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企業レポート

NOK(7040)の分析|主力製品のオイルシールとFPCの事業環境が同時に悪化

基本情報

NOK(7040)は、東京都港区に本社を置く自動車部品メーカーである。源流企業は1936年に設立された江戸川精機であるが、1951年に同業の日本油止工業と合併して日本オイルシール工業に社名変更した。1960年から独フロイテンベルクと資本提携を構築して以来、同社と技術協力関係が継続しており、現在においても同社がNOKの筆頭株主となっている。主力の自動車用オイルシールにおいては世界シェアの約50%を掌握して世界最大手の一角を占める他、同社のオイルシールは航空機から工作機械に至るまで幅広く採用されている。1964年にはメカニカルシール部門を独立させてイーグル工業を設立させ、1969年にはFPC(フレキシブルプリント配線板)を製造する日本メクトロンを設立して、事業領域を拡大させた。イーグル工業および日本メクトロンは現在に至るまでNOKグループの中核企業としての地位を確立しており、特定分野において高い世界シェアを掌握する点で共通する。

目次

株価の推移

株価は2013年以前の水準に回帰

■株価の特性
株価は2007年以降は580円台から4300円台のレンジで推移しており上下変動が激しいが、直近ではアベノミクス以前の株価レンジへと回帰している。リーマンショック直後からアベノミクス初動までの期間において株価7倍を達成しているが、これはNOKが純粋な自動車部品メーカーではなく電子部品メーカーとしての性質を兼ね備えていることに起因している。NOKの電子部品事業が主力製品としているFPCは市況産業の側面を併せ持つことから利益水準の上下変動が著しく、この性質が株価推移に表面化している。NOKの主力事業となっているシール事業は自動車セクターに属することから景気循環に応じた業績推移を描きやすく、シール事業と電子部品事業の好調が重なると利益水準が急騰しやすい。反面、電子部品事業が不調に転落すると、凡庸な利益水準に低落することから株価は低落しやすい。

■過去の株価推移
スマートフォンの普及による旺盛なFPC需要が電子部品事業の利益水準の急拡大させた2014年における株価急騰が顕著である。2014年1月に株価1700円台だったが、2015年6月には株価4395円にまで到達する右肩上がりの推移を描いた。電子部品事業の好調に支えられたNOKの株価高騰は過去にも起こっており、2000年代にも携帯電話の高機能化による旺盛なFPC需要に支えられて上場来高値となる株価4550円(2003年11月)を更新した経緯がある。FPCの需要拡大によってNOKの業績拡大が起こることで株価急騰する性質は、フジクラ等のFPCを手掛ける同業他社を含めて過去からの経験則である。

日経平均株価との相関性は中庸

■日経平均株価との相関性
NOKの株価と日経平均株価の相関性は中庸である(2007年4月から2020年3月の相関係数:0.61)。NOKは景気循環に業績が連動しやすい自動車セクターに属することから、景気循環的な推移を描きやすい日経平均株価との相関性が高くなりやすい。最近では電子部品事業が業績拡大したことで純粋な自動車部品メーカーとしての性質は薄れたとはいえ、同事業が主力製品とするFPC需要がスマートフォンや電子機器などに依存していることを踏まえれば、景気循環とは無縁ではない。尤も、2018年以降は日経平均株価への寄与度が大きい値嵩株が堅調な推移を続ける反面、景気減速への懸念が高まったことで自動車セクターなどの景気循環株が敬遠される状況へと転換した為、NOKと日経平均株価の相関性が低下しつつある。

■過去の日経平均株価との相関性
2017年までは日経平均株価との相関性が高い推移を描いている反面、2017年以降は日経平均株価との相関性が顕著に低下している。これは、NOKの株価上昇を支えてきた電子部品事業の業績不振に起因している。電子部品事業は2014年に営業利益302億円を記録したが、同年以降はFPCの価格下落によって業績悪化が継続した結果、2018年には営業損失141億円を計上してNOKの業績低迷を引き起こすに至った。実際、2018年のNOKの利益水準はリーマンショックの影響が色濃かった2009年以来の水準にまで低落しており、これが嫌気された構図である。2018年は日経平均株価が指数寄与度の大きいエクセレントカンパニーの躍進に支えられた上昇を遂げていた時期でもあり、NOKの株価と明暗が分かれる結果となったことが日経平均株価との相関性を低下させたとも解釈できそう。

