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企業レポート

明治海運(9115)の分析|海運不況に屈せず成長継続するも株価は低迷

基本情報

明治海運(9115)は、1911年に三井物産の船舶部の別組織として設立された中堅海運企業である。業績安定化を目的としてホテル事業や不動産事業にも進出しており、事業多角化が進んでいる点が特徴だ。北海道洞爺湖サミットの会場となったザ・ウィンザーホテル洞爺を所有している点は特に有名である。

目次

株価の推移

株価は10年に渡るレンジ推移

■株価の特性
明治海運の株価は過去10年間に渡って200円台から600円台のレンジで推移している。明治海運は過去10年間で売上高と営業利益は約2倍の成長を遂げたが、株価推移は停滞感が強い。好業績が発表される度に瞬発的に株価上昇が起こるが持続性はなく、早々に元の価格帯に沈むことを繰り返している。表面的な業績に必ずしも株価が追従するわけではない典型例であろう。

■過去の株価推移
2007年頃の暴落が目に付く。2007年の最高値として1535円を記録したが、海運バブル崩壊とリーマンショックを経て200円台にまで低下している。海運業に属する株式は過去10年間に渡って株価低迷を強いられており、明治海運はその例に漏れない。ただし、海運業に属する株式は短期的急騰と長期的低迷を歴史的に繰り返してきており特段珍しい状況でもない。なお、2000年代後半の明治海運の株式は投機的に取引されていた為、この時期の株価推移は海運バブルが崩壊した現在ではまったく参考にならない点には注意したい。

日経平均株価との相関性は低い

■日経平均株価との相関性
日経平均株価との相関性は低い。アベノミクス以降は底値を切り上げながらの株価上昇が続いた日経平均株価と異なり、明治海運の株価は10年前と同じレンジで推移しており低迷から脱していない。明治海運に限らず、海運株はリーマンショック以降の低迷が長期継続しており、過去10年間おいては日経平均株価に明確に劣後する厳しい状況が継続した。

■過去の日経平均株価との相関性
明治海運の株価レンジは海運バブル期を除けば1990年代から約30年間に渡って不変であり、日経平均株価との相関性は高くない。単純に長期保有しているだけでは日経平均株価に劣後してしまう為、保有にあたっては戦略が必要である。強いて言えば、日経平均株価が上昇基調に転ずる初動期においては日経平均株価に先行して明治海運が株価上昇する場合が多い。海運業は景気循環に業績を依存する為、景気好転時に先行して買い上げられるのは当然である。

業績の推移

売上高は拡大基調が継続

■売上高の特性
売上高は2000年代の200億円規模から拡大を続け、直近では400億円規模にまで到達している。過去10年間で約2倍に拡大を果たした格好だ。この売上高と営業利益の拡大は、外航海運事業とホテル事業の拡大によるものである。長引く海運不況に同業他社が軒並み苦しむ中、明治海運が業績拡大を継続して過去最高水準の売上高を維持しているのは驚異的である

■過去の売上高推移
2013年からの売上高の成長が著しい。2012年までは海運バブル後の船腹過剰と円高が売上高を低迷させたものの、2013年以降は新造船を相次いで投入したことで売上高を拡大させた。2013年以降は円安が定着したことも売上高を拡大させている。2014年からは新たに取得したザ・ウィンザーホテル洞爺の売上高が加わったことも、売上高の拡大に貢献している。

営業利益は2012年から急増傾向

■営業利益の特性
営業利益は50億円規模に拡大している。過去最高は2016年に記録した営業利益58億円であり、海運不況が長引く環境下で記録更新に至っているのは驚きである。明治海運は巨額の有利子負債を抱えていることから支払利息が重荷である点は念頭に置いておきたい。年間15億円前後を有利子負債の支払利息に充てており、営業利益と純利益の差が広がりがちである。

■過去の営業利益推移
2011年から2012年のの営業利益の低迷が際立つ。この年は為替78円/ドル・燃料油価680ドル/MTという極めて厳しい環境だったことが原因である。同年は東日本大震災とタイ洪水によって荷捌量が減少した点も追い打ちとなった。明治海運に限らず、海運業は為替と燃料油価そして景気動向の影響を顕著に受けやすいことが特徴である。

売上高の構成

外航海運事業(70%)

