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企業レポート

日本製鋼所(5631)の分析|財務堅実だが、主力事業の樹脂関連機器の需要減少が懸念

基本情報

日本製鋼所(5631)は、東京都品川区に本社を置く1907年創業の産業機械メーカーである。源流は英ヴィッカースおよび英アームストロングから出資を受けて北海道室蘭市に設立された兵器製造メーカーの日本製鋼所(1950年に解散)である。戦前は、日本陸軍に協力して国産初の航空機用エンジン「室0号」を完成させた他、日本陸軍の主力戦車「九七式中戦車」の製造や日本海軍の戦艦「陸奥」の主砲の開発など幅広く兵器製造を手掛ける総合兵器メーカーとしての地位を確立していた。敗戦で兵器需要が消滅すると民需へシフトして、鋼板鋼管・射出成形機・発電所用機械などを製造する産業機械メーカーとしての地位を確立した。自衛隊発足後は防衛製品事業を復活させ、祖業の兵器製造へと再参入を果たしており、火砲システムとミサイル発射装置に強みを持つ。戦後の国産戦車の火砲はすべて日本製鋼所の製品である。

目次

株価の推移

株価は長期的な下落局面が継続

■株価の特性
日本製鋼所の株価は2008年前後には1万円を超える高値圏で取引されていたが、長期的な下落傾向が継続した結果、直近では1500円台に到達している。産業機械メーカーとしては珍しく、景気循環に呼応しない株価推移が継続しており、特に2013年以降の世界的な株高局面においても日本製鋼所の株価は低迷が続いている。尤も、2008年前後の株価水準は原子力関連銘柄としての期待先行でPBR7.0倍に迫る割高圏で取引されていた事情があり、寧ろ、現在の株価水準の方が本来の株式価値との乖離が少ない点には注意したい。長期的な株価推移を表面的に捉えると下落傾向が著しいが、2000年代後半の株価水準が期待先行の割高圏にあったに過ぎず、企業価値を根本から毀損する様な事態が生じているわけではない

■過去の株価推移
2007年から2008年の期間において株価1万円前後の割高圏で推移している点が顕著である。日本製鋼所は原子力発電所の圧力容器で世界シェア80%以上を確保していた為、2000年代の原子力発電ルネッサンスと呼ばれた時代には株式投資家の人気を博していた経緯がある。特に、2008年にクリーンエネルギー拡大を掲げるオバマ大統領が誕生すると、世界的な原子力関連需要の更なる拡大への期待から、日本製鋼所の株価はPBR7.0倍に迫る割高圏にまで到達した。尤も、リーマンショックに端を発した株安局面が到来すると割高推移は徐々に是正され、2011年の福島第一原子力発電所事故によって原子力関連銘柄の時代が終焉したことで期待が剥落した結果、株価は正常水準へと回帰することとなった。

日経平均株価との相関性は皆無

■日経平均株価との相関性
日本製鋼所は日経平均株価の構成銘柄である。日本製鋼所の株価と日経平均株価の相関性は低い(2007年4月から2020年3月の相関係数:-0.25)。日経平均株価との相関性が極端に低いのは、①2008年前後にPBR7.0倍に迫る割高圏にあった状態から長期的な下落局面で推移した点、②アベノミクス以降の株高局面において特段の株価上昇を遂げなかった点、に起因している。日経平均株価の構成銘柄の多くはアベノミクス以降の景気回復局面で株価上昇を遂げたが、日本製鋼所はアベノミクス以降の景気回復局面が到来した2013年から業績不振に見舞われたことで日経平均株価と逆行する構図となっている。

■過去の日経平均株価との相関性
2017年から2018年の期間において日本製鋼所の株価が急騰したことで、日経平均株価との相関性が一時的に向上している。同時期の日本製鋼所は樹脂機械・成型機が予想を上回る受注獲得によって業績回復を果たしたことで、株価上昇に転換した。これは日本製鋼所の樹脂関連製品は自動車セクターへの依存度が高いが、同時期は新車生産台数が世界的に増加したことで、同セクターの設備投資が活性化したことに起因する。同時期の日経平均株価は世界的な景気回復局面を迎えたことによる上昇局面にあったことが重なり、相関性が高まった構図である。最近の日本製鋼所は景気循環に追従しやすい樹脂機械・成型機への依存度が高まっている為、過去と比べれば景気循環に株価が追従しやすい性質へと変化しつつある。