業績の推移

売上高は6000億円規模に微減

■売上高の特性
売上高は2013年から拡大基調で推移して7000億円規模への拡大を果たしたが、直近では6000億円規模に後退している。NOKは景気動向に業績を左右されやすい自動車部品メーカーであるが、最近では電子部品事業が売上高の成長によって純然たる自動車セクターとは言えない企業体質へと変化している。NOKが電子部品事業において主力製品とするFPCは市況産業の側面を併せ持つことから価格変動が著しく、この動向がNOKの売上高を左右しやすい。オイルシールを主力製品とするシール事業の売上高は新車販売台数の変化に追従して売上高が上下変動するとはいえ、電子部品事業の売上高の変動と比較すると相対的には緩やかである。将来のNOKの売上高を予測するにあたっては、電子部品事業の動向を念頭に置く必要があると見てよい。

■過去の売上高推移
2011年から2015年の期間において、売上高4952億円(2011年)から売上高7461億円(2015年)への急拡大を果たしている点が顕著である。2013年以降は売上高の増加が特に加速しているが、これは、①世界的な景気回復局面における新車販売台数の増加によってシール事業の好調、②スマートフォンの世界的な普及による電子部品事業の売上高の急増、が重なったことに起因している。反面、2015年以降はこれらの追い風が減速したことで売上高は減少へと転換している。これは、①2018年以降の世界的な景気減速による新車販売台数の減少によるシール事業の失速、②2016年以降のFPCの供給過多による価格調整による電子部品事業の低迷、に起因している。特に、電子部品事業の売上高は最盛期の2014年から▲1260億円の減少に見舞われており、これがNOKの売上高の下方圧力として作用している。

営業利益は100億円規模まで低落

■営業利益の特性
営業利益は74億円から670億円のレンジで推移しているが、2014年以降は営業利益が右肩下がりで推移して営業利益120億円にまで低落している。電子部品事業の利益水準の上下変動が激しいことから利益水準は安定しないが、リーマンショックに端を発した景気後退で新車販売台数が急減した時期を含めて営業利益を確保しており底堅さを示している。NOKの利益構造は、①高い競争力を持ち利益水準が安定的なシール事業、②利益水準こそ不安定だが好調局面では営業利益が急拡大する電子部品事業、③長期的な営業利益の低迷に苦しむロール事業、によって構成されており、シール事業が他事業の不安定を補う構造となっている。事業多角化が進んだとはいえ、実態としては依然としてオイルシールによって成立している企業であると見てよいだろう。

■過去の営業利益推移
2014年を境界として営業利益が増加傾向から減少傾向へと転換している。これは電子部品事業の営業利益が2014年に急増した反面、同年を頂点として低迷傾向に転じたことに起因している。電子部品事業はFPCへの依存度が高いことに加えて、FPCは市況産業の側面を併せ持つことから利益水準が安定しない。2014年こそFPCメーカーは需要過多によって大きな利益を獲得したが、2015年以降は増産体制が整ったことで利益水準は落ち着いており、2017年以降はそもそもFPC需要が減速したことにより利益水準は大きく悪化した。このFPC需要の減速は、①スマートフォンの普及が世界的に一巡したこと、②スマートフォン市場のメインストリームがFPCを多用する高価格帯機種からFPCを多用しない中価格帯機種へと移行したこと、③FPCの価格上昇を好感した積極投資による供給過多、に起因していると見られる。尤も、シール事業は2012年から2017年に至るまで世界的な新車販売台数の増加を追い風に営業利益を拡大しており、事業ごとの好不調のサイクルには時間的なギャップがある。

売上高の構成

シール事業(63%)

■事業内容
シール事業には、オイルシール・Oリング・防振ゴム・樹脂加工品・ガスケット・化学合成品・メカニカルシールなどが含まれる。NOKのシール製品は、自動車・産業機械・建設機械など幅広い領域に採用されているが、特に自動車向けオイルシールでは世界シェアの約50%を掌握する世界最大手であり、日系自動車メーカー12社すべてと取引関係を構築している。NOKのシール事業の売上高のうち約90%を自動車セクター関連が占めていると推測され、自動車への依存度の高さは賛否両論である。特に主力製品であるオイルシールは、将来的に自動車の電動化シフトが進展した場合、1台あたり使用量は減少する公算が高い。オイルシールはエンジン以外にもドライブトレインやシャーシにおいても使用される為、自動車がオイルシールを必要としなくなる心配は皆無ではあるが、先細りの製品と見做されることが多い。オイルシール以外に目を向けると、①自動車用ブーツに代表される樹脂加工品、②持分法適用会社のイーグル工業が担うメカニカルシール、③シール素材の研究成果を応用したゴム製品などがシール事業には含まれる。尤も、これらを加味しても尚、自動車への依存度が高い点には変わりない為、シール事業を理解する為には自動車業界の動向に目を向ける必要があろう。

