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企業レポート

日産自動車(7201)の分析|構造改革による再建の成否に着目

基本情報

日産自動車(7201)は、神奈川県横浜市に本社を置く自動車メーカーである。源流企業は1910年に設立された戸畑鋳物であり、当初は鋳造製品の製造を主力事業としていた。第一次世界大戦で業績を拡大した戸畑鋳物は、自動車事業への参入を企図して国産自動車メーカーの先駆けであったダット自動車を買収、1933年に戸畑鋳物自動車部を設立した。翌年の1934年に日産自動車として独立を果たして、「ダットサン」ブランドで自動車を製造販売した。戦後は自動車の生産を早々に再開、国産自動車メーカーの雄として成長を果たした。1966年には経営危機に陥ったプリンス自動車を併合、同社の「スカイライン」「グロリア」などのブランドを獲得している。戦後の早い時期から北米市場への参入に熱心であり、1970年代のマスキー法の成立を背景に北米市場における存在感を拡大した。1980年代には、90年代までに技術力で世界一を目指す「901運動」によって数々の名車を生み出したが、過剰な積極投資や労働組合との軋轢によって経営が傾斜していき、1990年代にはバブル景気の崩壊を契機に経営危機に陥る。その後、仏ルノーとの資本提携を締結して、同社から送り込まれたカルロス・ゴーンの下で経営再建に成功。2016年には三菱自動車工業を傘下に加えた結果、ルノー日産三菱アライアンスは販売台数で世界1位を獲得した。しかし、過剰な新興国市場への投資や、インセンティブによる販売促進が祟ったことで業績悪化が表面化した他、2018年にはルノー日産三菱アライアンスの立役者であったカルロス・ゴーンが逮捕される事態に陥っている。

目次

株価の推移

株価は2009年以来の水準に回帰

■株価の特性
2007年から2019年の期間において、日産自動車の株価は261円から1350円のレンジで推移している。過去10年間で日産自動車の新車販売台数は377万台(2007年)から551万台(2018年)へと増加したが、株価はリーマンショック以前に記録した1557円(2007年)を超えられない状況が続いている。長期的に見ても日産自動車の株価は1975年から350円台から1700円台のレンジでの推移が定着しており、右肩上がりでの株価上昇は望み難いと言えるだろう。歴史的に日産自動車は景気循環に呼応した株価の上下変動を描きやすく、バブル景気やいざなみ景気やアベノミクス景気などの局面では株価1500円前後の水準にまで上昇する反面、オイルショックやリーマンショックやCOVID-19の流行などの局面では株価300円前後の水準にまで下落する。景気循環に株価と業績が連動する典型的な景気循環株の値動きであることから、安定した株価と配当を期待することが難しい。かつて日産自動車は高い配当利回りから個人投資家の人気の投資先であったが、こうした性質をよく理解しておく必要があろう。

■過去の株価推移
2009年から2015年の期間において、株価上昇が安定的に続いていた点が目につく。日産自動車は北米市場への依存度が高いことからリーマンショックに端を発した景気後退局面において急激に業績が悪化したものの、翌年の2009年には早々に純利益を確保したことで株価は早々に大底を脱することに成功している。2009年から2012年の期間においては世界的な景気低迷が続いたことで株価は低調な推移が続いたが、2013年以降に世界的な景気回復局面が到来すると、日産自動車の株価は景気循環に呼応した株価上昇が続いた。とりわけ、2015年前後には1ドル120円前後の円安局面を迎えたことで、日産自動車の業績拡大が大いに期待されたことでリーマンショック以前の高値である株価1300円前後の水準にまで上昇を果たした。

日経平均株価との相関性が急落

■日経平均株価との相関性
日産自動車は日経平均株価の構成銘柄である。日産自動車の株価と日経平均株価の相関性は高い(2007年4月から2020年3月の相関係数:0.33)。日産自動車は景気循環に業績が連動しやすい自動車セクターに属することから、景気循環的な推移を描きやすい日経平均株価との相関性が高くなりやすい。実際、2007年から2016年の期間においては、日経平均株価との相関性が特筆して高い状況が継続しており、相関性の高さを印象付ける推移を描いている。ただし、2017年以降は相関性が急激に低下しており、既に日産自動車の株価と日経平均株価の相関性の高さは過去の話となりつつある点には留意したい。

