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コラム

利益低迷に苦しむマツダは、次のブランド戦略で何を目指すのか?

基本情報

マツダ(7261)はリーマンショック以降の業績悪化から、ブランド価値経営を掲げて蘇った。かつてのマツダは中古車価格が低迷したことでマツダ車を愛好する顧客が残存価値の低さに苦しみ、残存価値の低さから販売奨励金による安売りを強行しなければ販売台数を稼げないジレンマに陥っていた。しかし、2012年にマツダが策定した構造改革プランにおいて、「高い商品力を備えた新型車の投入による販売奨励金の抑制と残価向上」を掲げて以降、状況は一変した。ブランド価値を向上すべく策定された「スカイアクティブ」と「魂動デザイン」を共通言語として投入した「CX-5」を皮切りに、主力車種の「アテンザ」や「アクセラ」などを刷新、プレミアムブランドへの脱皮を遂げた。この成功によってマツダの業績は急回復を遂げたが、2015年以降は再び利益水準が下落基調に転換しており、直近では構造改革プランの策定以前と大差ない利益水準にまで下落している。本稿では、現在のマツダが描くブランド価値経営の次の一手が何であるのかを同社の中期経営計画から読み解きたい。

目次

中期経営計画

ブランド価値経営を更に深耕

マツダはリーマンショック以降に深刻な経営危機に陥ったが、構造改革プラン(2012年)の遂行によってブランド価値の再建に成功した。そして、構造改革ステージ2(2016年)において、ブランド価値の更なる伸長と新世代商品群の開発に取り組み、構造改革プランで築いたブランド価値の基盤を固めてきた状況にある。過去8年間におけるマツダのブランド戦略は成功を収めたと評価されるが、ここから新たに投入される新世代商品群を活かしながらブランド価値をどのように高めるべきかが問われる局面にある。この点、マツダは新世代商品群を投入するにあたって、中期経営計画を策定してブランド価値経営を更に深耕する意思を表明している。すなわち、過去10年間の構造改革で勝ち得たプレミアムブランドとしての価値を更に拡大する方針である。

CASEシフトへの対応を急ぐ

マツダは内燃機関の技術開発を重視してきた経緯があり、先進技術開発への対応は後手に回っていた。2010年前後に構造改革を策定した時期にはCASEの概念すら曖昧であったが、既に自動車業界においてCASEシフトは規定路線であり、これにどう対応するかがマツダにとっては重要な問題である。とりわけ、自動車の電動化はマツダの主力市場である欧州市場および北米市場において事業を継続する上で避けて通れない問題であり、ブランド価値を高める武器として内燃機関を重視してきたマツダにとっては電動化への対応は経営課題であった。企業体力が限られるマツダにとって自力での電動化技術の開発は難しく、2017年に資本提携を締結したトヨタ自動車との技術協力が突破口となる。近い将来にはCASEが自動車の商品価値を左右する要素となる公算が高く、プレミアムブランドとしての立場を守る為に社外リソースの活用も辞さない方針である。

先進技術開発の挽回が必要

マツダは中堅規模の自動車メーカーであることから自力での先進技術開発に限界があり、社外リソースを活用しながらの対応を進めている。コネクテッド技術においてはマツダコネクトを同業他社に先駆けて実装したとはいえ、自動運転・シェアリング・電動化の領域は総じて遅れているのが実情である。特に電動化領域は欧州市場と中国市場の急激なEVシフトに対応する技術を持ち合わせておらず、開発を急ぐ状況にある。2020年にはピュアEVとなる「MX-30」を発表したが、航続距離の短さに株式投資家の落胆を強める結果に終わっている。マツダは資本提携を結んだトヨタ自動車との協力の下で電動化技術の開発を急ぐ方針であり、ピュアEVに執着せずにPHEVやマイルドハイブリッドを搭載する新型車を新たに投入する計画である。

一貫性あるラインナップを形成

マツダはブランド戦略に合致する中小型車種に新型車を絞り込んでおり、ミニバン・軽自動車・商用車の開発からは既に撤退している。現在のラインナップは、SUVを中核としつつ、セダンやハッチバックなどを取り揃えており、嗜好性が高いボディ形状に特化することでブランド価値を高める戦略である。とりわけ、昨今において需要が高まっているSUVは多彩なボディサイズを揃えることで消費者のニーズを漏らさず捉えることを狙っている。闇雲にラインナップを拡大せずにコア車種に集中することで、ブランドのイメージを確立しながら競争力が高い新型車を投入できる体制を構築していると言えるだろう。なお、マツダは中堅規模の自動車メーカーであることから地域別に新型車を投入することが難しい事情があり、グローバルで共通して戦える新型車を揃えるラインナップとしている。

