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企業レポート

JR九州(9142)の分析|COVID-19の流行で上場来安値を更新

基本情報

JR九州(9142)は、福岡市博多区に本社を置く旅客鉄道会社である。1987年に日本国有鉄道が分割民営化されたことで発足した。JR九州は人口減少が進む九州地域を地盤とすることから赤字路線を多く抱える弱点があり、長年に渡ってJR四国およびJR北海道と共に「JR三島会社」と評されてきた。JR九州は赤字路線を多く抱える弱点を補うべく、旅行業・農業・不動産業など事業多角化を強力に推進しており、鉄道サービス事業に依存しない経営基盤の確立を目指している。JR九州の旅客鉄道事業は1987年の分割民営化から営業赤字が継続していたが、2015年に減損会計を実施したことで長年の悲願であった営業黒字への転換を達成した。2016年10月に東京証券取引所に株式上場を果たしたことで、JR東日本・JR西日本・JR東海に続く完全民営化を実現している。最近では、豪華寝台列車ななつ星を投入することで富裕層ビジネスに参入した他、インバウンド需要の更なる拡大を図るべく中アリババと戦略的提携を結ぶなど、旧国営事業らしからぬ積極的な戦略眼が着目されている。

目次

株価の推移

株価は失速して上場来安値を更新

■株価の特性
2016年から2019年の期間において、JR九州の株価は2638円から3960円のレンジで推移しており、安定的な推移を描いている。JR九州は旅客鉄道業と不動産業を主力事業としていることから、株式投資家の期待を良くも悪くも裏切ることが少ない為、株価は安定的な推移を描きやすい。JR九州の業績は株式上場から安定的な拡大傾向を示してきたが株価が右肩上がりで推移することはなく、寧ろ、株式市場の動向に呼応して上下変動を描いている。これは、JR九州の業績が拡大傾向にあることは株式投資家にとっては既知の事実であり、既に業績拡大が株価に織り込まれていることに起因していると見てよい。尤も、株式投資家からの期待によって株価が安定的に推移する構造は、期待に反して業績拡大が失速した場合に急激な調整に直面しやすい弱点を内包する。実際、この弱点がCOVID-19の流行という想定外の事態によって露呈することとなった。

■過去の株価推移
2016年から2019年の期間において株価が安定的に推移した反面、2019年後半から急激な株価下落に見舞われている。これはCOVID-19の流行に端を発した株安局面に起因している。JR九州の株価は安定的に推移しやすいとはいえ、これは株式投資家が期待する業績が継続する前提があってこそである。2019年後半には、COVID-19の流行で起こった様々な社会変化がJR九州の事業環境を悪化させる事態に至っており、株式投資家が期待する業績が最早継続しないことが明白となりつつあった。実際、2019年後半には既に、①外出自粛による観光需要の急減、②外国人観光客の急減、③リモートワークやオンライン授業の普及による通勤通学需要の減少、などの変化が生じており、これが株価下落を助長させた構図である。この株価下落は短期的な下落に留まらず、2020年以降には株式上場以来の株価レンジを底抜けする事態へと発展している。

日経平均株価との相関性は中庸

■日経平均株価との相関性
JR九州の株価と日経平均株価の相関性は中庸である(2016年11月から2020年3月の相関係数:0.39)。JR九州の株価は良くも悪くも安定的であることからディフェンシブな推移を描きやすく、景気動向に反応しやすい日経平均株価とは異なる株価推移を描くことが少なくない。JR九州は旅客鉄道業と不動産業を主力事業とすることから景気動向に左右されにくい事業構造を獲得している為、日経平均株価が停滞する景気減速局面で堅調に推移しやすい。尤も、急激な株安局面においては日経平均株価と大差なく同様に下落することも少なくない。ディフェンシブな推移を描きやすいとはいえ、株式であるからには株式市場が混乱に陥る局面には無力である。

■過去の日経平均株価との相関性
2018年12月には米国株の急落に端を発した日経平均株価の下落局面で逆行高となる推移を描いている。2018年12月は米FRBのパウエル議長が金融引締政策の維持を強調したことによる米国株の急落が世界的な株安局面を惹起しており、株式市場が混乱していた時期に当たる。2018年12月の日経平均株価は▲10.45%の下落を演じたが、JR九州の株価は▲0.8%の下落に留まっており、JR九州の株価と日経平均株価の相関性は特に低下している。この相関性の低下はJR九州のディフェンシブな側面が評価されたことによって株安局面の影響が最小限に留まったことに起因していると見てよい。JR九州の株式を保有するにあたっては、株安局面において相対的に底堅く推移する特性を生かしてポートフォリオに組み込みたいか。

業績の推移

売上高は4000億円規模に到達

■売上高の特性
2012年から2019年の期間において売上高の増加が継続しており、意外にも「JR三島会社」の印象を裏切る推移を描いている。JR九州は九州地域における知名度を生かした事業多角化を進めており、現在では旅客鉄道業が売上高に占める割合は約40%にまで減少している。2012年以降の売上高の増加は鉄道旅客業以外の事業の成長に起因しており、主に駅ビル不動産事業と流通外食業の成長によって獲得されたものである。尚、主力事業の旅客鉄道業の売上高は2012年から2019年の期間は概ね1500億円規模で安定しており、運輸収入が年々減少する様な状況ではない。JR九州の売上高の増加は、①旅客鉄道業の売上高1500億円規模での安定推移、②駅ビル不動産事業と流通外食業の成長、によって生じていると見てよいだろう。