業績の推移

売上高は2200億円規模で横ばい

■売上高の特性
売上高は2007年から2200億円規模で横ばいの推移が継続しており、産業機械メーカーとしては珍しく、景気循環に左右されない推移となっている。日本製鋼所は、①景気動向に販売を左右されやすい産業機械事業、②景気動向に影響を受けにくい素形材・エネルギー事業、を主力事業としている。過去10年間は素形材・エネルギー事業の衰退を産業機械事業の成長が補ったことで表面的には売上高が極めて安定的に推移しているが、現在の日本製鋼所は景気動向に業績を左右されやすい産業機械事業が売上高の約80%を占めるにまで変容している為、将来的には景気循環に追従する性質へと変化していくと見込まれる。尚、素形材・エネルギー事業は資源開発需要に左右されやすく、天然ガス開発などが活況となると、クラッド鋼板鋼管で100億円規模の大型案件が発生することが少なくない。景気回復局面と資源価格上昇が重複する局面では売上高が拡大しやすいと見てよい。

■過去の売上高推移
2007年から2019年に至るまで売上高2200億円規模で横ばいの推移が継続しているが、売上高の構成は過去10年間で変容している点に注意したい。2007年には売上高の約40%を発電所関連製品を擁する素形材・エネルギー事業が占めていたが、福島第一原子力発電所事故によって原子力関連需要が世界的に急減したことで2019年には同事業の売上高は約20%未満にまで減少している。反面、2010年から樹脂機械・成型機の需要拡大による産業機械事業の成長が、素形材・エネルギー事業の衰退を補ったことで、日本製鋼所の売上高は表面的には横ばいを維持している。過去の推移を観察すると、2013年および2014年の売上高がやや低迷しているが、これは世界的な原子力政策の転換による素形材・エネルギー事業の売上高の急減に対して、産業機械事業の売上高が成長途上にあった点に起因している。2015年には産業機械事業の売上高が1443億円にまで拡大した為、2012年以前の売上高2200億円規模まで回復を果たした。

営業利益は200億円規模まで回復

■営業利益の特性
営業利益は2008年に記録した358億円から切り下がったレンジで推移しているが、2014年の75億円を底に反転して直近では200億円規模まで回復している。リーマンショックに端を発した景気後退や福島第一原子力発電所事故による原子力関連需要の急減などの事業環境の急激な変化に見舞われたにも関わらず、営業損失には転落することなく推移している点は評価できよう。2008年には営業利益358億円に到達したことで営業利益率16.1%を記録したが、これは原子力発電ルネッサンスと資源価格上昇の同時到来で発電所関連製品およびクラッド鋼板鋼管が特に好調であったことに起因している。現在とは事業環境がまったく異なる時期であった点を踏まえれば、当時の利益水準を再現することは当面は困難であると見てよい。

■過去の営業利益推移
過去10年間に渡って営業利益を安定的に確保している反面、2013年および2014年の営業利益の低迷が際立つ。特に、2014年から2016年の期間は営業利益こそ確保したものの、純損失が継続しており業績不振が明白であった。同時期に純損失に転落した原因は、①過去に販売した風力発電機の不具合に伴う風力事業損失引当金(2014年)、②原子力関連需要の低迷に伴う室蘭製作所が保有していた固定資産の減損損失(2015年・2016年)、である。いずれも過去に日本製鋼所の業績を支えた事業であったが、急激な事業環境の変化によって抜本的な見直しを迫られた。尤も、2017年以降にはこれらの重荷が解消したことに産業機械事業の好調が重なったことで、純利益を安定的に確保できる体質へと回帰している。

売上高の構成

産業機械事業(78%)

