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企業レポート

帝国ホテル(9708)の分析|業績好調がCOVID-19の流行で暗転

基本情報

帝国ホテル(9708)は、1887年に渋沢栄一と大倉喜八郎によって設立された日本を代表する高級ホテルである。明治時代に外国人の接遇施設の不足を危惧した井上薫が、当時の財界の有力者であった渋沢栄一と大倉喜八郎を説得して設立された。ホテルオークラおよびホテルニューオータニと共に日本三大ホテルと称され、世界史に名を刻む人々がこれまで多く宿泊してきた。現在の帝国ホテルは東京・大阪・上高地のホテルを直轄運営する他、連結子会社の帝国ホテルエンタープライズを介したホテル運営も手掛けている。

目次

株価の推移

株価は横ばい推移から急落

■株価の特性
過去10年間に渡って700円台から4000円台のレンジで推移しているが、2016年以降は2000円台で極めて平坦な推移が続いている。帝国ホテルは大株主上位10社に発行済み株式数の74.65%を掌握されており、個人投資家の保有数が極めて限られることから株式市場における出来高が極めて少ない。更に、帝国ホテルの平坦な株価推移からして、積極的な売買を志向する短期目線の株式投資家の保有数は極めて限定的であると推察される。こうした背景から日々の価格変動は極めて限定的であり、業績に与える影響が大きい環境変化が起こった場合に調整的な価格変動を遂げた後、平坦な株価推移が続く状態が続いている。

■過去の株価推移
2013年の急騰および2015年の高値推移が際立つ。2013年の急騰はアベノミクスによる株高局面の到来と東京オリンピック開催決定に起因する。景気回復局面の到来を踏まえて帝国ホテルの株価は2013年3月には1700円台に到達していたが、東京オリンピックの開催が決定されると関連株として評価され、2013年9月に3030円にまで高騰した。尤も、業績と乖離した過熱感が強い高騰であったこともあり、株式市場の関心がやや落ち着いた2013年11月以降は2300円台で落ち着いている。2015年は訪日観光客の急増による首都圏のホテル不足が社会問題化しており、帝国ホテルの業績に対して上方修正の期待が働いたことで2007年以来となる高値2980円に到達した。2016年以降の株価は下落傾向を辿っているが、これは、①ホテル建設ラッシュによる供給増加が続いた点、②人件費や外注費が業績の重荷となり業績拡大の余地に乏しい点、③PBR2.0倍を超える割高圏が嫌気された点、などが原因である

日経平均株価との相関性は高い

■日経平均株価との相関性
帝国ホテルの株価と日経平均株価の相関性は高めである(2007年4月から2020年3月の相関係数:0.78)。ホテル業が景気動向に業績を左右されやすい点を踏まえれば、景気循環的な推移を描きやすい日経平均株価との相関性が高いのは当然である。実際、帝国ホテルの業績は景気動向に左右されやすく、景気後退局面で企業業績が悪化してくると宴会需要が顕著に減少する他、個人消費の減退が宿泊客数の減少を引き起こす。日経平均株価を景気動向のバロメーターとして捉えれば、帝国ホテルの株価と日経平均株価の相関性が高くなるのは合点がいく。

■過去の日経平均株価との相関性
長期的には日経平均株価との相関性は高い推移を描いているが、2016年以降は続伸する日経平均株価から振り落とされる様に相関性の低下が起こっている。尤も、2013年から2015年の期間における帝国ホテルの株価が、東京オリンピックや訪日観光客増加といった材料に支えられて高値圏で推移していた点を踏まえれば、寧ろ、同期間における帝国ホテルの株価が過大評価であったと解釈することができよう。実際、2013年から2015年の期間の帝国ホテルの株価はPBR3.0倍水準の割高圏で推移しており、2016年以降の株価下落は期待が先行した過熱感の冷却とも評価できる。2016年の時点で帝国ホテルの業績も頭打ちの様相を示し始めていた点を考慮すれば、PBR3.0倍水準という割高圏で推移していた株価の調整は不可避であり、日経平均株価から乖離した下落基調へ転じたことは致し方ない。

