カテゴリー
企業レポート

日本板硝子(5202)の分析|巨額買収の償却費負担は減少するも再度の業績悪化に直面

基本情報

日本板硝子(5202)は、建築用ガラスと自動車用ガラスの製造販売を主力事業とするガラスメーカーである。ガラス業界では世界第4位の売上高を誇り、世界30カ国に製造拠点を構えるグローバル企業である。2006年の時点で売上高で世界第3位に位置していた英ピルキントンを当時は世界第6位に過ぎなかった日本板硝子が買収するという「小が大を飲む」買収劇で世間を賑わせた。高機能ガラスの開発に熱心であり、生産するガラスの「VA化(付加価値化)」によって競合他社との差別化を目指す姿勢は殊更に有名である。

目次

株価の推移

株価は長期的な下落傾向が継続

■株価の特性
日本板硝子の株価は長期的な右肩下がりが継続している。2012年以降は概ね500円台から1000円台での横ばい推移に落ち着いたものの、大局的な下落傾向から脱却する気配は希薄である。2013年からはアベノミクスを発端とする景気回復局面が到来したものの、日本板硝子の株価は若干の反発を見せる程度に留まっており、経済環境や事業環境の好転が株価に及ぼす影響は少ない。日本板硝子は英ピルキントンの買収で企業規模こそ拡大したものの、買収による負の遺産が業績不振を惹起し続けている事情があり、更に度重なる増資によって株式の希薄化が進んでいることから、株価は極端な下落推移を強いられている。

■過去の株価推移
右肩下がりの株価推移となっているのは、業績不振のみならず度重なる増資による株式の希薄化にも原因がある。リーマンショック後の2010年に新興国投資を目的に公募増資で約500億円を調達したことで発行済株式数が35%の増加となり、株式価値を下落させた。更に、2017年に財務基盤の安定化を図るべくA種類株式を約400億円分発行したが、2020年に契約規定に達しない営業利益に陥ったことでA種類株式が普通株式に転換可能な状態となった。A種類株式が普通株式にすべて転換された場合には発行済株式数が約40%の増加になり、株式価値が下落する構図となる。業績不振と為替差損によって純資産が減少する中で相次ぐ増資で株式の希薄化が進むことで、2007年の最高値7180円から現在までの下落率は▲95%に達する。

日経平均株価との相関性は皆無

■日経平均株価との相関性
日本板硝子は日経平均株価の構成銘柄であるものの、日経平均株価との相関性は皆無である(2007年から2020年の相関係数:-0.14)。日経平均株価の構成銘柄でありながら相関係数はマイナスであり、ここまで相関性が希薄な構成銘柄も珍しい。日経平均株価は業績成長が続くエクセレントカンパニーに牽引されやすい株価指数である為、過去10年間に渡って株式価値の希薄化が続いた日本板硝子と長期的な相関性が生じないのは当然ではある。

■過去の日経平均株価との相関性
2007年から2009年までは日経平均株価との相関性は高く、リーマンショック後の低迷を同様に辿っていた。明暗が分かれたのは欧州債務危機によって英ピルキントンの主力市場である欧州景気が失速した2011年である。日本板硝子は2011年から2013年までの3年間で累計748億円の純損失を計上しており、この業績低迷によって株価は1000円を下回る水準にまで低落することとなった。2013年から日経平均株価は世界的な景気回復とアベノミクスによる株高局面の追い風によって右肩上がりの推移を描いたが、日本板硝子は低迷から脱することがなく推移し続けたことで相関性が喪失する構図となった。

業績の推移

売上高は6000億円規模で横ばい

■売上高の特性
売上高は概ね6000億円規模での横ばい推移となっており、安定的な推移となっている。日本板硝子は建築用ガラスと自動車用ガラスを主力事業としていることから景気動向に業績を左右されやすいが、売上高という観点では底堅い推移である。とはいえ、世界の板ガラス需要は過去10年間で約1.8倍の増加を遂げていると推定されることを踏まえると、世界のガラス需要を取り込んだ成長を果たすことには失敗している。英ピルキントンを買収した2006年に策定した中期経営計画では2011年に売上高9000億円を掲げていた過去を踏まえると、過去の見込みから大きく外れた推移を強いられている。日本板硝子に限らず、先進国のガラスメーカーは世界のガラス需要の拡大に比べて成長が停滞している構造的苦悩を抱えている。