■過去の日経平均株価との相関性
2017年以降は日産自動車の株価が日経平均株価に連動しない状況が継続しており、過去における相関性の高さは既に失われつつある。これは日産自動車の業績不振が主な原因ではあるものの、最近の日経平均株価が指数寄与度の大きいエクセレントカンパニーの株価に牽引される性質を強めていることも要因である。日経平均株価を牽引するエクセレントカンパニーの株価は景気後退局面においても底堅い推移を描き続けており、これによって日経平均株価が景気循環に連動しにくい性質へと変化している。こうした事情から、2019年の株安局面においては日経平均株価の下落が相対的に緩やかに留まっており、リーマンショック前後とは異なる構図となった。日経平均株価が景気循環的な推移を続ける日産自動車の株価とは異なる性質へ変化していることで相関性に乏しい状況が形成されていると見てよいだろう。

業績の推移

売上高は拡大傾向だが連結範囲に注意

■売上高の特性
日産自動車の売上高は、7.5兆円(2009年)から12.1兆円(2018年)のレンジで推移している。過去10年間で日産自動車の企業規模は拡大しているが、これは、①日産自動車の新車販売台数が377万台(2007年)から551万台(2018年)に増加した点、②自動車の機能向上で台あたりの販売価格が上昇した点、に起因している。販売台数の増加の割に売上高の増加が凡庸であるのは、販売台数の増加が著しい中国市場における売上高が連結対象に含まれない事情に起因しており、連結対象に含まれない東風汽車の売上高は直近では2兆円以上の規模に拡大していると推測される為、日産自動車の実質的な販売規模は過去10年間で大きく拡大したと見てよい。とはいえ、景気動向や為替動向に業績を左右されやすいのは自動車メーカーに共通する性質であり、新車需要が縮小する景気後退局面においては売上高が急速に減少することが珍しくない。とりわけ、日産自動車は海外売上高比率が80%に及ぶグローバル企業であることから為替動向に影響を受けやすく、円高局面において売上高が縮小することは珍しくない。

■過去の売上高推移
2009年から2015年の期間において、売上高が7.5兆円(2009年)から12.1兆円(2015年)にまで増加している。同期間における売上高の増加は、①リーマンショックで急減した北米市場の新車需要が回復した点、②中国市場など新興国市場における新車需要の拡大が進んだ点、③極端な円高局面が2013年以降に是正されたことによる為替効果、に起因している。とりわけ、2013年以降は世界的な景気回復局面による旺盛な新車需要が販売台数の増加を支えており、円安局面も相まって日産自動車の売上高は急速な改善を示した経緯がある。また、同期間は中国市場の新車需要の増加も著しく、同市場における販売台数が75万台(2009年)から135万台(2015年)にまで拡大している。2015年以降は売上高の増加が伸び悩んでいるが、これは為替がやや円高傾向に転換したことで円建て売上高が減少したことに起因している。実際、2015年以降も販売台数は増加を続けており、2017年には過去最高となる577万台に到達した。とはいえ、この時期における過剰な販売台数の拡大路線が後々のブランド価値の毀損と業績悪化の原因となったことは言うまでもないだろう。

営業利益は2015年から急速に悪化

■営業利益の特性
営業利益は▲194億円(2008年)から1121億円(2013年)のレンジで推移しており上下変動が激しいが、2013年以降は営業利益の減少が続いている。日産自動車の営業利益は極端な事業環境の悪化がない限り、自動車メーカーとしては安定的な利益水準を維持する性格が強い。本来であれば為替動向によって利益水準が上下変動を強いられるが、日産自動車は世界20ヵ国以上に存在する生産拠点で地産地消する傾向が強いことから輸出比率が低く、国内生産を主力とする同業他社と比較すると為替影響への耐性は悪くない。

■過去の営業利益推移
2015年からは営業利益の増加が失速して下落基調へ転換している。この営業利益の減少は、①為替レートが円高推移に転換した点、②米中貿易摩擦に端を発した景気減速による新車需要の停滞、③旧型車の販売台数を拡大させるために販売奨励金を積み増していた点、④2017年に発覚した完成検査問題への対処費用が重荷となった点、に起因している。2015年から2016年の期間における営業利益の減少は2016年に中国で発生したチャイナショックなどの事業環境の悪化が要因であるが、2017年以降は日産自動車の問題による減益が多い。2016年以降は旧型車が中心のラインナップで販売奨励金や値引販売を大々的に拡大したことで利益体質が悪化した他、2017年に発覚した完成検査問題は累計1000億円以上の減益要因となった。そして、2018年以降に米中貿易摩擦の激化によって世界の新車需要が伸び悩むと、従前から利益水準の悪化とブランド価値の毀損が進行していた日産自動車の利益体質は急激な低迷に陥るに至った。2019年にCOVID-19の流行による経済停滞と円高局面が到来すると事業環境は最悪となり、リーマンショック以来の営業損失への転落を余儀なくされる状況となった。