業績の推移

売上高は500億円規模で停滞

■売上高の特性
売上高は過去10年以上に渡って横ばいで推移しており、売上高500億円規模が継続している。過去10年間における売上高の上下変動は国内景気の景気循環に概ね連動しており、景気動向に業績を左右されやすいホテル業らしい推移となっている。とはいえ、顧客に占める訪日外国人の割合が増加しており、2012年の約29%から2018年には約47%にまで高まっている。売上高こそ横ばいであるものの、売上高に占める訪日外国人の重要性が大きく拡大していると言えよう。高級ホテルである帝国ホテルは。2019年には帝国ホテルが京都への進出を計画していることが報じられたが、これが実現した場合には売上高のレンジが切り上がる公算が高い。

■過去の売上高推移
2007年から2011年の期間における売上高の減少傾向が際立つ。尚、過去最高を記録したのは1997年の売上高644億円である。過去20年以上に渡って記録を更新できていない典型的な成熟企業である。帝国ホテルは2000年に開業したザ・クレストホテル柏を最後に新規ホテルを設置しておらず、帝国ホテルブランドを冠するホテルは従来より運営している東京・大阪・上高地の3拠点体制を維持していることから売上高が横ばいとなるのは当然である。

営業利益は回復基調が継続

■営業利益の特性
営業利益は2009年の7億円を底に回復傾向にあり、2016年以降は50億円規模で推移している。営業利益率は概ね6-8%前後の水準に留まっており、ホテル業として見た場合の利益水準としては凡庸の域を超えない。ホテル業が営業利益率を高める為には、客室稼働率を高めつつ人件費や水道光熱費などの経費を低減することが重要であるが、帝国ホテルは高級ホテルとしてのブランドイメージを維持する為に安易な経費削減を採り難い為に営業利益率が凡庸な水準に留まっていると推察される。尤も、客室稼働率は80%前後の水準で推移していることから、この点を改善できれば営業利益を拡大する余地があるか。

■過去の営業利益推移
2009年における営業利益の減少が顕著である。リーマンショックによる景気後退局面において、帝国ホテルは同業他社と同じく利益水準の低迷に苦しんだ。当時の帝国ホテルは、①景気後退によるホテル需要の急減、②急激な円高進行による訪日外国人の減少、③顧客企業の経費削減による宴会需要の縮小、などの逆風により利益水準が急落した経緯がある。2011年には東日本大震災によるホテル需要の縮小に苦しんだが、計画停電による業務体制の変更を機会に抜本的な経費削減を遂行したことで、リーマンショックに見舞われた2009年ほどの減益には陥らなかった。尚、2011年に純利益2.8億円に縮小しているが、これは確定拠出年金制度への移行という一時的要因によって特別損失12億円を計上したことに起因している。

売上高の構成

ホテル事業(94%)

■事業内容
ホテル事業には、ホテル及び料飲施設の運営が含まれる。ホテル事業が直轄運営する帝国ホテル(東京・大阪・上高地)の他、連結子会社の帝国ホテルエンタープライズが運営するコミュニティホテルおよびレストランが含まれている。帝国ホテルは日本国内に3施設が所在するものの、実態としては帝国ホテル東京が売上高300億円規模で傑出した存在であり、大阪と上高地に所在する帝国ホテルは補完的な役割を演じるに留まる。ホテル事業は、宿泊・食堂・宴会によって構成されており、帝国ホテルの所有する施設を宿泊以外のニーズを含めて多角的に供することで事業として成立している。ホテル事業と称されるが、大人数を短時間で効率的に対応できる宴会の方が収益性が高い点は他の高級ホテルと同様であり、帝国ホテルというブランドを活かして大型国際会議などの需要に応えることで収益性を高めている。2019年には京都への進出を計画していることが報じられており、八坂女紅場学園が所有する弥栄会館の活用を検討および協議を開始する基本合意書を同学園との間で締結している。