■過去の売上高推移
英ピルキントンを買収する以前の日本板硝子の売上高は2500億円規模であり、英ピルキントンの買収で売上高の規模は2倍以上に拡大した。買収直後の2007年の売上高8655億円が傑出しているのは、同年が1ポンド230円以上の円安推移であったことで為替効果を享受した点に起因する。リーマンショック後は1ポンド130円から150円前後での円高推移が定着したことで為替効果による売上高の拡大は起こらず、売上高6000億円規模で落ち着いた構図である。依然として英ピルキントンが占める売上高の割合が高いことは当然として、海外売上高比率が70%を超えるグローバル企業であることから、為替動向が業績に与える影響は大きい

営業利益は2012年から回復傾向が継続

■営業利益の特性
営業利益(個別開示項目前営業利益)は2012年を底に回復傾向にあるが、営業利益と純利益の差額が200億円規模で存在することで純損失に頻繁に転落している。実際、日本板硝子の利益水準は2012年を底に回復基調にあるものの、問題は年間150億円規模に及ぶ金融費用の負担である。日本板硝子は社債および借入金の利払いに年間120億円前後を費やしており、過去の負債が業績の重荷となっている。本来であれば早々に負債を圧縮したい所だが、A種類株式の早期償還も迫られている事情から後回しにせざるを得ない。本業の利益水準が回復しても単純に業績好転しない点は長年の頭痛の種である。

■過去の営業利益推移
2012年から営業利益が回復傾向にある理由は、建築用ガラス事業の利益水準の回復が理由である。日本板硝子の主力市場である欧州における建築用ガラス需要が、欧州債務危機による景気後退局面から脱した2013年から拡大基調で推移したことで、営業利益が拡大した。もうひとつの主力事業である自動車用ガラス事業はリーマンショック以前の利益水準には回復していないものの、世界新車販売台数の拡大に合わせて底堅く推移したことも、営業利益の回復傾向を支えている。総じて、日本板硝子の営業利益は稼ぎ頭の建築用ガラス事業と自動車用ガラス事業の動向に左右されやすいか。

売上高の構成

建築用ガラス事業(40%)

■事業内容
建築用ガラス事業には、建築材料市場向けの板ガラス製品および内装外装用加工ガラス製品の製造販売、太陽光パネル用ガラスの製造販売が含まれる。日本板硝子はVA化戦略の一環として、高透過ガラス・高反射ガラス・複層ガラスなどの高付加価値ガラスに注力しており、米アップル本社やアーティゾン美術館に採用された実績がある。近年は南米における建築用ガラスの需要拡大を見越してアルゼンチンに設立した合弁企業への積極投資にも熱心である。太陽光パネル用ガラスでは独自技術のオンラインコーティング(整形中のガラス表面に導電膜を形成する技術)によって低コストと大量生産を両立している。

■過去の売上高分析
建築用ガラス事業の売上高は2007年の4024億円から低落して2000億円規模で横ばい推移している。建築用ガラス事業は英ピルキントンの主要市場であった欧州市場の構成比率が高く、2007年には売上高の56%が欧州市場によるものであった。2007年の売上高が傑出しているのは、欧州における建設需要が堅調であったことに加えて、1ユーロ150円を上回る水準での円安推移であった点に由来する。2009年に売上高が急落した原因は、①リーマンショック後の建設需要の世界的な冷え込み、②主要通貨に対して円高推移となったことによる為替影響、③スイスおよびフランスにおける加工事業の売却による影響、が挙げられる。2009年以降は概ね横ばいで推移しているが、東南アジア・南米・中国における売上高拡大を先進国における売上高縮小が相殺しての横ばい推移である。近年は欧州市場の構成比率が約40%にまで減少したことで欧州市場に左右されやすい性質は若干ながら弱まった点には注意したい。

■将来の売上高予測
減少を見込む。建築用ガラス事業の売上高の過半を占める欧州市場および新興国市場における環境悪化が売上高を減少させる公算が高い。2018年に至るまで欧州における建築用ガラス市場は需要と供給が均衡していたが、2019年以降は競合他社を含めたガラスメーカーの供給能力が需要を超過したことで販売価格がやや低下している。日本板硝子は過去10年間で南米およびアジアへ積極的に進出することで売上高の拡大を果たしてきたが、新興国における景気減速が重荷となりつつある。2018年以降は新興国通貨安円高で推移していることによる売上高への下方圧力も苦しい。2020年3月にはCOVID-19が欧州で大流行したことで、主力市場における販売が急停滞を強いられた点も売上高を下押しすると想定される。