■過去の売上高分析
シール事業の売上高は過去10年間でやや拡大して221億円(2009年)から316億円(2019年)にまで拡大している。尤も、景気動向に業績を左右されやすい自動車セクターの例に漏れず、リーマンショックに端を発した景気後退局面では売上高の減少に見舞われており、283億円(2007年)から221億円(2009年)へと低落している。これは、自動車向け製品への依存度の高さから自動車メーカーの新車生産台数に業績を左右されやすい性質が表面化したものであり、世界新車販売が7190万台(2007年)から6488万台(2009年)に連動したものであると見てよい。2009年以降は新興国市場の成長に牽引されて世界新車販売が6488万台(2009年)から9680万台(2017年)へと約1.49倍への拡大を果たしたことに連動して、シール事業の売上高は拡大を果たした。実際にはNOKの主要顧客は日系自動車メーカーであり、世界新車販売の拡大のみならず、世界市場における日本車の勢力拡大が更なる追い風となったと見る向きもあろう。世界新車販売台数は2017年の9680万台をピークに減少に転じたが、シール事業の売上高は2018年に至るまで拡大を続けて341億円に到達している。これは日本国内および東南アジアにおける日系自動車メーカーの生産台数が好調であったことで売上高が却って増加した構図となった為である。反面、2019年になると、①米中貿易摩擦による景気減速、②COVID-19の流行による急激な新車需要の減少、③COVID-19の流行による自動車メーカーの生産混乱、の直撃を受けて、シール事業の売上高は316億円への後退を強いられた。

■将来の売上高予測
減少を見込む。目先はCOVID-19の流行による景気後退による世界的な新車販売台数の急減が重荷となる他、外出自粛による交換需要の落ち込みが打撃となりそう。NOKのシール事業の売上高のうち約90%を自動車セクター関連が占めていると推測されることから、新車販売台数の落ち込みはそのままシール事業の売上高の減少を惹起する。COVID-19の流行によって2020年の新車販売台数の減少幅は▲20%前後に及ぶと想定され、リーマンショックに起因する新車販売台数の減少を凌ぐ打撃となると見込まれる。将来的には反動による新車販売台数の増加も考えられるとはいえ、数年間は新車販売台数の低調な推移が見込まれることからシール事業の売上高は低調な推移が続きそうである。尤も、過去10年間で世界の新車販売台数は大きく拡大しており、2009年前後の水準にまで低落するとは考え難い。

電子部品事業(26%)

■事業内容
電子部品事業には、FPC・プレシジョンコンポーネントなどが含まれる。1969年に設立した日本メクトロンが担う事業であり、自動車向け製品への依存度の高さという課題を抱えたNOKグループにおいて、事業多角化を担っている。軽量薄肉かつ折曲自由という特性を持つFPCは電子デバイスに不可欠な素材であり、特にスマートフォンの普及によって急激な需要拡大を果たした。需要拡大に合わせて競争激化が進展したとはいえ、日本メクトロンはFPC分野で世界シェアの約20%を掌握する世界最大手の一角の地位を占めており、競争力は高い。FPC以外に目を向けると、日本メクトロンはプレシジョンコンポーネント(高精度な樹脂ゴム部品)を手掛けており、①ハードディスクドライブ用のカバー・ランプ・ガスケット・ストッパー、②モバイル電子機器用のバッテリカバー・ガスケット、を生産している。これはNOKがオイルシールで培ったゴム技術および高精度加工の技術が応用されている。電子部品事業は電子機器メーカーの製造拠点が集積する中国およびアジアを主力市場とする事情から売上高の約70%が海外売上高であり、日本メクトロンは生産拠点をこれらの地域に置いている。