売上高の構成

自動車・販売金融事業(100%)

■事業内容
自動車・販売金融事業には、自動車および自動車部品の製造販売が含まれる。自動車・販売金融事業は世界20ヶ国以上に生産拠点を有しており、世界160ヶ国以上に販売網を展開するグローバル事業である。販売車種の大半は日産ブランドで販売されるが、高級車種を担う「インフィニティ」、新興国向け車種を担う「ダットサン」などをニーズに応じて展開する。伝統的にCセグメント以上の大型車種の商品力が高く、代表的な車種には「アルティマ」「ローグ」「キャシュカイ」などがある。日産自動車の強みは、世界屈指の巨大市場である米国市場と中国市場への進出を成功させた点にあり、これらの巨大市場で年間100万台以上を販売することで現在の企業規模に到達するに至った。反面、新興国市場はあまり得意とはしておらず、「ダットサン」ブランドの苦戦は有名である。このため、最近では新興国市場を得意とする三菱自動車工業に新興国市場のリーダーシップを引き渡して、日産自動車はコア市場(日本・米国・中国)へ回帰することを表明している。2010年以降は電動化技術や自動運転技術の開拓に経営資源を注入しており、これらの領域では同業他社に先行する領域が見られる。最近の例では、①ピュアEV「リーフ」「アリア」の販売、②シリーズハイブリッド「e-power」技術の普及、③運転支援技術「プロパイロット」技術の普及、などに積極的である。また、自動車・販売金融事業にとって1999年から続く仏ルノーとのアライアンス関係は極めて重要である。この関係は、①プラットフォームやコア部品の共通化による合理化、②共同購買・共同輸送によるコスト削減、③相互OEMによるラインナップの増強、など多岐に渡る利点がある。同アライアンスは2016年に三菱自動車工業が加わったことで年産1000万台規模にまで拡大しており、スケールメリットが重要な自動車業界において競争力の源泉として機能している。

■過去の売上高分析
自動車・販売金融事業の売上高は7.5兆円(2009年)から12.1兆円(2015年)のレンジで推移している。売上高の約50%を北米市場に依存する事業構造から、同市場の動向に業績を左右されやすい。特にリーマンショックによって北米市場が冷え込んだ2007年から2009年の期間においては、売上高が10.8兆円(2007年)から7.5兆円(2009年)への減少に見舞われる状況となった。逆に、2013年以降に北米市場が景気回復局面を迎えると順調に売上高を拡大させ、2015年には同市場の売上高が6兆円規模に到達している。特に2015年前後は北米市場における販売が好調であったが、これは、①消費者の嗜好が日産の得意とする中大型乗用車へシフトした点、②主力車種である「ローグ」や「アルティマ」などの新型車が投入された点、③リーマンショック以降の円高局面が緩和された点、に起因している。反面、2015年以降は米国市場の販売は成長が頭打ちとなり、2019年には前年比▲14.6%の急減に見舞われている。同年の売上高の急減は、①米中貿易摩擦に端を発した景気減速で新車需要が減少した点、②販売台数の過度な追求からの脱却を志向した点、に起因している。近年の日産自動車はフリート販売と販売奨励金に依存した過度な販売台数の追求がブランド価値の毀損と利益体質の悪化を引き起こしており、2019年からは構造改革の為に販売台数の追求に自制的な姿勢に転換している。こうした事情から2019年から北米市場における売上高が減少傾向に転じている。なお、売上高の推移に中国市場の売上高が含まれていないのは、2013年から合弁会社の東風汽車の連結方法が変更されたことに起因している。この変更によって、同年以降の日産自動車の連結売上高と連結営業利益には東風汽車の数値が含まれていない。東風汽車の売上高の詳細は公表されていないが、過去15年間で販売台数は30万台(2003年)から117万台(2019年)まで拡大しており、今や北米市場に並ぶ主力市場である。