自動車用ガラス事業(51%)

■事業内容
自動車用ガラス事業には、新車組立部品および補修部品向けの自動車用ガラスの製造販売が含まれる。自動車用ガラス市場は伝統的に日系ガラスメーカーが特に強い市場であり、日本板硝子は同市場において世界シェアの約20%を掌握している。主要顧客にはトヨタ自動車・米ゼネラルモーターズ・英ジャガーなどがあり、大衆車から高級車まで幅広く対応している。フロントガラスの内側にカメラ類を装備する自動運転車には高精度なガラス造形を実現できる高精度プレス工法が適するが、同工法は英ピルキントンが実用化した技術であることから日本板硝子には技術的優位性があると評される。ちなみに、事業名からは読み解けないものの、鉄道・船舶・建設機械に使用されるガラスも取り扱っている。

■過去の売上高分析
自動車用ガラス事業の売上高は2450億円から3648億円と上下変動があるが、2013年以降は3000億円規模で安定的に推移している。自動車用ガラス事業は英ピルキントンの主要市場であった欧州市場の構成比率が高く、2018年に於いても売上高の45%が欧州市場による。過去10年間においては、2012年の売上高2450億円への低落が顕著であった。同年は欧州債務危機に端を発した景気後退局面の大底に相当する時期であり、①欧州における新車販売が15年来の低水準まで下落した点、②1ユーロ100円未満の円高推移による為替影響、が自動車用ガラス事業の売上高を低落させた。大底となった2012年から2018年までの6年間で世界新車販売台数は約17%の増加を遂げたが、同期間の自動車用ガラス事業の売上高は約28%の増加となっており、為替影響を加味すれば世界新車販売台数への相関性は高いと判断できるか。

■将来の売上高予測
微減を見込む。世界的な新車需要の停滞による新車販売台数の減少は不可避的であり、これが自動車用ガラス事業の売上高を低落させると予測する。自動車用ガラス事業の売上高の約40%を依存する欧州市場の状況をを俯瞰すると、新車販売台数は2019年まで好調であったが、COVID-19の流行による経済停滞を受けて新車販売台数は▲50%から▲80%の減少となっている。自動車メーカーの完成車工場で操業停止が相次いだことから、新車組立用ガラスの売上高は減少を強いられる。世界的な景気減速によって欧州以外の主要市場の大半において2018年以降は新車販売台数が停滞気味となっており、COVID-19の影響を度外視しても事業環境は良くない。

高機能ガラス事業(8%)

■事業内容
高機能ガラス事業には、薄板ガラス・プリンタ用レンズ・新組成薄板ガラス・タイミングベルト用グラスコードなどの個別分野におけるガラス製品の製造販売が含まれる。高機能ガラス事業は、取扱製品こそ多種多様であるもののニッチ分野で首位級を狙う点では共通しており、VA化戦略に熱心な日本板硝子にとって重要な事業である。ヘルスケア・IoT・スマートモビリティなどの流行分野に商機を狙う事業でもあり、最近ではモバイル遺伝子検査装置や微細貫通穴ガラス基板の開発に成功している。日本板硝子は社員2万7000人を擁するが、高機能ガラス事業に所属するのは僅か1300人に過ぎず小所帯である。

■過去の売上高分析
高機能ガラス事業の売上高は長期的な減少傾向が継続しており、2007年の835億円から2018年には491億円にまで減少している。2013年からスマートフォンの普及拡大が本格化したことで液晶ガラスや強化ガラスパネルなどで売上高を稼ぐとも思われたが、日本板硝子は伝統的にこうした分野に弱いことから商機を捉えきれなかった。高機能ガラス事業はエレクトロニクス分野に向けた製品の比率が高いが、同分野は製品のライフサイクルが短く必要な技術領域が短期間で変化していくことからストック的に売上高を積み上げていくことが難しい。更に、ニッチ分野を狙うが故に製品開発に成功しても売上高の急拡大には至りにくい。こうした背景から継続的な売上高の拡大は望み難く、過去10年間は革新的な製品を投入できなかったことから売上高の縮小を強いられる局面であった。

