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コラム

業績不振に沈んだ日産自動車、復活へのシナリオを読み解く

基本情報

日産自動車(7201)が過去における過度な販売台数の拡大が裏目となって業績不振に陥ったことは昨今有名である。2019年通期決算において純損失6712億円を計上した他、2020年通期決算においても純損失6000億円前後を計上する見通しである。売上高10兆円を超える企業規模であったことを踏まえても、僅か2年間で累計1兆円を超える純損失を計上すれば財務体質が急激に悪化することは自明である。多くの従業員とサプライヤーを抱える同社の業績再建は、日本の製造業にとって極めて重要な問題だろう。本稿では、日産自動車が好評した事業構造改革計画を通して、同社が業績再建をどのようにして果たす計画なのかを探りたい。

目次

直近の業績

2019年は純損失6410億円に沈む

日産自動車の直近の業績をみると、連結売上高は9.8兆円まで減少、営業損失405億円、純損失は6712億円となっている。11年ぶりに赤字転落したことに加えて、ゴーン改革以来の巨額の純損失を計上する事態に陥っており、業績不振は明らかであろう。事業運営の失敗のみならず、米中貿易摩擦やCOVID-19の流行などで新車需要が極端に落ち込んだことも追い打ちとなっており、事業環境は最悪と言ってよい。なお、純損失の内訳をみると、構造改革費用および減損損失が合計6030億円を占めている。本業での損失を示す営業損失は405億円に留まっており、リーマンショック直後の営業損失1379億円(2008年)と比べるとまだ救いがある。

販売台数が500万台を割り込む

日産自動車の直近の販売台数をみると、約8年ぶりに500万台を割り込み、前年比▲10.6%もの減少に見舞われている。世界景気の減速によって新車需要が前年比▲6.9%となったとはいえ、日産自動車の販売台数の減少が新車需要の減少よりも大きいことが明らかである。市場別にみると、北米市場における販売減少が顕著である反面、中国市場における減少は極めて限定的である。これは過去に北米市場で過度な販売台数の拡大をフリート販売や販売奨励金によって追求した反動であろう。北米市場では旧型車を値引販売で拡販したことで格安の中古車が市場に溢れてブランド価値を毀損する事態に陥っており、この反省から値引販売を自粛した結果として販売台数が急減した構図である。北米市場は日産自動車にとって最も重要な市場であり、ここで事業運営に失敗した点は極めて痛手であろう。反面、もうひとつの主力市場である中国市場が堅調であることは救いであるが、トヨタ自動車や本田技研工業などの日系自動車メーカーが攻勢を強めており、予断を許さない状況が続いている。

事業構造改革計画

NISSAN NEXTとは

こうした業績不振を脱却すべく、日産自動車は事業構造改革計画「NISSAN NEXT」を策定した。この計画は2020年5月28日に開催された決算発表の場で公表されたものであり、業績不振に喘ぐ日産自動車が今後どのように業績回復を目指すのかのロードマップを指し示すものである。本稿では「NISSAN NEXT」の内容を読み解くが、過去の過剰な拡大路線を撤回して選択と集中を押し進める計画であるといってよい。

過去の拡大戦略との決別を示唆

事業構造改革計画は、①収益を確保しての成長、②自社の強みに集中すること、③日産ブランドを回復すること、を柱としている。これは2015年以降の日産自動車の事業運営の失敗を転換するものであろう。過剰な規模拡大を目指すあまり、自社の強みとは異なる新興国市場への投資に傾倒して新車開発が遅れたことでブランド価値の低迷を招いたことへの反省である。最近の日産自動車は「ダットサン」ブランドの拡販に熱心であったが、伝統的に日産自動車は新興国市場の小型車の開発に不慣れであり、お世辞にも成功とは言い難い状況に陥っていた経緯がある。更に言えば、2016年に新興国市場を得意とする三菱自動車工業を傘下に加えたことで、敢えて不慣れな新興国市場で日産自動車が規模拡大を追求する意義は薄れている事情もある。そのため、自社の強みとする主力市場でのCセグメント以上の車格へ集中することでブランド価値を回復して収益を確保しながらの成長を実現しようとしていると見てよい

