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企業レポート

JUKI(6440)の分析|工業用ミシンで世界首位級だが業績は安定しない

基本情報

JUKI(6440)は、工業用ミシンを主力とするミシンメーカーである。1938年に陸軍向け兵器生産を担う工業組合として設立されたが、終戦を機にミシン製造へ転じた。かつては家庭用ミシンを主力とする企業であったが、実用性のある自動糸切機構の開発に世界で初めて成功したことで、競合していた欧米企業を追い抜く躍進を果たした。現在では工業用ミシンにおいて世界シェア1位を誇る他、世界180カ国以上にミシンを輸出するグローバル企業となっている。1980年代からは産業装置分野への進出を果たしており、マウンタにおいては世界シェア上位に位置している。

目次

株価の推移

株価は景気循環的な推移を継続

■株価の特性
JUKIの株価はリーマンショックで急激に業績が悪化した2009年以降は400円台から2300円台で景気循環的に推移している。JUKIの業績は顧客企業の設備投資意欲に顕著に左右されることから株価は景気循環的な推移となりやすく、景気回復局面では高い利益水準に到達することから株価の上下変動が激しい。株価の推移は右肩上がりとは程遠いが、過去10年間におけるJUKIの業績は特段の成長を果たしておらず、業績不振で毀損したBPSや自己資本比率をリーマンショック以前の水準にまで回復させることに注力していた点を踏まえれば当然である。

■過去の株価推移
2007年から2008年にかけての株価高騰が顕著である。同時期のJUKIは中国における工業用ミシンの好調な拡販を背景に営業利益率9%を超える水準で推移しており、株式市場で人気を博していた。株式市場の好調が追い風となったことでPBR3.0倍を上回る顕著な高値圏で取引されていたことから、当時の株価水準自体が異常高であったと見做してよい。尤も、1990年にアパレル縫製業の中国シフトに追い風をうけた業績好調とバブル景気による株高局面が相乗して記録した上場来高値8950円には及ばない。アパレル縫製業の集積地シフトによる工業用ミシンの大量調達が起こった時期に株価高騰が起こってきた歴史的な背景は読み解けるか

日経平均株価との相関性は低い

■日経平均株価との相関性
日経平均株価との相関性は低い(2007年4月から2020年3月の相関係数:0.33)。2008年前後にJUKIの株価が▲92%もの減少を強いられた時期を除けば、弱い相関性を見いだせる。尤も、日経平均株価が底値を切り上げながら右肩上がりで推移している反面、JUKIの株価の底値は400円台で変化していない横ばいの推移であり、長期的な成長性という観点では明暗が分かれている。日経平均株価は業績成長が続くエクセレントカンパニーに牽引されやすい株価指数である為、過去10年間に渡って業績停滞が目立つ上に株式価値が横ばいのJUKIと長期的な相関性が生じないのは当然ではある。

■過去の日経平均株価との相関性
2013年以降においては、日経平均株価が上昇する景気回復局面でJUKIの株価は上昇しており、日経平均株価が下落する景気後退局面でJUKIの株価は下落している。JUKIの株価は素直な景気循環的な推移であることから、景気循環株の比率が高い日経平均株価と類似した株価推移を演じやすい。2017年以降はJUKIの株価が急速に下落した半面で日経平均株価は高値圏での推移を続けていたが、2020年に日経平均株価が急速な下落に転じたことで相関性がやや高まった様に思われる。日経平均株価は日本銀行のETF買い入れや構成比率が高い値嵩株の動向に左右されやすい株価指数である為、JUKIの株価の方が実体経済の変化に素直に呼応した変動を遂げている印象はあるか

業績の推移

売上高は1000億円規模だが安定しない

■売上高の特性
売上高は景気動向に応じて売上高が上下しやすく不安定である。2013年以降は概ね売上高1000億円規模で推移しているが、景気動向に呼応した上下変動は続いている。近年は産業機器&システム事業の売上高が成長している関係から、工業用ミシンに売上高を依存する体制からは僅かながら脱却しつつある。JUKIに限らず、工作機械メーカーの売上高は景気回復局面においては緩やかに拡大を継続するものの、景気回復局面が到来すると急激に低落する点には注意しておきたい。尚、2011年の売上高653億円に留まっているのは決算月を12月に移行したことで9か月間の売上高のみの計上となっている為である。