■将来の売上高予測
減少を見込む。高機能ガラス事業の製品は、自動車・プリンタ・スマートフォン・バッテリなどの最終製品に組み込まれる為、これらの動向に売上高を左右されやすい。世界的な景気減速によって2018年以降は世界新車販売台数が停滞気味となっており、タイミングベルト用グラスコードおよびバッテリセパレータの売上高は停滞しそうである。スマートフォンの主力市場が中低価格帯へシフトしたことで高単価部品の採用比率が低下しつつある点も懸念か。

その他事業(1%)

■事業内容
その他事業には、他事業に含まれない小規模事業・設備エンジニアリングおよび試験分析・全社費用・連結調整・システム費用・英ピルキントン社買収に伴い認識された無形資産の償却費が含まれる。日本板硝子は2006年に英ピルキントンを買収した際に暖簾代約2300億円を無形固定資産に計上したことで、長年に渡って暖簾代償却に苦しんだ経緯がある。2018年には新たに設置した新規事業開発部門のビジネス・イノベーション・センターが加わっている。

■過去の売上高分析
その他事業の売上高は長期的な減少傾向が継続しており、2007年の147億円から2018年には16億円にまで減少している。2011年までは設備エンジニアリング事業を担う日本板硝子エンジニアリングおよび試験分析事業を担う日本板硝子テクノリサーチが含まれていたが、これらは2012年以降はその他事業から外れたことで売上高が減少した。その後は売上高を稼ぐ事業を欠く状況が続いていたが、2018年には新たにビジネス・イノベーション・センターがその他事業へ加わったことで、約5億円規模の売上高の増加が起こった。

■将来の売上高予測
微増を見込む。2018年以前は売上高が少ない極めて小規模な事業のみが含まれていたが、2018年からはビジネス・イノベーション・センターによる売上高の拡大が継続すると予測される。同センターはIoT・ライフサイエンス・Industry 4.0・エネルギー変換の分野で2023年までに売上高200億円規模、2027年までに売上高1000億円規模の事業創出を目標としている。まだ設立から間もないことで売上高の拡大は確認できないものの、その他事業の今後の売上高はVA化戦略の帰趨を見極める為にも着目しておきたい。

営業利益の構成

建築用ガラス事業(53%)

■過去の営業利益分析
建築用ガラス事業の営業利益は3億円から313億円と上下変動が激しい。2007年から2012年まで営業利益の上下変動が激しかったが、2013年からは利益水準が回復傾向にある。建築用ガラス事業は欧州市場の構成比率が高いことから同市場の動向に左右されやすい。欧州景気が急速に失速した2009年および2012年には建築需要そのものが減速したことから、利益水準が低下した。景気後退局面では為替が円高推移になることも、営業利益が低迷する理由である。2013年からは欧州景気の回復傾向が続いたことで建築需要が拡大した他、建築用ガラス市場の需要と供給が均衡したことで営業利益が回復軌道となった。ガラスは地産地消の産業である為、需給バランスが地域別に異なる点が特徴である。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。2018年以降の景気減速によってやや建設需要が停滞していた所にCOVID-19の流行が直撃した点が痛い。COVID-19の流行による経済停滞によって主力の欧州市場における建設需要が急低下した他、都市封鎖によって建設工事自体が停止したことで建築用ガラスの需要が蒸発した点が打撃である。他の日本・米州・アジアにおけるCOVID-19の影響は相対的には軽微であったが、営業利益の下方圧力としては十分に重荷である。感染収束を楽観的に評価したとしても、建設需要の回復までには相応の時間を要すると想定され、当面は苦しい推移を強いられそう。2019年からはアルゼンチンで21世紀で最悪規模のインフレ率に到達したことで、これまで積極投資を進めてきたアルゼンチン工場の売上高が低落した点も痛い。

自動車用ガラス事業(31%)

