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企業レポート

東京建物(8804)の分析|テレワークの普及で主力のビル事業に暗雲

基本情報

東京建物(8804)は、1896年に設立された総合不動産会社である。安田財閥の創始者である安田善次郎によって興された日本最古の不動産会社であり、1907年に東京証券取引所への上場を果たした不動産業における名門企業である。現在は賃貸オフィスビル事業と分譲マンション事業を主力としているが、アセットサービス・商業施設開発・駐車場開発・不動産投資商品開発など幅広く事業展開している。不動産会社でありながら海外展開の歴史が古く、1902年に中国への進出を果たした。現在は上海とシンガポールに現地法人を設立して開発事業およびコンサルティング事業を展開している。

目次

株価の推移

株価は2013年以降は停滞感が強い

■株価の特性
過去10年間に渡って500円台から3500円台のレンジで推移しており、業績の安定感に反して株価の上下変動は激しい。2013年以降は概ね1100円から2300円台のレンジで安定的に推移しているが、最高値2346円を記録した2013年以降は株価の停滞感が強い推移となっている。業績回復が継続している点と対比すると株価の停滞は意外であるが、既に東京建物のオフィスビル稼働率は95%を超える満室水準に到達しており、賃料収入の上振れ余地の乏しさが嫌気されている構図である。更に、2013年以降の都心オフィスビルの需給逼迫によってオフィスビルの開発が過熱した結果、2023年から都心オフィスビルの竣工ラッシュによるオフィスビル賃料相場の下落懸念が株価の下方圧力として作用している。反面、既にPBR1.0倍前後の割安圏にあることが株価は底堅く、上抜けも底抜けもしない停滞感の強い推移となっている。

■過去の株価推移
東京建物の業績は2012年から回復基調が継続するが、株価は2013年から停滞感が強い推移となっている。過去の推移を観察すると、2013年は特に高値圏で推移しており、2013年12月には高値2346円を記録している。これは会計基準の変更によって2014年から匿名組合及び特定目的会社が新たに連結対象に加わることが株式市場に認識され、将来的な営業利益の上振れを想起させたことに起因している。オフィスビル賃料相場が低迷を脱しつつあった局面であったことが追い風となって株価が高騰した反面、営業利益の上振れが限定的であることが認識されると早々に1600円台の推移へと回帰した。

日経平均株価との相関性は中庸

■日経平均株価との相関性
東京建物は日経平均株価の構成銘柄である。東京建物の株価と日経平均株価の相関性は中庸である(2007年4月から2020年3月の相関係数:0.59)。短期的には相関性が低落する局面が少なくないが、長期的には日経平均株価におおよそ連動した変動を遂げている。東京建物が得意とする都心オフィスビルの賃料相場は、オフィスビルの供給量と需要量によって決定されるが、需要量はオフィスを必要とする企業活動の活性度合に左右される。この結果、東京建物のオフィスビルの賃料収入は景気循環に呼応しやすく、同じく景気循環との相関性が高い日経平均株価との間に相関性が表出している。東京建物は賃貸オフィスビル以外にも分譲マンションや駐車場運営を手掛けるが、これらの事業の業績が景気循環に連動しやすいことも、日経平均株価との相関性を高めている。

■過去の日経平均株価との相関性
長期的には日経平均株価との相関性が認められる推移を描いているが、2014年以降は右肩上がりの上昇を継続した日経平均株価に置き去りにされる様相を呈している。過去の推移を観察すると、2016年から業績上振れ余地の乏しさと将来的なオフィスビル需給悪化を踏まえて東京建物の株価が停滞局面を迎えた時期を境に相関性が低下している。日経平均株価を牽引するエクセレントカンパニーが将来性を評価されて割高圏で推移する一方で、将来的な業績停滞を見越されて株価が割安圏で早々に停滞した東京建物の差異が相関性の低下という形態で表面化したと見てよい。