■事業内容
外航海運事業には、船舶貸渡業と船舶管理業が含まれる。明治海運は特定船種に偏重させず50隻規模の船舶を保有しており、管理船舶は100隻を超える。明治海運は、他の海運企業や石油企業との中長期契約に注力することで短期的な海運市況変化への耐性を高めつつ、海運市況に応じた運航船種の入替による業績の維持拡大を得意としている。

■過去の売上高分析
売上高の約70%を外航海運事業が占める。2012年以降の明治海運は、①新造船を高ペースで投入、②市況変化に合わせた船種選定、③余剰・老朽船舶の売却、による船隊の近代化と船種適正化に余念がない。これらの妙によって、明治海運は海運不況下でも売上高を一貫して拡大した格好だ。中長期契約が主体であることから短期的な市況好転時に利益を得られないものの、海運不況が続く中では中長期契約の方が業績安定化には有利である。

■将来の売上高予測
微増を見込む。過去10年間で新造船投入を繰り返したことに加えて、景気後退による荷捌量の減少によって売上高の増加は鈍化しそうである。荷捌量の減少のみならず、景気後退局面に頻発する円高が売上高に対する下押し圧力となる点は海運業共通の苦悩である。なお、明治海運は2018年に船員育成を主眼とする人材育成トレーニングセンターをフィリピンに開設しており、船隊規模の更なる拡大を企図していそうである。

ホテル関連事業 (28%)

■事業内容
ホテル関連事業には、ホテル・レストラン・ゴルフ場の経営が含まれる。明治海運は1992年にホテル事業へと進出しており、現在ではホテル5拠点・ゴルフ場1拠点・レストラン2拠点を所有するに至っている。2014年にはザ・ウィンザーホテル洞爺をセコムグループから取得しており、事業拡大を続ける。明治海運がホテル業を選択した理由は、海運業とホテル業は装置産業という点で共通しており経営哲学を活用しやすい為らしい。

■過去の売上高分析
売上高の約25%をホテル関連事業が占める。2007年のホテル関連事業の売上高は40億円規模に過ぎなかったが、2018年には売上高120億円規模に拡大を果たしている。特に2014年からはザ・ウィンザーホテル洞爺を取得したことで売上高が約30億円の増加を果たした。ザ・ウィンザーホテル洞爺に限らず、明治海運は他企業が手放したホテルを取得して再建することが多いため、投資額を抑制しつつ規模拡大に成功したと言える

■将来の売上高予測
減少を見込む。COVID-19の流行前であれば、ホテル事業は婚礼需要や宴会需要の衰退を受けつつも、それを上回るインバウンド需要によって売上高の確保が可能であった。明治海運の保有ホテルは、北海道・神戸・沖縄というインバウンド需要地に集中しており将来性が期待されていた。COVID-19の流行後はインバウンド需要と日本人旅行者需要が共に消滅したことで売上高の急減が既定路線となった。当面は厳しい推移を強いられそうである。

不動産賃貸事業 (2%)

■事業内容
不動産貸借事業には、ビル賃貸・港湾機械販売・保険代理店・保育園などが含まれる。神戸市中央区に所在する明海ビルを筆頭として、東京都内と神戸市周辺に複数棟のオフィスビルを所有している。ただし、大半のオフィスビルが1980年代から1990年代の建築であり老朽化が進行している。小規模ではあるものの保育園経営にも進出している点が興味深い。

■過去の売上高分析
売上高の約10%を不動産事業が占める。過去10年間は概ね5億円前後で推移しており、売上高は安定的である。 オフィスビル需給によって売上高は多少変動するものの、海運業と比べれば極めて安定的な推移であろう。過去10年間の変化は、①2010年に三宮第二ビルを取得、②2014年に新サフィール中目黒ビルを建設、程度である。

■将来の売上高予測
現状維持あるいは微減を見込む。オフィスビル需要は活性であるものの、明治海運が保有するオフィスビルは2010年竣工のサフィール中目黒を除けば築30年前後が経過するビルが多く、物件としての競争力が傑出しているわけではない。新規物件を取得しない限りは、現状維持ないし微減での推移を強いられるだろう。

営業利益の構成

外航海運事業(67%)

■過去の営業利益分析
外航海運事業の営業利益は不安定であるが、海運不況下にあって営業赤字に転落していない点は驚異的である。同業他社の大半はリーマンショック以降に営業赤字を経験したが、明治海運は営業黒字を確保し続けている。海運市況が歴史的低迷を記録した2012年においても為替と燃料油価の逆風をこなして営業利益を確保しており、明治海運の不況耐性の強さが見え透く。