販売車種を絞って価値を高める

マツダは世界130ヶ国以上に進出を果たしたグローバル企業であるとはいえ、中堅自動車メーカーであることから開発能力には限りがある為、同一車種のバリエーション展開を押し進める。各地域毎のニーズに対応する為には地域限定車種を投入することが望ましいが、マツダにとっては開発リソースの分散を招きかねない事情がある。そのため、主力車種に開発リソースを集中させてプレミアムブランドに相応しい新型車を取り揃えることを優先する方針である。また、多様すぎるラインナップはブランドイメージの形成を妨げる為、セダン・SUV・ハッチバックなどの嗜好性の高い車種へ集中することで、ブランドイメージに非日常性を帯びさせることも意図している。とはいえ、ラインナップの幅に乏しいと顧客ニーズの取りこぼしが増える為、同一車種にガソリンエンジン・ディーゼルエンジン・マイルドハイブリッドなどの選択肢を持たせることで、多様化したニーズに可能な限り応えようとしている。

販売価格を更に引き上げる

ブランド経営を標榜する昨今のマツダは規模拡大を追求していない為、1台当たりの利益を高めることが重要となる。この点、マツダは同一車種の価格レンジを高めようとしており、新世代商品群からエントリーモデルの最低価格の底上げとトップモデルの最高価格を大きく引き上げる戦略を描いている。この販売価格の向上は、従来の「スカイアクティブ」技術の進化と先進技術の搭載によって果たされるものであることから、昨今のマツダが社外リソースを活用したCASEシフトへの対応を急いでいる事情が読み解ける。なお、新世代商品群の先駆けとなる「Mazda3(2019年発売)」では、販売価格の向上が実施されたことで量販価格帯が旧型と比べて約10%程度の上昇となった。反面、値上販売に敏感な顧客層は、旧型から割高感が強まったことで購入に消極的となり、販売台数は当初想定の域を超えない推移となっている。

改良を通して販売価格を向上

販売台数を追わない戦略へと切り替わったマツダにとって、1台当たりの販売価格は利益水準を左右する重要な指標である。とはいえ、利益確保を優先した急激な値上げは顧客離れを引き起こしかねない為、販売価格を如何に上昇させるかが重要である。マツダは新型投入と年次改良のタイミングで販売価格を緩やかに上昇させており、将来的にも1台当たりの販売価格の更に底上げしていく戦略を描いている。新型投入と年次改良のタイミングで新しい機能やデザインを顧客に訴求して価値を認めさせることで、販売価格の上昇を肯定させる戦略である。既にマツダの販売価格は一定の上昇を果たしている為、どこまで販売価格の上昇を顧客に認めて貰えるかが重要である。特に、マツダの顧客は自動車への造詣が深い割合が高く、販売価格がブランド不相応に上がった場合には他ブランドへの顧客流出を招く危険が高い。

顧客体験への投資は緩めない

販売価格の上昇を顧客に認めさせ、顧客流出を防止する為に、顧客体験を重視した施策によってブランドロイヤリティを高める。インターネット媒体・ディーラー店舗・イベント会場など、マツダと顧客の接点となりうる場への積極投資を惜しまないことで、マツダというブランドの価値を顧客に認めさせる方針を示している。実際、2016年からは日本およびアメリカのディーラー店舗の改装を急ピッチで進めており、黒を基調とした高級感がある店舗を次々と完成させている。ディーラー以外にも、①大阪梅田に設立した「マツダブランドスペース大阪」で顧客と社員が直接交流を深めるイベントを定期的に開催、②WEBサイトのリニューアルによる高級感のあるデジタル体験の提供、③ソーシャルメディアにおける顧客との活発な交流、などを実施している。これらは、顧客の日常生活にマツダが積極的かつ包括的に関与することで、マツダ以外の自動車メーカーへの流出を防ごうとする戦略である。

財務指標

低迷する営業利益の回復を目指す

マツダのブランド価値経営は一定の成功を収めたが、営業利益は2015年をピークに下落基調へ転換しており、直近では構造改革プランを策定する以前の水準にまで低落している。この営業利益の下落は、①為替レートが円高推移に転換した点、②米中貿易摩擦に端を発した景気減速による新車需要の停滞、③北米市場における販売ネットワーク再編と新工場設置が重荷となった点、に起因している。この状況を打破すべく、マツダは2020年の「マツダ3」を皮切りに新世代商品群を投入する計画である。これは過去10年間のブランド価値経営で勝ち得たプレミアムブランドとしての地位を守りながら、魅力ある新型車を更に磨き上げ続けることで利益水準を向上させようとする戦略と見てよい。とりわけ、新世代ラージ商品群で投入される大型SUVは利益水準の拡大を担う重要な新商品であり、現在はこの投入に向けて足元を固める時期に当たる。