■過去の売上高分析
電子部品事業の売上高は過去10年間に渡って153億円から409億円のレンジで推移しており、浮き沈みが激しい事業となっている。特に2009年から2015年の期間においては、売上高を153億円(2009年)から409億円(2015年)にまで拡大させ、NOKグループの規模拡大に貢献を果たした。同期間はスマートフォンの急激な普及によってFPCの需要が膨張した時期であり、日本メクトロンはFPC価格の上昇の恩恵を享受した構図である。反面、2015年以降はFPCの価格調整が発生したことで売上高の減少に見舞われ、409億円(2015年)から283億円(2019年)へ減少を強いられている。2015年以降のFPCの価格調整は、①スマートフォンの普及が世界的に一巡したこと、②スマートフォン市場のメインストリームがFPCを多用する高価格帯機種からFPCを多用しない中価格帯機種へと移行したこと、③FPCの価格上昇を好感した積極投資による供給過多、に起因しており、市況産業の側面を併せ持つFPCを主力事業とする短所が顕在化する結果となっている。かつてはFPCの大口顧客としてデジタルカメラが存在していたが、スマートフォンの普及で急激な市場縮小に見舞われたことも痛いか。

■将来の売上高予測
減少を見込む。COVID-19の流行を発端とする景気後退局面において、FPC需要を支えてきたスマートフォン市場が落ち込むことによる打撃が不可避である。COVID-19の流行以前からスマートフォン市場のメインストリームがFPCを多用する高価格帯機種からFPCを多用しない中価格帯機種へと移行が進んできたが、景気後退局面における消費マインドの低迷が更に移行を加速させると見込まれる。こうした事業環境を踏まえると、電子部品事業の売上高は更なる低落を強いられる公算が高い。以前からNOKはスマートフォン市場に依存した事業体質からの脱却を構想しており、車載分野におけるFPCの拡販を企図してきた経緯がある。長期的には車載分野におけるFPC需要は成長すると見込まれる他、NOKは自動車部品メーカーとしての出自を持つことから車載分野の知見が広い強みを生かせるか。尤も、COVID-19の流行によって新車販売台数が急減したことで車載分野は低調な推移を強いられると見込まれる為、電子部品事業の再建には時間を要しそう。

ロール事業(8%)

■事業内容
ロール事業には、事務用機器向けのロール製品などが含まれる。2007年に設立された連結子会社のシンジーテックが担う事業であり、NOKは事業多角化の一環として2000年代から注力している。シンジーテックは2004年に買収した北辰工業と2005年に買収した日東工業を経営統合させて誕生した企業であり、事務用機機器向け製品を手掛けながらも得意分野が異なる両社を合併させることで競争力の強化を図った経緯がある。現在のシンジーテックが手掛ける製品は、①事務用機器向けのロール・ベルト・ブレード、②ATM向けの紙幣叩きゴム・搬送ベルト、③繊維機器向けのエプロン、④音響機器用のCDロール・CDダンパー、など広範に渡る。シンジーテックは事務用機器で使用されるゴム部品をすべて網羅できる世界で唯一の事務用機器部品サプライヤであり、キヤノン・富士ゼロックス・コニカミノルタ・ブラザー工業・リコーなど、日系事務用機器メーカーの大半と取引関係を構築している。

■過去の売上高分析
ロール事業の売上高は401億円(2007年)から178億円(2019年)にまで縮小しており、過去10年間における売上高の縮小が明確である。ロール事業は自動車向け製品への依存度の高さを緩和する目的で参入した事業であるが、事務用機器の市場縮小が進んだことで目的を果たせていない。リーマンショックに端を発した景気後退局面において経費削減とITシフトを目的としてペーパーレス化が進行して以降、事務用機器の需要低迷が継続していることでシンジーテックの売上高は低迷を強いられている。2013年以降には世界的な景気回復局面が到来したが、事務用機器の需要が旺盛であった2007年前後の水準へと回復するどころか、景気回復局面においても減少が継続しており、社会変化という趨勢に抗えない状況が続いている。2007年から2019年の期間におけるロール事業の売上高の減少幅は▲56%に及んでおり、実質的に事業規模が半減した構図となっている。強いて言えば、コンビニへのATM設置台数の増加によってATM向け製品はやや売上高を拡大させたと予測されるが、主力事業である事務用機器向け製品の売上高の縮小を補うには至っていない。