■過去の売上高分析
ホテル事業の売上高は461億円から546億円のレンジで推移しているが、2012年以降は安定的な売上高の拡大が継続している。2007年以降はリーマンショックに端を発した景気後退によってホテル需要が後退したことによって売上高の減少が続き、2011年には東日本大震災による訪日観光客の急減による打撃を受けたことで売上高449億円にまで減少した。2013年以降は世界的な景気回復局面となったことでホテル需要が増大した結果、ホテル事業の売上高は増加傾向へと転じた。ホテル事業の売上高の増加を支えているのは訪日観光客の増加である。実際、訪日観光客は2013年の2783万人から2018年には5015万人へと急増しており、日本を代表する高級ホテルとして名高い帝国ホテルは、このインバウンド需要を掴んで売上高を拡大させた。景気回復局面では宴会需要(婚礼・会議・社長就任披露)などの需要が旺盛となることもホテル事業の売上高の拡大を支えており、2018年の時点では宿泊の売上高100億円を上回る138億円を稼ぎ出している。

■将来の売上高予測
減少を見込む。当面はCOVID-19の流行による客数減少が懸念され、売上高の急減が不可避である。COVID-19という外的要因がホテル事業に与える影響で特に打撃となるのは、①訪日外国人の急減、②宴会需要の急減、である。帝国ホテルの宿泊客の約40%は訪日外国人であり、2013年以降の帝国ホテルは旺盛なインバウンド需要を取り込んで売上高を回復してきた構図がCOVID-19の流行によって破綻した。更に、ホテル事業の売上高の約35%を支える宴会の需要急減が追い打ちとなる。感染拡大防止という観点では、大人数が密室に集い飲食を共にする宴会は真っ先に自粛対象となる。感染拡大が早期終息したとしても、COVID-19の流行によって業績悪化した企業が経費削減の為に華美な宴会を忌避するのは必然であり、当面の需要低迷は確実であろう。2013年から期待されていた東京オリンピックを契機とする更なる訪日観光客の増加すら、東京オリンピックを当初予定していた規模で開催できるかが危ぶまれる状況へ転換した。ホテル事業の売上高は当面に渡って厳しい推移を強いられるであろう。

不動産賃貸事業(6%)

■事業内容
不動産賃貸事業には、帝国ホテル建物内テナント入居スペースおよび帝国ホテルプラザに入居するテナントからの賃料収入が含まれる。帝国ホテルプラザは東京および大阪の帝国ホテルに併設された商業施設であり、帝国ホテルの知名度とイメージを享受しつつ、ホテル宿泊客の需要に応えることを目的としている。入居テナントの大半は高級ブランドに相当する服飾品・宝飾品・雑貨品などを取り扱っているが、帝国ホテルに併設されている事情から診療所・衣装店・喫茶店などの宿泊者ニーズに応える店舗が多いことも特徴的である。

■過去の売上高分析
不動産賃貸事業の売上高は過去10年間に渡って34億円から63億円のレンジで推移しており、売上高は安定している。2007年および2008年が売上高63億円規模とやや高いが、同時期は不動産市場が過熱していたことで都心部の賃料相場が高値圏で推移しており、その影響で不動産賃貸事業に有利な契約を締結できていた為である。リーマンショックに端を発した景気後退を経て、賃料相場が落ち着いた2011年以降の売上高35億円規模が平常時における不動産賃貸事業の実力値として見てよいだろう。2018年には大型テナントの退去が起こったものの、売上高の減少幅は前年比▲0.8%に留まっており、安定感が高い事業となっている。

■将来の売上高予測
微減を見込む。不動産賃貸事業は入居テナントからの賃料収入を収益源としていることからCOVID-19の流行による直接的な打撃は受けないものの、間接的な影響は不可避である。目下として考えられるリスクは、①業績不振に陥ったテナントから賃料の減額交渉が発生するリスク、②感染拡大防止を目的に帝国ホテルの商業施設が閉館を強いられた期間の賃料の減額ないし免除のリスク、であろう。帝国ホテルに入居するテナントの大半は有名ブランドや老舗美術店などで構成されている為、経営危機に追い込まれるリスクは高くないが、賃料収入の減少は覚悟する必要があろう。更に、COVID-19の流行に端を発した景気後退局面において不動産市場が冷え込む公算は高く、賃料相場の下落を受けた売上高の減少が将来的に考えられる。

