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企業レポート

日立造船(7004)の分析|ゴミ焼却発電で世界的大手へと躍進するも株価低迷が継続

基本情報

日立造船(7004)は、大阪府住之江区に本社を置く総合重工メーカーである。源流企業は1881年にイギリス人実業家のE.H.ハンターによって創業された大阪鐵工所であるが、1936年に日立製作所の傘下入りしたことで日立造船に改名した経緯がある(戦後の財閥解体によって日立グループからは離脱)。戦前においては日本三大造船メーカーの一角として日本造船業の中核を占めていたが、1980年代の造船不況で深刻な経営危機に陥って従業員の約70%が同社を去った苛烈な経験から、早々の造船業からの撤退を決意した。1990年代には杜仲茶・ヒラメ養殖・酒造・建材製造・旅行代理店・ゴミ処理・インフラなど造船とは無縁の事業領域へ積極的に進出し、特に杜仲茶・ゴミ処理・インフラの領域で成功を収めた。事業転換の成功を経て、2003年には祖業の造船業から撤退、現在はプラント・機械・インフラの製造を主力事業とする総合重工メーカーへと変貌している。特にゴミ焼却発電事業では世界シェア最大手の一角を占めるまでに至っており、事業転換の成功例として殊更に有名である。

目次

株価の推移

株価はレンジ推移がやや底抜け

■株価の特性
株価は2007年以降は300円から1200円のレンジで推移しているが、長期的な下落基調が継続しており、直近では300円台での推移を強いられている。尤も、造船バブルの到来によって株価が割高水準に上昇していた2007年前後を除けば、概ね400円台から700円台のレンジでの横ばいの推移が長期的に継続している。日立造船は過去10年間で売上高4000億円規模にまで拡大させながら2000年代の構造改革で傷んだ財務体質を回復させたが、株価の上昇には結びついていない。これは、①日立造船の利益水準が過去10年間に渡って停滞気味である点、②環境・プラント事業が主力事業となったことで景気動向に業績が左右されにくい性質に変容している点、③ゴミ処理発電の需要拡大が高まらず将来性を想起させる手掛かりに乏しい点、に起因していると推測される。2018年12月には長年の底値圏であった株価400円台を割り込んでの推移が定着しており、株価低迷が更に悪化している点が懸念される。

■過去の株価推移
造船バブルによって造船業の株価が高騰していた2007年前後には株価1200円台の高値圏にまで上昇している。同時期2002年に造船業から撤退した日立造船が造船バブルで株価上昇した理由は、①ユニバーサル造船および内海造船の大株主であり株価上昇を通じて間接的に造船バブルの恩恵を受ける点、②機械事業に残存していた船舶用エンジンや舶用甲板機械が直接的に造船バブルの恩恵を被る点、に所在する。造船バブルによる株価上昇を受けて日立造船が、①内海造船の発行済み株式数の32%をカレイドホールディングスに譲渡(2006年)、②ユニバーサル造船の発行済み株式数の35%をJFEホールディングスに譲渡(2008年)、して合計450億円の特別利益を確保する立ち回りによって業績を底上げした点も株価上昇に貢献している。尤も、内海造船の株式については造船バブル終息後にカレイドホールディングスから取得して同社の大株主の地位を取り戻している。

日経平均株価との相関性は皆無

■日経平均株価との相関性
日立造船は日経平均株価の構成銘柄である。日立造船の株価と日経平均株価の相関性は皆無である(2007年4月から2020年3月の相関係数:▲0.05)。2013年のアベノミクスによる株高局面の初動までは日経平均株価との相関性が高い推移を描いていた反面、2014年以降は右肩上がりの株価上昇を遂げる日経平均株価に置き去りにされる構図となっている。日立造船は過去10年間で売上高4000億円規模にまで拡大させながら2000年代の構造改革で傷んだ財務体質を回復させたとはいえ利益水準は成長はしておらず、日経平均株価を牽引するエクセレントカンパニーの躍進と比べれば劣後する感は否めないか。

■過去の日経平均株価との相関性
2014年初頭に日立造船が株価急落して以降、日経平均株価に追従しない性質へと変容している点が顕著である。2014年の日立造船の株価急落の契機となったのは、2014年2月に経常利益の通期予想を約40%の下方修正したことである。実際、2013年以前の日立造船は純利益70億円を優に上回る利益水準を確保していた反面、2014年以降は純利益50億円に届かない局面が増加する状況となっており、利益水準の低迷が嫌気された構図と見てよい。2013年以降の世界的な景気回復局面の到来で業績回復を遂げる企業が続出する中で、敢えて利益水準が悪化した日立造船に投資する向きが限られたことが株価低迷の引き金を引いたと言えよう。浮き沈みが激しい造船業から撤退した後の日立造船は景気動向に業績が左右されにくい性質に変容している為、これが株高局面に素直に追従しない株価推移を惹起していると推測されるか。