■過去の売上高推移
2009年の売上高の低迷が顕著である。2007年の売上高1303億円に対して2009年の売上高569億円にまで低落しており、景気回復局面における弱さが露呈している。2013年以降は売上高が回復傾向に転じたものの、2007年2007年以前の売上高1300億円規模には届かないまま売上高1000億円規模で頭打ちの様相を呈している。JUKIの過去最高の売上高は1992年に記録した1434億円である為、過去30年間に渡って売上高の成長は停滞している。

営業利益は2012年から回復傾向が継続

■営業利益の特性
営業利益は▲111億円から123億円で推移しており上下変動が激しいが、2013年以降は営業利益を安定的に確保している。JUKIの営業利益は売上高の減少で打撃を被りやすく、2007年以降の推移を観察すると、売上高800億円を下回った年には営業赤字に転落している。工業用ミシンにおいて世界シェア1位を誇る業界のガリバーであるものの、営業利益率は凡庸な水準で推移しており、業績好転した2013年から2019年に限っても営業利益率は6%前後の水準での推移となっている。2018年以降は工業用ミシンが含まれる縫製機器&システム事業の営業利益が振るわず、産業機器&システム事業の営業利益に支えられている事情を踏まえれば、世界シェア1位という点には過度の期待は抱きにくいか。

■過去の営業利益推移
2007年の営業利益123億円が傑出している。前年の2006年にも営業利益129億円を確保しており、リーマンショック直前には営業利益10%に迫る水準で推移していた。同時期は特に中国における工業用ミシンの販売が好調であり、工業用ミシン事業のみで営業利益100億円を確保する状況であった。リーマンショック後には売上高の急減と円高推移による為替影響で営業利益の低迷を強いられたが、2013年以降の世界的な景気回復局面においても過去の利益水準を取り戻せずに推移している。これは主に工業用ミシンの利益水準が向上していない点に起因する。長期にわたって利益水準が向上していない原因としては、①工業用ミシンにおける新興メーカーの勃興による競争激化が進んだ点、②新興国の安価な労働力の確保が容易化したことで高性能な工業用ミシンの需要が減退した点、③そもそも工業用ミシンにおいて競合他社との決定的な差別化要素となる競争力を有していない点、などの構造的な要因が考えられる。

売上高の構成

縫製機器&システム事業(64%)

■事業内容
縫製機器&システム事業には、工業用ミシンと家庭用ミシンが含まれる。主力事業である工業用ミシンは高縫製能力と信頼性によって世界シェア1位を誇り、業界におけるガリバーとしての地位を築いている。2010年以降は複数の工業用ミシンをモニタリングする設備稼働管理システム(JaNETs)への対応を進めており、システムから機器に至るまで製造工程そのものを構築する業態へと変化していることから競争力が高い。2017年にはYKKとファスナー縫製機の共同開発を開始しており、難工程であるファスナー取付の容易化による価値創造を目指している。家庭用ミシンは高級機種が中心のラインナップを揃えている事情から、職業用途での利用を兼ねる顧客層が中心である。家庭用ミシン事業は高価格機種の販売が見込める日米欧など先進国を重点的に市場開拓しており、アパレル縫製業が集積する中国とアジアにおける販売に力点を置く工業用ミシンとは対照的である。

■過去の売上高分析
縫製機器&システム事業の売上高は2013年以降は600億円から800億円で景気循環的に推移している。2008年のリーマンショックから2010年の欧州債務危機に至るまでの景気低迷局面においては売上高500億円規模での低調な推移を強いられていたが、2013年以降の世界的な景気回復局面に相乗する形で売上高を拡大している。製造業の設備投資意欲に工業用ミシンの売上高が左右されやすい性質が如実に表現されている。2010年頃までは売上高の約40%を中国に依存していたが、アパレル縫製業の集積地が急速に東南アジアへとシフトしたことから2019年には売上高の約55%がアジア地域に変化している。