業績の推移

営業収益は3000億円規模へ拡大

■営業収益の特性
営業収益は2007年から2011年の期間で減少傾向が続いたが、2013年以降は増加傾向が継続している。オフィスビル賃貸を主力とする印象に反して営業収益の上下変動は激しい。東京建物の不動産業は賃貸と売買によって構成されている為、①オフィスビル賃料相場の変動による長期的な変動、②保有する物件を売却することによる短期的な上昇下落、による。都心オフィスビル賃料相場は約10年周期で上下変動を繰り返しており、2012年から長期的な上昇基調が続いてきた。東京建物の営業収益の長期的な増減は概ね都心オフィスビル賃料相場と一致しており、都心オフィスビル相場を業績の先行指標として見ることができるか。

■過去の営業収益推移
2011年から営業収益は右肩上がりで推移しているが、2009年と2019年に見られる様に突発的に営業収益が急拡大する局面が発生している。これらの急伸はいずれも分譲マンションの販売戸数の急増に支えられており、分譲マンションの販売が急拡大することで営業収益が急伸する構図となっている。分譲マンションは景気動向に販売戸数が左右されやすいが、東京建物の分譲マンション竣工在庫の増減によって左右される向きもある。実際、2009年は「Brillia Mare有明TOWER&GARDEN(1085戸)」など大型案件の販売が相次いだことで販売戸数2914戸に到達しており、2020年は販売戸数こそ1316戸に留まったが、「BrilliaTower 上野池之端」や「BrilliaTower 代々木公園 CLASSY」などの高級分譲マンションの販売戸数が多かった。販売好調となる景気回復局面に適正な分譲マンション竣工在庫を確保することができると営業収益が急伸する為、景気回復局面のみ営業収益の急伸が起こりうると考えるべきか

営業利益は500億円規模へ拡大

■営業利益の特性
営業利益は2011年を除けば概ね300億円から500億円のレンジで推移しており、営業収益の上下変動の激しさに反して安定感が強い。営業利益率は直近では概ね15%前後の水準であることを踏まえれば収益基盤は堅牢と言えそうだが、不動産業は巨額の初期投資を長期的に回収して利潤を得る事業である点には注意が必要である。巨額の初期投資によって収益物件を取得していることから利益水準が高いのは当然であり、寧ろ、当初に想定した投資回収計画に沿った利益水準を維持できているかが問題である。賃料相場の変動によって当初に想定した投資回収計画に綻びが生じた場合には巨額の特別損失を計上することもあり、実際に東京建物が賃料相場の変動によって投資回収計画の見直しを強いられた2012年には純損失720億円を計上する事態に陥っている。

■過去の営業利益推移
景気動向に関わらず営業利益300億円以上を概ね確保できているが、2011年の営業利益の低迷が殊更に顕著である。同年はオフィス賃料相場が特に低迷していた時期であったことから、予定していた不動産の売却を見送ったことで利益水準が低迷したことに加えて、特別目的会社への匿名組合出資で開発用不動産評価損63.3億円および匿名組合損失等75.7億円を計上したことが打撃となり営業利益が急減した。当時は営業利益の約70%以上をビル事業が稼ぐ利益構造であったが、オフィス賃料相場の悪化によってビル事業の保有するオフィスビルの稼働率は90%未満にまで下落した他、賃貸オフィスビルの平均賃料坪単価の下落が起こったことで利益水準が悪化した。賃貸オフィスビル運営において賃貸面積と賃料単価の下落が同時並行すると営業利益が急速に悪化する性質が見え透くが、現在は住宅事業の利益水準が向上している為、この性質はやや弱まっていると見てよいだろう

営業収益の構成

ビル事業(37%)

■事業内容
ビル事業には、事務所用ビルおよび商業施設の賃貸及び管理などが含まれる。ビル事業はオフィスビル48棟を擁しているが、東京都に貸借面積の80%以上が集中しており、東京集中の色彩が強い。運営物件には、不動産市場において特に競争力が高い物件が含まれており、東京スクエアガーデン・中野セントラルパーク・大手町タワーなどは殊更に有名である。賃貸面積の拡大には今なお熱心であり、現在は八重洲及び呉服橋で大規模開発プロジェクトを展開する他、中央区・港区・渋谷区で準備組合を設立する段階にあり、2030年までに約32万㎡の貸借面積が新たに加わる計画である。ビル事業には連結子会社の東京不動産管理および東京ビルサービスが含まれており、これらの連結子会社が自社ビルおよび非自社ビルの管理清掃業務を担っている。