業績の推移

売上高は4000億円規模へ到達

■売上高の特性
売上高は2012年までは3000億円規模で推移してきたが、2013年以降は売上高が拡大基調で推移した結果、直近では4000億円規模に到達している。過去10年間で日立造船はゴミ処理発電施設の旺盛な需要に支えられて売上高を拡大した他、2010年に同業の瑞イノバを買収して連結子会社としたことで売上高を拡大させることに成功した。現在では過去に日立造船および瑞イノバが建造してきたゴミ処理発電施設へのアフターサービスによる安定的な継続収入が増加したこともあり、売上高4000億円規模が定着している。尤も、ゴミ処理発電施設が属する環境・プラント事業以外の事業はいずれも過去10年間で売上高が拡大しておらず、事業ごとの明暗が分かれる結果となっている。日立造船は2017年に発表した新長期ビジョン「Hitz 2030 Vision」で2030年に売上高1兆円を目標としており、この実現にあたって、①既存事業の売上高6000億円以上、②M&A及び新規事業による売上高3000億円以上、を掲げている。

■過去の売上高推移
2008年から2012年の期間において売上高が横ばいで推移しており、リーマンショックに端を発した景気後退局面における影響が些少である点が目につく。これは景気動向の影響を受けにくいゴミ処理発電施設およびインフラ設備を主力事業としていることに起因している。尤も、2008年から2012年の期間の日立造船は2000年代後半に到来した造船バブルによって、船舶用エンジンや舶用甲板機械が好調であったことで、精密機械やプロセス機械など景気動向の影響を受けやすい製品の売上高の縮小を補完した経緯がある点には注意したい。

営業利益は120億円前後で停滞

■営業利益の特性
営業利益は59億円から151億円のレンジで推移しているが、概ね100億円以上の規模を維持しており、売上高の成長に反して停滞感が強い。営業利益率は直近では3.4%に留まっており、総合重工メーカーとしては利益水準は低い。営業利益の金額こそ横ばいであるが、過去10年間で日立造船の収益構造は変容しており、瑞イノバを買収した2011年以降はゴミ処理発電施設が含まれる環境・プラント事業が営業利益の大半を稼ぐ状況となっている。近年の日立造船は機械事業およびインフラ事業の利益水準の低迷が継続しており、事業の多角化によって複数の収益基盤を確保する理想からは外れた状況が続いている。主力のゴミ処理発電施設は建造後のアフターサービスによる安定的な継続収入が見込める為、浮き沈みが激しい造船業を営んでいた時代と比べれば営業利益は安定的となった点は事業転換の成果か。

■過去の営業利益推移
2017年および2018年の営業利益の低迷が殊更に顕著である。これは連結子会社の瑞イノバにおいて経営混乱が発生したことで稼ぎ頭の環境・プラント事業が失速したことに起因する。この経営混乱は、①大型案件が相次いだことでプロジェクトマネジメントの質が低下した点、②日立造船と瑞イノバの間の連携が希薄であったことで支援が行き届かなかった点、③瑞イノバがアフターサービスに弱く過去に建造したゴミ処理発電施設からの継続収入が弱体であった点、に起因している。2019年には瑞イノバの経営混乱が終息に向かったことで再び営業利益150億円規模へと急回復を果たしたが、アメリカにおいて発生したシールド掘進機訴訟で特別損失64億円が発生したことで純利益は21億円に留まっている。日立造船は過去10年間で売上高の拡大にこそ成功した反面、直近では瑞イノバの経営混乱やシールド掘進機訴訟の和解金などの苦難が続いたことで利益水準は低迷している

売上高の構成

環境・プラント事業(63%)

■事業内容
環境・プラント事業には、ゴミ焼却発電施設・リサイクル施設・水処理施設・発電システム・バイオマス利用システム・海水淡水化プラントなどが含まれる。日立造船は多種多様なプラントを建造する能力を有しているが、事実上はゴミ焼却発電施設と海水淡水化プラントが主力製品となっており、環境エンジニアリングを手掛ける事業と見てよい。日立造船は造船メーカーであった時代からゴミ焼却発電施設の製造を手掛けていたが、造船業からの撤退によって主力事業へと昇格した。当初はゴミ焼却発電施設大手の瑞イノバからライセンス供与を受けていた経緯があるが、2010年に同社を買収することで海外展開を加速した。同社の実績を含めれば、日立造船が関与したゴミ焼却発電施設は世界400拠点を超えており、ゴミ焼却発電における世界最大手の一角となっている。