■将来の売上高予測
減少を見込む。工業用ミシンの売上高が景気回復局面で急落する傾向は過去の推移から明らかであり、昨今の景気減速局面でも同様の推移を辿ると見込む。近年のJUKIは非アパレル分野に用いられる工業用ミシンへの注力を進めてきたが、2019年以降の米中貿易摩擦に端を発した景気減速による打撃は寧ろアパレル分野に用いられる工業用ミシンよりも売上高が落ち込んでおり、裏目となっている。特に懸念したいのは新興国通貨安であり、工業用ミシンの主力市場であるアジアの主要通貨に対して円高での推移が続いている影響は不可避である。COVID-19の流行が主力市場のアジアでは軽微に留まった点は救いであるものの、家庭用ミシンの主力市場である欧米で流行が深刻化した点は重荷である。COVID-19の流行後の日本では家庭用ミシンの販売が好調に転じたが、あくまで一過性かつ低価格機種が中心であった点を踏まえれば、縫製機器&システム事業の売上高を下支えする程の効果はまったく見込めない。

産業機器&システム事業(34%)

■事業内容
産業機器&システム事業には、①マウンタなどの製造販売を担う産業装置、②開発・加工・製造の受託事業、③部品販売や保守サービスのカスタマービジネスが含まれる。①産業装置においては、電子部品を基板上に配置するマウンタに強みを持ち、世界シェア上位に位置している。近年はマウンタ以外の産業機器への進出に熱心であり、自動倉庫・印刷機・検査装置などの拡販を進めている。②受託事業はJUKIが第三の柱として育成を進めている事業であり、自社の生産能力や開発能力などの経営資源を活用して他企業製品の企画から製造までを受託している。③カスタマービジネスは自社製品へのアフターサービスであるが、単なる部品供給に留まらず、中古機販売から旧型機種診断に至るまで幅広いサービスを提供している。

■過去の売上高分析
産業機器&システム事業の売上高は緩やかな拡大基調で推移しており、2010年の売上高224億円から2019年には346億円に到達している。近年の産業機器&システム事業の拡大は、①マウンタなど産業機器の拡販、②中国における設備投資需要の活性化、③新たに参入した受託事業の成長、に支えられている。産業機器&システム事業は売上高の約40%を中国に依存している関係から同市場の動向に売上高を左右されやすい。2017年には中国における設備投資の活況に支えられて前年比27%の増加を遂げた反面、中国景気が減速した2018年以降は横ばいの推移を強いられている。受託事業は順調に成長を継続しており、2017年には売上高100億円を超える規模になっている。

■将来の売上高予測
減少を見込む。産業機器&システム事業の売上高の大半は景気後退局面で低迷を強いられやすい産業機械および受託事業に依存することから当面は厳しい推移を強いられると予測する。景気後退局面でも安定的な売上高を見込めるカスタマーサービスの売上高は約80億円に留まることから、産業機械と受託事業の低迷を下支えする程の効果は期待できない。産業機械は売上高の約40%を中国に依存している関係から、米中貿易摩擦に端を発した景気減速による影響が表面化しつつある。受託事業は長期的な成長が継続すると見込むが、COVID-19の流行による経済停滞を受けて顧客企業からの受注減少は不可避であることから、目先の売上高は停滞を強いられそうである。

営業利益の構成

縫製機器&システム事業(58%)