■過去の売上高推移
2012年から2018年に至るまで売上高は安定的に増加しているが、特に2017年の増加が目につく。2017年の売上高を前年と比較すると、3829億円(2016年)から4113億円(2017年)へと増加しており、JR九州の良くも悪くも売上高が安定している性質に反した推移であった。この売上高の増加は、①キャタピラー九州の連結子会社化、②前年の熊本地震の反動増による九州地域の観光客増加、が要因である。JR九州がキャタピラー九州を買収するのは意外であるが、鉄道車両の整備で培ったノウハウを活用しながら事業領域を拡大できる手段として買収した経緯がある。また、同年は前年の熊本地震の被害に対する復興応援キャンペーン「GO!GO!キスマイクマモトオオイタ」を展開するなど前年に落ち込んだ観光需要を喚起したことで旅客鉄道業の収益が好調であったことも、売上高の追い風となった。熊本地震に限らず、JR九州の地盤である九州地域は、台風・地震・噴火などの自然災害による観光客数の上下変動が起こりやすい点には注意したいか。

営業利益は500億円規模を確保

■営業利益の特性
営業利益は75億円(2012年)から639億円(2017年)のレンジで推移しているが、2016年以降は利益水準が明確に切り上がっている。実際、2016年以降は営業利益率10%を上回る水準での推移が定着しており、高い収益力を誇る事業体質へ転換を果たしている。この営業利益の急激な改善は、2015年に減損会計を実施したことで運輸サービス事業の減価償却費が軽減されたことに起因している為、不可逆的な変化と見てよい。2015年のJR九州は減損損失5259億円を計上したことで純損失4444億円に転落したが、この減損会計によって利益水準が改善された構図である。過去の推移を見る限りでは減損会計による営業利益の急激な改善が際立つが、JR九州は旅客鉄道業・不動産業・小売業などの景気動向に業績が左右されにくい事業が主力であることから利益水準は安定的な推移を描きやすい部類である。

■過去の営業利益推移
2012年から2018年の期間においてJR九州の営業利益は急激な改善を示したが、2019年には営業利益が下落に転じている。この営業利益の減少は、COVID-19の流行による事業環境の急激な悪化が原因である。JR九州は事業多角化が進んだとはいえ、現実世界に依存する事業が多いことからCOVID-19の流行は打撃は大きく、①運輸サービス事業における運賃収入の急減、②駅ビル不動産事業の不動産賃貸業における入居テナントへの賃料支払いの減額および延期、③駅ビル不動産事業のホテル業における集約および営業短縮、④流通外食事業の小売店・飲食店への来客数急減、などが営業利益を悪化させている。2019年におけるCOVID-19の影響が第4四半期のみであったことを踏まえれば、通年に渡ってCOVID-19の流行による影響が下方圧力として作用する2020年以降は更に下振れる公算が高い点には注意したいか。

売上高の構成

運輸サービス事業(46%)

■事業内容
運輸サービス事業には、鉄道事業・バス事業・船舶事業などが含まれる。JR九州は、新幹線1路線・幹線8路線・地方線13路線を有しており、総営業キロは2273kmに及ぶ。JR九州の鉄道路線は九州地域7県すべてを網羅しているが、収益力が高いのは博多・小倉・久留米などの福岡都市圏に限られる。旅客鉄道の収益力は営業地域の人口動態に依存する点が大きく、九州地域の人口減少が逆風となっている。こうした事業環境にあって、最近のJR九州は観光需要を喚起することによって、人口減少の影響を最小化する事業展開を志向している。2013年以降に限っても、①3泊4日で90万円前後の豪華寝台列車ななつ星、②人吉球麿を遊覧する特急かわせみ・やませみ、③高級スイーツのコース料理を喫食しながら遊覧走行する観光列車「或る列車」、を投入してきた。特に豪華寝台列車ななつ星は日本における豪華寝台列車の先駆けであり、後にJR東日本やJR西日本が模倣する成功を収めた。また、バス事業では連結子会社のJR九州バスが乗合バス・高速バス・貸切バスを営む他、船舶事業では連結子会社のJR九州高速船が福岡ー釜山、対馬ー釜山などの路線を運航している。

■過去の売上高分析
運輸サービス事業の売上高は1662億円(2019年)から1787億円(2017年)のレンジで推移しており、極めて安定的である。旅客鉄道業は天候動向や景気動向に多少の影響を受けるとはいえ、日常の通勤通学に用いられる性質から売上高は安定的に推移しやすい。運輸サービス事業の売上高1700億円規模のうち旅客鉄道業による運輸収入は約1500億円規模であり、新幹線35%:在来線65%の内訳となっている。九州地域の人口減少による逆風に晒されているとはいえ、旅客鉄道業の売上高は2012年から2019年の期間は概ね1500億円規模で安定しており、運輸収入が年々減少する様な状況ではない点に着目したい。寧ろ、旅客鉄道業の運輸収入は1439億円(2012年)から1514億円(2018年)へと微増している。この要因としては、①世界的な景気回復局面における観光客の増加、②福岡都市圏への人口集中によるライフスタイルの変化、③働き方改革による長期連休増加による国内観光需要の増加、などが考えられる。特に外国人観光客の増加による追い風は大きく、外国人観光客専用切符の「JR-KYUSHU RAIL PASS」の発行枚数は9.8万枚(2013年)から22万枚(2017年)へと倍増している。