■過去の売上高分析
環境・プラント事業の売上高は2010年前後は1227億円規模に留まっていたが、2011年から2016年の期間で売上高を拡大させて直近では2500億円規模に到達している。日立造船は2000年代からゴミ焼却発電施設の将来性に着眼して事業育成してきた経緯があり、特に2010年以降はゴミ焼却発電の需要が拡大したことで売上高を成長させてきた。このゴミ焼却発電の需要拡大は、①新興国経済の急激な成長に伴うエネルギー不足、②2011年の福島第一原子力発電所事故による原子力政策の失速、③気候変動の深刻化による化石燃料に依存しないゴミ焼却発電への着目、に起因している。過去の推移を観察すると、2011年の売上高の拡大が顕著であるが、これは欧州におけるゴミ焼却発電最大手のイノバを買収したことに起因している。2012年から2016年の期間においては海外におけるゴミ焼却発電施設・水処理施設の需要拡大を追い風に売上高が拡大してきたが、2017年以降は売上高が踊り場を迎えている。これは、①連結子会社のイノバの経営混乱による売上高停滞、先進国におけるゴミ処理発電施設の新設需要の一服、③新興国経済の混乱によるゴミ処理発電施設の需要停滞、が原因である。尤も、環境・プラント事業の売上高の約60%が既存施設に対するアフターサービスによるものであり、新設需要が一服したとはいえ過去10年間で新設したゴミ処理発電施設から継続収入が得られる体質へ変容している点には注意したい。

■将来の売上高予測
横ばいを見込む。目先はCOVID-19の流行による景気後退による欧州および新興国の経済停滞が懸念ではあるが、主力のゴミ焼却発電施設の開発運営への影響は相対的に少ないと見込む。2020年5月の時点では、欧州における一部の開発案件を除けば工事進捗の遅れは影響些少に留まると発表している。リーマンショックに端を発した景気後退局面の前例では環境・プラント事業は売上高の減少を相対的に軽微に留めており、COVID-19の流行に端を発した景気後退局面において同様の性質が発揮されるかが着目されるか。尤も、環境・プラント事業の売上高の約60%が既存施設に対するアフターサービスによるものである点を踏まえれば、売上高の急激な減少は起こり得ないだろう。最近の日立造船は海外においてゴミ焼却発電施設のAOM(アフターサービスおよび運営整備を一貫して担う形態)への進出を画策しており、第一弾となるオーストラリアでの開発案件では2022年から約20年間のAOM契約を締結している。この動きが更に拡大すれば、売上高の更なる拡張と安定化が望めるだろう。

機械事業(26%)

■事業内容
機械事業には、船舶用エンジン・自動車向けプレス機械・石油化学プラント向け圧力容器等のプロセス機器・各種精密機械・水素発生装置などが含まれる。過去の事業多角化で培ったノウハウを活用して広範な製品を手掛ける事業となっている。特定の分野に偏らない事業展開が特色であり、直近の売上高の構成は船舶用エンジン19%・プレス機械24%・プロセス機器18%・精密機械24%・その他16%となっている。特にプロセス機器においては、2012年に印ISGECと現地合弁会社を設立することで、コスト競争力の強化とインド市場への積極攻勢を図った。実際、2014年には現地合弁会社がインドでゴミ焼却発電施設の受注に成功しており、日立造船にとって初となるインドでの受注成功に貢献した。造船業から撤退したとはいえ、船舶用エンジンの製造は継続しており、舶用電子制御ディーゼルエンジンにおいては、世界最大手の独マンディーゼルおよび芬バルチラのダブルライセンスを保有する唯一の日系企業である。精密機械は特殊鋳鉄や複合素材を活用した工作機械向け部品の製造を得意としており、シリコンウエーハの研磨機に使用されるラッピングプレートにおいては世界シェアの約70%を掌握している。