■事業内容
産業機械事業には、樹脂機械・成型機・FPD装置・防衛関連機器などの製造販売が含まれる。産業機械事業の扱う製品は極めて広範に渡るが、売上高の約70%は樹脂機械・成型機が占めており、残りの約30%をFPD装置・防衛関連機器などが分け合う構成となっている。樹脂関連の技術には定評があり、樹脂製品の基礎原料の造粒・押出装置から最終製品の加工・成型装置まで幅広く手掛けることで、樹脂関連の産業機械を網羅的に供給できる体制を築いている。特に、造粒機・二軸混練押出機・中空成形機などでは世界シェアの約30%を掌握しており、高い競争力を有している。日本製鋼所の成型機は、高品質な樹脂成型が要求される自動車部品の製造に重宝されている事情から、産業機械事業の樹脂機械・成型機の出荷台数はは自動車セクターの動向に左右されやすい。日本製鋼所は樹脂関連を成長分野と位置付け、2016年には射出成型機メーカーの名機製作所を株式交換で完全子会社化するなど、競争力の強化に注力している。FPD装置は、FPD(フラットパネルディスプレイ:液晶ディスプレイ・プラズマディスプレイ・有機ELディスプレイなどの総称)の製造に用いられており、最近ではフレキシブル有機ELディスプレイ製造装置の開発に熱心である。防衛関連機器は、戦前から火砲製造を手掛けてきた歴史的な経緯から、火砲システムとミサイル発射装置に強みを持つ。最近では、陸上自衛隊向けの10式戦車の主砲システム、海上自衛隊向けの短距離艦対空誘導弾「シースパロー」の艦載システムなどが代表的である。

■過去の売上高分析
産業機械事業の売上高は773億円から1736億円のレンジで推移しているが、2009年から売上高の増加傾向が継続したことで、日本製鋼所の主力事業は素形材・エネルギー事業から産業機械事業へと変化したと言える。産業機械事業の売上高の拡大を支えたのは樹脂機械・成型機であり、これらの売上高は641億円(2009年)から1252億円(2019年)へと拡大している。樹脂関連機器の売上高がこれほどの拡大を遂げたのは、自動車部品における樹脂素材の需要が増大したことに起因している。これは、①環境規制の強化による車重軽量化に樹脂素材が有用であること、②樹脂技術の進歩によって樹脂素材に置換できる部品が拡大したこと、③世界の新車生産台数が6488万台(2009年)から9570万台(2019年)に増大したこと、に起因している。防衛関連機器は売上高200億円規模で変化しておらず、売上高の成長性に欠ける展開が継続している。2009年までは風力発電機の売上高200億円規模が含まれていたが、2010年以降に不具合が噴出したことで事業縮小に舵を切り、2016年に製造停止したことで売上高が消滅している。かつて風力発電機で競合した三菱重工と日立製作所は先に撤退していた為、この撤退によってMW級風力発電機を製造できる日系企業は消滅した。

■将来の売上高予測
減少を見込む。産業機械事業の売上高の約70%を稼ぐ樹脂関連機器は景気動向に影響を受けやすく、目先はCOVID-19の流行による顧客企業の設備投資意欲の後退が重荷となりそう。実際、リーマンショックに端を発した景気後退局面の直撃を受けた2009年の日本製鋼所の樹脂関連機器の売上高は前年比▲50%の急減に見舞われている。過去10年間で樹脂関連機器の顧客が自動車セクターにシフトしたが、同セクターはCOVID-19の流行による経済停滞の打撃を特に受けており、設備投資意欲は冷え込んでいる。長期的には樹脂関連機器が成長事業であることは変わりないにせよ、目先は厳しい事業環境となる公算が大きい。防衛関連機器は景気動向に影響されにくい安定的な事業である為、樹脂関連機器の売上高の減少を補うことは期待できない。尤も、直近では産業機械事業は受注残1300億円規模を抱えている為、売上高の減少がやや時期ずれする可能性がある点には注意したい。

素形材・エネルギー事業(19%)

■事業内容
素形材・エネルギー事業には、鋳鍛鋼製品・クラッド鋼板鋼管などの製造販売が含まれる。長きに渡って兵器製造で培った技術を応用した鋳鍛鋼製品の製造を得意としており、発電所用鉄鋼部品(タービンケーシング・ローターシャフト・フランジ・ボイラー設備用鍛造鋼管など)の製造を主力としている。高い信頼性を要求される製品に注力することで差別化を果たしており、特に原子力発電所の圧力容器では世界シェア80%以上を確保している。素形材・エネルギー事業には、クラッド鋼板鋼管(鋼材表面を他の金属で金属組識的に全面被覆した複合材料)の製造販売が含まれており、様々な分野のメーカーにクラッド鋼板鋼管を供給している。日本製鋼所のクラッド鋼板鋼管は特にオイルメジャーに重宝されており、高温高圧や腐食環境などの過酷な環境に晒される石油や天然ガスなどのプラントに多用されている。