新世代商品群の普及拡大を急ぐ

現在のマツダは「世界シェア2%」を戦略として掲げており、販売台数を追わない方針である。一応、2025年までに180万台レベルにまで販売規模を拡大する方針を示してはいるが、これは世界の新車全需が拡大するペースを加味して、将来の「世界シェア2%」を守る為に必要な販売規模に過ぎない。寧ろ、マツダは自社の販売台数の内訳を見ており、特に2020年以降に投入される新世代商品群の構成比率を向上させるプロセスを重視している。マツダが新世代商品群の普及を急ぐ理由は、新型車の投入による販売価格の上昇と密接に繋がっており、販売価格が現行比で高まる新世代商品群の比率が高まることで利益体質が向上されるとの目論見に基づいている。現在の計画では、2023年までには新世代商品群の構成比率は50%を超える見通しであり、これが計画通りに進展すれば利益体質が改善を果たせると期待を寄せている。

米国市場での勢力拡大が急務

マツダは北米市場におけるシェア拡大を果たすべく、積極投資を続けている。2017年からディーラーネットワークの再編に積極投資を続けている他、2021年には米アラバマ工場が新規に稼働する予定である。マツダが北米市場での成長を重視する理由は、①売上高の約35%を依存する主力市場である点、②将来的にも成長が見込める点、③プレミアムブランドに相応しい販売価格が確保できる富裕国である点、などがある。中国市場における成長を然程重視していない点は他の日系自動車メーカーと異なるが、現状のマツダは北米市場への依存度が高い割には現地シェアは2%前後に留まっており、依然として伸びしろがあると考えるのは無理もない事情がある。本国である日本市場は将来的な人口減少を踏まえて販売台数の増加は期待しておらず、あくまでも現状維持を続けることが重要と考えている。

目標は売上高4.5兆円と営業利益率5%

マツダは2025年までに売上高4.5兆円と営業利益率5%の達成を目指している。現在のマツダが売上高3.5兆円規模であることを思えば、販売台数を追わない割には野心的な目標であると言わざるを得ないか。販売台数を追わないマツダが将来的な売上高の拡大を見込んでいる根拠は、①新世代商品群によって1台当たりの販売価格を更に上昇させる点、②北米市場におけるシェア拡大を狙う点、③販売台数を180万台まで緩やかに拡大させる点、に起因していると推察される。売上高の目標が野心的である一方、利益目標への言及は営業利益率5%を掲げている。プレミアムブランドを標榜する割には低い利益目標であるが、これはマツダの利益水準が為替動向によって極端に左右される傾向が強いことに起因していると推察される。事業環境によって利益水準が振られやすい為、円高局面が続いている昨今においては野心的な目標を掲げても株式投資家の顰蹙を買うだけであることから、実態に即した目標主順に留めているのであろう。

総評

ブランド価値経営を当面は続投

最近のマツダは利益低迷に苦しんでいるが、過去10年間に及ぶブランド価値経営によって業績再建が果たされたのは明らかな事実であり、当面は過去のブランド価値経営を踏襲した事業運営が続くと思われる。2015年以降の利益低迷の主たる要因は明らかに為替レートの円高推移であり、マツダの事業運営の失敗に起因したものではない。過去10年間に渡って訴求し続けてきた「スカイアクティブ」と「魂動デザイン」が顧客に飽きられつつあるとはいえ、商品を通じて不変のメッセージを発信し続けてこそブランドである。一時的な業績悪化を打開する為にブランドとしての方向性を揺らがせれば、過去10年間で気付いたマツダへの高いロイヤリティを持った顧客が離れてしまう。マツダは既に業績回復の牽引役として2020年以降に投入される新世代商品群の開発を急いでいる為、現在は新型車の投入による業績回復まで耐えるフェーズにあると見てよいだろう。

ブランド価値に上限はないのか

過去10年間に渡って構造改革プランを着実に遂行したことでマツダのブランド価値は格段な向上を果たしたとはいえ、ここから更にマツダが思い描く販売価格の上昇を顧客が受け入れるかは予断を許さない。とりわけ、マツダの顧客は自動車に造詣が深い層が多く、販売価格の釣り上げが続いて割高感を感じた場合には欧州系自動車メーカーなどへ流出するリスクが残される。いくらプレミアムブランドを標榜しようとも、歴史的な出自からしてマツダは明らかに大衆車メーカーであり、欧州系プレミアムブランドに匹敵する価値を見出すことは難しいのである。2020年以降に投入される新世代商品群がプレミアムブランドに相応しい顧客体験を提供できれば問題はないが、マツダはCASEシフトに後れをとっていることから先進技術で見劣りする可能性は高い。こうした状況が現実になった場合、マツダのブランド価値は頭打ちを迎え、業績回復のドライバーとなる筈であった新世代商品群による更なる販売価格の上昇は果たせなくなる。この問題をマツダは既に認識しており、ソーシャルメディアからディーラー店舗に至るまでの顧客体験への投資を惜しまないことで、マツダ以外の自動車メーカーへの流出を防ごうとしているが、肝心の自動車の商品価値を引き揚げ続けない限りは限界があるのだ。