■将来の売上高予測
減少を見込む。企業活動が不活性化する景気後退局面において事務用機器の需要が低迷することは歴史的傾向であるが、COVID-19の流行によって在宅勤務が定着したことにより、事務用機器の需要は更に下押しする。大企業を中心にCOVID-19の流行を契機に働き方改革とデジタルトランスフォーメーションが加速すると見られるが、こうした潮流が進展するほど事務用機器の需要は下落する。こうした背景を踏まえると、長期的にも事務用機器の需要はCOVID-19の流行以前の水準にまで回復する公算は低い。事務用機器以外に目を向けると、キャッシュレス化とCD不況によってATMや音響機器などの事業領域が将来的に衰退すると予測される。特に2018年以降に急速に加速したキャッシュレス化によって決済方法が多様化したことでATMの需要は一巡した感が強い。ロール事業のあらゆる事業領域が社会変化による下方圧力を受ける状況にあることから、事業構造そのものが変革を迫られている状況と見てよい。

営業利益の構成

シール事業(94%)

■過去の営業利益分析
シール事業業の営業利益は42億円から408億円のレンジで推移しており、営業利益を堅実に確保する事業となっている。2008年から2017年の期間において営業利益が拡大基調で推移した反面、2018年以降は営業利益の急減に見舞われている。営業利益の推移は売上高の推移と概ね近似しており、販売規模が利益水準を左右しやすい傾向が読み解ける。シール事業の売上高は日系自動車メーカーの新車販売台数に追従する性質がある為、間接的には日系自動車メーカーの動向に利益水準を左右されると見る向きもあるか。過去の推移を観察すると、2018年はシール事業の売上高が拡大したにも関わらず減益となっているが、これは同年に拡販増産を目的とする大型投資が稼働を開始したことで償却費が増加したことに起因している。実際、シール事業の減価償却費は188億円(2017年)から236億円(2019年)にまで拡大しており、営業利益を減少させる要因となっている。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行による新車販売台数の急減による下方圧力の他、2017年以降に増加した減価償却費が営業利益の重荷となる。シール事業の営業利益の推移は売上高の推移と概ね近似しており、販売規模が利益水準を左右しやすい。自動車セクターの不振による収益減少が、シール事業の営業利益を減少させることは不可避である。強いて言えば、急激な事業環境の変化を受けて、NOKはシール事業の経費削減を進行させると見られるが、収益減少による営業利益の減少を補う程の効果は期待できない。長期的には、COVID-19の流行で新車販売台数が落ち込んだことによる反動による需要増加が起こる公算が高いが、感染拡大が長期に及んだ場合には反動が弱含みとなりうる。

電子部品事業(0%)

■過去の営業利益分析
電子部品事業の営業利益は▲141億円から302億円のレンジで推移しており、利益水準の不安定さが際立つ。2008年には営業利益40億円に沈んでいたが、2014年にはシール事業に匹敵する営業利益302億円にまで急激な拡大を果たした。同年の営業利益の急拡大は、①スマートフォンおよび車載機器のFPC需要が旺盛であったこと、②急激なFPC需要の拡大に対して供給不足が起こったことによる価格高騰、③2014年8月以降の急激な円安進行による為替効果、が相乗したことに起因している。反面、2015年には品目構成の変化と人件費・経費・償却費の増加によって営業利益366億円までの減益を強いられている。2018年以降には営業赤字290億円規模へと低落しているが、これはFPCを取り巻く事業環境の変化による。特にFPC需要の拡大を支えたスマートフォン需要の一巡が価格下落を惹起している点が逆風となっており、同業他社を含めて厳しい調整局面にあると見てよい。市況産業の側面を併せ持つFPCを主力事業とする性質から営業利益が極端に振れやすい為、NOKの業績を見通す為に特に注視する必要がある事業である。

■将来の営業利益予測
横ばいを見込む。電子部品事業は以前から利益水準が低迷していることから更なる大幅減益は見込み難いものの、COVID-19の感染拡大による景気後退局面において利益水準の低迷が継続すると見込む。既にスマートフォン市場のFPCを多用しない中価格帯機種への移行は一巡しており、スマートフォン向けのFPC需要は底打ちの兆しが見えつつある。強いて言えば、COVID-19の流行によるリモートワークの世界的な普及によるパソコンおよびスマートフォンの出荷台数の増加がFPC需要を下支えすることが見込まれるか。最近のNOKはコネクテッドカーの将来的な普及の加速を見据えて、車載向けFPCの拡販に注力しており、これが実るかが鍵となろう。車載向けFPCは高い信頼性と耐久性が求められることからスマートフォン向けFPCと比べれば販売価格を維持しやすい他、NOKは自動車部品メーカーが出自であることから自動車メーカーとの繋がりを活かしやすい。