■過去の営業収益分析
ビル事業の営業収益は435億円から1209億円のレンジで推移しているが、2014年以降は概ね1000億円規模で推移している。ビル事業の営業収益が拡大基調にある理由は、①都心オフィス賃料が2013年から上昇基調にある点、②ビル事業の賃貸面積が48.1万㎡(2011年)から79.9万㎡(2019年)にまで拡大している点、に起因している。ビル事業の保有するオフィスビルの稼働率は都心オフィス賃料が低迷した2011年前後で89%前後の水準であったが、都心オフィス需給が逼迫した2015年以降は95%以上の高水準を維持し続けている。2019年は稼働率98%以上を維持したことで営業収益1200億円を達成している。都心オフィス需要が高騰する局面においては営業収益が高水準で推移しやすい。過去の推移を観察すると2014年に営業収益が拡大しているが、これは同年から会計基準の変更によって匿名組合及び特定目的会社が新たに連結対象に加わった点に起因している。この時に連結対象に加わった特定目的会社が保有していた大手町タワーと東京スクエアガーデンの共有持分の追加でビル事業の賃貸面積が前年比59%の増加を遂げており、営業収益が急増した構図である。

■将来の営業収益予測
減少を見込む。目先はCOVID-19の流行による景気後退がオフィス賃料の下方圧力として作用することに加えて、2023年以降にオフィスビルの竣工ラッシュが到来することで需給が弛緩すると見込む。目先はCOVID-19の流行による景気後退によって不動産市場におけるオフィス需要を鈍らせる。業績低迷した企業がオフィス賃料の圧縮による固定費の削減を図る他、在宅勤務の定着を見越したオフィス面積の圧縮が実行されよう。更に、2013年以降のオフィス賃料相場の高騰を受けたオフィスビルの再開発ラッシュによる大量供給が2023年まで進行する為、需給の悪化は不可避である公算が高い。名古屋を筆頭とする地方都市におけるオフィス賃料相場は供給の乏しさから底堅く推移しそうであるが、東京建物のビル事業の保有するオフィスビル賃貸面積の80%は都心部に所在している為に恩恵を享受できない。都心部に偏重したポートフォリオにとっては向かい風が厳しい局面となろう。東京建物が現時点で進行している開発プロジェクトによる将来的な貸借面積の増加は合計32万㎡に及ぶが、竣工時期が2025年から2030年の期間である為、当面は急激な増加はなさそう。

住宅事業(40%)

■事業内容
住宅事業には、マンション・戸建住宅の分譲並びにマンションの賃貸及び管理などが含まれる。東京建物は分譲マンションの「Brillia」ブランドを主力とするが、賃貸マンションの「Brillia ist」ブランドを展開している。住宅事業の「Brillia」は、東京・大阪・名古屋・京都・福岡などの主要都市で事業を展開している為、東京集中が顕著なビル事業と比べれば地域的偏重が少ない。「Brillia」は、都心の超高層タワーマンションから郊外の大規模マンションまで幅広く包含したブランドであるが、2013年には老朽化した多摩ニュータウンを全面建替した「Brillia 多摩ニュータウン」を販売するなど開発姿勢は柔軟である。住宅事業の分譲賃貸マンションの管理業務は住宅事業の連結子会社である東京建物アメニティサポートが担っているが、同社は東京建物の物件以外の管理業務を受託することで管理物件数を拡大している。