■将来の売上高予測
減少を見込む。COVID-19の流行によって観光客が急激な減少に晒されたことに加えて、運輸収入の安定地盤であった通勤通学の鉄道利用が急減したことが痛い。JR九州の公表している運輸収入の推移を観察すると、COVID-19の流行による緊急事態宣言が発令された2020年4月には前年比▲78%の減少に見舞われており、本来は安定事業の旅客鉄道業としては通常ありえない減少に見舞われている。緊急事態宣言が解除された後には運輸収入はやや持ち直したが、2020年6月は前年比▲52.1%の減少が続いており依然として厳しい。将来的な回復を見越すにしても、COVID-19の流行を経てリモートワークやオンライン授業などが普及したことで通勤通学の需要構造が根本的に転換した公算が高く油断ならない。更に、運輸サービス事業の業績を支えてきた外国人観光客の回復時期が見通せない状況が依然として続いている。当面に渡って、運輸サービス事業の売上高は厳しい推移が続きそうである。

建設事業(7%)

■事業内容
建設事業には、建設業・車両機械設備工事業・電気工事業などが含まれる。建設事には鉄道に関わる土木・軌道・建築工事やメンテナンスを主力事業としており、連結子会社の九鉄工業・三軌建設・JR九州住宅が含まれる。JR九州の総営業キロ2273kmに及ぶ鉄道路線の保守業務が主力事業であるが、駅舎や分譲マンションの建設を手掛けている。車両機械設備工事業は車両および機械の設計・製作・据付・保守を主力事業としており、連結子会社のJR九州エンジニアリングが含まれる。JR九州の保有する鉄道車両の設計から改造までを担う他、福岡市地下鉄や北九州モノレールなどにも同様のサービスを提供している。電気工事業は電気・空調・消防設備の工事や保守を主力事業としており、連結子会社のJR九州電機システムが含まれる。JR九州の保有する鉄道電気設備の工事から保守までを担う他、公共施設や民間施設にも同様のサービスを提供している。これ以外にも、建設事業には建設コンサルタント業を担う連結子会社としてJR九州コンサルタンツが含まれており、JR九州が過去に旅客鉄道業で蓄積した建設技術を社外に提供している。

■過去の売上高分析
建設事業の売上高は232億円(2016年)から375億円(2019年)のレンジで推移しており、微増傾向が続いている。建設事業の主力事業はJR九州の鉄道路線と車両機械の保守業務であることから単純な建設業とは異なる性質を持ち、売上高は安定的に推移しやすい。建設事業を担う連結子会社の九鉄工業の売上高の約95%はJR九州グループと官公庁向けの工事によるものであり、景気動向に左右されにくい。最近の建設事業の売上高の増加傾向を支えているのは、鉄道高架化工事・新幹線関連工事・マンション工事である。JR九州は九州各県における都市交通の利便化を睨んだ高架化を推進しており、最近では長崎駅および熊本駅の鉄道高架化を建設事業が担ったことから売上高の増加傾向が続いている構図である。鉄道高架化は単なる利便性の向上に留まらず、再開発による都市競争力の強化という側面を持ち、間接的には、①沿線人口の増加、②JR九州の保有資産(駅ビルなど)の価値向上、③分譲マンションや賃貸マンションの需要喚起、などに結び付く。

■将来の売上高予測
減少を見込む。COVID-19の流行による旅客鉄道業の需要急減を受けて建設事業が得意とする駅周辺の再開発需要および外部顧客の建設需要の失速は免れ得ない他、旅客鉄道業の減便によって車両機械の保守需要の減少が見込まれる。JR九州が計画している将来の開発計画には、熊本駅ビル再開発(2021年)・MJR/RJR堺筋本町タワー(2021年)・長崎駅周辺開発(2023年)・長崎駅周辺開発(時期未定)などが揃うが、COVID-19の流行に端を発した景気後退局面を受けた計画修正などが起こり得る点には注意したいか。車両機械の保守を担う車両機械設備工事業についても、COVID-19の流行によって運輸サービス事業において旅客鉄道の減便が相次いでいることから目先の事業環境は厳しいか。同業他社の福岡市地下鉄や北九州モノレールからの車両修繕の受注が減少する可能性もあり、目先は厳しい推移となりそう。

駅ビル不動産事業(14%)