■過去の売上高分析
機械事業の売上高は過去10年間に渡って805億円から1168億円のレンジで推移しており、良くも悪くも停滞感が強い。尤も、機械事業は景気動向に売上高を左右されやすい製品が多い点を踏まえれば、2008年以降の景気低迷局面と2013年以降の景気回復局面の売上高に大差がない点は意外である。過去の推移を観察すると、2010年に売上高1168億円を記録した後、2011年から2013年にかけて売上高1000億円未満で低迷しているが、これは船舶用エンジンの売上高の減少に由来している。2008年から2010年の期間は、2000年代後半の造船バブルで投機的に発注された船舶が大量建造されていた経緯から、船舶用エンジンの需要が旺盛であり、これが機械事業の売上高を支えた。2012年以降は船舶用エンジンの需要低迷に見舞われた反面、世界的な新車販売台数の拡大によって自動車向けプレス機械の売上高が拡大した他、景気回復局面の到来によって精密機械部品の売上高が拡大した。2015年には原子力関連機器の大口受注や環境規制強化による省燃費な船舶用エンジンの需要拡大によって売上高を1044億円にまで回復させたが、同年以降は売上高がほぼ横ばいで推移する停滞局面を迎えている。機械事業は広範な製品を手掛けている特色を活かして、それぞれの製品の好不調を相互に補い合いながら売上高を維持している構図が読み解けるだろう。

■将来の売上高予測
減少を見込む。COVID-19の流行を発端とする景気後退局面において機械事業の主力を担う船舶用エンジン・自動車向けプレス機械・プロセス機器・精密機械の事業環境が更に悪化すると見込む。船舶用エンジンは景気後退局面における荷捌量の減少が船腹過剰が加速することで業績不振が継続する他、環境規制強化による省燃費な船舶用エンジンの需要拡大が一過する反動が懸念される。自動車向けプレス機械は、COVID-19の流行で新車販売台数の急減に見舞われた自動車メーカーの設備投資意欲の後退が重荷となる。プロセス機器および精密機械は日立造船の事業の中でも特に景気動向に業績が左右されやすく、景気後退局面における売上高の減少を強いられそう。強いて言えば、半導体需要が相対的に底堅く推移することから半導体製造装置向けの精密機械は底堅く推移しそうだが、広範な製品を手掛けている機械事業の業績を下支えする程の規模ではないことから売上高の減少は不可避か。

インフラ事業(8%)

■事業内容
インフラ事業には、橋梁・水門扉・煙突・海洋土木・シールド掘進機・防災システム・風力発電などが含まれる。広大な敷地と鉄鋼技術を有する造船所は橋梁建造に適していることに加えて、好不況の落差が大きい造船所にとって閑散期の生産能力を活用できる点で魅力的な事業であることから、造船メーカーが橋梁などの鉄鋼構造物を手掛ける例は多い。日立造船は造船業からの撤退に際して派生事業の鉄構事業は残存させた過去があり、鉄構事業に他のインフラ関連の事業を合流させ、インフラ事業として成立させた経緯がある。特に橋梁においては100年以上の歴史を有しており、東京ゲートブリッジ・明石海峡大橋・夢洲大橋など日本を代表する大型橋梁の建造に参加してきた。2004年には世界最長級の複合斜張橋である香港のストーンカッターズ橋の建造に参加しており、橋梁建造における高い技術力を発揮している。橋梁以外にも広範な製品を手掛けるが、特に海面高をリアルタイムで計測して津波観測などに役立てるGPS海洋ブイにおいては一日の長があり、日本国内で運用されているGPS海洋ブイ18基は日立造船が国土交通省へ納品したものである。

■過去の売上高分析
インフラ事業の売上高は194億円から383億円のレンジで推移しているが、2015年以降は概ね300億円規模で推移している。2011年から2013年の期間のみ売上高300億円を割り込む状況に陥っているが、これは日本大震災が発生した2011年以降は復興目的以外の公共事業が緊縮された事情から低調な推移を強いられたことに加えて、同業他社との受注競争が激化したことに起因している。2015年以降には再び橋梁の建造需要が回復に向かったものの、売上高300億円前後で再び成長は頭打ちとなっている。2017年以降は橋梁の耐震補強の大型案件の受注などに支えられて売上高をやや拡大させたが、それでも直近の売上高は335億円に留まっており、成長性には乏しい事業となっている。2014年からはインフラ輸出を旗振りする日本政府と連携して、GPS海洋ブイの海外輸出へ注力しているが、インフラ事業の売上高を底上げする程の事業規模には至っていないのが実態である。