ロール事業(0%)

■過去の営業利益分析
ロール事業の営業利益は▲24億円から24億円のレンジで推移しており、利益水準が不安定である。リーマンショックに端を発した景気後退局面において経費削減とITシフトを目的としてペーパーレス化が進行して以降、事務用機器の需要低迷が継続していることで利益水準は厳しい推移を強いられている。売上高の縮小に晒されながら、2014年には円安効果と経費削減で営業利益24億円を確保した反面、その後の世界的な景気回復局面には追従せず、2015年以降は営業利益が衰退を強いられている。ロール事業が事務用機器の需要縮小の趨勢に抗えていないことは明白である他、将来的にデジタルトランスフォーメーションが進展していくことが確実視される点を踏まえれば利益戦略が問われる局面であろう。

■将来の営業利益予測
減少を見込む。COVID-19の流行によるリモートワークの普及と企業活動の停滞で事務用機器の需要が低迷する他、デジタルトランスフォーメーションの加速によって以前からのペーパーレス化の趨勢が加速する。特に事務用機器の需要低迷はロール事業の主力製品の販売にとって打撃であることに加えて、リモートワークが社会的に定着した場合には事務用機器の需要回復が起こらない可能性すらある。大企業を中心としてリモートワークの普及を契機にペーパーレス化とデジタル化を強力に推進する機運が高まっていることから、従来は書類として印刷されていた情報をデジタルデータとして活用する運用に切り替わっていくことは考慮しておきたい。更に、キャッシュレス決済の普及が加速していることから、これまで事務用機器の業績を下支えしてきたコンビニのATM設置台数の増加が鈍化する公算が高い点にも留意しておきたいか。

財務の健全性

手元資金は標準的な水準

■手元資金の特性
手元資金は2008年以降は概ね800億円前後の水準で推移しており、安定的な推移を描いている。売上高が年間6000億円規模と考えると手元資金としては500億円が目安となる為、標準的な水準である。尤も、NOKの貸借対照表を観察すると、直近では売上債権1221億円に対して買掛債務449億円となっており、売上債権対買入債務比率は約271%と高水準である為、売上債権からのキャッシュフローによる資金繰りの安定化も望める。NOKの資金繰りは安全圏を十二分に維持していると判断できよう。

■過去の手元資金分析
2015年から2019年の期間において手元資金の急減傾向が継続している。1023億円(2016年)から823億円(2019年)へと減少しており、過去10年間においては特に顕著な減少である。同期間のNOKは毎年600億円規模の有形固定資産への積極投資を繰り返しており、これが手元資金を減少させた経緯がある。この積極投資は主にシール事業における拡販増産を目指す為に実施されたが、結果的にはシール事業の減価償却費を増加させて減益要因となった他、COVID-19の流行による需要急減によって拡販増産が実らなかった。尤も、2019年には有形固定資産への投資を500億円規模にまで縮小させたことで手元資金の減少は底を打っており、積極投資の姿勢は既に撤回したと見てよい。

自己資本比率は業界上位の水準

■自己資本比率の特性
自己資本比率は過去10年間で増加傾向が継続した結果、直近では55.9%に到達している。同業他社と比較すると、ジェイテクト40.1%・NTN20.6%・横浜ゴム46.2%・イーグル工業44.9%となっており、業界上位の水準である。自動車部品メーカーとしてはやや高めな自己資本比率となっているが、これは、①主力製品のオイルシールが成熟産業であり積極投資を要さない点、②既に世界シェアの約半分を掌握しており更なる規模拡大の動機を欠く点、③利益水準が安定的であることから純資産が毀損しにくい点、に起因していると考えられる。

■過去の自己資本比率分析
2009年以降は自己資本比率が概ね右肩上がりで推移しており、安定的な拡大基調が継続している。2008年以降のNOKは純利益を安定的に確保し続けたことで純資産が2461億円(2008年)から3516億円(2019年)にまで増加しており、これが自己資本比率の拡大として表面化している。NOKは過去10年間に渡って安定的な利益水準を活かして有利子負債の返済を進めており、NOKの有利子負債は1370億円(2008年)から770億円(2019年)にまで減少している。利益剰余金の安定的な増加による純資産の拡大と有利子負債の返済による負債の圧縮を並行して進めることによる、自己資本比率の健全な向上である。