営業利益の構成

ホテル事業(73%)

■過去の営業利益分析
ホテル事業の営業利益は▲7億円から55億円と上下変動が激しいが、2009年以降は堅調な拡大傾向が継続している。売上高が好調であった筈の2007年前後の営業利益が10億円規模に留まる反面、2009年以降は売上高こそ2007年の水準に及ばないものの営業利益は着実な拡大を継続している。この営業利益の拡大は、①減価償却費が年8億円程度軽減された点、②過去10年間で帝国ホテルのコスト体質がやや改善を示した点、③帝国ホテル大阪の客室稼働率が急改善した点、に起因していると推察される。2013年以降は人手不足による人件費の上昇が継続している点が重荷となっているが、減価償却費が軽減されている点が救いとなっている。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による感染拡大防止の趨勢によって、ホテル事業の収益源である宿泊・食堂・宴会のいずれもが打撃を被ることが不可避である。これまでホテル事業の利益水準を支えてきた訪日外国人と宴会がいずれもCOVID-19の影響で急激な減少に見舞われた点は、特筆すべき懸念事項であろう。2020年4月の訪日外国人数は前年同月比99.9%減少を記録しており、回復までに時間を要する。更に、感染拡大防止を目的として宴会(婚礼・会議・社長就任披露)の中止が相次いでいる公算が高く、こちらも回復までに時間を要するであろう。COVID-19の流行は、ホテル事業にとってリーマンショック以降の景気後退局面を上回る逆境であると想定され、営業赤字への転落を覚悟する必要もあるか。

不動産賃貸事業(26%)

■過去の営業利益分析
不動産賃貸事業の営業利益は16億円から43億円のレンジで推移しており、2011年以降は極めて安定的な推移を描いている。2008年以前は営業利益40億円規模での推移となっており、ホテル事業を上回る稼ぎ頭のセグメントであった反面、2009年以降はやや利益水準を落として営業利益20億円規模での推移となっている。2007年前後は都心部の賃料相場が高値圏で推移していた状況で満室に近い状態での稼働率を維持していたことが原因である。直近では営業利益率52%前後での推移となっており、利益水準の高さが顕著なセグメントである。

■将来の営業利益予測
微減を見込む。不動産賃貸事業は入居テナントからの賃料収入を収益源としていることから営業利益が安定的に推移する性質があるが、COVID-19の流行による影響は不可避である。不動産賃貸事業の営業利益が短期間で急減することは見込み難いが、都心部の賃料相場がCOVID-19の流行に端を発した景気後退局面において下落局面へ転換する公算が高く、中長期的な下方圧力の強さは念頭に置くべきだろう。

財務の健全性

手元資金は極めて潤沢な水準

■手元資金の特性
手元資金は増加傾向にあり、2007年から右肩上がりの増加傾向が継続した結果、直近では300億円規模に到達している。売上高が年間500億円規模と考えると手元資金としては40億円が目安となる為、極めて潤沢な水準である。尤も、帝国ホテル東京の建物は新本館(1970年竣工)と帝国ホテルタワー(1983年竣工)が共に老朽化しつつある為、将来的な再開発に備えて財務基盤を健全に維持することが重要である。帝国ホテルは京都への進出を検討していることを既に発表しており、将来的な投資に向けて手元資金を厚く保つ段階にあると見られる。

■過去の手元資金分析
2010年の手元資金の急増が際立つが、これは東京都港区に保有していた土地を売却したことで約42億円の収入を得た点に起因する。2012年に手元資金がやや減少しているのは定期預金に40億円を預け入れたことによる。2018年の手元資金の増加は定期預金から20億円が払い戻されたことによる。帝国ホテルは過剰気味になった手元資金を積極投資に振り向けることは好まず、損失が発生し難い定期預金と国債で運用することが大半である。手元資金の活用に於いては極めて保守的な姿勢を貫いており、資金繰りという観点での懸念は希薄であろう。