■事業内容
駅ビル不動産事業には、不動産賃貸業・不動産販売業・駐車場運営・ホテル業・シニア事業・複合観光施設の運営などが含まれる。不動産賃貸業はJR九州が保有するビルを賃貸する事業であり、主な物件にはJR博多シティ・アミュプラザ小倉・JRJP博多ビルなどが含まれる。また、JR九州は九州地域における知名度を活かして「RJR」ブランドで賃貸マンションを運営しており、九州地域・首都圏・関西圏で事業展開している。不動産販売業は分譲マンションの販売を主力事業としており、「MJR」ブランドで分譲マンションを販売している。九州地域を主力とすることから中規模~小規模マンションが中心であるが、最近では「MJR TOWER」ブランドで高層マンションを熊本・東京・大阪に建設している。ホテル業は宿泊特化ホテルおよび観光ホテルの運営が含まれており、連結子会社のJR九州ハウステンボスホテル・JR九州ホテルズなどが含まれる。JR九州グループのホテルは九州12施設・東京2施設・沖縄1施設・タイ1施設の合計16施設に及び、特にホテルオークラJRハウステンボスは隣接するハウステンボスと共に観光需要を喚起する役割を果たしている。シニア事業には有料老人ホーム「SJR」施設の運営が含まれる。複合観光施設には連結子会社のおおやま夢工房が含まれ、物産販売・酒造・宿泊業などを展開している。同社は大分県日田市が出資して創業された第三セクターであったが、2013年に同社からの要請に応える形でJR九州が買収した経緯がある。

■過去の売上高分析
駅ビル不動産業の売上高は562億円(2015年)から864億円(2019年)のレンジで推移しており、増加傾向が続いている。駅ビル不動産事業はビルの賃貸分譲を主力とするが、都市圏の中心部に立地する駅ビルからの賃貸収入への依存度が高い。特にJR博多シティは延床面積約20万㎡を誇り、九州地域において最大級の商業施設として駅ビル不動産事業の売上高の根幹を担っている。過去の推移を観察すると、2018年以前は売上高600億円規模で推移していた反面、2018年以降は800億円規模へと拡大を果たしている。この売上高の拡大は、①不動産賃貸業の売上高が463億円(2016年)から552億円(2019年)へと拡大したこと、②その他セグメントに含まれていたホテル業及び複合観光施設が移管されたこと、に起因している。特にホテル業が移管されたことで売上高160円規模が上乗せされた影響は大きい。更に、2019年には新たに創設した高級ホテル「THE BLOSSOM」ブランドのホテルを福岡県博多市および東京都港区で開業したことによる売上高の増加が起こっている。不動産販売業ではMJR赤坂タワーなどの大規模物件の販売を実施しているが、ホテル業が移管されたことで駅ビル不動産事業の売上高に占める割合は10%未満にまで低下しており重要性は低い。

■将来の売上高予測
減少を見込む。COVID-19の流行による外出自粛によって、駅ビル不動産事業の稼ぎ頭である商業施設・オフィスビル・ホテルのいずれもが打撃を受ける点が厳しい。実際、駅ビル不動産事業はCOVID-19への対応として、①商業施設の休館および営業時間短縮、②同一エリアで重複営業するホテルの集約および営業短縮、③商業施設の入居テナントへの賃料支払いの減額および延期、を強いられている。オフィスビルは直接的な打撃こそ免れたとはいえ、将来に目を向ければ、COVID-19の流行を経てリモートワークが普及したことで博多周辺のオフィスビル需要の拡大が腰折れする公算が高い。唯一、不動産販売業はモデルルームを一部閉鎖する影響に留まったが、駅ビル不動産事業の売上高に占める割合が10%未満である点を踏まえれば、大した救いにはならない。JR九州の公表している駅ビル不動産事業の売上高の推移を観察すると、2020年1Qの駅ビル不動産事業のは、①不動産賃貸業は前年比▲24%の減少、②ホテル業は前年比▲80%の減少、に見舞われている。

流通外食事業(25%)

■事業内容
流通外食事業には、小売業・飲食業・農業などが含まれる。小売業は、土産専門店「銘品蔵」・ドラッグストア「ドラッグイレブン」・コンビニエンスストア「ファミリーマート」を運営しており、連結子会社のJR九州リテール・JR九州ドラッグイレブンが担っている。飲食業は、居食屋事業「うまや」・ファーストフード店・ベーカリー「トランドール」・レストラン「萬坊」を運営しており、連結子会社のJR九州フードサービス・JR九州ファーストフーズなどが担っている。農業は、ニラ・ミニトマト・サツマイモ・ピーマン・卵などを自社運営の農場と養鶏場で製造しており、連結子会社のJR九州ファームが担っている。JR九州の農業への参入は大分県からの打診に応えたものであり、自社生産した野菜や卵は直売店「八百屋の九ちゃん」で販売される他、JR九州が運営する観光列車や外食店で提供されている。

■過去の売上高分析
流通外食事業の売上高は過去10年間で958億円(2015年)から1043億円(2019年)にまで拡大している。流通外食事業は赤字路線を抱える不安から事業多角化を目指す過程で発展してきた事業であり、M&Aなどを活用して事業の幅を拡大してきた経緯がある。2012年の時点では売上高800億円規模の事業であったが、JR九州が保有する駅ビルを中心とした優良な立地に展開することで安定的に業績を拡大してきた。2015年から2019年の期間においては、JR九州の売上高の約25%を安定的に確保するに至っており、輸送サービス事業と駅ビル不動産事業に次ぐ収益源に成長を果たした。尤も、JR九州は依然として流通外食事業の事業拡大に注力しており、2019年には、①商圏拡大を目的とした東京へのカフェの初出店、②新業態開拓を目的としたシナモンロール専門店の開店、③地域活性化を目的とした萬坊の買収、などを実行している。2019年はCOVID-19の流行に見舞われたが、流行以前は業績好調であったことで過去最高となる売上高1043億円を確保した。