■過去の売上高分析
素形材・エネルギー事業の売上高は40億円から121億円のレンジで推移しているが、過去10年以上に渡って減少傾向が継続しており、直近では40億円規模にまで縮小している。売上高の減少は、2011年の福島第一原子力発電所事故によって原子力関連需要が世界的に急減したことに起因している。発電所関連の売上高は365億円(2009年)から125億円(2019年)にまで減少しており、世界的に原子力発電政策の転換が打撃となっている。クラッド鋼板鋼管の売上高も低迷しており、349億円(2009年)から130億円(2019年)にまで減少している。尤も、クラッド鋼板鋼管は欧米や中東のオイルメジャーから大型案件の受注を果たした場合に売上高が急伸する性質がある。2010年に豪オイルメジャーから天然ガス用クラッド鋼管を100億円規模で受注した他、2012年に中東向けの天然ガス用クラッド鋼管を150億円規模で受注している。こうした大型案件はプラント開発が活況を帯びる景気回復局面や原油高騰局面で獲得されやすい。

■将来の売上高予測
減少を見込む。鋳鍛鋼製品は景気後退局面においても底堅い反面、資源価格低迷によってクラッド鋼板鋼管の大型案件が見込めない状況が継続する。鋳鍛鋼製品は、景気動向に影響されにくく需要が安定している発電所用鉄鋼部品が主力であり、売上高は相対的には底堅く推移する。発電所用鉄鋼部品は定期交換部品などの需要が固いことに加えて、長期的な減少傾向が継続してきたことで発射台が低い点も考慮したい。2008年前後に資源価格高騰で資源開発が流行した際には、大型案件の受注でクラッド鋼板鋼管は売上高350億円規模に乗せる局面があったが、資源価格低迷が続く最近は売上高100億円規模での停滞が継続している。2020年は原油価格を始めとする資源低迷が著しいが、これは①COVID-19の流行による経済停滞に起因する資源需要の急減、②金融市場の混乱による投機的資金の遁走、③石油輸出国機構(OPEC)の減産合意失敗、に起因している。こうした要因による資源価格の低迷によって、クラッド鋼板鋼管の大口顧客となるオイルメジャーと資源開発企業が開発意欲を喪失している点が痛い。

営業利益の構成

産業機械事業(89%)

■過去の営業利益分析
産業機械事業の営業利益は13億円から238億円と上下変動が激しい。直近では日本製鋼所の営業利益の約90%を占めるに至っており、稼ぎ頭の事業となっている。尤も、営業利益が長期的な拡大基調にあるわけではない点には注意したい。2009年以前は現在とセグメント構成が異なる為に比較できないが、リーマンショックに端を発した景気後退局面を迎える以前にも営業利益100億円規模に乗せる時期があったと推察され、過去10年間の営業利益の成長は2009年という特段に営業利益が低迷した時期を起点に置いているが故である公算が高い。産業機械事業は顧客企業の設備投資意欲に業績が左右されやすい為、景気後退局面など顧客企業の設備投資意欲が冷え込む局面では営業利益が低迷しやすい。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。目先はCOVID-19の流行に端を発した景気後退局面における自動車セクターの設備投資意欲の低迷が継続することから、主力の樹脂関連機器の利益水準が低迷する。直近の産業機械事業の売上高1626億円のうち、樹脂関連機器は売上高1062億円を占めており、これが低迷すると利益水準は打撃を受けやすい。強いて言えば、ディスプレイ製造に使用されるFPD装置の引き合いが強まる可能性があるが、樹脂関連機器と比較すると極めて小規模な事業であることから、営業利益を下支えする効果は期待できない。

素形材・エネルギー事業(11%)