■将来の売上高予測
減少を見込む。従前からの業績悪化に伴う構造改革によって生産能力を縮小することに加えて、COVID-19の流行によって主力市場の欧州市場と北米市場における新車販売が極端に落ち込んだ点が逆風となる。とりわけ北米市場の販売急減は痛撃であり、直近の2020年第1四半期において自動車・販売金融事業の売上高は前年比▲50.5%の下落となっており、COVID-19の流行による経済停滞の影響は甚大であった。既に世界の新車需要は底打ちして緩やかな回復局面に差し掛かりつつあるが、通期で売上高が急減することには変わりがないだろう。実際、日産自動車は2021年3月期の通期業績予想を売上高7.8兆円と見込んでおり、実に2009年以来の売上高8兆円割れに転落する公算が高い。また、長期的な目線では当面に渡って自動車・販売金融事業の売上高は横ばい推移が続く公算が高い。業績不振からの脱却を担うべく日産自動車が策定した事業構造改革計画「NISSAN NEXT」は、生産能力の適正化と販売の質の回復が主眼であり、販売規模の積極的な拡大には消極的である。こうした事情から、2017年前後に記録した売上高12兆円規模の回復は当面は期待し難いと見てよいだろう。

営業利益の構成

自動車・販売金融事業(100%)

■過去の営業利益分析
自動車・販売金融事業の営業利益は▲4700億円(2008年)から7422億円(2016年)のレンジで推移している。リーマンショック直後の2008年には営業損失▲1379億円を計上した反面、翌年の2009年以降には早々に営業赤字を脱却しており、円高局面が続いた2010年前後にも為替動向の逆風に関わらず営業利益5000億円規模を確保することに成功している。意外にも日本市場における営業利益が占める割合が少なくなく、2016年前後においては営業利益の約40%を日本市場が稼ぐ構図となっている。ただし、これは日本国内に所在する生産拠点からの輸出台数が稼いだ営業利益が含まれており、必ずしも日本市場の営業利益が傑出しているわけではない点に注意したい。2017年以降には営業利益が減少に転換しているが、これは、①日本市場で発生した完成検査問題が累計1000億円以上の減益要因となった点、②主力の北米市場での販売奨励金や値引販売が利益体質を悪化させた点、などに起因している。なお、営業利益の推移に中国市場の売上高が含まれていないのは、2013年から合弁会社の東風汽車の連結方法が変更されたことに起因している。この変更によって、同年以降の日産自動車の連結売上高と連結営業利益には東風汽車の数値が含まれていない。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による販売台数の急減と為替レートの円高推移が重荷となる。とりわけ、2020年第1四半期には新車販売台数が前年比▲48%の減少に見舞われたことで営業損失1539億円を計上する事態に陥っている。この状況に対応すべく日産自動車は固定費などで約1200億円におよぶコスト削減に成功させたが、約4250億円に及ぶ販売規模の急減による利益水準の悪化を相殺するには程遠い状況にある。ここから利益水準を回復させるには主力市場の北米市場における販売復活が急務となるが、2017年前後の過剰な販売台数の拡大路線で毀損したブランドの立て直しは容易ではない。とはいえ、COVID-19の感染拡大で急減した新車需要それ自体は緩やかな回復基調へと移行しつつあり、当初に懸念された致命的なまでの新車需要の消滅にまでは至らなかった点は救いではある。

財務の健全性

手元資金は潤沢な水準まで増加

■手元資金の特性
手元資金は過去10年間に渡って増加傾向が継続しており、直近では1.6億円(2019年)に到達している。売上高が年間10兆円規模と考えると手元資金としては8300億円が目安となる為、潤沢な水準である。自動車メーカーは景気循環に新車需要が追従しやすい性質から業績の上下変動が激しいことに加えて、事業環境の急激な変化に見舞われて生産能力が過剰となると固定費の高さが災いしてキャッシュが急激に蒸発することが珍しくない特徴がある。そのため、自動車メーカーにとって潤沢な手元資金の確保は企業存続の観点において特に重要である。とりわけ、日産自動車は同業他社と比較しても海外市場への依存度が高い事情があり、為替動向や景気動向の影響を受けやすいことから手元資金を厚く確保する必要があると見てよい。特に2010年以降の日産自動車はリーマンショック後の業績悪化の際に資金繰りに苦しんだ経験から手元資金を余裕をもって確保する傾向が強い他、取引銀行との間で合計1兆円以上のコミットメントラインを設定して資金繰りの余裕しろを維持している