コア領域への選択と集中を標榜

将来の成長に向けた方策として、①拡大戦略で肥大化した事業規模の最適化、②得意領域への選択と集中による競争力の底上げ、を掲げている。日産自動車は過去の拡大戦略で年間720万台規模の生産能力を現有するが、新興国市場でのシェア拡大が思ったほど成功しなかったことで不採算な余剰能力を抱え込む状況にある。自動車メーカーにとって余剰能力は固定費の増加を招くことから最も忌避すべきものであり、生産能力の適正化によるコスト改善は喫緊の課題であろう。生産能力を縮小してコスト改善を図る反面、日産自動車が伝統的に得意とする領域へリソースを集中させることで競争力を拡大することが利益水準を回復させるにあたっての必須項目である。なお、日産自動車がリソースを集中させるであろう得意領域とは、①Cセグメント以上の中~大型車、②主力市場である日米中欧市場、③電動化技術と自動運転技術の深耕、を指すと推測される。

過剰な生産能力の最適化

過去の拡大戦略で悪化した利益体質を回復させるにあたっての重要課題が、不採算な余剰能力の最適化である。日産自動車は新興国市場における新車需要の拡大を想定して生産能力を年間720万台規模まで拡大していたが、実際には新興国市場におけるシェア拡大が予想よりも進まなかった。これは日産自動車が、①新興国市場の主力車種となるAセグメント車種を得意としていなかった点、②インドや東南アジアにおいて日産自動車の認知度が高くない点、などに起因している。更に、新興国市場へリソースを集中させていたことで先進国市場における販売車種の老齢化が目立ち、本来の主力市場における新車販売も伸び悩む状況へ陥った。自動車メーカーにとって余剰能力は固定費の増加を意味する為、余剰能力を削減することが急務であり、日産自動車は年間600万台規模にまで生産能力を引き下げる。これを達成する為に、①インドネシア工場の閉鎖、②バルセロナ工場の閉鎖、③北米市場の生産能力の再編、を実施して、工場稼働率を約80%以上に高めて効率化を果たす計画である。

強みのある領域へ新型車を集中

生産能力を最適化してコスト低減をするにせよ、採算の良い新型車の拡販がない限りは業績回復は難しい為、日産自動車は新型車の連続投入を計画している。ただし、ここで投入する新型車は、日産自動車が伝統的に得意とするCセグメント以上の車格かつグローバルで競争力が高いモデルに限られる。確実に利益の見込める量販モデルにリソースを集中させて新車販売を回復させることで、利益体質を改善する意図であろう。日産自動車の企業体力で開発できる新型車には限りがある為、ルノー日産三菱アライアンスで連携しているルノーや三菱自動車工業などとの協業によって効率的な新車開発に取り組む。例えば、①A・Bセグメントの新車開発におけるルノーとの連携、②SUVやPHEVの新車開発における三菱自動車工業との連携、などが挙げられるだろう。ルノー日産三菱アライアンスでは、参画する各社が得意とする領域を分業して新車開発コストを低減する体制を志向しており、このスキームを活用した効率的な新車開発の体制を構築できるかが重要となりそう。

コスト削減で企業体力を温存

業績回復に向けて新車開発を急ぐ日産自動車であるが、新車開発には時間と資金を要することから、目先の業績悪化から企業体力を温存する為に固定費の削減を急いでいる。ここでは2020年までに約3000億円の削減を掲げており、新型車の投入に要するリソースを賄うべくコスト削減を大鉈を振るうと思われる。ただし、コスト削減の対象とする領域は意外にも狭く、①生産領域における余剰能力の整理、②販売費及び一般管理費における固定費の削減、③マーケティング分野における支出抑制、などである。研究開発費はコスト削減の対象になっておらず、将来の競争力に直結する領域を守る方針となっている。コスト削減で維持したリソースは業績回復を担う新型車の開発などに振り向けられる計画であり、ここでも選択と集中の姿勢が顕著であろう。目先の業績悪化を乗り越える為の企業体力を温存しつつ、将来の業績回復に向けた布石を怠らないバランスを実現できるかが重要である。

地域別構造改革

放置が続いた日本を再強化

日産自動車は2010年代後半から日本市場への新型車の投入に消極的な姿勢が続いてきたが、これを転換する意思を表明した。現在の日本市場の新車ラインナップは老齢車種が大半を占めている為、2019年以降に新型車を連続投入することで同業他社からシェアを奪還する。日本市場はシリーズハイブリッド「e-power」技術などの電動化技術が好評であることから、2023年までに同技術を搭載する新型車6種類をする他、新型EV3車種を投入する計画としている。日本市場は新車需要の減少が続くとはいえ富裕国であることに変わりはなく、依然として世界有数の巨大市場である。富裕国である日本市場は1台当たりの販売価格が新興国市場よりも高いことは当然、採算の良い高額な純正オプションがよく売れることも特徴であり、この市場における販売回復が利益体質を回復させる重要事項であることは事実であろう。更に、日産自動車が本国で有用な人材を確保する為にも、日本市場でのプレゼンスの回復は急務である。