自己資本比率は業界上位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は概ね70%以上の高水準で横ばい推移している。同業他社と比較すると、ロイヤルホテル32.1%・京都ホテル11.4%・ワシントンホテル54.1%・リゾートトラスト31.9となっており、業界上位の水準である。ホテル業は多額の先行的な設備投資が必要かつ業績の上下変動が激しいことから自己資本比率が低水準に留まりやすいが、帝国ホテルは拡大路線を採らず業績が安定的であったことから自己資本比率が高水準で推移している。

■過去の自己資本比率分析
自己資本比率70%台での横ばい推移が継続している反面、2007年前後には自己資本比率60%台の局面が存在している。当時の帝国ホテルは現在と比べて利益剰余金の蓄積がやや少なかった事情から純資産430億円規模に留まっていた反面、景気回復局面における業績好調によって買掛金や未払法人税などの負債が高水準で推移していた事情から、やむを得ず自己資本比率が低落した。尚、2000年代初頭にまで遡ると、自己資本比率50%台の局面も存在しているが、こちらも現在と比べて純資産が少ない反面、平常時の負債規模が大きかったことに由来している。過去20年間で利益剰余金を蓄積して純資産を拡大させつつ、平常時の負債規模を抑制した事業運営を実現したことから、現在の自己資本比率70%台を実現できたと言えよう

株価の割安感

BPSは微増傾向が長期継続

■BPSの特性
BPSは2011年から右肩上がりで推移している。帝国ホテルは2007年以降の帝国ホテルは景気後退局面を含めて純利益を安定的に確保しており、これがBPSの推移に表れている。在外子会社や有価証券への投資額が大きい企業は株安局面や円高局面でBPSが上下変動しやすいが、帝国ホテルはいずれも小規模であることから経済環境によってBPSが打撃を受ける余地は少ない。長年に渡って安定的に利益剰余金を蓄積してきたことで、純資産593億円のうち利益剰余金が562億円を占める状態となっている。長年に渡って蓄積した利益剰余金が、帝国ホテルの自己資本比率を高く維持させることに貢献していると見てよい。

■過去のBPS分析
2009年からBPSは微増傾向が継続しているが、特に2015年からのBPSの拡大が顕著である。帝国ホテルは2009年から安定的に純利益を確保していることから利益剰余金が安定的に増加を遂げているが、特に2015年以降は純利益40億円を上回る業績好調が続いたことでBPSの拡大が加速することとなった。帝国ホテルは在外子会社や有価証券への投資額が極めて少ないことから、業績好調が続く限りは純資産が安定的な増加を遂げやすい。

PBRは割高な水準で推移

■PBRの特性
PBRは長期的にPBR1.2倍からPBR3.1倍のレンジで推移しており上下変動が激しいが、2013年以降はPBR2.0倍を超える水準に定着している。PBRが上昇する理由は、①業績低迷によって純資産が縮小することでPBRが高くなる場合、②将来への期待値から株価が高騰してPBRが高くなる場合、があるが、帝国ホテルは後者である。寧ろ、過去の蓄積によって純資産が膨張している点を踏まえればBPSが増加することからPBRは下落しやすい筈であるが、帝国ホテルのPBRは割高水準を維持している。尤も、①資産に占める現金預金の比率が高い点、②保有する固定資産が都心一等地の土地建物で構成されている点、を踏まえれば、異常と言える程の割高性ではない。

■過去のPBR分析
2007年および2014年にPBR3.0倍を超える割高圏に到達しているが、これらは業績好調によるものではない。2007年のPBR3.8倍は、帝国ホテルに三井不動産が資本参加することが決定した時期であり、1株8750円(株式分割前)で発行済株式数の33.16%を取得することが公表されたことで、帝国ホテルの株価が高値圏で推移していたことが原因である。2014年のPBR3.1倍は、2013年9月の東京オリンピックの開催決定で帝国ホテルが関連株として浮上したことによる株価急騰が原因である。