■過去の手元資金分析
2019年に手元資金が急増して1.64兆円に到達している点に着目したい。同年の日産自動車は従前からの業績悪化とCOVID-19の流行が重複したことで純損失6712億円を計上する事態に陥り、自動車事業のフリーキャッシュフローは▲6410億円の流出となった。こうした状況にも関わらず、手元資金は前年比2777億円の増加を遂げているが、これは、①通期では営業キャッシュフローが1185億円の黒字であった点、②有利子負債の拡大で約2.15兆円を資金調達した点、③固定資産の取得などの投資キャッシュフローを抑制した点、に起因している。もっとも、2019年第4四半期以降の日産自動車はCOVID-19の流行による経済停滞で事業運営が混乱したことで営業キャッシュフローが急激に先細りしており、自動車メーカーならではの高い固定費によって手元資金が急激に減少する状況に陥っている。この状況において日産自動車は資金繰りを維持する為に、①総額1兆円超の外貨建て社債の発行(2020年9月)、②メガバンク3行と日本政策投資銀行に総額5000億円規模の融資とコミットメントラインの設定を要請(2020年4月)、などの施策を打ち出している。現状は資金繰りへの懸念は薄いとはいえ、これらの施策が財務体質を痛める要因として将来的に重荷となるリスクは念頭に置きたい。

自己資本比率は業界上位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は長期的に28%前後の水準で推移しているが、直近では23.9%に到達している。同業他社と比較すると、トヨタ自動車39.0%・本田技研工業39.2%・マツダ42.1%・いすゞ自動車44.3%・三菱自動車工業39.9%となっており、業界下位の水準である。自動車メーカーは巨額の投資資金を借入金で賄うことが多い背景から自己資本比率が停滞しやすい傾向があり、日産自動車はこの例に漏れない。自動車セクターは景気後退局面に業績不振に陥りやすいことから自己資本比率を厚く確保する要請が強いが、資本効率の観点からは自己資本比率を適正レベルで留めることも重要である。日産自動車は同業他社よりも資本効率を重視する財務政策を採用してROEを高める努力をしてきた経緯があるが、奇しくもCOVID-19の流行によって想定し得ない事態への財務耐久力は同業他社に劣る難点が浮き彫りになった。

■過去の自己資本比率分析
過去10年以上に渡って自己資本比率30%前後で安定的に推移してきたが、2019年に自己資本比率25%を割り込んでリーマンショック以降で最低の水準に下落している。この自己資本比率の減少は、同年の日産自動車が純損失6700億円を計上したことに起因している。巨額の純損失の計上によって、日産自動車の利益剰余金は4.9兆円(2018年)から4.1兆円(2019年)にまで下落しており、これが自己資本比率を低落させる要因となっている。更に、COVID-19の流行による円高局面と株安局面の到来が純資産を下落させており、前年から為替換算調整勘定▲2560億円と有価証券評価差額金▲464億円となったことが重荷となっている。日産自動車は純資産が為替動向によって左右されやすい為、円高局面では自己資本比率が下落しやすい点に注意したい。

株価の割安感

BPSは減少傾向へ転換

■BPSの特性
BPSは2008年から安定的な増加傾向が継続していたが、2017年をピークに下落基調に転換している。リーマンショックで北米市場の新車需要が急減した2008年を除けば、日産自動車は安定的に純利益を確保することによる利益剰余金の蓄積が進んでおり、BPSは安定的に拡大している。ただし、日産自動車に限らず、自動車メーカーは事業運営の失敗や事業環境の急変によって巨額の純損失が起こりうる業界であり、根本的にBPSの安定的な拡大を継続することが難しい事情がある。実際、日産自動車が純損失を計上した2008年と2019年には急激なBPSの下落に見舞われている。なお、日産自動車は海外拠点などを含む在外子会社への投資額が大きい為、在外子会社の評価額が減少する円高局面や株安局面では純資産が減少しやすい。