■過去の営業収益分析
住宅事業の営業収益は過去10年間に渡って798億円から1312億円のレンジで推移しているが、年度毎の好不調が激しい。住宅事業は分譲マンションの販売戸数に営業収益を依存するが、販売戸数は分譲マンションの開発状況と景気動向に応じて変動する為、営業収益は安定しない。過去の推移を観察すると、2013年と2019年は営業収益1000億円を超える高水準で推移しているが、いずれも分譲マンションの販売が好調であった時期と合致する。2013年は大規模開発案件であった「Brillia 多摩ニュータウン(1249戸)」および「BrilliaCity 横浜磯子(1230戸)」の販売時期であったことから販売戸数が1914戸に到達して営業収益が膨張した。2019年は販売戸数こそ1316戸に留まったが、「BrilliaTower 上野池之端」や「BrilliaTower 代々木公園 CLASSY」などの高級分譲マンションの販売戸数が多かったことで営業収益は1312億円に到達した。東京建物の分譲マンションは中価格帯から高価格帯まで様々であり、開発案件によって分譲戸数がまったく異なる為、開発計画を把握しておくと予測が立てやすい。

■将来の営業収益予測
横ばいを見込む。住宅事業が分譲マンションの竣工在庫を多く確保している反面、COVID-19による景気後退が消費者の分譲マンションの購買意欲を後退させることで横ばい推移を強いられると見込む。東京建物は資本効率の良い分譲マンション事業の拡大を中期経営計画で掲げており、これを実現すべく分譲マンション竣工在庫は過去最高水準にまで積み上げた局面でCOVID-19の流行が発生した。分譲マンションの竣工在庫が豊富であることから営業収益を拡大させる素地はあるが、①景気後退による消費者のマンション購入意欲の減退、②感染拡大を防止する観点から積極的な営業施策の自粛、が当面の懸念である。実際、2020年における住宅事業の分譲マンション契約進捗率は2017年以降で最悪となる79%に留まっており、販売計画に対する契約実績の遅行が表面化している。東京建物は2024年までに分譲マンション6600戸の販売を計画しており、このうち約80%は既に開発が進行中であることから、長期的には営業収益が拡大傾向で推移する公算が高いが当面は厳しい局面となりそうか。

アセットサービス事業(13%)

■事業内容
アセットサービス事業には、仲介・アセットソリューション・賃貸管理・駐車場運営などが含まれる。アセットサービス事業の領域は幅広いが、主力事業は取得した不動産の価値を向上させて再販するアセットソリューションである。取得した不動産を価値向上して売却または賃貸することで投資回収する他、必要に応じて東京建物が擁する不動産ファンドへ物件を売却して資金回収することもある。アセットソリューションの収益モデルは情報収集・開発企画・売買賃貸に至る幅広い知見を活用した不動産投資であり、総合不動産会社としての知見と資産を活用した事業である。顧客の土地を等価交換方式によって取得して開発した場合、顧客は完成建物のうち土地価格相当分の土地建物を取得することができ、開発費用を負担することなく競争力ある完成建物を部分的に保有することができる。尚、アセットサービス事業の連結子会社には東京建物グループにおける仲介・貸借などを担う東京建物不動産販売および駐車場運営を担う日本パーキングが含まれる。特に日本パーキングは2010年にTOBによって完全子会社化してから継続的に注力してきた事業であり、現在では車室数6.9万室に到達している。

■過去の営業収益分析
アセットサービス事業の営業収益は402億円から526億円のレンジで推移しているが、2017年以降は400億円規模へとやや減少している。アセットサービス事業の営業収益は仲介・アセットソリューション・賃貸管理・駐車場運営によって構成されるが、直近では営業収益の約45%を駐車場運営に依存する構造となっている。取得した不動産の価値を向上させて再販するアセットソリューションは大型案件の有無によって営業収益が変動しやすく、同事業が大型案件に恵まれた2016年はアセットサービス事業の営業収益が500億円規模にまで拡大を果たした反面、2017年以降は大型案件に乏しいことでアセットサービス事業の営業収益は400億円規模で停滞している。営業収益が不安定なアセットソリューションに対して駐車場運営は運営する車室数に営業収益が比例する性質が強く、駐車場運営は営業収益200億円規模を安定的に確保している。駐車場運営で営業収益を安定的に確保しつつ、アセットソリューションで大型案件があれば営業収益がストレッチする構造と見てよい。