■将来の売上高予測
減少を見込む。COVID-19の流行によって駅周辺施設の往来が減少したことによって実店舗への来店が減少している他、宴会需要が蒸発したことが痛い。流通外食事業の店舗の多くはJR九州が保有する駅ビルや商業施設に入居している為、駅周辺の往来が減少すると売上高が顕著に伸び悩む傾向がある。既に厳格な外出自粛は緩和されたとはいえ、COVID-19の流行を経てリモートワークやオンライン授業などが普及したことで通勤通学で駅周辺を往来する人口が減少していることを踏まえれば、依然として事業環境は厳しい。尚、2020年にJR九州ドラッグイレブンの株式51%をツルハHDへ譲渡したことで、同社が連結子会社から持分法適用会社へと変化したことによる売上高の減少が起こる見通しとなっている。

営業利益の構成

運輸サービス事業(39%)

■過去の営業利益分析
運輸サービス事業の営業利益は▲105億円(2015年)から297億円(2017年)のレンジで推移しているが、2016年以降は安定して営業利益200億円規模を確保している。JR九州の運輸サービス事業は1987年の分割民営化から営業赤字が継続していたが、2015年に減損会計を実施したことで営業利益を確保できる体質へと転換した経緯がある。2015年に計上した減損損失は総額5259億円に及ぶ凄惨なものであり、同年のJR九州は純損失4444億円に転落した。尤も、この減損会計によって運輸サービス事業の減価償却費は375億(2015年)から32億円(2016年)にまで軽減され、これによって利益体質が定着した経緯がある。2016年から2018年の期間には営業利益250億円規模が継続しており、好調時であれば営業利益率16%に到達する収益力が高い事業へと変貌している。2019年にはCOVID-19の流行によって通勤通学の需要が急減したことで営業利益198億円にまで低落しているが、依然として営業利益率10%を上回る収益力を発揮している。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による外出自粛によって移動需要の低迷が継続する反面、旅客鉄道業の社会的責任から営業自粛ができない性質から営業利益の減少は不可避と見込む。直近の輸送サービス事業の営業利益は▲139億円(2020年第1四半期)に転落しており、外出自粛の影響で運輸収入が極端に落ち込んだ打撃が表面化している。既に厳格な外出自粛は緩和されたとはいえ、COVID-19の流行を経てリモートワークやオンライン授業などが普及したことで通勤通学の移動頻度が減少している社会変化を踏まえれば、当面は利益水準の低迷を脱し得ないと想定すべきであろう。尚、長期的には輸送サービス事業の営業利益は減価償却費の増加に圧迫される公算が高い点には注意したい。JR九州は依然として輸送サービス事業において年間250億円規模の設備投資を継続していることから、減価償却費の逓増によって営業利益が徐々に圧迫されていく公算が高い為、長期的な目線でも利益水準の拡大の失速は避けがたい。

建設事業(12%)

■過去の営業利益分析
建設事業の営業利益は59億円(2016年)から65億円(2019年)のレンジで推移しているが、変化に乏しい安定的な推移を描いている。JR九州は建設事業についての情報公開が乏しい為に推測となるが、建設事業が鉄道に関わる土木・軌道・建築工事やメンテナンスを主力事業としていることに由来すると推測される。建設事業を担う連結子会社の九鉄工業・三軌建設はJR九州および地方公共団体から安定的な受注を獲得していることに起因していると思われる。強いて言えば、2016年のみ売上高が60億円を下回る局面があったが、JR九州は同年の建設事業の動向について情報を公開していない為、詳細は不明である。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による輸送サービス事業の業績悪化と需要低迷を受けて、これまでの建設事業の積極的な開発姿勢を減速させると見込む。建設事業が鉄道に関わる土木・軌道・建築工事やメンテナンスを主力事業としている為、COVID-19の流行によって輸送サービス事業が減速する状況は逆風となる。長期的には駅ビル不動産事業の開発パイプラインに支えられるとはいえ、目先は営業利益の減少を強いられる公算が高い。直近では新幹線関連工事が豊富であったことで建設事業の営業利益は前年比5億円(2020年第1四半期)の増加となっているが、COVID-19の流行による影響が遅れて表面化すると見込む。

駅ビル不動産事業(37%)