■過去の営業利益分析
素形材・エネルギー事業の営業利益は▲39億円から301億円のレンジで推移しているが、長期的な低迷局面が継続した結果、直近では営業利益20億円規模にまで縮小している。過去の推移を観察すると、営業利益が115億円(2011年)から▲5億円(2012年)にまで低下した2012年前後を境に利益水準が急落した構図が見え透く。これは、①リーマンショック以降に資源価格低迷が継続したことでクラッド鋼板鋼管の需要が振るわない点、②2011年に福島第一原子力発電所事故が発生したことで原子力関連需要が急減した点、に起因している。原子力関連需要が急減した2012年以降は、クラッド鋼板鋼管に営業利益が左右されやすい性質へと変化しており、資源開発需要によって利益水準が変化しやすい。実際、2018年以降は資源価格上昇によってクラッド鋼板鋼管の需要が拡大したことで、利益水準がやや好転して営業利益20億円規模を確保するに至っている。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。素形材・エネルギー事業の利益水準を好転させた資源価格がCOVID-19の流行を発端とする景気後退局面において急落したことで、利益水準が再び低迷に見舞われる。2020年に資源価格低迷が顕著となったがこれは、①COVID-19の流行による経済停滞に起因する資源需要の急減、②金融市場の混乱による投機的資金の遁走、③石油輸出国機構(OPEC)の減産合意失敗、に起因している。こうした要因による資源価格の低迷によって、クラッド鋼板鋼管の大口顧客となるオイルメジャーと資源開発企業が開発意欲を喪失していることから、当面は大型案件の期待はしにくい事業環境が継続しそう。発電所用鉄鋼部品は定期交換部品などの需要に支えられて堅調な推移が継続するが、原子力発電需要の低迷局面が継続する限りは営業利益を支える程の効果は期待しにくい。将来的には世界的な気候変動の深刻化によって原子力関連需要がやや回復する可能性はあるが、当面は期待できないだろう。

財務の健全性

手元資金は極めて潤沢な水準

■手元資金の特性
手元資金は過去10年間に渡って増加傾向が継続しており、直近では700億円規模にまで拡大している。売上高が年間2200億円規模と考えると手元資金としては185億円が目安となる為、極めて潤沢な水準である。直近では700億円を超える手元資金が滞留しており、現金過剰な状態に陥っている。日本製鋼所は2016年に公表した中期経営計画で潤沢な手元資金を、配当・自社株買い・設備投資・M&A投資に有効活用して株主価値を最大化すると掲げたが、手元資金の増加傾向は不変となっている。2015年に自社株買いを30億円規模で実行したが、配当金は凡庸な水準が継続しており、株主還元への積極姿勢は見られない。2019年にはニチユマシナリーを買収したが、手元資金を有効活用した積極攻勢には遠い姿勢が継続している。

■過去の手元資金分析
業績好調であった2010年まで手元資金400億円規模で停滞していたが、原子力関連需要の急減に見舞われた2014年以降に手元資金の増加傾向に転換している。これは、素形材・エネルギー事業における原子力関連機器への積極投資を中断したことに起因している。日本製鋼所はリーマンショックによる景気後退局面においても原子力関連需要を捉えて高い利益水準を維持していたが、稼いだ資金を活用して大型設備投資を繰り返していた経緯がある。2009年に発表した中期経営計画「JGP2012」の時期には将来的な原子力関連需要の急増に備えた設備投資を年間300億円規模で繰り返していた為、高い利益水準の割に手元資金は増加しなかった。尤も、2011年の福島第一原子力発電所事故によって事業環境が急変してからは設備投資に抑制的な姿勢へと転換した。2015年以降は産業機械事業が利益水準を底上げした反面、設備投資に抑制的な姿勢を継続していることで手元資金が滞留する構図となっている。

自己資本比率は業界中位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は2010年から増加傾向が継続しており、直近では44%に到達している。同業他社と比較すると、芝浦機械56.4%・東洋機械金属64.3%・住友重機械工業46.7%となっており、業界中位の水準である。自己資本比率こそ同業他社にやや見劣りするが、日本製鋼所が資産に占める現金比率が高水準であることで手元流動性が相対的に高い点を加味すれば、実質的な健全性には大差はないと見てよい。風力発電機からの撤退に伴う純損失の発生を除けば、リーマンショックに端を発した景気後退や福島第一原子力発電所事故による原子力関連需要の急減などの事業環境の急激な変化に見舞われたにも関わらず、営業利益を安定的に確保できている点を加味すれば、自己資本比率は必要十分な水準を堅持している。