中国はシェア拡大を目指す

中国市場は依然として日産自動車が好調な販売を続けている貴重な市場であり、米国市場での失敗が重荷となっている現在の日産自動車を今なお支えている柱である。中国市場においては同業他社の攻勢が厳しいとはいえ、健全な事業運営が続いていることから、これを維持することが至上命題となる。ただし、中国市場は現地政府の強力な旗振りによってEVの普及拡大が急がれている為、これに対応すべく2023年までにEV7車種を販売する体制を整える計画である。EVの投入と並行して、シリーズハイブリッド「e-power」を搭載した新型車を6車種まで拡大する計画となっているのは、北米市場に並んで国土が広大な中国市場においてピュアEVがどこまで普及するかが未知数である点に起因していると推測され、複数の電動化技術を組み合わせた拡販を企図している。中国市場は日産自動車が得意とする主力市場であるとはいえ、今や世界屈指の激戦区となっている市場であり、どこまで勢力を拡大できるかが着目される。強いて言えば、米系自動車メーカーが米中貿易摩擦を契機に競争力を失ったことで、日系自動車メーカーの競争力は相対的に高まっている点は救いとなりそう。

米国はブランド価値の回復を志向

現在の日産自動車が直面する最大の課題が、米国市場におけるブランド価値の毀損からの回復である。米国市場は日産自動車にとって最も重要な市場であるが、過去における過剰な販売台数の拡大路線がブランド価値を大きく毀損して利益体質を悪化する状況にある。北米市場において日産自動車が犯した過ちは、①販売台数を確保する為にフリート販売に過度に依存した点、②新型車の投入の遅れで老齢車種を大きく値引した販売を繰り返した点、に尽きる。これらの失敗によって格安の中古車が市場に溢れたことで、北米市場における日産自動車のイメージは大きく低下してしまった。日産自動車はこの状況を挽回するべく、①値引する必要がない競争力が高い新型車の連続投入、②新車価値を守るべくフリート販売と値引販売の抑制、を掲げている。更に、日産自動車が伝統的に得意とするSUVとピックアップトラックの新型車を投入してラインナップを再強化することでブランド価値を回復しようと試みている。一度悪化したブランド価値の回復は短期間で成し得るものではなく、事業体質の再建には最低でも数年以上の時間を要すると推測される。また、ブランド価値の回復を果たすまでは値引販売の抑制によって販売台数が落ち込む為、当面は厳しい状況が続くだろう。

欧州はルノーのフォロワーに転換

欧州市場における日産自動車の歴史は長いが、他の主力市場と比べた重要性は低い。将来的に新車需要が拡大する地域ではないことに加えて、歴史的に日系自動車メーカーがシェアを拡大しにくい市場特性があることから、積極攻勢の動機には欠ける地域であることは否めないだろう。日産自動車は欧州市場において選択と集中を進める方針であり、人気車種の「キャシュカイ」や「ジューク」などクロスオーバーSUVには注力しつつも、その他の車種はルノーとの提携によって揃える方針である。ルノー日産三菱アライアンスにおいては、ルノーが欧州市場のリーダーを担うことが明言されており、他社はルノーのフォロワーとして欧州市場を開拓するとしている。また、欧州市場を得意とするルノーは、北米市場と中国市場では極めて脆弱な存在であり、アライアンス内部で欧州市場を奪い合ってリソースを消耗する理由は全くない。欧州市場においては持続可能な事業規模を確保することに専念して、世界屈指の巨大市場である中国市場および北米市場に注力することが業績回復への近道であろう。