■将来の営業収益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による景気後退と外出自粛がアセットサービス事業の主力である駐車場運営とアセットソリューションの営業収益が低落すると見込む。アセットサービス事業の営業収益の約45%を構成する駐車場運営は、COVID-19の流行に伴う外出自粛によって稼働率が低落する公算が高い。駐車場運営は業績が安定的であることからアセットサービス事業を底堅く支えてきたが、COVID-19の流行という想定外の事態による思わぬ停滞を強いられるか。アセットソリューションは大型案件の有無によって営業収益が急変することで予測が困難であるが、景気後退局面における不動産市場が停滞する点を踏まえれば、取得した不動産の価値を向上させて再販する事業モデルは真価を発揮しにくい。業績低迷した外部顧客にとって等価交換方式による不動産の有効活用は魅力ではあるが、COVID-19の流行によるテレワークの普及がオフィスビル需要を下押しする先行き不透明な環境では、収益性に期待を抱きにくいことから大型案件を進行させにくい。

営業利益の構成

ビル事業(61%)

■過去の営業利益分析
ビル事業の営業利益は73億円から370億円のレンジで推移しているが、2011年を除けば200億円以上の規模を維持しており安定感が強い。直近では営業利益に占める比率が約60%にまで低下しているが、2014年以前は営業利益の約80%を占める稼ぎ頭の事業であった。ビル事業の営業利益は、賃料収入・管理受託・物件売却によって獲得されるが、賃料収入と管理受託は安定的に営業利益を確保できる事業となっている。反面、物件売却による利益獲得は不動産市場の情勢による変化を受けやすいことから利益水準が安定しない。過去の推移を観察すると、2011年に営業利益73億円にまで急減しているが、これは、①オフィスビル賃料相場の低迷によって保有するオフィスビルの売却を見送ったこと、②開発特別目的会社への匿名組合出資で開発用不動産評価損63.3億円および匿名組合損失等75.7億円を計上したこと、に起因している。ビル事業の営業利益は歴史的に安定感が強いが、不動産市場が低迷する局面では急減が起こりうる点には留意したいか。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。景気後退局面におけるオフィスビル賃料相場の低迷のみならず、COVID-19の流行によってリモートワークが社会的に定着したことでオフィスビル需要そのものが想定外の下落を強いられる。過去8年間に渡って都心オフィスビル需要は堅調な拡大基調が継続したことで、2023年からオフィスビル竣工ラッシュが到来する予定であるにも関わらず、オフィスビル需要そのものが低落することで需給悪化を免れない。リモートワークは働き方改革のみならず、COVID-19の流行で業績悪化した企業にとっては固定費削減として作用することから、当面に渡って都心オフィスビルの削減が趨勢として継続する公算が高い。東京建物が現時点で進行している開発プロジェクトは2025年から2030年に竣工が相次ぐ計画となっているが、営業収益こそ拡大すれ、利益水準の停滞は免れ得ないか。

住宅事業(26%)

■過去の営業利益分析
住宅事業の営業利益は▲13億円から158億円のレンジで推移しているが、2014年以降は概ね拡大基調で推移して158億円規模にまで到達している。分譲マンションの販売はアベノミクスを発端とする景気回復局面において活況を呈しており、東京建物が得意とする都心好立地の分譲マンションは過去5年に渡って拡大企業が継続してきた。反面、現物資産の価値減少が進行する景気後退局面では富裕層の贅沢消費が減少することで高級分譲マンション需要は落ち込みやすい他、竣工在庫の値下販売による損失が起こりやすい。実際、2011年と2012年には分譲マンションの販売縮小と在庫の棚卸在庫評価損の計上によって営業赤字に転落している。分譲マンションは計画から竣工まで数年間を要することから、思わぬ需要縮小に直面した場合には原価割れの値下販売に陥ることが少なくない。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の感染拡大による景気後退局面において富裕層の贅沢消費が減退する点が懸念である。東京建物は2020年に公表した中期経営計画で分譲売却による営業利益を360億円規模に拡張することを企図しており、既に2024年までに分譲マンション6600戸の販売を計画している。既にこのうち約80%は開発が進行中であるが、COVID-19の流行という想定外の局面でこれらの分譲マンションを当初計画に沿って販売することは難しそうである。当面は分譲マンションの販売で高い利益水準を確保できない他、在庫の棚卸在庫評価損の計上を強いられる可能性にも注意を払いたい。尤も、リーマンショックによる景気後退局面とは異なり、株式市場の低迷が軽度であった為に富裕層の資産減少が深刻化していない点は救いではある。