■過去の営業利益分析
縫製機器&システム事業の営業利益は0.7億円から41億円と上下変動が激しい。特に2014年の営業利益41億円が傑出しているが、これはアパレル縫製業のアジア地域へのシフトに伴う積極的な設備投資とアベノミクス後の円安局面が相乗したことによる効果が大きい。2018年には売上高こそ前年比6%増加となったものの、新規市場における顧客開拓の戦略投資を実施したことで営業利益は減少に転じた。2019年には米中貿易摩擦に端を発した景気減速によって中国および欧州における売上高が減少したことで利益水準が切り下がっており、顧客企業の設備投資意欲の冷え込みで打撃を受けやすい性質が表面化している。リーマンショック以前の2007年前後には工業用ミシンのみで営業利益100億円いじょうを確保していたことを踏まえると、過去10年間における利益水準が切り下がりが明らかである。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。景気後退局面においては工業用ミシンの売上高は顕著に低落する傾向が歴史的にみられるが、2019年以降の景気減速においても同様に推移すると見込む。縫製機器&システム事業は世界シェア1位を誇るものの利益水準は低く、売上高が減少すると顕著に営業利益が下押しされる傾向が強い。リーマンショック後の景気後退局面と異なり、1ドル100円前後での円安推移が継続している点は救いではあるが、営業利益の減少は避けがたい。COVID-19の流行は工業用ミシンの主力市場である中国とアジアにおいては相対的に軽微に留まるものの、家庭用ミシンの高価格機種の主力市場である米欧では深刻化した点も懸念か。COVID-19の流行後の日本では家庭用ミシンの販売が好調に転じたが、あくまで一過性かつ低価格機種が中心であった点を踏まえれば、縫製機器&システム事業の営業利益を下支えする程の効果はまったく見込めない。

産業機器&システム事業(40%)

■過去の営業利益分析
産業機器&システム事業の営業利益は▲16億円から41億円と幅があるが、2017年以降は営業利益を安定的に確保している。2016年に至るまでは利益水準が低い不採算事業であったが、2017年以降は急速に利益水準を高めたことで縫製機器&システム事業の営業利益の不安定さを補完する役割を果たしている。2017年から急激な利益水準の拡大を果たしたのは、①中国における景気回復局面で新型マウンタやスマートファクトリー製品の拡販が進んだ点、②受託事業が順調な成長を継続した点、③構造改革による費用削減効果が顕在化した点、に起因する。2018年以降は米中貿易摩擦に端を発した景気減速による顧客企業の設備投資意欲の冷え込みによって利益水準が低下したものの、2016年以前と比べれば依然として高水準で推移している。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。米中貿易摩擦に端を発した中国における景気減速が営業利益の下方圧力として作用する。産業機器&システム事業は中国に売上高の約50%を依存しており、同国の景気減速は利益水準にとって重荷となる。2017年以降の利益水準の改善が中国における高価格機種とスマートファクトリー製品の拡販に支えられていた点を踏まえれば、当面は厳しい推移を強いられそうである。成長が続いた受託事業は景気減速が表面化した2019年においても堅調であったが、COVID-19の流行によって顧客企業が打撃を受けた点を踏まえれば、目下の減速は不可避的であろう。

財務の健全性

手元資金は標準的な水準

■手元資金の特性
手元資金は増加傾向が顕著であり、2013年以降は60億円前後での推移となっている。売上高が年間1000億円規模と考えると手元資金としては80億円が目安となる為、標準的な水準である。尤も、現在は売上債権が買掛債務を約230億円ほど上回る状況が定着しており、売上債権からのキャッシュフローによる資金繰りの安定化も望めることを踏まえれば健全な水準ではある。手元資金は長期的な横ばいで推移しているものの、2012年前後の業績不振で増加した有利子負債の返済を進めている。2011年の時点で791億円に達した有利子負債は、2019年の時点で526億円にまで減少しており、実質的な健全性は高まっていると見てよい。

■過去の手元資金分析
2007年および2014年に手元資金が増加して90億円前後の水準に到達している。2007年前後は業績好調で営業キャッシュフローが潤沢であったことが手元資金を充実させていた。2006年から2007年にかけてJUKIは固定資産の取得に積極的に資金を投じていたが、主力事業が順調であったことで手元資金は却って増加を辿っている。これに対して、2014年の手元資金の増加は業績好転による営業キャッシュフローの回復という観点では2007年前後と同様であるが、業績不振から間もなかったことで投資活動に抑制的な姿勢を維持したことで手元資金が増加した。近年のJUKIは主力事業への積極投資よりも有利子負債の返済を進めており、リーマンショック以前に見られた固定資産の取得に多額の資金を投じる姿勢からは脱却している