株価の割安感

BPSは2500円前後で停滞

■BPSの特性
BPSは2008年以降は右肩上がりで推移しており、安定的な拡大傾向が継続している。2008年以降のNOKはシール事業と電子部品事業の好調に支えられて純利益を安定的に確保し続けたことで利益剰余金が1928億円(2008年)から3516億円(2019年)にまで増加しており、これが純資産の拡大に貢献している。好調時に高い利益水準に到達する電子部品事業を抱えている事情からNOKのBPSは自動車部品メーカーらしからぬBPSの上下変動を描きやすく、特に2008年から2017年の期間ではBPSが1.93倍に急拡大を遂げている。シール事業の利益水準は凡庸であることから、電子部品事業の動向がBPSを上下変動させる主要因であると見てよい。更に、NOKは在外子会社および有価証券への投資額が少なくない為、在外子会社および有価証券の評価額が減少する円高局面や株安局面が到来すると純資産が減少しやすい。

■過去のBPS分析
BPSの増加は2017年の2657円を天井に頭打ちとなっており、2018年以降は減少傾向が継続している。2018年以降のNOKは電子部品事業の利益水準の急激な縮小によって利益剰余金の増加が停滞した他、円高局面と株安局面による保有資産の評価額の減少に苦しんでいる。2018年は純利益34億円を確保したものの有価証券評価差額金▲71億円に相殺され、2019年には純損失▲22億円と為替換算調整勘定▲112億円と有価証券評価差額金▲134億円がBPSを低落させた。NOKは売上高6000億円規模かつ海外売上高比率70%前後のグローバル企業である為、為替市場と株式市場の動向がBPSに及ぼす影響は大きい。

PBRは長期的な下落基調が継続

■PBRの特性
PBRは長期的に0.51倍から1.55倍のレンジで推移しているが、長期的な下落傾向が継続している。従来からPBR1.0倍前後の水準で推移していたが、2015年以降は独フォルクスワーゲンのディーゼル排ガス不正の発覚を契機に自動車セクターの電動化シフトが決したことがNOKのPBRの下方圧力となっている。内燃機関を搭載しないEVが将来的に普及した場合には、NOKの屋台骨を支えるオイルシールの需要が減少すると見込まれ、これが株式投資家がNOKを敬遠する一因となっている。更に、2017年以降はスマートフォン需要の一服によって電子部品事業が業績不振に転じた他、2020年にはCOVID-19の流行によりシール事業の利益水準が悪化したことで、PBR0.5倍という極めて割安な水準にまで低落している。尤も、NOKの全事業が先行き不透明な現状を踏まえれば、異常安な水準とも言い難いのが苦しい所である。

■過去のPBR分析
2014年のみPBR1.48倍の割高圏で推移している点が顕著である。同時期のNOKはスマートフォン需要の急激に拡大によるFPCの価格上昇に支えられた電子部品事業が業績好調であったことが材料視されたことで顕著な株価上昇を演じており、これがPBRを押し上げた構図である。実際、2014年のNOKは過去最高益となる営業利益670億円を確保しており、株価上昇を裏付ける結果を残している。尤も、FPCの価格上昇を好感した同業他社との増産競争が拡大したことで、2015年以降はFPCの価格は下落に転じた。2015年以降の電子部品事業の営業利益は急激に縮小しており、2018年以降は営業損失130億円前後の水準にまで低落してNOKの業績の足枷となっている。2015年以降は電子部品事業の好調という材料が剥落したことでNOKの株価は下落基調に転換しており、PBRは元の水準へと回帰している。

配当金の推移

配当金は業績連動型

■配当金の特性
配当政策は業績連動型である。NOKは配当政策として「基本的には中長期的な業績に対応して一定水準の安定した配当を続けていくことが大切だと考えるが、一方では、将来の事業展開や財務体質強化のために相当額の内部留保の確保といった観点も重要であり、これらを総合勘案して決定する」を掲げているが、実際には配当金は概ね業績に連動して推移している。2014年以前は配当性向20%未満の抑制的な配当水準であった反面、2015年に配当金を年間50円にまで増配して以降は配当性向30%前後の水準を維持しており、過去と比べると株主還元の姿勢がやや強まったと見てよい。