■過去のBPS分析
2018年から2019年の期間におけるBPSの減少が顕著である。同年に日産自動車のBPSは1355円(2018年)から1038円(2019年)まで減少しており、2013年以前の水準に退行する事態となった。このBPSの急減は、①同年の日産自動車が純損失6716億円を計上した点、②COVID-19の流行による株安局面と円高局面が純資産を減少させた点、に起因している。同年の日産自動車は過去の拡大路線で悪化した事業構造から脱却するにあたって、生産能力の縮小で余剰となる生産設備を中心に総額5406億円の減損損失を計上した。更に、COVID-19の流行による株安局面と円高局面が日産自動車の保有資産の評価額を減少させたことがBPSの減少を加速させた。もっとも、巨額の純損失は利益剰余金を急減させたとはいえ、過去の蓄積が潤沢であったことが幸いして日産自動車の利益剰余金は4.1兆円規模を維持している。

PBRは歴史的な割安圏にまで下落

■PBRの特性
PBRは長期的に0.34倍(2019年)から1.43倍(2007年)のレンジで推移しているが、PBRの低落が長期的に続いている。このPBRの下落は、過去10年間において日産自動車が純利益を安定的に確保してBPSを続伸させた反面、株価が伸び悩んでいることに起因している。BPSの上昇に株価が連動せずにPBRが下落する原因としては、①急激なCASEシフトなど自動車業界の変化が著しいことで先行きを見通しにくい点、②景気動向に株価が追従する景気循環的な性質が強い点、③新興国市場の成長による新車需要の急拡大が一服した点、などに起因していると推測されるが、説明は容易ではない。日産自動車は電動化技術や自動運転技術など、米テスラに類似する先進技術を保有しているが、同社と異なり株式投資家の注目を浴びることもなく、PBRの長期的な下落が定着する状況である。なお、この現象はトヨタ自動車や本田技研工業などの同業他社においても発生しており、日産自動車に固有の問題ではない。

■過去のPBR分析
2017年からは特にPBRの下落が加速しており、直近ではPBR0.34倍(2019年)にまで下落している。従前から日産自動車のPBRは下落傾向にあったが、2017年以降は日産自動車の業績不振と不祥事によって株価が下落したことで特にPBRの下落が加速する事態に陥った経緯がある。日産自動車は2017年9月に完成検査問題が発覚した他、2018年に代表取締役会長のカルロス・ゴーンが逮捕されるなど経営面の混乱が株式投資家の失望を招いており、これが株価下落を加速させた。株価こそ下落したとはいえ、2019年に業績不振が表面化するまではBPSが顕著な減少には至らなかったことで、株価下落がPBRを押し下げる状態が継続した。更に、2019年にCOVID-19の感染拡大によって株安局面が到来すると日産自動車の株価が急激な下落に見舞われたことでPBRは一段と低迷する事態に陥っている。

配当金の推移

配当金は連続増配型

■配当金の特性
配当政策は連続増配型である。日産自動車は配当政策として「手元資金の水準、利益及びフリーキャッシュ・フローの実績や見通し、将来に向けた必要投資等を勘案しつつ、安定的な配当を行うことを目指す」を掲げており、できるだけ配当金を安定させる傾向が強い。日産自動車の配当金は連続増配によって右肩上がりの推移を描いているが、実際の配当性向は概ね30%前後の水準に留まってあり、同業他社と比較しても配当水準は常識の範疇である。実際、2017年までは日産自動車は(過剰な規模拡大によるストレッチされた業績とはいえ)業績好調であったことから配当金の増加には業績の裏付けがあったと見てよいだろう。こうした背景から、過去には個人投資家を中心として連続増配銘柄として人気を集めたが、結果的には急激な業績悪化によって連続増配は途絶えることとなった。

■過去の配当金分析
2019年に急激な減配が起こったことで、リーマンショック以来の配当水準にまで配当金が減少している。同年に日産自動車の配当金は年間57円(2018年)から年間10円(2019年)にまで減配されており、減少率は▲82%に及ぶ。この配当金の減少は、同年の日産自動車が業績悪化によって巨額の純損失を計上したことに起因しており、中間配当こそ10円を支払ったものの期末配当は0円に転じた。日産自動車は2019年3月期決算の時点では2019年の配当金は年間40円になると説明していたが、同年の業績悪化が想定よりも深刻化したことで配当予想を撤回して期末配当0円としたことで年間10円にまで減少した経緯がある。実際、2019年の事業環境の悪化は、①米中貿易摩擦の激化で北米市場が景気減速が鮮明化した点、②日産自動車の構造改革に関わる減損損失を追加計上する必要に迫られた点、などの逆風が多かった。結果的には2019年第4四半期にCOVID-19の流行による経済停滞が業績悪化に追い打ちをかけており、配当金の支払いが厳しい情勢が続くこととなっている。

