1136億円を確保したのに対して、2019年は1062億円に留まっている。

■過去の売上高推移
2007年から2012年の期間において売上高が1211億円から851億円にまで減少する業績不振の時期が存在している。特に2008年の売上高の減少は著しいが、これはリーマンショックに端を発した景気後退による新車生産台数の急減に起因している。尤も、世界の新車全需は2010年にはリーマンショック以前の水準を回復したにも関わらず、市光工業の売上高は2012年に至るまでの長期的な低迷を強いられており、回復の鈍さが顕著である。市光工業の売上高の回復は2013年にようやく本格化したが、これは、①東日本大震災による減産影響が一服した点、②アジア地域の連結子会社の業績が上向いた点、③LED光源ランプの拡販が本格化した点、などに起因している。尚、2017年が売上高940億円に留まっているのは決算月を12月に移行したことで9か月間の売上高のみの計上となっている為である。

営業利益は過去最高水準へ拡大

■営業利益の特性
営業利益は2008年を底に上下変動を描きながら拡大基調を維持しており、2018年には90億円規模へ拡大して過去最高水準に到達している。売上高が景気循環的に推移している反面、営業利益は明確な拡大基調で推移しているが、これはLED光源ランプの拡販による利益水準の拡大が奏功していると推測される。尤も、過去最高益を記録した2018年においても営業利益率は6.4%前後の水準であり、絶対的な利益水準は未だに高くない点には注意を要する。

■過去の営業利益推移
過去10年間に渡って営業利益を安定的に確保している反面、2008年のみ営業損失に転落している。同年に発生したリーマンショックに端を発した景気後退局面において、市光工業は営業損失166億円に転落しており、純損失170億円を計上した。同年に市光協業が巨額の純損失を計上した原因は、①景気後退局面における新車生産台数の急減した点、②株安局面の到来で投資有価証券評価損43億円を計上した点、③大泉製作所と中津川製作所の操業停止に伴う減損損失22億円を計上した点、に集約される。市光工業は主力製品が自動車用ランプである背景から新車生産台数に業績が連動する性質が強く、金融危機や自然災害によって新車需要が急落して主要顧客の自動車メーカーの新車生産台数が急減すると、利益水準が急落しやすい

売上高の構成

自動車部品事業(93%)

■事業内容
自動車部品事業には、自動車メーカー向けの自動車用照明製品およびミラー製品などの製造・販売が含まれる。自動車部品事業の主力製品はライティング製品に集中しており、近年は高付加価値のLED光源の開発に熱心である。2007年にトヨタ自動車の「レクサスLS600h」に世界初の量産LEDヘッドランプが採用されて以降、自動車用ランプ市場は急激なLED光源シフトが継続してきたが、市光工業はこの趨勢に追従してLED光源ランプの開発に注力してきた。2010年には世界最高の省電力性能のLEDヘッドランプを日産自動車の「リーフ」に供給した他、2018年には世界最長の横幅120㎝のハイマウントストップランプがトヨタ自動車の「プリウスPHV」に採用された。LED光源ランプの利点は、①省電力で大光量を照射できる高いライティング性能、②デザインの自由度が拡大することによる商品力向上、にある。特に、デザインの自由度の拡大は、自動車の商品力の確保にとって欠かせない利点となっており、今や自動車メーカーにとってLED光源ランプは高コストを妥協しても採用する意義のある重要部品である。自動車部品事業の取引先は日系自動車メーカーが大半を占めており、海外売上高比率は20%に留まっている。海外拠点は、中国・タイ・インドネシア・マレーシアなどのアジア地域に集中しており、自動車部品メーカーとしては海外展開がやや遅れている。

■過去の売上高分析
自動車部品事業の売上高は744億円から1315億円のレンジで推移しているが、決算月の変更の影響を受けた2017年を除けば2012年から拡大基調が継続している。売上高が拡大した要因は、①2013年以降の世界的な景気回復局面における新車販売台数の増加、②2011年以降に進行したLED光源ライトの普及拡大、に起因している。新車販売の増加の恩恵は自動車セクター共通の追い風であったが、市光工業をはじめとするランプメーカーは従来光源と比べて高単価なLEDヘッドランプの普及が売上高の追い風として作用してきた。市光工業が2011年に日産自動車の「リーフ」に量産LEDヘッドランプを供給した際には高級車を除けばLED光源ランプの採用事例は少なかったが、2015年頃を境に大衆車へのLED光源ランプの普及が進行した。こうした背景によって、自動車部品事業の売上高は744億円(2012年)から1243億円(2019年)にまで拡大している。旺盛なLED光源ランプを捉えるべく、従来は伊勢原工場が担っていたヘッドランプ生産を刷新することを視野に入れて、2019年に神奈川県厚木市に新工場を完成させている。