成長戦略

電動化戦略はより強化

将来の競争力を維持する為に電動化技術は今や日産自動車の事業の柱となっており、世界的な排ガス規制の強化に対応しながら消費者に付加価値を提供する重要技術である。日産自動車は2010年に世界初の量産EV「リーフ」してから10年以上に渡ってEV開発を手掛けてきた先駆者であるが、最近は同業他社のEV開発が過熱化したことで強烈な追い上げを受ける状況であることから予断を許さない。とりわけ、EVシフトが急速に進む中国市場と欧州市場における競争力の維持にはEVの投入は急務の状況にあるが、日産自動車は主力市場である中国市場でのEV投入を優先する方針である。他方で、日本市場で先行投入したシリーズハイブリッド「e-power」技術は、ピュアEVよりも幅広い消費者への販売が見込めることから日本市場および中国市場への投入を既に決定している。ただ、北米市場では長距離走行が多用されることからシリーズハイブリッドは性能を発揮できず、投入が見送られる状況にある。

運転支援技術の普及拡大を急ぐ

日産自動車は完全自動運転の実現には依然として時間を要すると見込んでおり、運転支援技術「プロパイロット」技術の投入を急いでいる。完全自動運転の技術は実用化まで多くの時間を要することに加えて、仮に実現したとしても高額なカメラとセンサを組み合わせることから大衆車への搭載は見込み難い。そこで、日産自動車は安価に実現できる「プロパイロット」技術を搭載することで付加価値を高めようと試みている。実際、日産自動車の運転支援技術は同業他社に先行しており、渋滞走行から高速走行まで対応できる運転支援技術を中価格帯の車種にまで拡大させている点は類を見ない。2020年10月には今後発売する全新型車に自動運転機能を標準装備することを表明したが、これは主要自動車メーカーでは初である。更に、この「プロパイロット」技術は、市場特性に関わらず投入できることから、日産自動車は主力市場のすべてに同技術を投入する計画である。同業他社に先行した技術を搭載することで1台当たりの販売価格を高めつつ、ブランド価値を向上する戦略であると見てよいだろう。

約4年で業績回復を目指す

日産自動車は事業構造の改革を実現するまでの期間として約4年を見込んでいる。まずは2021年までに固定費削減と販売再建を果たして営業利益率を持続可能なレベルにまで回復させ、2023年までに営業利益率5%以上の水準にまで復帰させる計画である。ここで着目したいのはシェアの拡大には消極的な姿勢に転換した点であり、2023年の目標は現状と大差ないシェア6.0%としている。これは過去における過剰な販売台数の拡大路線への反省であり、事業規模よりも利益体質を重視する戦略を志向していると見てよいだろう。

総評

新型車の成否が命運を担う

日産自動車の事業構造改革計画は、自動車事業の基本に極めて忠実なものであると評価できるだろう。コスト削減と減損損失によって業績悪化に歯止めを掛けて魅力的な新型車を連続投入することで業績回復を期す手法は、2000年代に日産自動車が経営危機から立ち直った際の手法とまったく同じである。そのうえ、日産自動車が得意とするコア市場で日産自動車が得意とする車格の新型車を投入することによって確実な業績回復を狙う戦略である。当然ながら、2020年以降に投入される新型車の成否が業績回復にあたって重要であることから、日産自動車は「e-power」や「プロパイロット」などの持てる技術を躊躇なく投入することで競争力の高い新型車に仕上げる公算が高い。日産自動車は2020年5月28日に開催された決算発表の場で「Nissan Next AtoZ」と題したビデオを公開したが、そこでは今後18ヵ月以内に投入される全12車種の新型車のシルエットが映っていた。新型車の開発には数年以上のリードタイムを要する為、業績悪化が表面化する以前から新型車の開発ラッシュを進めていたと推測される。これらの新型車がどれほどの完成度を伴って投入され、市場に受け入れられるかが日産自動車の命運を左右すると見て間違いないだろう

事業環境の逆風を警戒したい

日産自動車にとっての不幸は、自社固有の問題による業績不振とCOVID-19の流行による景気後退局面が重複したことである。日産自動車の事業構造改革計画が自動車事業の基本に極めて忠実であることは上述したが、世界的な経済停滞と新車需要の低迷という事業環境においては、いかに競争力が高い新型車を連続投入しても真価を発揮することが極めて難しい。更に、新型車の連続投入によってモデルサイクルが偏れば、COVID-19の流行を克服した時期に同業他社が新型車を投入した時には日産自動車のラインナップが老齢化しているという事態にすら陥りかねない。いかんせん、自動車事業は景気動向や為替動向などの事業環境に左右される要素が多いことが特徴である為、事業環境の逆風に立ち向かいながら構造改革を果たす難易度が高いことは明らかである。今後4年間で日産自動車が思い描く業績回復が果たせるかは、依然として多くの不確実性が伴う状況であると言えるだろう