配当利回りは過去最高水準に到達

■配当利回りの特性
配当利回りは0%(2009年)から6.28%(2018年)のレンジで推移しているが、配当利回りの増加が腰折れしている。2010年以降の日産自動車は連続増配に熱心であったことから配当利回りは右肩上がりの増加が続き、2018年には配当利回り6%を上回る水準にまで到達している。この配当利回りは日本株の平均的な配当利回りを大きく上回っており、知名度の高い企業であることも相まって個人投資家から人気を集めた時期もあった。ただし、この配当利回りの増加は日産自動車の継続増配という要因のみならず、2014年以降に日産自動車の株価が停滞していたことも重要な要因である。仮に日産自動車の株価が上昇していれば連続増配が為されても配当利回りは横ばいとなるが、日産自動車の株価は2014年から横ばいが続いており、これが配当利回りの上昇に貢献を果たしたと見てよい。実際、日産自動車は2021年3月期の通期無配を表明しており、リーマンショックに端を発した急激な景気後退に見舞われた2009年以来の無配転落を経験する事態となっている。

■過去の配当利回り分析
2019年の配当利回りの急落が顕著である。同年は配当利回りが6.28%(2018年)から2.6%(2019年)にまで減少している。この配当利回りの急落は日産自動車が急激な業績悪化を踏まえて年間10円への減配に踏み切ったことに起因しているが、前年の高い配当利回りからの急落が鮮烈であっただけに株式投資家の失望は相当であった。2019年は構造改革に伴う巨額の純損失の計上とCOVID-19の流行による業績悪化が重複したことで株価が急落していた時期にあたる為、株式投資家は株価の急落と配当金の減配という二重苦に直面する事態に陥っている。とはいえ、そもそも自動車メーカーは景気動向や為替動向などに業績を左右されやすいことから安定配当を期待しにくい点には注意する必要があったと見る向きは多い。

総合評価

目標株価

390円

歴史的な安値圏まで株価下落したとはいえ、業績回復のドライバーとなる新型車の投入ラッシュは未だに道半ばであることから当面は株価の下値模索が継続する公算が高い。とりわけ、COVID-19の流行に端を発した景気後退局面における新車需要の低迷が業績回復の足枷になることは必然であり、更に円高局面が継続していることが利益水準の向上にとって重荷となる。こうした状況においては株価上昇を安易に期待することは困難であり、当面はこの程度の株価水準で停滞する公算が高い。強いて言えば、減損損失と構造改革費用を既に計上していることから更なる業績の下振れ余地が以前よりは限定的となっている点は好感できるか。

投資判断

やや弱気

現在の日産自動車は従前からの業績悪化とCOVID-19の流行に端を発した景気後退と円高進行が重複したことでリーマンショックを超える打撃を被った状況にある。既に減損損失と構造改革費用を計上したとはいえ、過去における過度な販売台数の追求によって毀損したブランド価値を回復させるのは容易ではない。今後の日産自動車の業績を占うのは、事業構造改革計画「NISSAN NEXT」の成否であろう。同計画の構造改革の要は、①過剰な生産能力の削減による効率化、②積極的な新車投入と商品ラインナップの最適化、③固定費を2018年から3000億円の削減、である。要するに、コスト削減と効率化によって企業体力を強化しつつ、魅力ある新型車の連続投入によって業績回復を期す計画といえる。その為、これから新型車の投入ラッシュの成否が業績回復の要と言ってよいが、不幸にもCOVID-19の流行による業績悪化が追い打ちとなって財務体質が悪化した日産自動車にとっては排水の陣となる新型車の連続投入である。根本的には「e-power」や「プロパイロット」に代表される先進技術を擁していることから商品力の高い製品を投入すると見込まれるが、世界的な景気後退局面によって新車販売が低迷する状況においてどれほど販売台数を獲得できるかは未知数であることは否めない。日産自動車への投資判断にあたっては、既に減損損失と構造改革費用を計上している点を評価しつつ、COVID-19による景気後退局面における販売回復の成功に不透明感が強く残る点を加味して、やや弱気に設定した。