■将来の売上高予測
横ばいを見込む。LED光源ランプ需要は拡大局面が継続するが、目先はCOVID-19の流行による新車生産台数の急減が自動車部品事業の売上高に対して下方圧力として作用する。主要顧客である自動車メーカーの生産動向に業績を左右されやすい為、当面の事業環境は守勢を強いられそう。尤も、中長期的な目線では、主力製品のLED光源ランプは成長市場である点に変わりはない。LED光源ランプの急激な普及がLED光源ランプの単価低下を惹起する公算が高いが、世界的には未だにLED光源ランプは少数派であることから拡大余地は豊富であり、当面は需要拡大が価格低下の影響を相殺できる範疇であろう。将来的にはLED光源ランプのコモディティ化が進展するとはいえ、市光工業は次世代光源として有力なレーザーヘッドランプを2020年を目途に製品化する。ランプは自動車の印象を大きく左右する部品であり、自動車の総合的な商品力を大きく左右することから、高付加価値化による差別化が図りやすい。

用品事業(6%)

■事業内容
用品事業には、アフターマーケット向けを中心に自動車用バルブやワイパーなどの製造販売が含まれる。自動車メーカーにオプション部品としてフォグランプやウェルカムランプなどを供給する他、独自ブランド「PIAA」を展開している。「PIAA」は1963年に市光工業から独立した一般補修部品販売部門が連結子会社として展開するブランドであるが、1980年代からレースシーンに積極的にスポンサーとして出資することでブランドイメージを確立しており、昨今では自動車マニアを中心とする支持を得ている。「PIAA」は、バルブ・ワイパー・フィルターなどの消耗品から、ホイール・ホーン・ルーフキャリアなどのカスタマイズ製品までを幅広く取り揃えている。この他、市光工業はトラック用の後方確認カメラシステム「SAFETY VISION」を展開するが、ルームミラー型モニターシステムとしては国内トラック市場で約40%の市場シェアを確保している。

■過去の売上高分析
用品事業の売上高は56億円から83億円のレンジで推移しているが、過去10年以上に渡って概ね売上高70億円規模で停滞しており、成長性は希薄である。新車購入時に装着するオプション部品の売上高は、自動車に対する消費者の関心の希薄化から成長が乏しい。特に過去10年間に渡って自動車の高機能化によって自動車本体の価格上昇が消費者に嫌気されており、更なる追加出費を強いるオプション部品を積極的に装着する機運は低迷が継続している。用品事業の主力を担う「PIAA」は日本とアメリカで事業を展開するが、同ブランドの認知度は国内市場では高い反面、海外市場では凡庸である。売上高の拡大を果たすためには日本国内における拡販が必要であるが、日本国内における自動車用品市場は保有台数の拡大に反して横ばい推移が継続しており、売上高の拡大が難しい局面にある。これは、自動車の寿命の長期化によって保有台数が増加する反面、自動車の消耗品にブランド品を使う消費者の行動原理が希薄化していることに起因していると予測され、価格設定がやや高めのブランドである「PIAA」にとっては厳しい事業環境と言える。

■将来の売上高予測
減少を見込む。COVID-19の流行に端を発した景気後退局面における新車生産台数の減少がオプション部品の販売を低迷させる他、外出自粛が実店舗における「PIAA」の販売に下方圧力として作用する。自動車メーカーに供給するオプション部品は、新車販売台数と消費マインド(贅沢消費の色彩が強いオプション部品に追加出費するかは消費者のマインドに依存する)に売上高を左右されるが、COVID-19の流行に伴う新車販売台数の減少と消費マインドの後退が逆風となる。「PIAA」は、外出自粛によるアウトドア需要の後退が冷や水を浴びせそう。近年の「PIAA」は消耗品の拡販の限界を察知して、ルーフキャリア・車載冷蔵庫・テント用品の品揃えを拡充してきたが、消費者が巣籠消費に向かう局面においてアウトドア商品の販売は低迷する公算が高い。

営業利益の構成

自動車部品事業(98%)