■過去の営業利益分析
自動車用ガラス事業の営業利益は12億円から239億円と上下変動が激しい。景気動向に左右されやすい新車販売台数の影響を受けやすいことは当然として、自動車用ガラス事業は売上高の約40%を欧州市場に依存することから、欧州自動車市場の動向に影響されやすい。日本板硝子は景気後退局面でも底堅い需要がある補修部品向けの自動車用ガラスにおいて世界最大手の一角であるものの、景気後退局面において利益水準が低下することは避けられない。近年の自動車用ガラス事業は南米およびアジアへ積極的に進出してきたが、新興国の自動車用ガラス市場は利益水準が低いことから、依然として稼ぎ頭は欧州市場と日本市場となっている。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。世界的な新車需要の停滞による新車販売台数の減少は不可避的であり、これが自動車用ガラス事業の売上高を低落させると予測する。近年はアジアにおいて補修部品向けの自動車用ガラスの拡販に成功したものの、営業利益という観点では依然として新車組立用ガラスの販売量が重要である。主力の欧州市場における新車販売台数は2019年まで堅調であったが、COVID-19の流行によって急減速を強いられている。単なる新車販売台数の減少に留まらず、完成車工場そのものが操業停止に追い込まれたことで新車組立用ガラスの需要が一時的に蒸発した点が打撃である。特に先進国においてCOVID-19が猛威を振るったことで、高単価な高級車向け新車組立用ガラスの販売が急減した点は特に苦しいか。

高機能ガラス事業(16%)

■過去の営業利益分析
高機能ガラス事業の営業利益は2億円から90億円と上下変動が激しいが、利益水準としては高めである。好調時であれば営業利益率が15%に迫る局面もあり、日本板硝子がVA化戦略を掲げる根拠ともなる利益水準を誇っている点は評価できよう。2015年のみ営業利益が急減少に見舞われたが、これはディスプレイ用薄板ガラスの市況悪化が原因である。尤も、ディスプレイ用薄板ガラスの市況回復を見切った日本板硝子は2015年にベトナムの薄板ガラス用フロート窯を休止させた為、高機能ガラス事業の営業利益は早々に不調を脱した。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。高機能ガラス事業の製品が組み込まれる最終製品はディスプレイ・プリンタ・スマートフォンなどである為、景気減速による影響は避けがたい。尤も、①建築需要や自動車需要に比べれば需要回復に要する期間は短い点、②ニッチ分野で高シェアを獲得している競争優位性、を加味すれば営業利益の減少幅は相対的には軽微に留まると予測する。工場の所在地が幸いしてCOVID-19の流行による都市封鎖が続く環境下でも操業停止に追い込まれなかった点は救いか。

その他事業(0%)

■過去の営業利益分析
その他の事業の営業利益は▲351億円から▲98億円で推移しているが、2016年からは概ね▲100億円前後の水準で安定的に推移している。2016年に暖簾の減損損失69億円を計上したことで暖簾償却費が年間80億円規模から年間30億円規模へと半減したことで営業損失額が大きく改善された。この減損損失は英ピルキントンの暖簾についてブラジルなど新興国における自動車用ガラスの販売減少を理由を実施されたものである。他事業以外の分野における研究開発費用も含まれており、大学や研究機関と連携したインキュベータ活動への投資額も含まれている。その他事業の研究開発費用は業績によって変動するが、近年は概ね15億円から30億円前後で推移している。

■将来の営業利益予測
増加を見込む。その他事業は全社費用・連結調整・システム費用・英ピルキントン社買収に伴い認識された無形資産の償却費によって構成されている事情から、積極的に利益水準を好転させる方法に乏しい。しかし、業績悪化によって研究開発費用や本社費用を削減することでやや営業損失を抑制することはできる他、英ピルキントンの暖簾償却費は徐々に減少している。2018年から新たに加わったビジネス・イノベーション・センターを設立して研究開発活動を活性化させたが、同センターの製品は早々に投資回収が為せる類のものではない。当面の営業利益の回復は研究開発費用の抑制と無形資産の償却費減少に依存しそうである。

財務の健全性

手元資金は標準的な水準

■手元資金の特性
手元資金は概ね600億円規模で推移しているが、やや安定感を欠く。売上高が年間6000億円規模と考えると手元資金としては500億円が目安となる為、やや余裕がある水準である。しかし、金融費用が業績の重荷となっている日本板硝子については見方を変える必要があろう。日本板硝子は年間150億円規模の金融費用が業績の重荷となっているが、現在の手元資金は事業運営に必要な標準的な水準に留まっており、返済に充てる余裕資金には乏しい。日本板硝子のA種類株式は、①償還が遅れるほど配当金を加算する設計、②償還が遅れるほど償還費用が増加する設計、となっており、早期に資金を確保して償還を進めたいが、その余力にも乏しい。