アセットサービス事業(10%)

■過去の営業利益分析
アセットサービス事業の営業利益は38億円から63億円のレンジで推移しているが、2018年以降は60億円規模への拡大を果たしている。2018年および2019年の営業利益の拡大はアセットソリューションにおける投資家向け物件販売が好調に推移したことに起因している。同時期は不動産市場が活況を呈していたことで、取得した不動産の価値を向上させて再販する事業モデルが健全に機能していたことで高い利益水準を維持していた構図である。更に、安定した営業利益の確保が強味である駐車場運営において、継続的に車室数を増加させてきたことがアセットサービス事業の利益水準を底上げしている。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による不動産市場の混乱がアセットソリューションの利益水準を低迷させる他、外出自粛による駐車場の稼働率の低迷が追い打ちとなる。特にアセットソリューションは2016年から将来的な不動産需要の拡大を見越して保有不動産のストックを増加させてきた経緯があり、これが裏目となりそう。同事業がストックする不動産は、商業施設/ホテル・分譲マンション・オフィスビルと多岐に渡るが、不動産市場の低迷による資産価値の下落を免れ得ない。低価格で取得した物件については利益水準の低下に留まるが、高価格で取得した物件は価値向上を経ても逆ザヤとなる可能性がある。仲介や貸借などの事業を加味しても、将来的なアセットサービス事業の営業利益の減少を抑制する要素には乏しく、当面は厳しい推移を強いられそう。

財務の健全性

手元資金はやや多めの水準

■手元資金の特性
手元資金は各年度によって上下変動が激しいが、2014年の869億円を除けば概ね400億円前後の水準で推移している。営業収益が年間3000億円規模と考えると手元資金としては250億円が目安となる為、やや多めの水準である。尤も、不動産業は巨額の投資を要する事業である為に潤沢な手元資金が機動的な事業展開には不可欠である。こうした点を踏まえれば決して潤沢と言える水準にはないが、これは営業収益を無為に手元資金として滞留させずに財務健全性を損ねない範疇で積極投資を継続しているということでもある。

■過去の手元資金分析
2014年の手元資金の急増が際立つが、これは同年に大手町タワーの共有持分の30%をみずほ銀行に1782億円で売却したことに起因している。同年から会計基準の変更によって匿名組合及び特定目的会社が新たに連結対象に加わった際に、東京建物が保有する不動産ポートフォリオの構成を最適化する目的であった。この例に見られる様に、東京建物は競争力が高い都心オフィスビルを保有している為、機動的な物件売却による現金確保がしやすい。

自己資本比率は業界中位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は概ね25%をやや下回る水準で横ばい推移している。同業他社と比較すると、野村不動産ホールディングス30.5%・ヒューリック25.8%・京阪神ビルディング47.0%となっており、業界中位の水準である。不動産業は巨額の投資資金を借入金で賄うことが多い背景から自己資本比率が停滞しやすい傾向があり、東京建物の自己資本比率はこの例に漏れない。尤も、不動産業は業績が安定的かつ保有資産の売却が容易であることから、表面的な自己資本比率と比べて実質的な財務健全性は高めである。東京建物は中期経営計画においてDEレシオ(有利子負債÷自己資本)2.5倍を掲げており、財務健全性と資本効率の両立を図っている。

■過去の自己資本比率分析
2014年以前は自己資本比率が22%から29%のレンジで上下変動していた反面、2014年以降は概ね自己資本比率24%に収束して安定推移している。2011年は自己資本比率が20%にまで低落しているが、これはオフィス賃料相場の低迷により、大規模開発事業を担っていた特別目的会社の評価を見直したことで純損失720億円を計上したことで純資産が前年比26%の急減に見舞われたことに起因している。2014年の自己資本比率の低落は、同年に会計基準の変更で新たに連結対象に加わった匿名組合及び特定目的会社の抱えていた負債が貸借対照表に表出したことによる。2014年以前はこうした要因によって自己資本比率の変動が激しかったが、2014年以降は不動産市場や会計基準の変動による影響がなくなったことから安定的に推移している構図である。