■過去の営業利益分析
駅ビル不動産事業の営業利益は191億円(2019年)から254億円(2018年)のレンジで推移しており、2015年から2018年の期間における増加傾向が失速している。営業利益率は概ね15%前後で推移しており、JR九州の営業利益を長年に渡って支える稼ぎ頭の事業となっている。特に、輸送サービス事業が黒字転換する2016年以前はJR九州の営業利益の大半を稼ぎ出して、輸送サービス事業の赤字を補填していた経緯がある。最近のJR九州は事業多角化の柱として駅ビル不動産事業への積極投資を継続しており、この積極攻勢が営業利益に表面化している。駅ビル不動産事業が過去に実施した投資を概観すると、2016年にはJRJP博多ビルの開業・アミュプラザ3拠点の改築、2017年には肥後よかモン市場の開業、2018年にはアミュプラザ2拠点の改築、2019年にはアミュプラザ2拠点の改築、がある。反面、2019年にはCOVID-19の流行によって営業利益の減少を強いられており、2015年以降では初となる営業利益200円割れに陥っている。同年からホテル業及び複合観光施設がその他セグメントから駅ビル不動産事業へと移管されており、このセグメント変更で新たに加わったホテル業がCOVID-19の流行で特に打撃を受けたことも要因としては大きいか。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による外出自粛が及ぼす逆風は依然として継続しており、事業環境の回復が見通せない状況が継続している。外出自粛が緩和されたことで商業施設は客足がやや回復したが、ホテルの稼働低下が営業利益を圧迫する公算が高い。強いて言えば、駅ビル不動産事業の開発パイプラインは将来に渡って継続しており、将来に目を向けると、宮崎駅西口再開発事業(2020年開業)・熊本駅周辺再開発事業(2021年開業)・長崎駅周辺再開発(2023年以降順次開業)などが進行している。長期的にJR九州の業績を支える主力事業であることは変わりないと見てよい。

流通外食事業(6%)

■過去の営業利益分析
流通外食事業の営業利益は28億円(2019年)から36億円(2017年)のレンジで推移しており、2019年を除けば営業利益30億円規模で安定している。営業利益率は概ね3%前後の水準に留まっており、利益水準がやや低迷している点は気がかりである。JR九州は流通外食事業において、①積極的な新規出店、②出店エリアの拡大、③新業態の開発、に取り組んでおり、最近では東京と大阪への新規出店を加速している経緯がある。この攻勢が営業利益の増加に結びつかず利益水準が停滞している理由としては、①人手不足による人件費の増加、②競争激化による既存店舗の不採算化・新規物件の獲得困難、がある。JR九州は流通外食事業の利益水準の停滞を打破する為、2018年からは外国人観光客の需要開拓と不採算店舗の再編を掲げていたが、2019年にCOVID-19の流行によって外国人観光客が急減したことで計画が崩れた。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による外出自粛は緩和されたとはいえ、依然として外食需要の低迷は根強く、流通外食事業が展開する外食店舗の事業環境は厳しい。更に、流通外食事業が展開する店舗の多くは駅ビルなどに入居していることから、外出自粛による往来の減少が業績に与える影響が大きい。唯一、ドラッグストア「ドラッグイレブン」はマスクなどを求める来客が賑わったことで売上高を前年同水準を維持したが、居酒屋・レストランは前年比▲80%減少(2020年4月)の急減を強いられるなど依然として事業環境は厳しい。COVID-19の流行によって、流通外食事業の営業利益は▲15億円(2020年第1四半期)に転落しており、営業利益の減少は不可避である。尚、2020年にJR九州ドラッグイレブンの株式51%をツルハHDへ譲渡したことで、同社が連結子会社から持分法適用会社へと変化したことによる営業利益の減少が起こる点には注意したいか。

財務の健全性

手元資金は標準的な水準

■手元資金の特性
手元資金は2015年以降は増加傾向を辿って600億円規模に到達したが、2018年以降は減少傾向に転換して直近では200億円規模に減少している。売上高が年間4000億円規模と考えると手元資金としては330億円が目安となる為、やや少なめの水準である。JR九州の財務諸表を観察すると、①総資産8285億円のうち有形固定資産が5179億円に及ぶ点、②流動資産が流動負債を下回っており流動性が低い点、が目につく。JR九州は業績が安定的かつ自己資本比率が高い為、潤沢な手元資金を確保しておく必要がない発想なのであろう。

■過去の手元資金分析
2018年以降の手元資金の減少傾向が気がかりである。2012年以降の手元資金の推移を観察すると、643億円(2017年)から238億円(2019年)まで減少している。これは、①2017年を頂点に売上債権の増加によって営業キャッシュフローがやや減少した点、②2018年以降は年間1000億円規模の有形固定資産への積極投資を継続している点、に起因している。最近のJR九州は駅ビル不動産事業への積極投資を進めており、同事業の有形固定資産への投資額は256億円(2015年)から560億円(2019年)へと倍増している。駅ビル不動産事業の有形固定資産への投資額の増加は、ホテル業及び複合観光施設がその他セグメントから移管されたことによる影響があるとはいえ、同事業の積極投資が手元資金に及ぼす影響は無視できない。

自己資本比率は業界上位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は2012年から低下傾向が続いており、直近では49.9%にまで低下している。同業他社と比較すると、JR東日本36.9%・JR東海39.9%・JR西日本34.1%・名古屋鉄道34.7%・東武鉄道28.1%となっており、業界上位の水準である。本来、旅客鉄道事業は、①多額の設備投資を必要とする事業であること、②利益水準が長期に渡って安定的に推移する事業であること、③旅客鉄道会社は多額の先行投資を必要とする不動産開発を展開する場合が多いこと、から自己資本比率が低くなりやすい。JR九州が特筆して高い自己資本比率を維持しているのは、1987年に日本国有鉄道が分割民営化された際に経営安定基金3877億円を得たことに起因している。株式上場を果たすにあたって同基金の是非が政治問題として取り沙汰されたが、結果的にはJR九州の資産として認識されたことで潤沢な純資産を確保することに成功した経緯がある。株式上場にあたって、同基金は九州新幹線貸付料の一括前払いなどに資産振替されたとはいえ、今なおJR九州の経営基盤として大いに役立っていることに変わりない。