■将来の営業利益予測
外航海運事業の営業利益は現状維持を見込む。明治海運が保有する主要船種(タンカー・バルカー・自動車船・コンテナ船)における市況低迷が続いており、事業環境は依然として厳しい。明治海運は海運不況の渦中でも市況に応じた新造船投入を続けることで営業利益を拡大したものの、船隊規模が拡大したことで入渠費用が増加しており営業利益を圧迫している

ホテル関連事業(26%)

■過去の営業利益分析
ホテル関連事業の営業利益は不安定である。顕著なのは、2008年から2011年までの営業利益の低迷である。ホテル業は景気後退局面では海運業と同様に需要縮小が厳しいことから、本業を補完する役割は期待できない。2014年にザ・ウィンザーホテル洞爺を取得してからは営業利益が15億円規模に倍増しており、取得効果の大きさを感じさせられる。

■将来の営業利益予測
ホテル関連事業の営業利益は減少を見込む。COVID19の流行前はインバウンド需要の拡大によって営業利益を拡大できる見通しであったが、状況は一変した。COVID-19の流行によって約2カ月に及ぶ休館・時短営業を強いられた他、その後の需要回復も当面は厳しそうである。装置産業であるホテル業はCOVID-19の流行に対して弾力的対応が困難であり、営業利益への打撃を躱す方策に乏しいことから利益確保が難しい局面が続くだろう。

不動産賃貸事業(7%)

■過去の営業利益分析
不動産賃貸事業の営業利益は安定している。過去10年間に渡って概ね2.5億円規模で安定推移しているが、他事業が営業利益を拡大したことで全社営業利益に占める割合は5%台にまで低下している。明治海運の保有するオフィスビルは1980年代から1990年代にかけて建築された中規模物件が多く、競争力は特段高くない点に注意したい

■将来の営業利益予測
不動産賃貸事業の営業利益は微減すると想定する。都心オフィスビルの空室率は2013年から低水準で推移してきたが、2018年以降は新築オフィスビルの竣工ラッシュを控える。近年は新規テナントの確保が容易な環境が続いたが、都心オフィスビルの需給感は弛緩に向かいそうである。明治海運の保有するオフィスビルの競争力は凡庸である為、需給弛緩時の逆風を受けやすい。最近は老朽物件の補修費用が上昇している点も営業利益の下方圧力である。

財務の健全性

手元資金は極めて潤沢な状態

■手元資金の特性
手元資金は概ね100億円台を維持している。売上高が年間400億円規模と考えると手元資金としては30億円が目安となる為、極めて潤沢な水準である。更に、投資有価証券として約140億円もの株式を保有していることも加味すると、手元資金が枯渇する状況は考え難い。手元資金が極めて潤沢かつ多額の投資有価証券を保有していることに加えて、明治海運は売却可能な不動産や船舶を多数抱えていることから現金枯渇の心配は薄い

■過去の手元資金分析
2013年から2017年にかけて約100億円の増加を遂げている。これは業績好調による現金収入の増加が最大の要因である。新造船の竣工が続いたことで建造費の支払いが頻発したものの、保有船舶の売却で手元資金の過度の減少を防いでいる。明治海運は有利子負債を1000億円規模で抱えており新規借入余地に乏しい為、手元資金の充実は企業存続にとって重要である

自己資本比率は業界最下位水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は概ね10%台以下で維持している。同業他社と比較すると、日本郵船24.4%・商船三井24.4%・川崎汽船が11%となっており、業界最下位水準である。表面的に捉えれば、業績不振で自己資本比率が毀損した川崎汽船と同水準の自己資本比率であるが、明治海運は自己資本比率を意図的に低迷させている点には注意したい。

■過去の自己資本比率分析
明治海運の自己資本比率が低い理由は、有利子負債1000億円規模を常時維持することで財務レバレッジを高めている点にある。巨額の有利子負債を抱えることで自己資本比率は低下するが、負債の方が調達コストが安く節税効果も得られる点に着目すれば、こうした判断もありうる。巨額の有利子負債によって有事の資金調達リスクが懸念されるが、明治海運は手元資金を潤沢に確保することで財務の健全性を担保している。

株価の割安感

BPSは素晴らしい右肩上がり

■BPSの特性
BPSは2011年を底に右肩上がりで推移している。特に直近5年間の増加は著しく、BPSは約2倍に成長を遂げている。BPSが増加した原因を確認すると、特に利益剰余金の増加が著しい。2013年以降の明治海運は業績好調であった為、純資産を毀損することなく順調にBPSを拡大させることに成功している。2011年に44億円だった利益剰余金は2018年に126億円にまで増加しており、純資産の拡大に貢献している。