■過去の手元資金分析
2011年の手元資金の減少が顕著である。同年は欧州債務危機による急速な建設需要の冷え込みによって純損失328億円を計上する程の業績不振に見舞われており、営業キャッシュフローが▲99億円かつ投資キャッシュフローが同年並の▲263億円となったことが手元資金を急減させた。社債と借入金を増加させることで財務キャッシュフローが158億円の流入となったことで最低限の手元資金247億円を確保したものの、年間200億円規模の金融費用と無形資産の償却費を必要とする実態を考慮すると、不安を抱かざるを得ない水準にまで落ち込んだと言えよう。

自己資本比率は減少傾向が継続

■自己資本比率の特性
自己資本比率は減少傾向にあるが、過去3年間はやや持ち直して16.2%となっている。同業他社と比較すると、AGC54.7%・日本電気硝子71.0%・セントラル硝子54.3%となっており、業界下位の水準である。グローバル企業においては資本効率を重視する目的で積極的に自己資本比率を低落させる財務戦略もあるが、日本板硝子は業績不振と為替差損で純資産が毀損したことによる消極的な低落である。日本板硝子は年間150円規模の金融費用の重荷で純損失に転落しやすく業績が安定しない為、自己資本比率の低さはリスクとして考慮しておきたい。

■過去の自己資本比率分析
2007年から減少傾向が継続している。2010年・2013年・2016年に短期的な反発はあるものの、長期的な自己資本比率の減少傾向は明白である。2010年は純利益16億円を確保したが純資産は寧ろ減少しており、売上高の減少で流動負債が大きく減少したことで自己資本比率が相対的に上昇したに過ぎない。2013年は純損失176億円を計上したが、円安によって在外子会社資産の円換算価値が拡大したことで自己資本比率が向上したに過ぎず、環境変化による一時的な反発に過ぎなかった。過去10年間における自己資本比率の上昇は、利益剰余金の蓄積によるものではなく、負債減少や為替動向によって生じている点には留意しておきたい。

株価の割安感

BPSは減少傾向が継続

■BPSの特性
BPSは減少傾向が顕著であり、2008年の5363円から2018年には978円にまで減少している。日本板硝子のBPSがここまで下落した原因は、①赤字体質によって2007年から2018年までの間に累計800億円を超える純損失を計上したこと、②2011年のIFRS(国際会計基準)への移行で純資産が約400億円の減少となったこと、③リーマンショック後にポンド円が急激な円高シフトを遂げたこと(後述)、に集約される。日本板硝子は対外投資額が大きいグローバル企業であるが故に為替動向に純資産が左右されやすく、業績不振による純損失の連続が続いていることでBPSが低迷しやすい傾向があるか

■過去のBPS分析
2007年から2009年にかけてのBPSの下落が顕著である。2007年の5363円から2009年には2856円にまで下落しており、下落率は▲46%にも及んでいる。同時期の日本板硝子はリーマンショック後の混乱によって、①本業の不振による純損失(696億円)、②株式市場の下落による有価証券評価額の減少(▲83億円)、③急激な円高による在外子会社資産の円換算価値の減少(▲603億円)に見舞われており、これらがBPSの急落させた格好である。リーマンショック以前は1ポンド230円以上の円安推移であったが、リーマンショック後には1ポンド130円前後での円高推移に急転換したことで、英ピルキントンの保有する資産の円換算価値が著しく減少した構図である。対外投資額の大きいグローバル企業の典型例である日本板硝子は為替レートの変化によってBPSが著しい変動に見舞われる点は覚えておきたい

PBRは2011年から底這い推移

■PBRの特性
PBRは2013年を底に若干の回復を遂げ、PBR1.0倍をやや下回る水準で安定的に推移している。BPSの減少に追従して株価も下落していることで、PBRという観点では横ばいの推移となっている。BPSが長期的な減少傾向にある背景を考慮すればPBR0.5倍を超える水準はやや過大である様にも思えるが、売上高6000億円規模の企業でありながら時価総額500億円前後での推移を強いられていることでPSR(株価売上高倍率)が0.1倍を下回る水準に低落しており、これが株価の底抜けを防いでいる。BPSが更に毀損し続けない限りは現状のPBR0.7倍前後での推移が続きそうか。