■将来の売上高予測
横ばいを見込む。公共事業への依存度が高いインフラ事業はCOVID-19の流行を発端とする景気後退の影響が少ないとはいえ、日本国内における新規インフラの建造需要の減少という趨勢から売上高の横ばい傾向が継続する。日本国内の橋梁は老朽化が深刻であり、2019年時点で約30%が建設後50年以上が経過している。老朽橋梁の補修需要が活性化していくことは既定路線であるものの、同業他社との競争は激しく、販売価格は停滞気味である。日立造船は既にインフラ事業を主力事業とは見做しておらず、2017年に発表した新長期ビジョン「Hitz 2030 Vision」では東南アジア市場や老朽橋梁メンテナンスへの進出を掲げているものの、将来に向けた重点分野には挙げられていない。個別分野では風力発電やフラップゲート式水門などで事業拡大を図っているとはいえ、インフラ事業の中核を占める橋梁の成長停滞を補う程の事業規模に至るまでには時間を要するか。日立造船は安価な浮体式風力発電を2023年を目途に実用化するとしており、コスモ石油系の風力発電事業者であるコスモエコパワーと青森県の沖合で大規模な洋上風力発電所を開発しているが、稼働開始は2025年と先である。

営業利益の構成

環境・プラント事業(94%)

■過去の営業利益分析
環境・プラント事業の営業利益は13億円から158億円のレンジで推移しており、上下変動が激しい推移となっている。過去の推移を観察すると、2011年から2016年の期間において営業利益100億円規模で推移した反面、2017年および2018年には営業利益の急減に見舞われている。造船業から撤退した2002年の時点では環境・プラント事業は営業利益51億円程度であったが、その後のゴミ処理発電の需要拡大に相乗して環境・プラント事業の利益水準は拡大基調で推移してきた。特に瑞イノバが連結子会社に加わった2011年からは利益水準を切り上げて営業利益100億円規模に到達した。その後も営業利益の拡大基調が継続して2015年には営業利益148億円に到達して、日立造船の慧眼を証明した。反面、2017年からは業績拡大に貢献した瑞イノバにおいて経営混乱が発生して営業利益13億円にまでの減少に見舞われた。この経営混乱は、①大型案件が相次いだことでプロジェクトマネジメントの質が低下した点、②日立造船と瑞イノバの間の連携が希薄であったことで支援が行き届かなかった点、③瑞イノバがアフターサービスに弱く過去に建造したゴミ処理発電施設からの継続収入が弱体であった点、に起因している。尤も、2019年には瑞イノバの経営混乱が終息に向かったことで再び営業利益158億円へと急回復を果たしている。

■将来の営業利益予測
微減を見込む。COVID-19の流行による経済停滞の影響は相対的に軽微であるとはいえ、特に欧州における既存案件の進捗がやや遅れたことによる減益を見込む。2017年以降に営業利益の重荷となっていた瑞イノバにおける経営混乱が終息したことで営業利益100億円規模は維持すると見込むが、目先は積極的な営業利益の拡大を見込める材料に欠く状況が継続する公算が高い。日立造船は環境・プラント事業の営業利益を将来的に拡大する施策として、①海外におけるアフターサービスによる継続収入の拡大、②海水淡水化プラントにおけるアフターサービス領域への進出、③人工知能を用いたゴミ焼却発電施設の無人運営、を掲げている。日立造船のゴミ焼却発電施設や海水淡水化プラントは潤沢な投資資金を有する先進国および中東地域を中心に開発してきた経緯があり、事業領域を新興国まで拡大できるかが焦点となりそう。とはいえ、新興国において多額な初期投資を要する開発費用の負担が重荷である点は変わらず、新興国経済の安定と環境意識の高揚が望まれる。

機械事業(0%)

■過去の営業利益分析
機械事業の営業利益は▲11億円から83億円のレンジで推移しているが、2012年以降は好調時でも営業利益20億円規模に留まっており利益水準が低下している。2011年以前には環境・プラント事業を上回る営業利益80億円規模であったことで日立造船の稼ぎ頭であったが、2012年以降は低迷局面が継続している。尤も、2007年から2011年の期間には2000年代後半に到来した造船バブルで船舶用エンジンの利益水準が良好であった背景を踏まえれば、営業利益80億円規模の水準は持続性がなかったと見る向きもある。2012年以降は営業利益が安定しないが、これは、①造船不況の長期化による船舶用エンジンの価格低迷、②精密機械の技術トラブル対応による利益水準の悪化、③機械事業の連結子会社における損失計上、などの要因がある。2018年には営業損失2億円に転落したが、これは船舶用エンジン・自動車向けプレス機械・プロセス機器のいずれもが利益水準の悪化に見舞われたことに起因している。2019年には船舶用エンジンおよび自動車向けプレス機械がやや持ち直したものの、プロセス機器の利益水準の悪化が加速したことで営業損失11億円に拡大した。