株価の割安感

BPSは2011年を底に増加傾向

■BPSの特性
BPSは2007年から2011年の期間で下落傾向が継続したが、2011年以降は右肩上がりで推移している。東京建物は資産の約70%を土地・建物・投資有価証券などの固定資産で保有していいるが、これらの資産は景気動向に応じて評価額が変動しやすい。こうした背景から、業績の安定感に対してBPSは上下変動が激しい推移となっている。直近では純資産3842億円のうち、不動産および有価証券の含み益が960億円を占めており、不動産市場と株式市場の好調による恩恵がBPSを押し上げている構図となっている。尚、東京建物の資産の大半が日本国内に所在する事情から為替動向によってBPSが被る影響は些少である。

■過去のBPS分析
2009年および2011年におけるBPSの下落が際立つ。2009年のBPSの下落は、大手町再開発事業への投資を見越した公募増資によって約450億円を調達したことで発行済み株式数が約36%の増加を遂げたことでBPS(純資産÷発行済み株式数)が減少している。2011年は、オフィス賃料相場の低迷によって大規模開発事業を担っていた特別目的会社の評価を見直したことで約650億円の特別損失が発生しており、これが利益剰余金を急減させたことでBPSが減少した。2013年以降はBPSが拡大しているが、これは業績好調による利益剰余金の増加のみならず、不動産市場と株式市場の好調による含み益の増加が奏功した結果である。

PBRはやや割安な水準で推移

■PBRの特性
PBRは長期的に0.55倍から2.0倍のレンジで推移しているが、2015年以降は概ねPBR1.0倍前後の水準に収束している。競争力のある都心オフィスビルを確保して高い利益水準を維持しているにも関わらずPBRは割安圏で停滞しているが、これを理解するには将来的な不動産市場の趨勢を踏まえる必要があろう。不動産業各社が現在開発している都心オフィスビルの竣工ラッシュが2023年以降に到来することでオフィスビル賃料相場は将来的に下落すると予測されるが、この賃料相場の下落は保有不動産の評価額の下落を惹起する。特に東京建物は貸借対照表における固定資産の比率が高いことからBPSの低落が予期され、賃料相場の下落が業績の下振れを引き起こせばBPSの回復が遅れる。こうした予測からPBRが割高圏に到達するまで買い上がる動機を欠く局面であることから、PBRが割安圏で停滞していると解釈できるよう。

■過去のPBR分析
2013年のみPBR2.0倍へ急騰したことで割安圏を脱している点が顕著である。同時期はアベノミクスを発端とする株高局面であったことに留まらず、景気回復局面を迎えたことで不動産市場が上向いた時期であった。こうした背景から、オフィスビル賃料相場が長らく低迷していたことで割安評価されていた東京建物の保有不動産の評価額が上向く期待値が高まったことで、東京建物の株価が急騰した。更に、東京建物が保有していたヒューリックの株式の一部を売却したことで特別利益98億円を確保したことが株式市場に好感されたことも株価急騰を支えた。景気回復局面の序盤においては業績回復のみならず保有資産の評価額が向上する期待値から東京建物の株価が上昇することから、PBRは上昇しやすいと見てよい

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は業績連動型である。東京建物は配当政策として「企業価値向上に向けた再投資のため内部留保の充実を図るとともに、今後の経営環境、事業展開及び業績の推移等を総合的に勘案の上、安定的な配当水準の維持とその向上に努める」を掲げており、実際に配当金は業績に連動して推移している。営業利益が300億円以上の規模で安定推移している反面、配当金の上下変動が激しい点には注意を要する。尤も、2017年からは目標とする配当性向を30%に設定している為、将来的には極端な業績悪化が起こらない限りは継続配当が見込めそうではある。