■過去の自己資本比率分析
2013年に自己資本比率47%に到達した反面、2014年から下落に転換して2015年には自己資本比率37%にまで低落している。2014年以降の日本製鋼所は、原子力関連需要の低迷に伴う室蘭製作所が保有していた固定資産の減損損失を累計533億円を負担したことで利益剰余金が急減した為、純資産が減少して自己資本比率が低落した。利益剰余金は1049億円(2013年)から777億円(2015年)まで減少したことで、自己資本比率が減少した構図である。尤も、2015年で室蘭製作所の固定資産の減損損失が完了したことで、2016年以降は利益剰余金の蓄積が再開されており、自己資本比率は回復へと向かっている。

株価の割安感

BPSは増加傾向が長期継続

■BPSの特性
BPSは2015年および2016年の下落局面を除けば、過去10年間に渡って増加傾向が長期的に継続している。日本製鋼所は利益水準がそれなりに高い企業であり、過去10年間に渡って純利益が利益剰余金として安定的に蓄積されることでBPSが拡大している。過去10年間は事業環境の急激な変化による純損失がBPSを下落させる局面があったが、福島第一原子力発電所事故による原子力関連需要の急減という特殊要因であった点は考慮しておきたい。在外子会社や有価証券への投資額が大きい企業は株安局面や円高局面でBPSが上下変動しやすいが、日本製鋼所はいずれも小規模であることから経済環境によるBPS変動は少ない。

■過去のBPS分析
2007年から2013年の期間においてBPSは増加傾向を辿ったが2015年に急落している。これは2000年代後半の原子力関連機器による業績好調とその後の急激な衰退に起因している。2007年から2010年の期間において日本製鋼所は原子力関連需要を捉えたことで純利益150億円を超える業績好調が続いたことで利益剰余金が急増しており、純資産は852億円(2007年)から1208億円(2010年)にまで増加した。日本製鋼所はここで得た利益を元手に、将来的な原子力関連需要の急増に備えた設備投資を年間300億円規模で繰り返して固定資産を増大させた。反面、2011年の福島第一原子力発電所事故によって原子力関連需要が急落すると、固定資産の減損損失として累計533億円(2015年・2016年)を計上したことで純損失に転落しており、これがBPSの下落として表面化している。

PBRはやや割安な水準へ下落

■PBRの特性
PBRは長期的に0.71倍から7.0倍のレンジで推移しているが、2012年以降はPBR1.0倍をやや上回る水準が定着している。日本製鋼所のBPSが増加基調を継続する反面、原子力関連需要の急減によって株式投資家からの期待が剥落した点がPBRの下落として表面化している。2011年の福島第一原子力発電所事故によって原子力関連銘柄の時代は既に終焉しており、過去のPBR7.0倍水準への回帰は至難であろう。最近の日本製鋼所は産業機械メーカーとしての色彩を強めており、PBR水準は同セクターに準じた水準に落ち着いている。尤も、産業機械メーカーとしては利益水準はやや高めである為、PBR1.0倍を割り込む局面は限定的である。

■過去のPBR分析
2007年から2008年の期間においてPBR7.0倍に迫る割高圏で推移している点が顕著である。日本製鋼所は原子力発電所の圧力容器で世界シェア80%以上を確保していた為、2000年代に原子力発電ルネッサンスと呼ばれた時代には株式投資家の人気を博していた。2000年代後半に原子力発電が脚光を浴びたのは、①気候変動への対策、②原油などの資源価格高騰、③発展途上国の急激な成長によるエネルギー需要の増大、などの要因による。2008年にクリーンエネルギー拡大を掲げるオバマ大統領が誕生すると、世界的な原子力関連需要の更なる拡大への期待から、日本製鋼所の株価はPBR7.0倍に迫る割高圏にまで到達した。反面、リーマンショックを発端とする景気後退局面が到来すると原子力発電所への積極投資は絞られる様になり、2011年に福島第一原子力発電所事故が発生したことで原子力ルネッサンスは潰え、日本製鋼所の株価は本来の株価レンジへと回帰することとなった。

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は業績連動型である。日本製鋼所は配当政策として「安定的かつ継続的な配当の実施とその向上」および「企業価値及び株主価値の向上のため、現有事業の安定的な収益力の確保と新事業・新製品伸長に向けた設備投資、研究開発投資を進めるほか、財務体質の改善にも努める」を掲げており、配当金推移は業績に連動して推移している。2012年以前は安定配当を志向していたが、素形材・エネルギー事業の衰退によって産業機械事業へ主力事業がシフトしてからは配当金額を柔軟に変化させる姿勢へ転換している。産業機械事業は景気動向に業績を左右されやすい事情から安定配当には向かない為、妥当と見てよい。