■将来の営業利益予測
横ばいを見込む。機械事業は以前から利益水準の低迷が懸念されてきたが、COVID-19の感染拡大による景気後退局面において利益水準が継続すると見込む。船舶用エンジンの長期低迷によって、機械事業の営業利益はプロセス機器への依存度が高くなっているが、景気後退局面においてプロセス機器の需要が低迷することが営業利益を下押しする公算が高い。日立造船のプロセス機器は石油精製・肥料・造水・パルプなどの産業プラント分野で多用されているが、景気後退局面におけるプラントの新規案件の減少が懸念される。自動車用プレス機械についてもCOVID-19の流行で新車販売台数の急減に見舞われた自動車メーカーの設備投資意欲の後退が重荷となると推測され、営業利益の減少は不可避か。

インフラ事業(0%)

■過去の営業利益分析
インフラ事業の営業利益は▲40億円から14億円のレンジで推移しており、利益水準が特に低い事業となっている。2011年から2015年の期間において営業赤字が継続する不信事業であったが、2016年以降はやや利益体質が改善している。インフラ事業の営業利益は橋梁およびシールド掘進機の動向に左右されやすいが、日本国内における新規インフラの建造需要の減少という趨勢による橋梁の受注環境の悪化が営業利益を圧迫している。2016年以降はシールド掘進機および水門建造の大型案件によって採算が改善したとはいえ、日立造船の営業利益への貢献度が希薄である点には変わりがない。2017年からは同業他社の日本橋梁との業務提携を進めており、向島工場に両社の橋梁製造を集中させることによる効率化を急いでいる。営業利益の推移には表面化していないが、2019年にはアメリカにおいて発生したシールド掘進機訴訟で特別損失64億円を計上して日立造船の純利益を減少させており、利益水準の悪さが目につく結果となった。

■将来の営業利益予測
横ばいを見込む。公共事業への依存度が高い性質からCOVID-19の流行による景気後退局面の影響は軽微であるが、以前からの利益水準の低迷局面が継続する。当面の収益施策としては、①日本橋梁との業務提携による効率化による橋梁の収益改善、②国内において珍しいフラップゲート式水門の拡販、③コスモエコパワーとの共同事業の青森県の沖合で大規模な洋上風力発電所の開発、があるが、いずれも直近の利益水準を回復させる公算は低く、当面は低迷局面が継続しそう。日立造船は売上高1兆円の達成に向けた事業ポートフォリオの組み替えに意欲的であり、低成長分野については「低成長・低収益からの脱却が可能か見極め、選択と集中を図る(事業継続、撤退・売却)」としている。営業赤字への転落が多く、成長が頭打ちのインフラ事業については利益水準の低迷からの打開を模索するフェーズにあると言えよう。

財務の健全性

手元資金は標準的な水準

■手元資金の特性
手元資金は2007年以降は概ね500億円前後の水準で推移してきたが、2017年以降は350億円前後の水準に低落している。売上高が年間4000億円規模と考えると手元資金としては330億円が目安となる為、標準的な水準である。尤も、日立造船の貸借対照表を観察すると、直近では売上債権1600億円に対して買掛債務441億円となっており、売上債権対買入債務比率が約360%と非常に高い水準で推移しており、売上債権からのキャッシュフローによる資金繰りの安定化も望める。日立造船の資金繰りは安全圏を十二分に維持していると判断できよう。

■過去の手元資金分析
2017年の手元資金327億円への急減が際立つ。508億円(2016年)から327億円(2017年)へと減少しており、過去10年間においては特に顕著な減少である。同年はイノバの経営混乱にこそ見舞われたものの純利益33億円を確保したが、営業キャッシュフローは33億円の赤字であった為に手元資金が減少した。実際には売上債権が約140億円の増加となっている他、急減こそしたものの手元資金の水準は依然として企業規模に見合う為に特段の問題はない。強いて言えば、日立造船は支払いサイトが長い製品が多い性質から売上債権が膨張しやすく、流動性がやや低い財務体質となっている点には留意したいか。

自己資本比率は業界中位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は過去10年間で増加傾向が継続した結果、直近では28.8%に到達している。同業他社と比較すると、三菱重工業39.9%・IHI18.7%・荏原製作所47.7%となっており、業界中位の水準である。総合重工メーカーとしては凡庸な自己資本比率に留まっているが、浮き沈みが激しい造船業から撤退したことで業績が安定的に推移しやすい体質へ変容している。日立造船は過去に建造したゴミ処理発電施設へのアフターサービスの他、建造したゴミ処理発電施設の運営までを担うことで継続収入を得られる土壌を整備してきた点を踏まえれば、特段の問題はない水準と見てよい。