■過去の配当金分析
2011年から2014年の期間における配当金の低迷が目につく。これは2011年に賃料相場の変動によって投資回収計画が綻んだことで純損失720億円を計上したことに起因している。巨額の純損失の計上によって過去に蓄積した利益剰余金が霧散した為、配当金の水準を低下せざるを得なかった構図である。2011年以降は利益水準が回復したが、2014年までは財務体質の回復の為に配当金を抑制する状況が継続した。不動産業は巨額の初期投資を長期的に回収して利潤を得る事業である為、表面的に利益水準が回復した場合であっても、財務体質が悪化している場合には配当金を抑制する傾向が強い点には注意を要する

配当利回りは低水準で推移

■配当利回りの特性
配当利回りは0%から4%のレンジで推移しており、上下変動が激しい。東京建物は業績こそ安定しているが、株価と配当金の上下変動が激しい為、配当利回りは安定感を欠く。長期的には日本株の平均的な配当利回りである2%前後と概ね同水準に収束するものの、短期的な配当利回りの上下変動は不可避である。尤も、これまで東京建物は配当金以外の株主還元に消極的であった姿勢を最近は転換しつつあり、2019年には自社株買い100億円を実施して発行済み株式数の3.59%を消却している。こうした配当金以外の株主還元を加味すれば、実質的に株主が得られるリターンは表面的な配当利回りをやや上振れると見てよい。

■過去の配当利回り分析
2008年と2018年に配当利回り3%を上回る高水準に到達している。東京建物の配当利回りは、業績が都心オフィスビル賃料相場に依存する背景から景気後退局面の序盤に高騰する性質がある。オフィスビル賃料相場は景気循環にやや遅行して変動する為、東京建物の業績は実体経済の景気減速に遅れて悪化していく。この性質によって景気後退局面の序盤まで配当金が高水準で推移する反面、株価は実体経済の景気減速に先行して下落する為、配当利回りが高騰する構図である。配当利回り3%を超える水準は歴史的に持続性がない為、配当利回りが同水準まで上昇した局面では注意を要するか。

総合評価

目標株価

1070円

COVID-19の流行に伴うテレワークの普及によってオフィスビル需要の縮小がオフィスビル賃料相場を低落させた場合、業績悪化のみならず保有不動産の資産価値の減少が起こる。既にPBR1.0倍前後の割安圏にあるとはいえ、将来的にBPSが減少することを見越せば株価の下振れ余地は少なくない。東京建物の不動産ポートフォリオが競争力が高い都心オフィスビルに集中している点を踏まえても、当面はこの程度の株価水準での推移を覚悟したい。

投資判断

弱気

COVID-19の流行による急激な社会情勢の転換による打撃が少なくない企業である。2011年から2019年の期間で都心オフィスビル賃料相場は堅調な拡大基調で推移したことで、東京建物は賃貸オフィスビルと分譲マンションの開発に積極的に取り組んで業績回復を実現してきた。2015年以降は大型再開発プロジェクトを同時並行で立ち上げ、競争力が高い都心オフィスビルが2025年から2030年の期間で竣工ラッシュを迎える計画となっている。こうした状況においてCOVID-19の流行を迎えたことで、①景気後退局面における不動産市場の冷え込み、②テレワークの急速な普及によるオフィスビル需要の減少、が東京建物の目算を大きく狂わせる公算が高い。歴史的には、景気後退局面における不動産市場の冷え込みは景気減速が底打つことでオフィスビル需要は持ち直すが、今回はテレワークが急速に普及したことでオフィスビルへ毎日出勤する働き方そのものを転換する機運が大手企業を中心に勃興しつつある。オフィスビルの需要そのものが社会変革によって減少する結果、景気後退で冷え込んだ不動産市場の回復が弱含みとなり、業績停滞が長期化する可能性が高い。更に、2023年以降には不動産業各社が開発したオフィスビルの竣工が相次ぐことで一段とオフィスビルが供給されることで需給が更に悪化することでオフィスビル賃料は低迷すると予測する。オフィスビル賃料相場が下落した場合には利益水準の低迷が起こる他、東京建物が保有する不動産の資産価値が減少することで財務体質の悪化を惹起する。既に株価は割安圏で推移しているが、東京建物を取り巻く事業環境の悪さを加味すれば、投資判断は弱気に据え置かざるを得ないと判断する。