■過去のBPS分析
明治海運の株価はBPSが拡大した2014年から切り上がってはおらず、BPSが向上する以前と同じ株価レンジで推移している。常識論からすれば、BPSは株式の資産価値を表す指標として参照される為、BPSが向上することで株価の底値が切り上がる効果が期待できるが、明治海運には通用しない。こうした現象が発生する根拠としては、①長期化する海運不況への警戒感、②景気後退による業績への影響懸念、③業績低迷する同業他社の動向、④財務レバレッジの高さへの警戒心、⑤株式市場における景気循環株の不人気傾向などが考えられる。

PBRは右肩下がりで安値圏

■PBRの特性
PBRは右肩下がりで推移しており、特性を見出しにくい推移となっている。海運業の同業他社はリーマンショック後に業績低迷したことでPBRの低迷が続くが、明治海運はリーマンショック後に業績好調と株価低迷が並走したことでPBRが顕著に低迷する事態となっている。明治海運のBPSの拡大が停滞するか株価上昇に転じない限りはPBRの下落が継続するだろう

■過去のPBR推移
2012年以降はPBRの下落が急激に進行している。2013年以降に業績拡大が加速したにも関わらず、PBRはまったく呼応しないまま解散価値を下回る水準で低迷している。PBR1.0倍を下回っていても将来的に損失が発生して株式価値が毀損するリスクがあれば割安ではないが、明治海運の業績は安定的である。海運市況が歴史的低迷を記録した2012年にもBPSが毀損していないことを踏まえれば不況耐性は強く、株式価値の毀損リスクを踏まえても割安圏にある。

配当金の推移

配当金は安定配当型

■配当金の特性
配当政策は安定配当型である。明治海運は配当政策として「将来へ備え経営基盤を強化することによる安定的な配当水準の維持」を掲げており、過去の配当金推移は極めて安定している。同業他社の無配転落が続く海運不況の渦中であることを踏まえると優秀な推移であるが、業績成長が配当金に反射しておらず株主還元には至っていない。明治海運の大株主は関係会社と取引先会社が大半であることから増配圧力が加わりにくいか。

■過去の配当金分析
2007年の海運バブル期にも配当金が平坦である点に着目したい。同業他社の多くは海運バブル期に増配によって株主に利益還元したが、明治海運は海運バブル期に増配しなかった。その反面、海運バブル後も配当金を維持しており、配当政策は当否が分かれる。しかし、海運バブル期の株主だけでなく業績低迷時の株主にも公平に利益還元できる点では優位か。

配当利回りは少ないが安定

■配当利回りの特性
配当利回りは1%台で推移している。株価低迷時でも2%を超える局面は稀有であり、日本株の平均的な配当利回りに劣後する。配当利回り1%台では配当目的で長期保有する動機にはならない。業績成長が株価に反映されずキャピタルゲインが得られない中で、インカムゲインも渋い為、株式投資家としては利益戦略が必要である。

■過去の配当利回り分析
株価の上下変動に応じて配当利回りも上下している。特に株価が低迷した2008年と2015年は配当利回りが2.5%に到達しており、若干の向上を果たしている。2018年は業績不振を警戒した株価低迷が進行したことで過去10年間で最高水準の配当利回りとなる4%台に到達している。株式市場は減配を織り込みつつあるが、配当金推移が極めて安定的な日本鋳造が現在の業績水準で減配に転ずる可能性はそう高くはなさそう

総合評価

目標株価

390円

2013年以降の業績拡大にも関わらず株価は割安圏で低迷しており投資妙味は高いが、景気循環株であることから当面の景気後退局面では不利な株価推移を強いられそう。COVID-19の流行によってホテル事業が当面の足枷となる点を懸念して目標株価はやや低めに設定した。インバウンド需要の回復が見えない中で明治海運が所有するホテルの収益性の低迷は既定路線。

投資判断

中立

海運不況からの回復までは時間を要するものの、海運不況の渦中にありながら企業規模を着実に成長させてきた点に見られる様に経営手腕は高い。とはいえ、近年は新造船の投入が相次いだことによる売上高の押上効果もあったことから2013年以降の拡大基調での更なる成長は見込み難い。COVID-19による景気後退による荷捌量の減少が懸念であるが、景気後退が引き起こす原油安によるコスト改善効果に期待したい。