■過去の配当金分析
2013年以降は配当金の低迷が続いたが、2017年に増配に転じた結果、直近では年間50円以上の水準へと回復している。配当金の低迷の原因となったのは、①過去に販売した風力発電機の不具合に伴う風力事業損失引当金(2014年)、②原子力関連需要の低迷に伴う室蘭製作所が保有していた固定資産の減損損失(2015年・2016年)、である。これらの負担によって日本製鋼所は財務体質がやや悪化しており、この回復が急務であったことから配当金が低迷した。尤も、産業機械事業の成長によって営業利益は確保できており、将来的な業績回復の目途は立っていたことで無配転落にまでは至らなかった点は救いであった。

配当利回りは3%以上へ急騰

■配当利回りの特性
配当利回りは長期的には日本株の平均的な配当利回りである2%前後にやや劣後する水準で推移してきたが、直近では3%を超える水準にまで急騰している。この配当利回りの急騰は、①産業機械事業の成長に支えられて業績回復を果たしたことによる増配、②景気減速を警戒した株価下落、に起因している。最近の日本製鋼所は景気動向に業績を左右されやすい自動車セクターに依存する樹脂関連機器を主力事業としていることもあり、COVID-19の流行による経済停滞で自動車セクターが打撃を受けたことで、株価下落が先行したことで配当利回りが急騰した構図である。安定配当を志向していた2012年以前と異なり、最近の日本製鋼所は配当金額を柔軟に変化させる姿勢に転換している為、業績懸念が生じると減配懸念が噴出しやすいか。

■過去の配当利回り分析
2014年から2016年の期間において配当利回り1%程度の水準を維持している点に着目したい。同時期の日本製鋼所は原子力関連需要の低迷によって室蘭製作所が保有していた固定資産の減損損失を累計533億円を負担したことで業績悪化に苦しんだが、配当継続したことで配当利回りは凡庸な水準に陥りながらも維持された。過去10年間に渡って日本製鋼所の事業環境は急激な変化を強いられたが、潤沢な手元資金と堅実な財務体質から無配転落せず地道な配当金の支払いを継続している点は評価できよう。

総合評価

目標株価

1650円

日本製鋼所は樹脂関連製品の成長で原子力関連需要の急減を補うことで過去10年間の事業環境の変化を凌いできたが、COVID-19の流行によって樹脂関連製品の需要が低迷局面を迎える。再び事業構造の変化を迫られる公算が高い点を踏まえれば、現在の株価水準はやや過大であろう。尤も、①主力事業となった樹脂関連製品においては世界上位のシェアを確保する高い競争力を有する点、②防衛関連機器や発電所用鉄鋼部品など底堅い需要を掴む事業を幅広く展開する点、③極めて潤沢な手元資金に支えられた堅実な財務体質、を加味すれば、この程度の株価水準で当面は推移するか。

投資判断

やや弱気

現在の日本製鋼所は、産業機械事業と素形材・エネルギー事業を擁しているが、COVID-19の流行によって両事業が共に低迷する局面を迎える点が痛い。過去10年間の日本製鋼所は素形材・エネルギー事業の急激な衰退を、産業機械事業の成長で補うことで業績回復を実現してきた。反面、COVID-19の流行によって目先の事業環境は、産業機械事業が極端な業績悪化を起こしやすい景気後退局面を迎えている。単なる景気後退局面に留まらず、樹脂関連機器の主要顧客である自動車セクターはCOVID-19の流行による新車販売台数の急減に苦しんでおり、世界的な新車販売台数の拡大を追い風に積極的な設備投資意欲を発揮した過去10年間とは既に異なる状況となっている。こうした事業環境においては産業機械事業が業績回復を支える構造は維持できない公算が高く、投資判断は下方修正を強いられる。更に、2017年からやや業績回復していた素形材・エネルギー事業が資源価格低迷によって再び業績低迷に回帰する見込みが高い点を考慮した結果、投資判断はやや弱気に設定せざるを得ないと判断した。