■過去の自己資本比率分析
2015年に急激な自己資本比率の低下が起こっている点が顕著である。実際、JR九州は2015年以前は自己資本比率70%前後での推移が定着していたが、2015年以降は自己資本比率50%前後での推移が定着している。この自己資本比率の低下は、2015年に実施された減損会計に起因している。JR九州は2015年に減損損失5259億円を計上したことで純損失4444億円に転落しており、これによる純資産の急激な減少を経験した経緯がある。尤も、この減損会計によって輸送サービス事業の利益水準が高まり、JR九州の利益体質が好転した側面もある為、賛否が分かれる変化ではある。強いて言えば、①2015年以前のJR九州が自己資本比率70%を上回る資本過多な財務体質であった点、②減損会計を経ても同業他社を大きく上回る自己資本比率を維持している点、を踏まえ、株式投資家の目に映える利益体質を獲得したことで株式上場後の株式価値の向上には貢献した側面があったと評価する向きはある。

株価の割安感

BPSは株式上場から増加傾向が継続

■BPSの特性
BPSは2016年以降は右肩上がりで推移しており、安定的な増加傾向が継続している。尤も、JR九州は株式上場前に利益体質を改善すべく減損会計を実施する以前のBPSは4790円であり、2015年に減損損失5259億円を計上したことで純損失4444億円に転落したことでBPSは2144円にまで低落した経緯がある。こうした極端なBPSの変動を引き起こす減損会計を株式上場を果たす前に決行したことで、2016年に株式上場を果たした後のBPSは安定的な増加傾向が継続している。在外子会社や有価証券への投資額が大きい企業は株安局面や円高局面でBPSが上下変動しやすいが、JR九州はいずれも小規模であることから経済環境によるBPS変動は少ない。尚、JR九州の保有する株式はJR東日本・JR東海・JR西日本・九州電力などの価格変動に乏しいものが大半であり、貸借対照表での計上額は100億円に満たない。

■過去のBPS分析
2016年から2018年の期間においてBPSの増加傾向が継続している反面、2019年にはBPSの増加が鈍化している。2019年にBPSの増加が鈍化した理由は、①COVID-19の流行による業績悪化で純利益が急激な減速を強いられた点、②COVID-19の流行に端を発した株安局面によって保有する有価証券の評価額が低下した点、に起因している。COVID-19の流行による外出自粛によって、JR九州の主力事業である運輸サービス事業と駅ビル不動産事業が打撃を受けたことで2019年は純利益300億円規模にまで低落したことで利益剰余金の増加ペースが鈍化した上で有価証券の評価額の低下に襲われたことで純資産の増加にブレーキが掛かった構図である。実際、JR九州の有価証券評価差額金は119億円(2018年)から44億円(2019年)へと半減しており、株安局面による純資産への影響は少なくなかった。

PBRは株式上場から下落傾向が継続

■PBRの特性
PBRは長期的に1.18倍から1.60倍のレンジで推移しているが、株式上場から下落傾向が継続している。JR九州が株式上場から業績好調を追い風にBPSを堅調に増加させてきた反面、株価が伸び悩んでいる為にPBRが低下する構図となっている。2016年から2018年の期間において、JR九州の株価は3000円台から3700円台のレンジで極めて安定的に推移している為、BPSの増加によるPBRの低下が如実に起こりやすい。尤も、PBRという観点では、JR九州はJR東日本・JR東海・JR西日本と遜色ない水準である。収益力が低い赤字路線を多く抱える苦悩を抱えながら、本州JR三社と互角のPBR水準を維持していると考えれば、株式投資家からの評価は高いと見ることもできよう。

■過去のPBR分析
2019年にPBR1.18倍にまで低落している点が目につく。このPBRの低落は、COVID-19の流行による株安局面でJR九州の株価が株式上場からの株価レンジを底割れする株価下落に直面したことに起因する。本来であれば、JR九州をはじめとする旅客鉄道会社は高い収益力と安定性を兼ね備えることからPBRが高位で推移しやすいが、COVID-19の流行によってその前提が瓦解したことが株価下落を加速させた。奇しくも、JR九州の主力事業にとってCOVID-19の流行による外出自粛は打撃が大きく、株式投資家にとっては想定外となる業績悪化の可能性が浮上したことでPBR1.0倍割れを試した構図である。実際、2020年にはJR九州はJR本州三社と共にPBR1.0倍を割り込む水準にまで低落しており、COVID-19の流行がJR九州に与えた打撃を感じさせられる。尤も、PBRという観点では、JR九州はJR本州三社よりも底堅い推移を描いており、依然として株式投資家からの評価は低くない。