配当金の推移

配当金は安定配当型

■配当金の特性
配当政策は安定配当型である。帝国ホテルは配当政策として「長期に亘る安定的な経営基盤の確保による安定配当の継続を基本方針とし、株主への利益還元に努める」を掲げており、実際に配当金は安定的に推移している。業績が低迷していた景気後退局面においても減配は実施せず年間12円前後の水準を維持しており底堅い反面、業績回復に向かった2013年以降は増配を実行している継続配当による安定性と増配を厭わない柔軟性は評価できるか。

■過去の配当金分析
2008年から2010年の期間における配当利回りの上昇が際立つ。同期間はリーマンショック以降の株安局面で帝国ホテルの株価は1000円前後での推移を強いられており、これが配当利回りを上昇させた構図である。尤も、従来の配当水準が低い為に配当利回りの上昇を経ても尚、配当利回りは2%に満たない水準での推移が継続している。2018年には再び株価下落に転じたことで配当利回りがやや上昇したが、2009年前後と同じく配当利回りは1%前後の水準での推移となっている。株安局面においても帝国ホテルの配当利回りは日本企業の平均的な

配当利回りは低水準で推移

■配当利回りの特性
配当利回りは2%台をやや下回る水準で推移しており、2011年以降は1%すら下回る推移となっている。日本株の平均的な配当利回りである2%前後に劣後しており、長期保有したところでインカムゲインという観点では大したリターンを得ることができない。帝国ホテルは株主優待制度を設定しておらず、株主優待による配当利回りの補完も不可能である。配当金による利回りが期待できない反面、株価の価格変動が少ないことから売却益を期待することもできない点が、株式投資家から見た帝国ホテルの課題であろう。

■過去の配当利回り分析
2014年から2015年の期間における増配が顕著である。2014年の増配は、リーマンショック以降の業績不振から再建を果たして純利益20億円規模を安定的に確保できる様になった状況を踏まえたものであったが、この時点では将来的な業績の先行きが不透明であったことから年間13円の配当水準が限界であった。2015年には更に業績が改善したことで純利益30億円規模へ改善したことによる増配に開業125周年記念配当1円が加わったことで年間15円の配当水準に増加した。2016年以降は記念配当が剥落したものの、業績好調を受けて年間15円の配当水準を維持している。

総合評価

目標株価

1650円

日本におけるCOVID-19の流行による経済停滞は当初に危惧されたよりは軽度であったが、帝国ホテルの業績への下方圧力は依然として強い。反面、流行以前からPBR2.0倍前後の割高圏での推移が継続していたこともあって値頃感は希薄であり、上値余地の狭さに対する下値余地の広さが嫌気されよう。訪日外国人減少と宴会需要減少によって業績低迷が長期化するリスクを考慮すれば、この程度の株価水準での推移を強いられると見込む。

投資判断

弱気

帝国ホテルの主力事業であるホテル事業は2009年から堅調な業績回復を遂げており、訪日外国人増加や東京オリンピック開催への期待が株価を牽引してきたが、COVID-19の流行が状況を一変させた。ホテル事業の収益を支えてきた、①訪日外国人の増加、②宴会需要の安定推移、がCOVID-19の流行によって共に暗転したことに加えて、東京オリンピックの開催すら危ぶまれる状況であり、帝国ホテルの業績の先行きに対する好材料は極めて乏しい。反面、株価はPBR2.0倍前後の高値圏での推移が定着していることもあって割安感には乏しく、割安感のある優良銘柄に欠かない現在の株式市場においては投資意欲が湧きにくい。日本におけるCOVID-19の流行は当初の想定よりは早期に終息しそうだが、帝国ホテルの業績を支えてきた訪日外国人が流行以前の水準へ回帰する為には最低でも数年単位の時間を要すると想定される。盤石の財務体質から経営危機に陥ることはないが、敢えて積極的に買い急ぐ程の割安感がない現状においては、COVID-19の感染拡大の推移を横目に見ながら帝国ホテルの業績がどの程度の打撃を被るのかを見極めてから投資を検討すれば問題はないだろう。