自己資本比率は回復傾向が継続

■自己資本比率の特性
自己資本比率は微増傾向にあり、32.3%に到達している。同業他社と比較すると、ブラザー工業58.6%・蛇の目ミシン工業49.7%・ペガサスミシン製造74.8%となっており、業界下位の水準にある。2009年に純損失112億円を計上したことで純資産が大きく減少したことに加えて、2010年以降の厳しい円高推移による在外子会社資産の円換算価値の減少によって2011年には自己資本比率が5%台にまで落ち込んだ打撃からの回復途上にある。JUKIは中期経営計画において2022年末に自己資本比率44%を目標として自己資本比率の回復に努めており、進捗率は悪くない。

■過去の自己資本比率分析
2007年から2011年にかけての自己資本比率の減少傾向が顕著である。2007年の自己資本比率31.3%から2011年には自己資本比率4.2%に低落しており、実に▲27%もの減少となっている。2008年から2009年にかけてリーマンショックによる設備投資意欲の減退によってJUKIは累計206億円もの純損失を計上した他、2010年以降の厳しい円高推移による在外子会社資産の円換算価値の減少に苦しんだ。更に2012年には、中国景気の減速と日中関係の悪化による影響により純損失83億円を計上したことで自己資本比率は危機的な水準にまで低落している。2013年以降は世界的な景気回復局面と東南アジアでのアパレル縫製業の勃興によって業績好転を果たしたことから、自己資本比率は回復傾向に転じている。

株価の割安感

BPSは増加傾向が継続

■BPSの特性
BPSは2012年を底に微増傾向が継続しており、リーマンショック以前に近い水準にまで回帰を果たしている。景気動向に業績を左右されやすい工作機械メーカーであることを踏まえても、上下変動の激しさが際立つ。JUKIは販売費及び一般管理費として年間200億円前後を支出している為、売上高が低迷する景気後退局面で多額の営業損失を計上する性質がある。粗利率が低い為に売上高の規模縮小が起こると高止まりしている販売費及び一般管理費を賄いきれず、純損失に転落することで利益剰余金が減少してBPSが減少する構図である。現在もこうした構造は変化していない為、主要顧客の設備投資意欲が急減速した場合には厳しい推移を強いられそうである。

■過去のBPS分析
2008年から2012年に至るまでのBPSの低下が顕著である。JUKIはリーマンショックによる設備投資意欲の減退で特に打撃を受けており、2007年の時点で蓄積していた利益剰余金130億円は、相次ぐ純損失の計上で2010年までに▲238億円の減少となり、利益剰余金が赤字に転落した。JUKIは海外売上高比率が80%を超えるグローバル企業であることから円高局面に弱く、2012年前後の1ドル80円前後での円高局面では在外子会社資産の円換算価値の減少に苦しんだ。景気後退局面における設備投資意欲の減退と為替の円高推移によって、BPSが減少に見舞われうる点には留意しておきたい

PBRは2012年から下落傾向

■PBRの特性
PBRは株価とBPSの上下変動が激しいことから安定感がなく、PBR0.47倍からPBR3.46倍のレンジで推移している。業績変動が大きい工作機械メーカーとして捉えても、かなり極端な上下変動である。PBRは株価をBPSで除して算出されることから、これらの要素の変動が激しいとPBRは不安定になりやすい。この点について2007年以降のJUKIを観察すると、株価のレンジは290円から5845円かつBPSのレンジは179円から1422円といずれも上下変動が激しい。

■過去のPBR分析
2009年のPBR3.46倍が傑出している。PBRが上昇する理由は、①業績低迷によって純資産が縮小することでPBRが高くなる場合、②将来への期待値から株価が高騰してPBRが高くなる場合、があるが、2012年のJUKIのPBRが高騰した理由は前者である。リーマンショック後の業績悪化と在外子会社資産の円換算価値の減少によって純資産が縮小したことでBPSが縮小したことでPBRが上昇した。2013年以降に業績好転したことでBPSが回復に転じた結果、PBRの高騰は徐々に緩和され、2015年にはPBR1.0倍水準への回帰を果たしている。