■過去の営業利益分析
自動車部品事業の営業利益は▲1.7億円から87億円と上下変動が激しいが、2018年以降は利益水準が明確に切り上がっている。2012年から2014年の期間において営業利益が10億円未満で低迷しているが、これは2012年に市光工業がタイに設立した新工場の収益悪化に起因する低迷である。2012年以前は仏ヴァレオのタイ拠点に入居してきたが、将来的なタイ生産の拡充を見越して新工場を設置したものの、①顧客の自動車メーカーの新車ライン立ち上げの遅れ、②新工場の稼働に伴う経費増加、が重荷となって営業利益が悪化した。2015年以降には急速に営業利益が回復しているのは、①タイ新工場の収益改善、②日本国内における受注好調、③LED光源ランプの比率拡大による利益拡大、が理由である。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。LED光源ランプの普及が継続する反面、目先はCOVID-19の流行に端を発した景気後退局面における新車生産台数の減少による販売減少が利益水準を悪化させる。COVID-19の流行で顧客の自動車メーカーは軒並み生産停止を強いられており、新車生産台数に業績を依存する性質が表面化しそう。長期的にはLED光源ランプの普及局面は継続するとはいえ、将来的にはLED光源ランプの単価が下落する点を見越しておきたい。尤も、2019年に竣工した厚木工場への生産シフトによる生産合理化が着目される。同工場は仏ヴァレオとの提携によるリーン生産方式を採用しており、ロボット・無人搬送車・自動倉庫などの新鋭設備を活用した生産合理化によるコスト低減が利益水準を底上げするか。LED光源ランプの単価下落が進行する中で、生産合理化による利益水準の底上げが実るかを見極めたい局面である。

用品事業(2%)

■過去の営業利益分析
用品事業の営業利益は▲2.5億円から2.7億円のレンジで推移しているが、営業利益は概ね2億円規模で安定的に推移している。尤も、営業利益率は3%に満たない水準で推移しており、市光工業の業績に対する貢献度は薄い事業となっている。市光工業は自動車のアフターマーケット市場における事業拡大を企図して、2011年に「PIAA」を展開していたピアの全株式を取得して完全子会社化を果たしたが、予想に反して事業の成長性は希薄であった。当時はLED光源ランプという成長ドライバーが存在しなかったことから、市光工業はアフターマーケット市場に成長の活路を見出すべく、かつて市光工業から分離独立した「PIAA」を取り戻した。現在の市光工業はLED光源ランプの拡販と仏ヴァレオとの提携を成長ドライバーに据えており、日本国内における自動車用品市場の停滞も相まって用品事業への期待は後退している。強いて言えば、2013年には自動車部品事業の営業赤字を用品事業の営業利益が相殺する貢献を果たしている点は評価できるか。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。用品事業は自動車部品事業と異なり新車生産台数への業績依存は希薄である反面、COVID-19の感染拡大による外出自粛が実店舗における販売を下押しする。主力の「PIAA」は競合製品と比べて割高である為、景気後退局面における消費マインドの低下が販売の逆風となりそう。外出自粛によって自家用車による遠距離外出を控える機運が高まっていることで、走行距離に比例して交換が必要となる消耗品の販売が低迷する公算が高い。更に、外出自粛による巣籠消費の活況は、近年の「PIAA」が注力してきたアウトドア商品の販売を低迷させると予測される。目先の事業環境が逆風に作用する点を踏まれれば、用品事業の営業利益は当面に渡って低調な推移を強いられそうである。

財務の健全性

手元資金は標準的な水準

■手元資金の特性
手元資金は100億円規模を中心に概ね横ばいで推移している。売上高が年間1300億円規模と考えると手元資金としては110億円が目安となる為、標準的な水準である。近年の市光工業は業績好調によって営業キャッシュフローが増加しているが、手元資金が却って微減していることから、現金としては蓄積せずに積極投資と負債圧縮に振り分けていることが読み解ける。過去10年間で、①借入金を255億円(2009年)から111億円(2019年)まで圧縮した点、②生産合理化を果たすべく約164億円を投資して厚木工場を竣工させた点、を考慮すれば、表面的な手元資金こそ横ばいであっても実質的な健全性は向上したと見てよい。

■過去の手元資金分析
2015年の手元資金の急増が際立っており、前年比70億円の増加を遂げて171億円に到達している。同年は国内における受注活動が順調であったことによる業績好転で営業キャッシュフローが増加したが、積極投資や借入金返済には消極的であったことで手元資金が急増した経緯がある。2015年の時点ではチャイナショックに端を発した景気減速懸念が根強かったことで先行きの不透明感を嫌気して手元資金を滞留させたと推察されるが、2016年以降は業績回復が表面化したことで手元資金を減らして積極投資と借入金返済を進める姿勢へ転換した。