配当金の推移

配当金は安定配当型

■配当金の特性
配当政策は安定配当型である。JR九州は配当政策として「①株主還元については長期安定的に行っていくこと、②2022年3月期までの間は、1株当たり配当金93.0円を下限として、連結配当性向35%を目安に配当を行う」を掲げており、実際に配当金は配当政策に従って推移している。JR九州は1987年に日本国有鉄道が分割民営化された際に経営安定基金3877億円を得た歴史的な経緯から資本過多となっている点を課題として認識しており、資本効率の向上を目的として株主還元の強化を掲げている。2019年3月にJR九州が公表した中期経営計画「2019-2021~次の『成長ステージ』に向けて~」において、2022年3月期まで総還元性向35%を目安とする配当金の支払いおよび自己株式の取得を掲げていることから、当面は株主還元に積極的な姿勢を継続すると思われる。

■過去の配当金分析
2016年から2019年までの期間において配当金の増加傾向が継続しているが、特に2017年の配当金の急増が顕著であるる。この配当利回りの増加は、2016年は同年10月に株式上場した事情から半期分の配当に留まったことに起因している。更に、2016年は株式上場から期末配当の基準日までの期間が6ヵ月未満であることを考慮して配当水準が連結配当性向15%程度に留められていた為、配当金が低位で推移した構図である。反面、2017年には配当水準が連結配当性向30%まで底上げされたことで年間83円にまで増加している。更に、2016年から2018年の期間のJR九州が業績好調であったことも配当金を増加させる追い風となっている。

配当利回りは増加傾向が継続

■配当利回りの特性
配当利回りは1.1%から2.99%のレンジで推移しており、株式上場から配当利回りの増加傾向が続いている。配当金が極めて安定的に推移しやすい配当政策と株価の上下変動が少ない株価推移が奏功してJR九州の配当利回りは概ね年間2%程度の水準で推移しやすい。JR九州の配当利回りは日本株の平均的な配当利回りに劣後する水準で推移しやすく、インカムゲインを目的として保有する意欲が湧きにくい。JR九州は株主優待として、鉄道株主優待券・JR九州高速船株主優待割引券・JR九州グループ株主優待券、を配布しており、この利回りを加味すればようやく日本株の平均的な配当利回りに接近するか。尤も、この株主優待には九州地域に在住していなければ恩恵を被りにくい難点がある点には留意したい。

■過去の配当利回り分析
2016年のみ配当金が年間38.5円に留まったことで配当利回り1.1%に留まったが、2017年以降は配当利回り2.5%程度の水準へと上昇している。更に、2019年にはJR九州の株価がCOVID-19の流行によって下落を強いられたことで配当利回り3%に迫る上昇を示してた。こうした経緯からJR九州の配当利回りは株式上場から増加傾向が継続している。従来であれば配当性向30%前後の水準を維持していたことから配当利回りの上昇は問題にはならなかったが、2019年にはCOVID-19の流行による業績悪化で配当性向49%にまで高まっており、やや利益を圧迫している。尚、2020年第1四半期のJR九州は純損失▲51億円に転落しており、年間配当金は中間配当を含めて現時点で未定である。

総合評価

目標株価

2200円

株式上場から続いた株価レンジを既に底抜けしたとはいえ、投資妙味を抱くほどの割安圏からは程遠い。COVID-19の流行による業績悪化と環境変化を織り込むには更なる調整が必要と見込むが、株式市場がやや安定感を取り戻したことを加味すれば、この程度の株価が目標株価となろう。尚、目標株価の設定にあたってはCOVID-19の流行が2021年前半以降に収束することを想定しており、更に感染拡大が長期化した場合には目標株価は更に切り下がる。

投資判断

やや弱気

JR九州は2015年の減損会計によって獲得した高収益を武器として順調な業績拡大を継続してきたが、COVID-19の流行が事業環境を一変させた。JR九州の地盤である九州地域における感染拡大が緩やかであったとはいえ外出自粛の打撃は絶大であり、JR九州の輸送サービス事業の運輸収入は前年比▲69%(2020年第1四半期)という従来の常識では考えられない落ち込みを示した。長年に渡ってJR九州の業績を支えてきた駅ビル不動産事業が同時に打撃を被っており、特に同事業が抱えるホテル業は前年比▲89%(2020年第1四半期)の下落に直面している。こうした事業環境においては、従来のJR九州の成長ドライバーであった、①駅周辺の再開発による不動産収入の拡大、②駅周辺の再開発を通じた運輸収入の拡大、③駅周辺への流通小売店の展開による事業多角化、が通用しにくいことは自明であろう。既に厳格な外出自粛は緩和されたとはいえ、COVID-19の流行を経てリモートワークやオンライン授業などが普及したことで通勤通学の鉄道利用が早々にV字回復を遂げることは想定し難く、株式上場から続いた業績拡大が停滞を強いられる公算が高い。反面、現在の株価水準を概観すると、盤石の事業地盤を誇るJR本州三社を上回る割高圏で推移していることから積極的に手掛ける意欲は湧きにくい。更に、JR九州の収益力を底上げした2015年の減損会計の効果は長期的に薄れていく点にも注意が必要である。JR九州は依然として輸送サービス事業において年間250億円規模の設備投資を継続していることから、減価償却費の逓増によって営業利益が徐々に圧迫されていく公算が高い為、長期的な目線でも利益水準の拡大の失速は避けがたい。