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は業績連動型である。JUKIは配当政策として「当期の業績に加え、将来に亘る盤石な事業基盤を構築すべく、積極的な開発投資、設備投資を行っていくための内部留保等を総合的に勘案しつつ、安定的な配当による株主への利益還元の充実に努めること」を掲げており、実際に配当金推移は業績に応じた推移となっている。工業用ミシンを主力とするJUKIは顧客企業の設備投資意欲に業績を左右されやすい事情から、配当金の推移はまったく安定しない。業績と概ね連動した配当金の支払いを継続していることから、素直に業績に連動する配当金が支払われると考えてよいだろう。

■過去の配当金分析
2007年の年間50円が傑出している。当時は営業利益率10%に迫る水準で業績が推移しており、多額の配当金を支払う余裕があった。2007年は配当金を年間50円としても配当性向が30%前後に留まっており、年間25円の配当金に留まった2019年よりも寧ろ配当性向は低かった。近年のJUKIは利益水準の向上を果たしていないことから、2007年前後ほどの配当金を期待することは難しそうである。配当性向を向上させれば増配余地はあるが、景気回復局面で業績悪化しやすいJUKIの性質を考えれば、増配を積極的に進める期待値は低いか。

配当利回りは減配を織り込み

■配当利回りの特性
配当利回りは0%から2.83%での推移となっており、不安定な推移となっている。減配を織り込んだ2018年以降の配当利回りを除けば、概ね配当利回り2.0%未満での推移となっており、日本株の平均的な配当利回りに劣後する水準である。業績に連動して無配転落が起こりやすい性質と配当利回りの低さを加味すれば、配当金を目的とした長期投資には向かない点には留意したい。

■過去の配当利回り分析
2007年以降の推移を俯瞰しても2018年の配当利回り4.85%という水準は傑出しており、減配を織り込んでいる水準である様に思われる。過去における減配直前の配当利回りは、2007年の配当利回り2.68%と2014年の3.09%であるが、2018年の配当利回りはこれらを凌駕する水準にある。足元の業績は無配転落した2011年および2012年の業績とは隔たりがあるものの、現在の水準の配当利回りは将来的に是正されよう。

総合評価

目標株価

750円

現在の株価水準は歴史的には相当の安値圏ではあるものの、景気後退局面における顧客企業の設備投資意欲で打撃を受けやすい性質を加味して目標株価を設定している。COVID-19の流行による経済停滞により世界的に設備投資意欲が減退する局面であることを踏まえると、海外売上高比率が80%を超えるJUKIの業績は苦しい局面を迎えると想定する。

投資判断

やや弱気

過去10年間に渡ってJUKIの工業用ミシンの利益水準は停滞しており、リーマンショック以前の水準への回帰を果たせていない。世界のアパレル市場は2020年に180兆円規模に到達する右肩上がりの推移が続いているにも関わらず、JUKIの工業用ミシンは販売規模においても利益水準においても停滞感が強い。こうした状況を踏まえ、近年のJUKIは、①スマートファクトリーとして複数の工業用ミシンを同時接続することで生産性を向上しつつ柔軟な生産対応を実現するデジタル戦略、②YKKとファスナー縫製機の共同開発にみられる価値創造戦略、③産業装置や受託事業など工業用ミシン以外の分野の育成、に注力している。概ねベーシックな戦略であるものの、スマートファクトリーに代表される工業用ミシンのデジタル戦略にはやや疑問が残る。そもそもアパレル縫製業は安価な労働力を求めて新興国へ絶えず移動し続ける産業であり、大規模な投資を必要とするスマートファクトリーを構築できるのは大資本を持つ大手企業に限られる。この点、ファーストリテイリングに代表されるアパレル産業の大手企業は自前の工場を持たず、新興国の製造請負工場へ製造を委託している。この製造請負工場の大半は現地資本の企業であることからJUKIのスマートファクトリーを構築するほどの資金力を有さない場合が多い。非アパレル分野であれば、欧米におけるシューズや自動車用シートの生産でスマートファクトリーを構築する利点はあるものの、工業用ミシンのデジタル戦略がどれほど受け入れられるかの推移を見極めたい局面にあることは疑いない。