■過去の配当金分析
2015年から配当金が年間50円にまで急増している。これは2014年に旺盛なFPC需要を追い風とする電子部品事業の躍進によって純利益468億円に到達したことに起因していると見てよい。同年の業績拡大によってNOKの財務体質は好転を遂げ、電子部品事業の成長の成果を株主還元する方針へ転じた。尤も、純利益300億円規模を維持した2014年から2017年の期間においては年間50円の配当金を支払っても尚、配当性向は30%台に留まっており、過剰な配当水準ではなかった。2014年以前のNOKの配当性向が20%台に満たない低水準で発射台が低かったことも、配当金の急増を支えたと言えよう。

配当利回りは上昇基調が継続

■配当利回りの特性
配当利回りは0.71%から3.09%のレンジで推移しているが、過去10年間の推移は綺麗な右肩上がりとなっている。NOKの配当利回りが右肩上がりで推移しているのは、①NOKが配当性向を拡大させて株主還元の姿勢を強化した点、②NOKの株価が主力事業の業績不振を嫌気した下落に見舞われている点に由来している。2015年以降、NOKが株主還元の姿勢を強化したのと入れ替わる様に株価下落へ転じたことが急激な配当利回りの上昇を惹起している構図である。

■過去の配当利回り分析
2008年から2014年の期間において配当利回り1.5%を下回る水準での推移が続いていた点が際立つ。同時期のNOKは、①新興国の経済成長に支えられた世界新車販売台数の増加、②スマートフォン出荷台数の急激な普及によるFPCの需要拡大、という社会変化に支えられて業績拡大を継続する成長企業であり、積極投資による業績拡大が株主還元として機能していた経緯がある。尤も、2017年以降は世界新車販売台数とスマートフォン出荷台数の増加が鈍化したことでは成長企業としての精彩を欠く展開となり、配当水準の向上による株主還元へ転換した経緯がある。

総合評価

目標株価

1250円

NOKにとって最大の稼ぎ頭であるシール事業がCOVID-19の流行による新車販売台数の急減による打撃を受けた点が痛い。電子部品事業の業績不振はFPCの価格低迷が継続している点から望み難く、当面は厳しい推移が強いられると見込む。世界新車販売台数の急減は既に最悪期を脱したと想定するが、当面は冴えない展開が続く公算が高いことから業績回復を安易に期待できる事業環境ではない。尤も、NOKが過去に築いた厚い財務基盤とオイルシールにおける世界最大手の地位が健在である点を加味すれば、この程度の株価であれば投資妙味はあるか。

投資判断

やや弱気

NOKの事業構造は、①利益水準が凡庸だが安定的なシール事業、②市況次第で多額の利益/損失を計上する不安定な電子部品事業、③社会変化による事業規模の縮小が続くロール事業、から成り立っており、過去においてはシール事業の競争力の高さを基盤として電子部品事業やロール事業などに事業多角化を図ってきた。ところが、COVID-19の流行という新たな脅威が自動車メーカーの生産停止を世界的に引き起こしたことで、主力事業のシール事業が業績悪化に見舞われる結果となった。現在こそ世界新車販売台数はやや回復基調に転じたが、世界的な新車需要が右肩上がりで推移した2017年前後とは比べるべくもなく、当面はシール事業の業績は不安定な推移を強いられよう。更に、2015年の独フォルクスワーゲンのディーゼル排ガス不正の発覚を契機に自動車セクターの電動化シフトが決しており、EVの普及が進むことでNOKの最大顧客である自動車セクターのオイルシール需要がピークアウトすることが懸念されよう。更に、シール事業以外の事業に目を向けると、①電子部品事業はFPC価格の低迷による業績不振、②ロール事業は事務用機器の市場縮小による業績悪化、に見舞われており、NOKの保有する事業が尽く不振に見舞われている状況である。強いて言えば、①長期的には世界新車販売台数の増加基調が継続すると見込まれる点、②当面の主流は内燃機関を搭載するハイブリッド車やプラグインハイブリッド車であることからオイルシール需要が消滅することは考え難い点、などは救いではあるが、積極的に買い急ぐ動機にはならないか。当面の事業環境の逆風を考慮して、投資判断はやや弱気に据え置いた。