■過去の自己資本比率分析
2007年以降は自己資本比率が概ね右肩上がりで推移しており、安定的な拡大基調が継続している。2007年以降の日立造船は純利益を安定的に確保し続けたことで利益剰余金が▲107億円(2007年)から650億円(2019年)にまで増加しており、これが自己資本比率の拡大として表面化している。造船業から撤退した2002年の時点では自己資本比率5.8%に過ぎない危機的な水準であったが、環境・プラント事業の成長に支えられて自己資本比率を適正水準にまで回復させた点は評価できよう。

株価の割安感

BPSは2008年から増加傾向

■BPSの特性
BPSは2008年以降は右肩上がりで推移しており、安定的な拡大傾向が継続している。2007年以降の日立造船は環境・プラント事業の成長に支えられながら純利益を安定的に確保し続けたことで利益剰余金が192億円(2007年)から650億円(2019年)にまで増加しており、これが純資産の拡大に貢献している。在外子会社や有価証券への投資額が大きい企業は株安局面や円高局面でBPSが上下変動しやすいが、日立造船はいずれも小規模であることから経済環境によるBPS変動は少ない。純資産1195億円のうち、有価証券評価差額金と為替換算調整勘定は1億円にも満たず、株高局面や円安影響に支えられた純資産の拡大ではない点は評価できよう。

■過去のBPS分析
2008年から2012年の期間におけるBPSの拡大が急激である反面、2013年以降はBPSの拡大がやや減速している。これは日立造船の業績における純利益が縮小傾向にあることに起因しており、利益剰余金の増加ペースが減速した結果としてBPSの拡大が緩やかになっている。2013年以降の日立造船は営業利益こそ以前と同等水準で推移している反面、営業利益から差し引かれる営業外費用が増加したことで純利益が減少している。尚、2015年以降に日立造船の純利益を減少させている営業外費用は主に訴訟関連費用・納期遅延損害金・災害費用である。特に在外子会社における納期遅延損害金は2015年以降の純利益を継続的に圧迫しており、この解消が待たれる局面であろう。

PBRは割安水準へ下落

■PBRの特性
PBRは長期的に0.48倍から2.3倍のレンジで推移しているが、長期的な下落傾向が継続している。2014年以降はPBR1.0倍に満たない水準での推移が定着してきたが、2019年にはPBR0.48倍にまで下落した。2000年代後半に到来した造船バブルによるPBRの急騰を除けば、業績の安定感からPBR0.85倍前後で推移しやすい。日立造船は将来的な需要拡大が期待されるゴミ処理発電や水処理に強みがあるとはいえ目先の利益水準は凡庸であり、他の重工メーカーと同じくPBRは低位での推移を強いられている。特に2019年には主力市場のひとつである欧州でCOVID-19の流行が深刻化したことで影響が懸念され、株価下落を強いられたこともPBRの水準を切り下げる要因となった。

■過去のPBR分析
2007年のみPBR2.0倍の割高圏で推移している点が顕著である。同時期は2000年代後半に到来した造船バブルによって造船業の株価が急騰していた時期であり、これにより日立造船の株価は高値圏にまで上昇した経緯がある。日立造船は2002年に造船業から撤退したが、①ユニバーサル造船および内海造船の大株主であり株価上昇を通じて間接的に造船バブルの恩恵を受ける点、②機械事業に残存していた船舶用エンジンや舶用甲板機械が直接的に造船バブルの恩恵を被る点、から株価高騰したことでPBR2.0倍を超える割高圏に到達した構図である。日立造船は2000年代後半の造船バブルで当時保有していたユニバーサル造船および内海造船の大半を売却した為、現在の日立造船は当時ほど造船バブルの恩恵を享受できる体質ではない点には注意しておきたい。

配当金の推移

配当金は安定配当型

■配当金の特性
配当政策は安定配当型である。日立造船は配当政策として「業績に見合った配当を継続的かつ安定的に実施するとともに、将来の事業展開に必要な内部留保の充実にも努めていくこと」を掲げているが、実際には配当金は極めて安定的に推移している。過去10年間において日立造船はイノバの経営混乱やシールド掘進機訴訟の和解金などの苦難に見舞われてきたが、いずれにおいても減配を回避して配当金を維持している。過去10年間に純損失に転落していない背景があるとはいえ、配当金をフラットに維持する性質が強いと見てよいだろう。