自己資本比率は業界中位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は2010年から増加傾向が継続しており、直近では40.3%に到達している。同業他社と比較すると、小糸製作所65.8%・スタンレー電気72.5%・ミツバ17.0%となっており、業界中位の水準である。他の日系ランプメーカー大手である小糸製作所およびスタンレー電気と比較するとやや自己資本比率が低いが、これはリーマンショック直後の財務体質の悪化に起因している。他の日系ランプメーカー大手がリーマンショック直後の景気後退局面で純損失を計上しなかった反面、市光工業は企業規模に見合わない純損失を計上したことで自己資本比率が急落した。現在に至るまで市光工業の自己資本比率は回復傾向を継続しているが、同業他社と大きく開いた差を解消するまでには至っていないのが実態である。

■過去の自己資本比率分析
2008年の自己資本比率18.1%への下落が顕著である。同年の市光工業は、①景気後退局面における新車生産台数の急減、②株安局面による投資有価証券評価損、③大泉製作所と中津川製作所の操業停止に伴う減損損失、によって純損失170億円を計上したことで自己資本比率が急落した。巨額の純損失の計上によって利益剰余金が赤字転落した結果、市光工業の純資産は322億円(2007年)から155億円(2008年)にまで減少しており、これが自己資本比率の低落として表面化している。同年の巨額の純損失には、投資有価証券評価損や工場閉鎖による減損損失などの一過的要因が含まれているとはいえ、自己資本比率が2007年以前の水準に回復するにまで10年以上の期間を要しており、市光工業の財務に痛撃を与えたことが伺える。

株価の割安感

BPSは増加傾向が長期継続

■BPSの特性
BPSは過去10年間に渡って増加傾向が継続しており、138円(2010年)から460円(2019年)に至るまで概ね右肩上がりで推移している。市光工業が業績回復を実現する傍らで、BPSを堅調に増加させてきたことが伺える。在外子会社や有価証券への投資額が大きい企業は株安局面や円高局面でBPSが上下変動しやすいが、最近の市光工業はいずれも小規模であることから経済環境によるBPS変動は少ない。特にLED光源ランプの普及を追い風に利益水準の向上を果たした2015年以降はBPSの増加が顕著であり、このBPSの急増が2016年以降の株価急騰を支える要素となったと見る向きもあるか。

■過去のBPS分析
2016年から2019年の期間におけるBPSの増加が顕著である。288円(2016年)から460円(2019年)まで増加しており、年率換算すると年15%のペースで増加継続している。同時期の市光工業は純利益40億円以上の高い利益水準を維持しており、これが利益剰余金を171億円(2016年)から342億円(2019年)にまで拡大させた結果、BPSが増加した構図である。特に2018年は、①主要顧客の自動車メーカーの新車生産台数が高水準で推移した点、②LED光源ランプの採用車種が更に増加した点、③在外子会社の業績が好調であった点、が奏功して、純利益97億円に到達したことで、BPSが急伸した。

PBRは下落したが割高圏を維持

■PBRの特性
PBRは長期的に0.71倍から3.02倍のレンジで推移しており、上下変動が激しい。市光工業のBPSが増加基調を継続する反面、株価の上下変動が激しいことがPBRの上下変動として表面化している。2016年まではPBR1.0倍前後の割安圏で凡庸に推移していた反面、2016年から株価急騰したことでPBRは割高圏にまで急騰して一時はPBR3.0倍前後の割高圏で推移していた。2018年以降は景気減速による新車生産台数の減少を警戒して株価が調整局面を迎えたことでPBRは下落したものの、依然としてPBR1.5倍前後で推移している。自動車部品メーカーとしては依然として底堅いPBRで推移している点から、市光工業の業績拡大への期待は未だに残存していると解釈できるか。

■過去のPBR分析
2017年のみPBR3.0倍に迫る割高圏で推移している点が顕著である。2016年11月に仏ヴァレオがTOB(株式公開買付)により市光工業を連結子会社化すると表明したことを契機として、市光工業の株価は上昇局面を迎えたことでPBRが割高圏へ上昇を果たした。実際に市光工業のBPSは拡大基調にあったものの、業績拡大への期待が先行した株価上昇が急速に進行したことで、PBR3.0倍を超える水準にまで到達した構図である。実際、2017年の市光工業の株価上昇の材料に困らない好調を示しており、①市光工業の業績が過去最高益を更新したこと、②仏ヴァレオの顧客ネットワークを活用した拡販、③将来的なLED光源ランプの更なる普及、への期待がPBRを高値圏へと押し上げた。