■過去のPBR分析
2011年から2013年のPBRの急落が際立っている。同時期のPBRの下落は欧州債務危機によって主力の欧州市場におけるガラス需要が急減したことに加えて、1ドル80円前後での厳しい円高水準となったことで日本板硝子の株価が急落したことに由来する。2011年以前はリーマンショックによる打撃でBPSが急減少する中でも株価はPBR1.0倍水準を概ね維持していたが、2011年以降の更なる業績悪化によって株式投資家の失望を買ったことで、PBRは更に下落することとなった。同時期を境に、日本板硝子の株価はPBR1.0倍未満での推移が新常態として定着している。

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は増配継続型である。日本板硝子は配当政策として「持続可能な事業の業績をベースにして、安定的に配当を実施すること」を掲げているが、業績不振が災いして安定的な配当とは遠い推移を強いられている。日本板硝子は連結業績に対する配当性向30%前後を掲げている為、将来の業績に懸念が生じている場合には減配を覚悟しておきたい。業績が好転した2017年から復配となったが、財務体質の弱さを考慮すれば継続配当への期待値は薄い。

■過去の配当金分析
日本板硝子は2008年から2010年の3年間で累計500億円を超える純損失を計上したが、同期間に年間60円水準の配当金を維持していた点が興味深い。業績不振に陥る直前の2007年に純利益504億円を確保したことで財務体質にはやや余裕があったものの、リーマンショック後の打撃で自己資本比率が急激に低下する中でも即座に減配に転じなかった点は興味深いか。尤も、2012年以降は純損失の計上が連続したことで無配継続しており、復配は利益水準が好転する2017年まで待つ必要があった。とはいえ、現在の脆弱な財務体質を考慮すれば、復配にやや先走った感はある。

配当利回りは減配を織り込み

■配当利回りの特性
配当利回りは無配が続いたことで0%が続いていたが、復配した2017年以降は2.0%以上の水準で推移している。配当金の絶対額は無配転落する2011年以前の水準よりも低位で推移しているが、株価が長期的な右肩下がりを描いたことで配当利回りは無配転落以前と遜色ない水準となっている。とはいえ、配当利回り3%以上が珍しくない現在の株式市場では特筆して魅力的な配当利回りではなく、継続配当への期待値の薄さを加味すれば配当利回りの魅力は低い。

■過去の配当利回り分析
過去10年間の推移を見る限り、2018年の配当利回り3.37%はかなりの高水準である。奇しくも2012年に無配転落する直前の2011年の配当利回り3.54%と同等に近い水準であり、株式市場は将来の減配を既に織り込んでいる公算が高い。現在の脆弱な財務体質からすれば復配していること自体が先走りの感があることに加えて、2019年以降は営業利期の回復傾向にも暗転の兆しが生じつつあることから、減配リスクを加味した配当利回りに調整されたと見るべきだろう。

総合評価

目標株価

350円

PSRの観点からすれば異常安水準にあるものの、長期的なBPSの毀損と相次ぐ増資による株式の希薄化を考慮すると長期保有にはまったく適さない。業績不振に直面していることから当面は底値を探る展開となろうが、A種類株式の転換制限が解除されたことで株式の希薄化が更に進行する懸念がある点はよく警戒したい。強いて言えば、ポンド円が円安推移へ転じた場合には為替効果によるBPSの急伸が起こるものの、当面のポンド円は円高推移となると見込まれることから、積極的に買い上がる動機には乏しい。

投資判断

弱気

英ピルキントンを買収して痛んだ財務体質が回復しない中で再び業績悪化に直面した点が痛い。既に自己資本比率は15%前後にまで低落しており、2011年から2013年にかけての業績不振の再現となれば財務体質が致命的な悪化を果たしかねない。日本板硝子は世界的にも上位のガラスメーカーであるが、ガラス業は固定費が高い上に競合他社との差別化が難しく、痛んだ財務を回復させる突破口となる方策に乏しい。日本板硝子は業績回復を早期に果たすべく、①アルゼンチン新工場などの新規投資案件の凍結、②設備休止による固定費の削減、③VA化戦略・新規事業開発の早期育成を掲げるが、説得力には乏しい。日本板硝子は年間200億円の金融費用の負担がある為、投資抑制や固定費削減に踏み切って利益水準を維持するだけでは膨大な純損失を計上することになる。VA化戦略や新規事業開発による高付加価値なビジネスモデルへの転換にしても、ニッチ分野で高収益を得たところで売上高6000億円規模の巨大企業の傷んだ財務を回復させるには不十分である。COVID-19の流行を度外視しても、主力の欧州市場における供給過剰は2018年から顕在化しつつあり、足元の事業環境も厳しい。