■過去の配当金分析
純利益156億円を記録した2007年が無配である反面、純利益21億円に留まった2019年は年間12円となっており、表面的には業績と配当金の連動が少ない。これは2008年までの日立造船が経営危機で自己資本比率20%を下回る水準で推移していたことで、財務体質の改善の為に無配当を継続していたことに起因する。2000年代の日立造船は造船業からの撤退に伴う巨額の構造改革費用を計上して財務体質が悪化して以来、自己資本比率10%前後の水準で推移しており、株主還元を積極的に推進するだけの余力に乏しかった。2009年以降には自己資本比率20%を超えて財務体質がやや回復した他、環境・プラント事業の好調局面が到来したことで、ようやく配当金の支払いが再開された構図である。

配当利回りは上昇基調が継続

■配当利回りの特性
配当利回りは0%から3.5%のレンジで推移しているが、過去10年間の推移は綺麗な右肩上がりとなっている。長期的には日本株の平均的な配当利回りである2%前後にやや劣後する水準で推移してきたが、直近では日本株の平均的な配当利回りを上回る水準に到達している。日立造船は株価が長期的な下落基調が継続してきたが、財務体質の回復によって配当金を増加させたことで配当利回りは増加傾向を描いている。日立造船は配当金をフラットに維持する性質が強い為、配当利回りは株価の上下変動に応じて推移しやすい。

■過去の配当利回り分析
2018年および2019年において配当利回り3.5%前後の高水準に到達している。2018年8月以降、日立造船の株価は下落基調が継続して株価400円台を割り込むに至っており、これが配当利回りを上昇させている。この株価下落は2019年3月期第1四半期の決算において連結子会社の瑞イノバのコスト増加によって純損失53億円に転落したことを嫌気したものであった。2018年は通期で純利益21億円を確保したが株価低迷は現在に至るまで継続しており、これが配当利回りを向上させている構図である。尤も、この配当利回りは日立造船がフラットな配当金の支払いを好む傾向に支えられている側面がある点には注意したい。年間12円の配当金を支払う為には年間20億円を要する為、2019年の純利益21億円では配当性向90%と持続性を欠く水準となっている。利益水準の改善がない限り、この配当利回りは持続困難であろう

総合評価

目標株価

420円

COVID-19の流行による業績悪化が限定的と見込まれる割には目先の株価は歴史的な安値圏にあり、投資妙味はあるか。尤も、利益水準が低迷する割に配当金を年間12円で据え置いていることから配当性向が肥大化しており、新長期ビジョン「Hitz 2030 Vision」の実現に向けた積極投資を遂行するだけの余力に乏しいことから減配懸念は根強い。株式市場における総合重工メーカー各社の株価水準を踏まえれば、当面はこの程度の株価が妥当か。

投資判断

やや弱気

COVID-19の流行による景気後退局面の影響が相対的に軽微な企業であるが、日立造船の投資判断にあたっては事業構造に目を向ける必要があろう。過去10年間で日立造船は造船業からの撤退に伴う構造改革を着実に遂行して再建を果たしたが、①ゴミ焼却発電の売上高の拡大が利益水準の向上に結び付いていない点、②環境・プラント事業以外は売上高と営業利益の両面で成長が希薄である点、③環境・プラント事業への依存度が規模・利益の両面で依存度が拡大している点、が懸念である。特に利益水準の低迷は株価低迷の要因となっており、純利益という観点では過去10年間で却って衰退している状況である。こうした状況を打開するために日立造船は新長期ビジョン「Hitz 2030 Vision」で、①事業基盤の再構築と生産性向上、②グループ総合力の発揮、③ポートフォリオマネジメントの推進、を掲げているが、これは事業多角化が進んだ日立造船においては容易ではない。主力のゴミ焼却発電については新興国経済の混乱が重荷となる他、過去10年以上に渡る業績停滞が続く機械事業およびインフラ事業はそもそも事業環境が逆風であることから業績回復は至難である。強いて言えば、ゴミ焼却発電施設のAOM契約を拡大することによる利益水準の向上は現実的に期待できそうだが、国内および海外で日立造船がAOM契約を締結したゴミ焼却発電施設が業績を支える程度の規模に至るまでには今しばらく時間を要する公算が高い。景気動向に業績が左右されにくい性質からCOVID-19の流行が終息した後に景気回復局面が到来しても株価上昇に繋がる期待は抱きにくく、敢えて株安局面で積極的に投資する意欲は湧きにくい。これらの利益水準と投資環境に関する懸念を考慮して、投資判断はやや弱気とした。