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は業績連動型である。市光工業は配当政策として「(1)内部留保を活用した研究開発及び設備投資により企業価値の向上を図ること、及び、(2)株主に対する利益還元の向上を図ってゆくこと、これら(1)(2)の双方を達成すること」を掲げており、配当金推移は業績に連動して推移している。LED光源ランプ拡販による業績好調を追い風として、配当金は増加傾向を描いているが、2009年の無配転落に見られる様に業績不振に陥った場合には躊躇なく減配となる。市光工業は将来的な業績拡大を前提として、これまで2022年3月期から配当性向を20%にまで引き上げることを検討している。これまでは配当性向の目安がなかったことから、配当金の推移が不安定であったが、将来的にはやや安定するか。

■過去の配当金分析
2013年に復配して以降、業績好調を追い風として配当金の増加傾向が継続している。特に2018年以降は年間7円にまで増加しており、過去10年間における最高水準に到達している。近年の増配は利益水準の改善による純利益の増加に連動したものであり、配当性向は依然として15%未満に留まっている点に着目したい。市光工業は株主還元の強化には抑制的であり、改善した利益水準を積極投資に振り分けている。具体的には、①生産合理化による更なる利益水準の向上を狙った厚木工場の建設、②将来的なLED光源ランプおよびレーザー光源ランプにおける競争力を確保する為の研究開発費、などである。将来的には配当性向を拡充する余地は大きいが、当面は更なる成長に向けた積極投資フェーズにあると見るべきだろう

配当利回りは1%前後で推移

■配当利回りの特性
配当利回りは過去10年以上に渡って概ね2%未満で推移しており、日本株の平均的な配当利回りである2%前後にやや劣後する。市光工業の配当金は景気循環的に推移する同社の業績に連動している為、配当利回りの推移は安定しない。更に、2016年以降は株価急騰して割高圏で推移したことで、配当利回りが0.5%を割り込む局面すら発生している。市光工業は配当性向が20%に満たない低配当銘柄であることに加えて、業績が景気循環的に推移しやすい性質を加味すれば、配当金による安定的な利回り確保を目指すことは難しそうである。

■過去の配当利回り分析
2009年から2012年の期間において無配が継続している。市光工業は2008年に純損失170億円を計上したことで財務体質を招いており、財務体質が回復を果たすまで無配が継続した。市光工業の発行済み株式数は9603万株であることから、配当金として年間2円を支払った場合には配当金の支払いに約2億円を支出することになる。市光工業は手元資金が100億円程度の規模で推移していることから、業績悪化で営業キャッシュフローが赤字転落した場合には余裕が乏しい。更に、2008年は自己資本比率が20%を割り込む状況であったことから借入金の拡大による配当継続が困難であった。近年は借入金の圧縮が進んだことで過去と比べれば配当継続の余力が生じているとはいえ、財務堅固な日系ランプメーカー他社と比較した場合には依然として配当継続の余裕は弱い

総合評価

目標株価

590円

COVID-19の流行による新車生産台数の減少による業績悪化を嫌気して、当面は株価の上値の重さが意識される展開となりそう。反面、景気後退局面を迎えたとはいえLED光源ランプの普及は進行していくことから、株価の底値割れは起こらないと予測する。COVID-19の流行による業績悪化の程度を見極めつつ、将来の新車生産台数の回復を見越した買い需要が流入する点を考慮すれば、この程度の株価水準には到達しうるか。

投資判断

強気

目先はCOVID-19の流行による景気後退局面における新車生産台数の減少による業績低迷を強いられるが、長期的には成長材料に富む自動車部品メーカーである。ここでは、①LED光源ランプの普及拡大、②仏ヴァレオとの提携強化、に着目したい。LED光源ランプの普及拡大という側面では、世界的には未だにLED光源ランプを搭載した自動車は中高価格帯の自動車に限られていることから拡販余地が大きい点が着目される。更に、LED光源ランプはデザインの自由度が従来光源と比べて大きいことから、自動車のデザインの自由度が格段に広がる点が差別化の要素となる。自動車にとってデザインは商品力の観点から重要であり、自動車メーカーからすれば消費者の購買意欲を刺激する為には多少のコスト増加を甘受するに値する構成部品である。将来的にLED光源ランプが主流となっていくことは必定であり、これが市光工業の成長を支えていくと予測される。仏ヴァレオとの提携強化という側面では、共同研究・共同購買・間接部門統合に集約される。市光工業は売上高1300億円規模と日系ランプメーカー大手の中では特に小規模であったことでスケールメリットを享受できない弱点を抱えてきたが、2016年に売上高2兆円を超える世界上位の自動車部品メーカーである仏ヴァレオの連結子会社になったことで、スケールメリットが拡充される点が期待される。こうした将来への期待値から高値圏で推移してきた株価が、目先は値頃感がある水準に落ち着いている点を加味して、投資判断は強気とした。